『拗ね拗ねコタツムリ』の続き的なw

 

こたつ破壊の下りだけ、少し加筆しました。態と破壊したわけじゃないことを書き忘れていたので!

読み直したら、おかしい部分があったのでこっそり修正もしています。(/ω\)いやんw

 

『くつろげないコタツムリ』

ふふふふふ。

ふわぁああああああ。

 

エヘヘヘヘ。

ふわぁああああああ。

 

「この季節は、幸せな気持ちになるなんて、簡単ね。だって、お家に帰ってこたつに入るだけで良いんだもの。うふふ。キョーココタツムリは幸せです!」

 

「ああ、疲れた身体に染み渡るこのホカホカ感!ああああ!幸せ…もうこのままここで朽ちたとしても後悔しない気までするわ…」

 

 

2泊3日のハードな地方ロケの仕事を終え、つい2時間ほど前に、帰宅した最上キョーコ。

軽く部屋の掃除をして、お風呂に入り、洗濯をさっと済ませてしまえば、明日の夕方まで仕事はオフで、キョーコは自由だ。

 

食事は外で済ませてきたので、台所に立つ必要もない。

この部屋から出なくても良いから、用事がなければ、ずっと、幸せなコタツムリで居られるのだ。

 

このままここで死んでも良いと思うほどに、キョーコは幸せだった。

 

「弁償してもらったこのこたつ。前のより本体がしっかりしてるし、セットの布団も軽くて良いわ〜。カバーの肌触りも良いし、それにこの柄!可愛いけど、子供っぽくないし!大人可愛いっていうの?サイズは普通より少し大きいのに、壁にパタンと収納できちゃうのがまた凄いわ!畳んでいるときは本棚になるし、魔法みたい!」

 

 

新しいこのこたつは、何と壁?収納なのだ。壁際にある本棚の一部を引っ張ると、こたつに変身するという、子供の変身ロボみたいで摩訶不思議なこの家具は、事務所の大先輩が見つけて、「弁償品」としてプレゼントしてくれたもの。

 

 

「前のこたつはこの部屋に引っ越してくるときに買った一人用のミニサイズだから、こたつはこたつだけど、ちょっと落ち着きにくかったのよね〜。布団の柄も選ぶほどなかったし!」

 

 

キョーコが現在住む部屋には押入れタイプの大きなクローゼットがない。壁際に1つだけある洋服箪笥サイズのクローゼットでは、入れ替えが必要な季節物の大型家電製品など保管できる筈がなく、引っ越し時に十代から愛用していたこたつは処分してしまった。

 

それでもこたつがない冬なんて考えられなくて、一般的なこたつの半分ほどのサイズの小さなものを探して買った。

 

布団を圧縮袋に入れてクローゼットの下段に、机は畳んでベッドの下に収納。そんな風に片付け可能な小さなこたつに無理やり体を埋め、コンパクトなコタツムシ生活を送ること1ヶ月。

 

たまたま家まで送ってくれた大先輩は、今日こそはここでお茶を飲むんだ!と押し入ったこの部屋で、ミニこたつを発見し、それはもう、わかりやすく、「がーん!」という感じで絶望してくださった。

 

まあ、以前の部屋にあった普通サイズの庶民こたつでも、はみ出していた大柄な大先輩の身体が、通常の半分しかないコンパクトサイズこたつに収まるわけがないので、キョーコとしては笑うしかなかったのだけれど。

 

 

「コレじゃあ、俺が入れないじゃないか!っていうか、俺じゃなくても、最上さんと一緒には入れないよね?何コレ、何のために置いてるの?コレじゃあ、こたつ失格だよね?コレじゃ、絶対幸せになれないだろう?」

 

 

笑うどころか、こたつにダメ出ししまくりで、怒り出した大先輩。

恨めしげにブツブツ。プンプンしながらブツブツ。とにかく、ブツブツ。


それに対し、にっこり笑顔でスルーと言う、大人対応をしていたキョーコだったが、それも長くは持たず。理不尽にディスられ続けるマイこたつを守るべく、こたつと先輩を引き離すことにした。

 

「もう!私の部屋で使うために、私が買ったこたつに文句を言うなんて、何様ですか?ほら、コーヒー入れますので、こっちのカウンターで飲んでください。あああ、無理!敦賀さんには、無理ですから、試しに入ろうとしないでください!ちょっ!なんですか、今のバキッて音は!あああ!机が割れて!」

 

結果として、マイこたつを守りきることはできなかったが。

 

きっと学生さん向けだろう価格に見合ったチープな作りの小さなこたつ机は、キョーコが踏んづけただけで壊れそうなほどちゃちな品物だ。組み立て説明書に、「簡易テーブルです。人をのせる程の強度はないので、30キロ以上のものをのせないでください。上に乗らないでください。踏み台として使用しないでください」と、大きな文字で記載されていたぐらいなので、強度がないことはメーカーのお墨付きである。

 

だから、握力が人外な大先輩が無意識でも強く握りしめれば、天板は簡単に割れちゃうし、少し勢いをつけて体重をかければ折れるレベルに細い足なのは理解でできる。

 

決して態とこたつを破壊したのではないと、それぐらいは、大先輩の表情を見ていればわかった。

 

きっと、「このサイズだと自分は入れない、無理に入ったらコタツが浮き上がる」とアピールしたかっただけなのだろうことも。

 

破壊音を響かせた瞬間のビックリ顔からそこは推察できた。

 

でもそのあとの表情がいただけなかった…

非常に胡散臭い笑顔が…

 

そして、大先輩は一体ここに何しに来たんだか、「ごめんね、机を軽く握っただけなのにおかしいね。でも、すぐにちゃんと代わりのものを送るから大丈夫」と言い捨ててお茶も飲まずに、「イソイソ」と帰っていった。

 

その際、破壊されたこたつは、キョーコには修理も買い替えもさせないと、回収された…。

小さいから、スポーツカーでも載るらしい。

 

そのあと届いたのが、あの豪華絢爛特注特大こたつと、帰宅を拒んで住み着く気満々だった新種の豪華絢爛コタツムリだ。

 

大先輩は、あの日、キョーコが仕事に行って、夜遅くに帰った際に、まだいた。

 

豪華絢爛特注特大こたつを回収して帰ったくれと鍵を預けていたにも関わらず…まだいた。

 

夜中になってから漸く帰ってくれたけれど。

 

「我ながら良いこたつを買ったと思ったんだけどね…。ちゃんと幸せになれるし。でも、君がそんなに気に入らないなら、コレは社長にプレゼントすることにするよ。最上さんのこたつを壊したのは俺だし、少し待たせるけど、この部屋で邪魔にならないこたつを用意するから!今のこたつは明日にでも回収しておくから、鍵はまだ預かっておくね?」

 

帰る際にそう言われて、深く考えずに頷いたのだけど、あとで考えて心配になった。

 

彼が考える、邪魔にならない炬燵とは、一体どんな炬燵なのか。

毎年キョーコを癒してくれる庶民感溢れるこたつに…もう会えないんじゃないかと。

 

だけど、良い意味で大先輩は裏切ってくれた。10日程こたつのない生活を送ることになったけれど、届いたのは、この凄く素敵なこのこたつだったから。

 

 

「お礼…しなくちゃね?どうしよう…あの特大こたつに比べれば、敦賀さんに少し小さい気がするけど、入れなくはないサイズよね?ふふっ、大人可愛くなった素敵こたつでも、あの人には似合いそうもないけどっ。やっぱり、お礼はこたつでお鍋かしら?」

 

お礼のおもてなしメニューを考えるのは凄く楽しい。そして、コタツの中はホカホカ。

キョーコの思考は人からコタツムリへと退化していく。

 

 

「うふふ、幸せコタツムリ…」

 

 

こたつで寝るのは良くないけれど、うたた寝はコタツの基本。ウトウトしちゃうれど、敢えてそれには抗わないコタツムリ。

 

───いいの、いいの。ここで朽ちても良いんだもの。幸せなんだもの。

 

 

どれだけ時間が経ったのか。ふと目覚めれば、こたつの中でキョーコは身動きできなくなっていた。

 

 

「え?あああああああ、あの?つ、敦賀さん?どどど、どうしてここにっ!」

 

「ただいま、最上さん」

 

「へっ?お、おかえりなさ…い?」

 

「うん、ただいま」

 

にっこり上機嫌に笑うキョーコの大先輩である敦賀蓮。

 

───ええと。ご機嫌なのは良いですけれど、何故ここに?そして何故この体勢?

 

キョーコがそう疑問に思うのは仕方がない。

この部屋にいないはずの人が、背後というか下に「いる」のだ。明らかにおかしい。

 

 

「どうして、この部屋に敦賀さんが?」

 

「うん、鍵を貰ったからには帰らないとでしょ?」

 

いえ、あげてません!こたつ回収のために預けただけですから!そう言いたいけれど、何故かちょっと怖いので、フルフルと無言で首を横に振り、間違いだと伝えたいキョーコだけれど、背後というか下に「いる」お方にそれが伝わった気配はない。

 

 

「あの、それにこの体勢は…」

 

「うん、こないだ最上さん、邪魔で買えないけれど、こたつ用に大きな座椅子があれば極楽度が上がるのに〜って、嘆いていたでしょ?確かに座椅子までこの部屋に置くのは無理かなと思うから、せめて俺がいるときぐらい、最上さんの座椅子になってあげれば良いかなと。ね?これなら、ずっと置きっ放しの座椅子より邪魔じゃないし、便利でしょ?」

 

───まさか、俺が邪魔なんて言わないよね?そんな圧を感じる笑顔で言われても困るのですけれど。

 

困っているけれど、敦賀蓮座椅子とこたつに挟まれ、拘束されているキョーコに拒否という自由は与えられていない。

 

背後というか下に「いる」お方に、全身をムギュッと抱き込まれ、頭と首にスリスリされ、たまに匂いを嗅がれる、こたつの付属物なキョーコ。

 

 

「うん、俺にはちょっと小さいけど、でもこのこたつなら、ちゃんとキョーコと幸せになれるね」

 

「そ、ソウデスカ、シアワセナンデスカ、ソレハヨウゴザイマシタ」

 

 

───やめてやめて!

 

耳元でキョーコ呼びは、厳禁です!

 

ダメです。危険です!

 

ダメなんです!

 

 

恥ずかしすぎてブルブル震えちゃうキョーコをしっかり抱きしめてながら、背後から囁く色気過剰なお方は、こんなとき容赦ない。

 

「いい加減、ちゃんと恋人らしくしないとね。ね、キョーコ?」

 

 

背後の大先輩は、びっくりなことにキョーコの恋人だ。

だから、恋人らしく、彼のマンションから5分のところに引っ越してきた。

 

家は近くなったし、二人の心の距離も縮まった。それはキョーコも認めるところだ。

だけれども、恋人っぽいことを言われ、されちゃうと、どうにも恥ずかしすぎて逃げたくなるのだ。

 

「この距離と関係に馴染むまで、あと半年、いや、1年は欲しいと思うんです!敦賀さんのお家にお邪魔する回数を増やそうと思ってますが、まだ最上呼びで良いと思います!私の家は私が一人で落ち着く場所として、敦賀さんを招くのはごくたまにで良いんじゃないかとっ!」

 

だがしかし。

 

キョーコの訴えは毎回華麗にスルーされる。

 

 

 

「キョーコのための座椅子任務は、他人どころか椅子にも任せられない!」

 

恥ずかしさに悶えながら恋人としての関係を続ける中で、時折聞かされる謎の主張。

恋人による、よくわからぬ主張をスルーできるノウハウを持たないキョーコは、望まぬままに自分専用の人間座椅子を手に入れてしまうことになり、ソファーや椅子に普通に腰掛ける機会を激減させることになった。

 

 

───何故?

し、幸せは、幸せですけど、部屋の中でも、こたつの中でも、くつろげないんですけど!?

 

まだ、そう、まだ無理です。

 

ああ、懐かしの我がコタツムリ生活。

 

仕事が忙しいせいか、少ないオフや夜間は、敦賀さんが一緒にいることが多いせいか、家で一人になる時間がほとんどないせいか、一人で1こたつな、コタツムリに復帰できる日がくる気しない今日この頃です。


 

2人羽織型に進化したコタツムリによる密かな呟きは、今日も誰にも届かないのであった。

 

fin