別ブログの拍手に収納している小話です。長い間お話アップがないので、流用しちゃいます。ちょっとだけ書き足し。
『拗ね拗ねコタツムリ』
「あの〜、そろそろ時間が……」
「……そぉ?」
姿は見えないけれど、呼びかければ、返事はある。
「だから、あの〜、明日の仕事にっ……」
「……大丈夫、俺のことなんて気にしないで……」
気にするなと言う割には、気にしないわけにはいかないオーラを発しまくっているのは何故か。
ただでさえ、その濃厚でいて高貴な存在感は、姿が見えないくらいでは到底隠せるものではないし、そもそも隠す気があるように思えない。
このビシバシ感じるオーラも、この空間を占拠しているブツと人物も、とにかく「主張」が強すぎて、大変困る。本当に勘弁してもらいたい。だから、負けちゃダメ、負けるもんかと、声をかけ続ける。
「いえ、あのっ!気にするなと言われましてもですね!?そんな訳には!」
「……そんな訳でも、どんな訳でも、気にしないでくれれば良いよ……」
いやいや、気になりますって!
どう考えても、気になります!
今この場で、気にするなと言われたぐらいで、気にならなくなるわけがなく、気にしないでいるわけにはいきません!
という心の中での激しいツッコミを、目の前の存在に気づいてもらいたいたいが、今聞いてほしいポイントはそこではない。諦めるな、私!頑張れ、私!平穏なる庶民空間を取り戻すために!怯むな、私!
「いや!でもですね!あの、ここは私の部屋ですので……敦賀さんはちゃんとご自宅に帰って休まれた方が……」
「だから、とっとと帰れと?」
「いえ、帰れなんて、そんな……」
「これは俺が頼んだのに…………」
「そ、そうですね……それは確かに敦賀さんのものですっ」
「なのに、邪魔だなんて…………」
はい、邪魔です。そう言いたい。
でも、貴方と一緒にいたくないわけではないんですよ?
ないんですけど…ですけど!ですけどね?
やっぱり…
「以前の部屋よりは広いですけど、8畳のワンルームにこの特大サイズはきついです!それに豪華絢爛すぎて、庶民の私の部屋ではどう見ても浮いてます!これはやはり敦賀さんの部屋に……」
やっぱり、これは邪魔なんです!とっても!本気で邪魔なんです!
「……俺の部屋に庶民的なこたつは似合わないと言ったのは君だろう?」
それはもうお似合いになりませんでした!?
絢爛豪華なパーティー会場で、湯上りパンいちで牛乳飲んでる人がいるレベルの違和感でした!はい!
倉庫でパーティとか、食堂にドレス姿のご婦人とかじゃ、伝わらないと思うので、敢えて逆シュチュエーションで違和感を表現してみましたが、如何だったでしょうか?え?伝わってないから、今こうなってる?
「いや、確かに言いましたけど、これだけ無駄に豪華絢爛なデザインにされたんですから、敦賀さんやあの部屋のインテリアには合わなくとも、うちに置くよりはマシなんじゃないかと!それにとにかく、これ!大きすぎです!」
「サイズは仕方がないよ。普通サイズのこたつだと、足を伸ばせないし、寝転げないんだから。君が言ったんじゃないか、貴方には普通サイズだと小さすぎておかしいって!」
「だからって、特注で作らせた上で私の家に送りつけるなんて!どんな嫌がらせですか!」
「……嫌がらせじゃないし……ಠ_ಠ」
「もう!早くそれ持って帰ってください!」
「こんなサイズ、俺の車には乗らないし……」
「じゃあ、後で送りますので、敦賀さんだけ帰ってください!」
「酷い……」
「酷くないです!もういい加減に顔ぐらい出してください!っていうか、そこから早く出てください!」
ここから待つこと30秒。
「…だって君が言ったんだよ?この季節、こたつに全身埋もれて、コタツムリになったら幸せな気持ちになるって!君は俺が幸せになっちゃいけないって言うの?出て行けって?」
その大きな身体を巨大サイズの特注豪華こたつと一体化させた男は、漸く見せた頭部をイヤイヤと振ったあと、またコタツぶとんの中に戻っていった。
どうやら、自宅に帰るつもりは全くないらしい。
いやそれ、困ります!ダメダメ、負けるな、私!
「……ここで寝るし、大丈夫。ちゃんと着替えもあるから」
「コタツで寝たら風邪を引きますし、血栓などの危険もあります!うちには余分な布団もありませんし、私のベッドは小さいのでお貸しできません!とっとと帰ってください!」
ついに本気でキレたキョーコだったが、新種の豪華絢爛コタツムリからの返事はなかったと言う。
fin
コタツムシ(炬燵虫)から、コタツムリ(カタツムリに見える炬燵虫)に変更しました。