拍手からの移動のパラレルファンタジーです。

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拍手御礼「あの森を目指して 40」

袋詰めにして台車に載せて運んでいた大きな荷物は、その取り扱いに体力と気力と資金力が必要であろうと、多少の遠回り旅を余儀なくされようと、キョーコに迷いなど与えはしなかった。

だが、今は違う。

大きな荷物は、骨格標本の様なガリガリの骨男となった。

そして、骨と皮だけだったその身に少しばかし肉と筋肉を纏った。

皮付き骸骨のときには飛び出していたギョロ目は少し引っ込んだが、まだ自然に見えるにはほど遠く、肉が付きだしたことで輪郭が変わりつつある頬もまだ大きく痩けた状態からは脱してはいない。

吹けば倒れると言うことはないかもしれないが、まだまだやせ細ったままなコケコケ男である。

それでも杖さえあれば、フラフラと少しは歩ける様にはなった。


食事は飲み食いは出来ても、調達や準備は出来ない。

水浴びは、自然の中で済ますしかない場合、身体を支えるキョーコの手助けが必要だ。

排泄も場合によれば、時折手伝わねばならないこともある。


こんな風に、未だにキョーコが手助けしないと出来ないことばかりではあったが、中には手助けなど不要で、キョーコが制止出来ないこともある。

普通に歩くことは出来なくとも、男のその口は普通に開く。要するに彼は、何の支障もなく自由にしゃべることが出来るのだ。



当初の拙い会話能力が嘘の様に、今の彼は頻繁に大量の質問をキョーコに投げかけるようになった。

正直キョーコはそれに辟易していた。

《今、秘境大効能温泉に向かっているって言ってたけど、君は温泉が好きなのか?》

───貴方の毒抜きの為に仕方なし向かっているんです。

とは親切の押し売りみたいで言えはしないので、適当に濁して答えるしかない。

《…まぁ、そんなところです》

《そういえば、どうして、俺は君と一緒に旅していたのか聞いたっけ?》

───言ったかどうかは私も覚えていません。サクッと説明するなら、市場で超絶に臭くてガリガリズタボロで死にかけの貴方を見つけてしまって、止せば良いのについつい買ってしまったからです。

とも言えなくて、そこも濁してみる。

《…まぁ、たまたま?的な…》

《じゃあ、どうしてあの森に滞在していたの?》

───それは説明が面倒なのでやめていいですか?

と言う訳にもいかず、よくわからない説明でお茶を濁してみる。

《それも、いろいろありまして…たまたまあの小屋の存在を聞きまして…まあそんな感じで都合によりあそこで暮らしてた訳です》

《ねぇ、どうして野営するときには、いなくなるの?》

───態々貴方から離れて差し上げているのですよ?まあ、毒と戦ってる姿を見せないためもありますけど。

《どんなレベルの女であろうと、いろいろあるんです》

《ねぇ、今日は一緒にこの幌馬車で寝れば?》

───異性認定できなくとも、一応女なので無理です。今の貴方にはそこまでの看護は必要ありませんしね。

《そうですね、それはまたいつか…》


興味のないキョーコの出身国や名前、仕事のことなどは一切聞かないのだから、ただの時間潰しであるのだろう。

───世間話なら、まずはお天気のことでしょう!!

意味もなく会話するなら、答えを考える必要がない話題をチョイスしてほしいと、キョーコは男に伝えたかったが、そうも言えない。

次第にキョーコの返事はどんどんそっけないものに変わっていった。

営業スマイルは見せるものの、馬車で移動中以外はなるべく側に寄らないし、構わない。


そんなキョーコの態度に、寂しさを募らせた男は、次第にセクハラめいたことを仕出かすようになるのだが、森を出て街道をしばらく旅している間は、少しばかり不穏なオーラをキョーコがごくたまに匂わす程度で済んでいた。


───秘境大効能温泉で毒抜きしたらもう遠慮も配慮もいらない健康体よ!そうなったら、お金だけ渡して国に送り返してやるんだからー!

男を連れて旅に出たことが間違いだったのではと迷いだしていたキョーコの心が、こう変わるまであと少し。




幼児の様に質問ばかりする男は、絶好調で質問という名の願望を口から溢れ出させていたのだった。

《ねぇ、俺も御者席で一緒に座っていた方が話しやすいんじゃない?》

───ウザーーーーイ!!

第41話につづく

コケコケ男はウザイ男だった様です。
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