拍手からの移動のパラレルファンタジーです。
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拍手御礼「あの森を目指して 39」
4日目の昼。キョーコが予想していた通りに小屋の食料が尽きた。
食べて食べて、飲んで飲んで。
少し寝たあと、車椅子で部屋をぐるぐる回る。
早急に己の身体に肉と体力を取り戻そうとしている男の行動は、大失態を見せてしまった先日とちっとも変わっていない。
しかし、今回はキョーコが事前に1回に食べる量を決めてくれている為、無理せずに食べることができている男は今度こそ順調に体重を増やし、徐々にではあるが体力も付け始めていた。
ちなみに以前キョーコがした「毎日10食程食べて」発言は、「4日間は毎日6食まで」に訂正されている。限界を越えても食べ続けたあげくにすべて吐かれるなんてことが二度と無い様にとの配慮である。
コンコン。
午後になって、小屋のドアがノックされた。
コンコン。コンコン。
《あのぉ、起きていますか?食料をドアの前に積んでおきました》
───あ、来た!!起きないと!!
《!!はいっ!》
何度目かのノックのあとにはドア越しに、小屋の外にいるキョーコから声をかけられた。
その声で目を覚ました男は慌てて返事を返し、モゾモゾと昼寝をしていたベッドから起き上がると、キョーコを出迎え様と車椅子への移動を開始した。
しかし、男からの応えを聞くと、キョーコは小屋のドアを開けることもせず、その場で用件を話しだした。
《食料は余裕を見て2週間分用意しましたけど、くれぐれも食べ過ぎない様にしてくださいね!食事回数は最大8回まで増やしてもいいですけど、毎食食べていいのは1包みですからね!食料は…1週間後にまたお届けに来ます。ああ、それと。私は2週間後にはまた旅に出発しようと思っています。残念ながら貴方が元通りの体型になるまでここで暮らしてもらうことは出来ませんが、貴方の帰郷旅の手配もその頃には準備出来ている様にしますから、そこはご安心ください》
《あ、あのっ!ちょっと》
ちっとも小屋に入ってくる様子のないキョーコに、男は慌てて乗り移ったばかりの車椅子を走らせた。
《では、また1週間後に!私は直ちにここを離れますので、安心して外に出てくださいね!》
男への合図としてドアをノックはしても、姿を見せる気はなかったキョーコは、男が食料を小屋に運びいれる間は幌馬車に身を隠そうと、小屋の横手に回り込んだ。
バーーンッッ!!
それを追う様にして、小屋の扉が大きいな音を響かせながら開く。
《待って!待って!行かないでくれっ!!》
追ってきたのは、音だけではなかった。
《え?もういない?いや、まだ近くに居る筈だっ!待って、戻ってきてくれ!!》
《おおおーい!!!待ってくれーー!》
転がりだす様にして外に出て来た男は周囲を見回しながら、大声でその場を去ったキョーコを呼んだ。
《おおおーい!》《おおおーい!》
車椅子から身を乗り出すようにして、何度も叫ぶ。
《おおおーい!聞こえたら、返事をしてくれ~》
静かな森に男の声が響き渡るが、男が期待する応えはない。
《おおおーい!!》
《おおおーい!!小屋に戻ってきてくれ~!》
その呼び声にキョーコは驚きつつも、すぐ様返事はしなかった。
自分を呼び続けている男の必死な声を耳にしながらも、姿を見せていいのか判断に困ったのだ。
それでも、これだけ呼ばれているのだ。きっと不愉快な姿を見ることを我慢してでも何か頼みたいことがあるのだろうと、キョーコは小屋の前に姿を現すことにした。
《そんなに慌てて、どうされました?》
《あっ!》
戻ってきたキョーコの姿を見て、男は安堵した。
しかし、キョーコの目には安心した様にも嬉しそうにも映らず、彼女は内心溜め息を吐きながら男への配慮を口にする。←吐くって、いつも最初にハクと呼んでしまいます。この場合の読みはツクなのですが。
《あ、ドア越しでも十分声は聞こえますから、どうぞ貴方は小屋の中に戻ってください。ニッコリ》
この男にとってちっとも有り難くない申し出は、彼によって即拒否された。
フルフルフル
《戻りたくない。ここでいい》
そう言うと、男は車椅子でキョーコに近づき、逃がさないとでも言う様に彼女の着ている服の裾をしっかりと握りしめた。
───こんな俺じゃあ、君は気持ち悪いだろうけど、一緒に居たいんだ。
《?え?どうされました?》
《…2週間後に…君は出発してしまうの?》
《はい。そうする予定です。貴方はもしかしたらもっと回復するまでここに居たいかもしれませんけど、私も先を急いでいますので》
《…そう…でも俺は…》
《!まだ長旅に出るのが不安でしたら、アメリコクに向かう道中にある、ここから一番近い村でしばらく滞在されるという手もありますよ?》
《…君は…?どこに…行くんだ?》
《…アメリコクとは…違う方向にある…場所ですよ?》
男は漸くずっと聞きたかったことを口に出したが、キョーコの口からはその答えが聞けなかった。ならばと今度はずっと言いたかった希望を述べてみる。
《…俺も行く》
《?貴方もちゃんと故郷への旅に出れますよ》
《俺も…君と一緒に…そこに行く!》
《へっ?いやでもっそういう訳にはっ》
《…。俺は…行っちゃ駄目な…場所?…》
《駄目なことはないですけど、行きたくもない場所に向かう意味がわかりません》
男の目的が「キョーコといること」で、目的地が「キョーコのいる場所」であるなんて、気づく筈もないキョーコは、意味不明な男のお願いに困惑するしかない。
《駄目じゃないなら、行く!!》
一緒に行っても大丈夫な場所であるなら、もう男が進むべき道は決まったも同然である。先程までより勢い良く、自分もそこに行くと宣言した。
《俺も一緒に行く!!》
《それは、私の存在に我慢してでも、身体の治療に協力してほしいということですか?帰郷を先に伸ばして?》
《そうじゃなくてっ、君とずっと一緒にっ!》
《…確かに今のところ私以外には言葉が通じる人間がいませんものね。看護の人間をつけても安心出来ないかもですね。でも…この先もしばらく私と同行するとなると、貴方の帰郷は困難になりますよ?今ここでなら船に乗るまでの計画もちゃんと立てられますけど、ここから遠く離れればそうは行きませんから。それでも同行したいですか?》
男が願っている “一緒に”の意味は今回も通じていない。しかし、子供の様な説得しか出来なくとも、彼はズルイ大人である。←
結果的に思い通りになるのなら、細かいことは気にしないことにした。
───安心とか関係ないけど、一緒に連れて行ってもらえそうだし、ここはとにかく頷いておこう!
《したい!君と行く!》
男は力一杯そう返事をした。
《はぁ~。では、2週間で馬車への乗り降りだけは出来る様になってください。杖をつきながらでもいいんです。とにかく1人で乗り降り出来れば。…貴方がここまで載っていた台車はもうないですし、旅先では車椅子も使えませんが、馬車の荷台に乗って移動出来るのであれば、男性の看護者ではなく私が貴方と旅に出ることも可能です》
コクコクコク
《わかった!》
その後、2週間。キョーコは食料を届けるために何度か顔を出しはしても、それはほんの僅かな時間で、男はほぼ1人でその期間を過ごすこととなった。
しかし、このときの彼にはそれを寂しがっている暇などなかった。
そして、彼が毎日沢山食べることと車椅子から立ち上がって歩く練習に追われている間に、その期間はあっという間に過ぎたのであった。
その努力の甲斐あり、フラフラとしてはいるものの杖を使っての歩行を可能にした男は、馬車に乗ってみせるというテストにもなんとか合格した。
こうして、男はキョーコから同行の許可を取付けることに成功したのだった。
二人が出発する際、 “毒の森”の秘密の小屋は、キョーコによってまた元通りの空っぽにされた。
滞在のお礼として、貴重だという燃料が秘かに増やされてはいたが、それを確認できる者はここにはいない。
無人の小屋と日中でも薄暗い “毒の森”を後にした二人は、キョーコが2週間の内に準備した食料を積んだ幌つき車に乗って街道に出た。
《それで、どこに行くんだ?》
馬を操りながら、この先の地図を頭の中に広げていたキョーコは背後から質問を投げかけられ、馬車の荷台にしゃべることの出来る同乗者がいたことを思い出した。
旅に出発してしばらく、馬車の荷台に座る男は長い間無言でキョーコの背中を見つめていた。しかし、どんなに熱心にその視線を送り続けても、御者席に座るキョーコは振り向くこともなければ、話しかけてくれる様子もない。
その私語禁止というより存在を忘れられたかの様な状態に根を上げた男が、幾つかある質問の中で一番無難そうだと選んだのがこの「行き先」の話題である。
キョーコと同行できるのならば正直行き先なんてどうでも良い。そう思いながらも、会話の糸を掴み祖そこなうことのない様に、キョーコの一挙一動に注目しながら返事を待った。
《…森で生活を始める前に予定していた場所があるのですが、そこに向かうのはこの先の道に出没すると言う盗賊が一向にいなくならないのでやめました。かなり遠いですが、色々都合の良い場所にある秘境大効能温泉という場所に向かうことにしました》
《?秘境大効能温泉が君の目的地?》
《とりあえずは》
返事はくれても振り返ってはくれないキョーコの様子に焦れた男は、にじにじと揺れる馬車の中を移動しキョーコの背後に辿りつくと、その細い身体の薄い腹の前にニョキッと顔を出した。
「きゃあ!」
そんなことをされ、驚かない筈がなく、(男以外の予想通り、)彼女は悲鳴を上げた。
《そんな悲鳴まで上げなくとも》
《あ、上げるでしょう!普通!もぉ、びっくりさせないでください!手綱を間違えて引いたら危ないでしょお!!》
《ごめん》
《大人しく、荷台で休んでいてください》
《…うん》
───やっぱり気持ち悪いんだ。俺のこと嫌いなのかな?
キョーコと男の関係は旅に出ても変わらなかったが、しばらくは置いて行かれる心配がなくなった男は少しづつ変わっていった。
よそよそしいキョーコの態度に拗ねたり悲しくなったりしつつも、少しでもキョーコの側に近づこうと間違ったアピールをちょいちょい繰り出すようになったのであった。
第40話につづく
やっと森を出ましたぞーーー!
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4日目の昼。キョーコが予想していた通りに小屋の食料が尽きた。
食べて食べて、飲んで飲んで。
少し寝たあと、車椅子で部屋をぐるぐる回る。
早急に己の身体に肉と体力を取り戻そうとしている男の行動は、大失態を見せてしまった先日とちっとも変わっていない。
しかし、今回はキョーコが事前に1回に食べる量を決めてくれている為、無理せずに食べることができている男は今度こそ順調に体重を増やし、徐々にではあるが体力も付け始めていた。
ちなみに以前キョーコがした「毎日10食程食べて」発言は、「4日間は毎日6食まで」に訂正されている。限界を越えても食べ続けたあげくにすべて吐かれるなんてことが二度と無い様にとの配慮である。
コンコン。
午後になって、小屋のドアがノックされた。
コンコン。コンコン。
《あのぉ、起きていますか?食料をドアの前に積んでおきました》
───あ、来た!!起きないと!!
《!!はいっ!》
何度目かのノックのあとにはドア越しに、小屋の外にいるキョーコから声をかけられた。
その声で目を覚ました男は慌てて返事を返し、モゾモゾと昼寝をしていたベッドから起き上がると、キョーコを出迎え様と車椅子への移動を開始した。
しかし、男からの応えを聞くと、キョーコは小屋のドアを開けることもせず、その場で用件を話しだした。
《食料は余裕を見て2週間分用意しましたけど、くれぐれも食べ過ぎない様にしてくださいね!食事回数は最大8回まで増やしてもいいですけど、毎食食べていいのは1包みですからね!食料は…1週間後にまたお届けに来ます。ああ、それと。私は2週間後にはまた旅に出発しようと思っています。残念ながら貴方が元通りの体型になるまでここで暮らしてもらうことは出来ませんが、貴方の帰郷旅の手配もその頃には準備出来ている様にしますから、そこはご安心ください》
《あ、あのっ!ちょっと》
ちっとも小屋に入ってくる様子のないキョーコに、男は慌てて乗り移ったばかりの車椅子を走らせた。
《では、また1週間後に!私は直ちにここを離れますので、安心して外に出てくださいね!》
男への合図としてドアをノックはしても、姿を見せる気はなかったキョーコは、男が食料を小屋に運びいれる間は幌馬車に身を隠そうと、小屋の横手に回り込んだ。
バーーンッッ!!
それを追う様にして、小屋の扉が大きいな音を響かせながら開く。
《待って!待って!行かないでくれっ!!》
追ってきたのは、音だけではなかった。
《え?もういない?いや、まだ近くに居る筈だっ!待って、戻ってきてくれ!!》
《おおおーい!!!待ってくれーー!》
転がりだす様にして外に出て来た男は周囲を見回しながら、大声でその場を去ったキョーコを呼んだ。
《おおおーい!》《おおおーい!》
車椅子から身を乗り出すようにして、何度も叫ぶ。
《おおおーい!聞こえたら、返事をしてくれ~》
静かな森に男の声が響き渡るが、男が期待する応えはない。
《おおおーい!!》
《おおおーい!!小屋に戻ってきてくれ~!》
その呼び声にキョーコは驚きつつも、すぐ様返事はしなかった。
自分を呼び続けている男の必死な声を耳にしながらも、姿を見せていいのか判断に困ったのだ。
それでも、これだけ呼ばれているのだ。きっと不愉快な姿を見ることを我慢してでも何か頼みたいことがあるのだろうと、キョーコは小屋の前に姿を現すことにした。
《そんなに慌てて、どうされました?》
《あっ!》
戻ってきたキョーコの姿を見て、男は安堵した。
しかし、キョーコの目には安心した様にも嬉しそうにも映らず、彼女は内心溜め息を吐きながら男への配慮を口にする。←吐くって、いつも最初にハクと呼んでしまいます。この場合の読みはツクなのですが。
《あ、ドア越しでも十分声は聞こえますから、どうぞ貴方は小屋の中に戻ってください。ニッコリ》
この男にとってちっとも有り難くない申し出は、彼によって即拒否された。
フルフルフル
《戻りたくない。ここでいい》
そう言うと、男は車椅子でキョーコに近づき、逃がさないとでも言う様に彼女の着ている服の裾をしっかりと握りしめた。
───こんな俺じゃあ、君は気持ち悪いだろうけど、一緒に居たいんだ。
《?え?どうされました?》
《…2週間後に…君は出発してしまうの?》
《はい。そうする予定です。貴方はもしかしたらもっと回復するまでここに居たいかもしれませんけど、私も先を急いでいますので》
《…そう…でも俺は…》
《!まだ長旅に出るのが不安でしたら、アメリコクに向かう道中にある、ここから一番近い村でしばらく滞在されるという手もありますよ?》
《…君は…?どこに…行くんだ?》
《…アメリコクとは…違う方向にある…場所ですよ?》
男は漸くずっと聞きたかったことを口に出したが、キョーコの口からはその答えが聞けなかった。ならばと今度はずっと言いたかった希望を述べてみる。
《…俺も行く》
《?貴方もちゃんと故郷への旅に出れますよ》
《俺も…君と一緒に…そこに行く!》
《へっ?いやでもっそういう訳にはっ》
《…。俺は…行っちゃ駄目な…場所?…》
《駄目なことはないですけど、行きたくもない場所に向かう意味がわかりません》
男の目的が「キョーコといること」で、目的地が「キョーコのいる場所」であるなんて、気づく筈もないキョーコは、意味不明な男のお願いに困惑するしかない。
《駄目じゃないなら、行く!!》
一緒に行っても大丈夫な場所であるなら、もう男が進むべき道は決まったも同然である。先程までより勢い良く、自分もそこに行くと宣言した。
《俺も一緒に行く!!》
《それは、私の存在に我慢してでも、身体の治療に協力してほしいということですか?帰郷を先に伸ばして?》
《そうじゃなくてっ、君とずっと一緒にっ!》
《…確かに今のところ私以外には言葉が通じる人間がいませんものね。看護の人間をつけても安心出来ないかもですね。でも…この先もしばらく私と同行するとなると、貴方の帰郷は困難になりますよ?今ここでなら船に乗るまでの計画もちゃんと立てられますけど、ここから遠く離れればそうは行きませんから。それでも同行したいですか?》
男が願っている “一緒に”の意味は今回も通じていない。しかし、子供の様な説得しか出来なくとも、彼はズルイ大人である。←
結果的に思い通りになるのなら、細かいことは気にしないことにした。
───安心とか関係ないけど、一緒に連れて行ってもらえそうだし、ここはとにかく頷いておこう!
《したい!君と行く!》
男は力一杯そう返事をした。
《はぁ~。では、2週間で馬車への乗り降りだけは出来る様になってください。杖をつきながらでもいいんです。とにかく1人で乗り降り出来れば。…貴方がここまで載っていた台車はもうないですし、旅先では車椅子も使えませんが、馬車の荷台に乗って移動出来るのであれば、男性の看護者ではなく私が貴方と旅に出ることも可能です》
コクコクコク
《わかった!》
その後、2週間。キョーコは食料を届けるために何度か顔を出しはしても、それはほんの僅かな時間で、男はほぼ1人でその期間を過ごすこととなった。
しかし、このときの彼にはそれを寂しがっている暇などなかった。
そして、彼が毎日沢山食べることと車椅子から立ち上がって歩く練習に追われている間に、その期間はあっという間に過ぎたのであった。
その努力の甲斐あり、フラフラとしてはいるものの杖を使っての歩行を可能にした男は、馬車に乗ってみせるというテストにもなんとか合格した。
こうして、男はキョーコから同行の許可を取付けることに成功したのだった。
二人が出発する際、 “毒の森”の秘密の小屋は、キョーコによってまた元通りの空っぽにされた。
滞在のお礼として、貴重だという燃料が秘かに増やされてはいたが、それを確認できる者はここにはいない。
無人の小屋と日中でも薄暗い “毒の森”を後にした二人は、キョーコが2週間の内に準備した食料を積んだ幌つき車に乗って街道に出た。
《それで、どこに行くんだ?》
馬を操りながら、この先の地図を頭の中に広げていたキョーコは背後から質問を投げかけられ、馬車の荷台にしゃべることの出来る同乗者がいたことを思い出した。
旅に出発してしばらく、馬車の荷台に座る男は長い間無言でキョーコの背中を見つめていた。しかし、どんなに熱心にその視線を送り続けても、御者席に座るキョーコは振り向くこともなければ、話しかけてくれる様子もない。
その私語禁止というより存在を忘れられたかの様な状態に根を上げた男が、幾つかある質問の中で一番無難そうだと選んだのがこの「行き先」の話題である。
キョーコと同行できるのならば正直行き先なんてどうでも良い。そう思いながらも、会話の糸を掴み祖そこなうことのない様に、キョーコの一挙一動に注目しながら返事を待った。
《…森で生活を始める前に予定していた場所があるのですが、そこに向かうのはこの先の道に出没すると言う盗賊が一向にいなくならないのでやめました。かなり遠いですが、色々都合の良い場所にある秘境大効能温泉という場所に向かうことにしました》
《?秘境大効能温泉が君の目的地?》
《とりあえずは》
返事はくれても振り返ってはくれないキョーコの様子に焦れた男は、にじにじと揺れる馬車の中を移動しキョーコの背後に辿りつくと、その細い身体の薄い腹の前にニョキッと顔を出した。
「きゃあ!」
そんなことをされ、驚かない筈がなく、(男以外の予想通り、)彼女は悲鳴を上げた。
《そんな悲鳴まで上げなくとも》
《あ、上げるでしょう!普通!もぉ、びっくりさせないでください!手綱を間違えて引いたら危ないでしょお!!》
《ごめん》
《大人しく、荷台で休んでいてください》
《…うん》
───やっぱり気持ち悪いんだ。俺のこと嫌いなのかな?
キョーコと男の関係は旅に出ても変わらなかったが、しばらくは置いて行かれる心配がなくなった男は少しづつ変わっていった。
よそよそしいキョーコの態度に拗ねたり悲しくなったりしつつも、少しでもキョーコの側に近づこうと間違ったアピールをちょいちょい繰り出すようになったのであった。
第40話につづく
やっと森を出ましたぞーーー!
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