こちらは、りーちゃん&セーちゃんによる【反撃の乙女と狼狽える破壊神企画】です。

コラボ連載作『純情乙女の危険なあしらい』は、元旦からスタートしています。

まだまだ続きますので、お楽しみ頂けたら嬉しいです♪

 

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スタート話はこちらです。

→『破破壊神がやって来た』(一葉梨紗作)

1 /  /  /  /  /  /  / 9・完結

 

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『純情乙女の危険なあしらい』 1 

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反撃の乙女と狼狽える破壊神企画

『純情乙女の危険なあしらい 2』


 今のキョーコに勇気を与えてくれる、救いの声。

 それは決して慈愛に満ちていたりはしない、寧ろ意地の悪さが滲み出ている気さえする声だった。

 

 だけど、意地悪ぐらい何だというのだ。そんなもの、いくらでも享受してみせる。

 

 キョーコの前に降臨した救いの神は、蓮に胡散臭い笑顔を向けていた古賀だった。

 



 そのとき蓮はたまたま誰かに声を掛けられていた。古賀は話し相手を失ったことで空いた時間を無駄にせず、そっとキョーコに耳打ちしてきた。


「 ……君、さ。もしかしたら敦賀くんの口車に乗っちゃったんじゃないの?で、いま凄く後悔しているとか? 」

「 ……っ……」


 勢い顔を跳ね上げたキョーコの視線は、自分を見下ろす古賀のそれと重なる。

 
 キョーコの顔を見て古賀は優し気に口元を緩めた。
 ほら、そうだろう?と言わんばかりの顔だった。


「 ……古賀さ……」

「 シ……」

 
 古賀の唇に指が重なる。それは静かに、の合図。

 彼の目は言っていた。
 もし今困っているのなら、俺が助けてあげようか?…と。


 それは渡りに船だった。キョーコの願いはまさしくそれだったのだから。
 

 目の前の男の性格はともかく、今この瞬間に縋れるなら、彼は自分にとって有難い神も同然である。その神に、キョーコは視線で助けを乞うた。

 

 必死の訴えは認められ、救いの神の御心に届く。
 

 古賀神は鷹揚と頷いた。


「 あー、そうだ!京子ちゃんの顔を見て大事なことを思い出したよ。実は、明日の撮影の件でどうしても京子ちゃんに相談しておきたいことがあったんだった。帰る所だったのに悪いね。でもご丁寧にまた挨拶に来ちゃった君も悪いんだよ?……ということで、いいよね?京子ちゃん 」

「 え?はい 」

「 ほら!明日は朝からビッシビシにスケジュールが詰まっているだろう?だからじっくり話しをする時間なんて取れないからさ。……ってことで、悪いけど、敦賀くん、一人で帰ってくれるかな 」


 蓮と一緒に帰らずに済む「 正当な理由 」をくれた古賀にキョーコは感謝の視線を送っていたが、その後ろで蓮のこめかみはピクピクと揺れていた。
 


「 ……いやいや。それなら俺は京子の楽屋で待たしてもらおうかな。幸いにも、俺はこの後オフで、時間があるから 」

 

 

 背後に立つ男が放つ怒りの波動とその言動に怯えるキョーコは、縋るような瞳で古賀を見つめる。


「 あ〜そう。敦賀くんが暇なのはわかったけど……。でも京子ちゃんは、事務所のだーいせんぱいに自分を何時間でも待っていて欲しいって思う? 」

 

 

 この神は頼りになる。そう考えたことで、キョーコの身体は自然とその神へと近づく。
 

 

「 お……思わないです!! 」


 側にピッタリと張り付き、命綱のように古賀の左腕を掴んだキョーコはそう叫んだ。

 どうせ執念深いハンターのように追ってきていた蓮だ。
 今さら少しぐらい反抗した所で、詰め寄って来る事に変わりはないだろう。

 無駄な抵抗かもしれない。それでもキョーコは反撃の案を練る時間が欲しかった。

 坂道を転がるように叩き潰されるなんて死んでも嫌!
 そんな事になるぐらいなら一矢報いてやろうじゃないの。

 古賀神のおかげか、頭を付け替えたばかりのア○パンマン並みに、元気と勇気を取り戻したキョーコは、さっきまで恐ろしくて目を合わすこともできなかった先輩俳優に向き直って、大きな声で告げた。

 


「 敦賀さん……ごめんなさい!私、現場に残ります!! 」

「 最上さん。君ね…… 」

「 判っています。判っているんです!!私が全部悪いんです。だって敦賀さん、もういいって……さっき仰ってましたもの!私の話なんて本当はもうどうでも良くなっているのに、それを聞いてもらおうなんて図々しかったって、今気づきました! 」

「 え?いや最上さん…… 」

「 ちゃんと判ってます!敦賀さんは面倒見の良い先輩として、あんな風に私を追いかけ回しはしたけれど、本当は私の秘密の告白なんて、嘘でも本当でも、聞く価値がないって思っていらしたのでしょう? 」

「 待て。なんでそうなる! 」

「 だって私となんて、もう話したくないから!だからさっきちゃんと、金輪際私に話しかけることはしないって仰って下さったのに…私ったら!! 」

「 違うだろ!俺がそう言ったのは… 」

「 いえ、もう大丈夫です!これ以上何も言わないで下さい。さっきは急に突き放されて不安になってしまいましたけど、もう敦賀さんは私と無理に言葉を交わす必要なんてありません!当然、今後は私を追いかけることはないでしょうし、こんな駄目な後輩の姿を見ることもなくなると思います。ですからどうぞ私のことなんて記憶から消去して、この芸能界でこれまで以上に優雅に平和にお過ごしください 」

 

「 ……そんな事を言ってコトを先延ばししたところで、一体君にどんな意味がある? 」


 動揺しているように見えるけど、それでもこの人はキョーコのように「 この世の終わり 」を見ている訳じゃない。

 それが猛烈に悔しいと思ったキョーコは、女優魂を奮い立たせることで、嫌味っぽさ全開の言葉を紡いだ。


「 意味?なんのことやら……。そもそも敦賀さんとは金輪際会話することがないのに、先延ばしも何もないですよね?ああ、大丈夫ですよ!私のことはもうお気になさらず。心配もご無用です。幸いにも、今のこの現場には古賀さんという頼りになる先輩がいらっしゃいますから!ね?古賀さん? 」

 

「 うん、そうだよ、京子ちゃん。俺がしっかりバッチリ責任を持って、先輩として君を指導するよ。良く分からないけど京子ちゃんの言葉から察するに、敦賀くんもこれで憂いなく京子ちゃんと縁切りできて、嬉しい訳だ。よかったね、敦賀くん。おめでと〜 」

 

 

 これまで見せたことのないような、尊敬と甘えが入り混じったような視線で己の救い神を見上げてみれば、それはもう頼もしい応えを満面の笑みと共に返してくれた。

 

 

「安心して、頼ってね?たまには甘えてくれても良いよ。指導は厳しくしても、可愛い後輩を可愛がるのも先輩のつとめだからね〜」

 

「はい、古賀さん、よろしくお願いします!」

 

 

 ニッコリと笑顔を交わす先輩と後輩。実に微笑ましい光景だが、それを一人許せぬ男は、声を荒げる。


「 おい! 」

 

 

 子羊に予想外の反撃を受けた神の怒りは凄まじく、非常に恐ろしいが、右手で掴んでいる救いの神に守護されているキョーコは怯まない。


「 それじゃあ、敦賀さん。これからはこんな後輩なんて関知せず、今以上に自由に生きてくださいね。私は金輪際貴方に近づきませんし、話しかけません。もう絶対に貴方に頼るなんてしないと、お約束します!これまで、本当にたくさんお世話になりましたので、最後の言葉として、お嫌でしょうけど、これだけは聞いてください。いままで有難うございました。ふぅ……あ、古賀さん、打ち合わせはどこでしますか?それと私も…あの…ご相談したいことがあるんですけど、良いですか? 」

 

 

 ここで負けてたまるもんですかと、全力で浮かべた営業スマイルで蓮に別れを告げた後、古賀に甘えてみせる。

 


「 勿論っ!大事な後輩ちゃんの頼みなら、何でも聞くよ?俺の楽屋に行こうか 」

 

 

 キョーコに応える古賀の笑みは、蕩けるように甘く、尚且つ自信に満ち溢れている。

 

 だが、実力派と呼ばれる若手俳優で、抱かれたい男No.2の称号を持つ男は、可愛い後輩の元先輩で、己のライバルでもある男には徹底的に冷たかった。

 

 

「 あ、敦賀くん、まだ居たんだ?悪いけど、ここは俺の現場なんだ。京子ちゃんの先輩でもなくなった君はどう考えても部外者だし、もう帰ってくれるかな?って言うか、関係者じゃない人間にウロウロされるのは、目障りだ!あ、スタッフさん。悪いけど、部外者の彼を外に出してもらえる?ごめんね〜。でも、彼、この現場には邪魔しに来ただけで、応援でもなんでもないから、安心して追い出しちゃって! 」

「 ……っ!……ちょっと待っ! 」


 蓮の顔からは完全に笑顔が消えていた。額にはピシリと怒りマークがくっきり浮かび上がっているし、目つきも鋭くとにかく怖い。

 こんな状態の蓮と一緒に帰る訳にはいかない、とキョーコは古賀神の背中に隠れるようにして、蓮からの視線を避けた。


「 ……ということで、敦賀くんはお帰り~! 」

「 っ!おいっ! 」

 

「 敦賀さん、関係者以外は困ります!申し訳ないですけど! 」
 


 蓮が勢い古賀に掴みかかりそうになったことで、立場は一気に悪いものとなった。


 数名のスタッフに背中を押され、出口に向けて強制連行。


 それでも蓮がどうにか振り返ってみれば、キョーコの背中に腕を回した古賀と、その彼に縋るように身体を密着させるキョーコの後ろ姿が見えた。


「 ……っ!! 」


 蓮としては諦められない。
 諦められるはずもない。

 ならば……と、駐車場の車内で待機してみたが、一時間ごとに巡回している警備員にあっけなく追い出されてしまった。

 その後は、スタジオの敷地外ギリギリで路駐待機しようとしたが、そこには駐停車禁止のマーク。


 門を守る警備員に警察を呼ばれてしまったら金髪碧眼の免許証を見せねばならない。


 仕方なく、蓮は一度自宅に戻った。




「 携帯の留守電にでも脅しの言葉を入れておけば、夕方ぐらいには捕まえられるか?そうだな、まだ時間はある。明日の仕事は早いみたいだけど、うちに泊まらせれば夜中までにはカタがつく筈だ 」


 古賀を巻き込んで自分を追い払ったキョーコをこのまま許すわけにはいかない。

 不安を吹き払おうと、この後どう脅せばキョーコをマンションにおびき寄せられるかを蓮は必死に考えた。

 

第3話に続く

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