これまで、7つの記事で、ウクライナ戦争について論じてきた。

2022年2月24日に始まった戦争は、ほぼひと月(30日)が経過した。

この間、この戦争は何なのか、さまざまな観点から論じてきた。

この辺で、その内容を概観しておきたい。

 

今回の戦争、ロシアは、英米に嵌められた面がある。

ロシアのウクライナ侵攻は、ロシアにとっても最悪の手段だった。

だが、プーチンは、そのような悪手を打たざるを得ない立場に、うまく追い込まれたと言えるかもしれない。

結局、ウクライナのNATOへの接近が、プーチンを強く動かしたのだ。

 

バイデンのウクライナへの肩入れのきっかけは、ウクライナのロシアからの離反を促すためという戦略もあったろうが、それ以上に、身内の不祥事を闇に葬るためではないかという見方がある。

次男ハンター氏の疑惑の調査を行わない見返りに、バイデンはウクライナへの援助を強めたのでは、という疑惑があるのだ。

そのため、ゼレンスキーは、アメリカの後ろ盾を頼んで、不用意にロシアに強気に出てしまった面があるのではないかとも言われている。

 

要するに、ゼレンスキーは、アメリカを利用し、アメリカに利用されている、ということだ。
バイデンの目的は、ロシアにウクライナを侵攻させて、次男への疑惑を有耶無耶にしてしまうこと。そして、これを機会に、ロシアを叩き潰すことだ。
そのために、バイデンは、ウクライナの市民を犠牲にしている。

残念ながら、ゼレンスキーは、その流れに乗ってしまっている。

 

バイデンは言った。

「私が、経済制裁で戦争を止められるなどといつ言った。戦争は経済制裁では終わらない。大切なことは、ロシアに痛みを与え続けることだ。」

バイデンには、戦争を終わらせる気はない。

ただ、息子のスキャンダルを潰し、ロシアを痛めつけたいだけなのだ。

そうした目論見を、正義の名の下に、覆い隠してしまえるなら、これほど喜ばしいことはない。

良心の呵責も、一切感じずに済ますことができる。

大変好都合ではある。

だが、このようなことが平気でできる、バイデンこそが、サイコパスではないか。

ウクライナでは、国外脱出を図った男性たちが、次々と拘束されている。
国家によるナショナリズムの押し付けで、沈黙を強いられる人々が大勢いる。

ウクライナ人は勇敢だ。

今は「戦いたい」男たちが過半数かもしれない。

ゼレンスキーの支持率も、41%から91%に急上昇した。

けれども、みんながみんな、戦いたいわけではない。

勇敢な戦う愛国者たちの裏側で、「逃げたい」「戦いたくない」という市民の本音が抑圧されている。

 

 

 

ロシアとウクライナの関係は、とても深い。

プーチンは、大ロシア主義を唱え、同じ大ロシアの一部である兄弟民族ウクライナ人を、ロシアの内へ取り戻そうと、この戦争を始めた。

このプーチンの考えは、現実とずれていたため、電撃戦は失敗に終わった。

ウクライナ人の多くは、大ロシアの一部であるより、あくまでもウクライナ人でありたいと考えている。

プーチンは、そのウクライナ人の愛国心の強さを見誤っていたようだ。

 

とは言え、プーチンは、ウクライナ人を無理やり支配したいわけでも、虐殺したいわけでもないだろう。

プーチンの敵は、ウクライナではない。

プーチンの敵は、アメリカであり、アメリカの手先となっている(ようにプーチンに見えている)ゼレンスキーだ。

ウクライナの荒廃は、プーチンの望むものではない。

 

ウクライナには、ロシアを領域外へ押し戻す力はない。

ロシアにも、ウクライナ全土を制圧する力はない。

だから、戦争は終わらない。

ロシアもウクライナも、戦争の長期化を望んではいないのだが。

ロシアは当然〝悪〟だが、ロシアを〝絶対悪〟とする強力なプロパガンダを行ない、ウクライナを代理戦争で使い潰してもかまわない、というのがアメリカの戦略。

西側の「自由と民主主義」のリーダーは、自らの信ずる正義に反する国家を叩き潰すためには手段を選ばないようだ。

バイデンは、戦争が長期化しても、痛くも痒くもない。
アメリカは資源大国だし、ユーラシアから遠く離れている。
対日戦(太平洋戦争)の時と同じで、どれだけ犠牲が出ても、最後までロシアを叩き潰す戦略だ。

バイデンは言った。「プーチンは権力の座にとどまれない。」

つまりは、それまで、戦争を続けるということだ。

 

このバイデンの戦略には、「どのくらいの期間で?」という見積もりが、まったくない。

ロシアを叩くのには、どれだけ時間をかけても構わないと考えているようなのだ。

なぜなら、「時間をかければ、かけるほど、アメリカは有利になる」と考えているからだ。

「戦争の激化でウクライナの民間人がどれだけ死んでも、その分、ロシアへの非難材料が増えるだけで、アメリカに損はない」というわけだ。

 

バイデンは、人の命をも、また、そろばん勘定している。

ゼレンスキーは、支援の見返りに、バイデンに、自国民の命を切り売りしている。

そのウクライナ人の命が、ロシア非難の材料になり、バイデンは経済制裁を続けられる。

しかし、プーチンにとっては、何の成果もなしに、ここで引くことは、自らの進退に関わり、破滅につながる。だから、簡単に、兵は引けない。

クリミア領有の承認、ドンバス地方の独立、ウクライナの中立化は、プーチンの望む最低ラインだろう。

 

一般にロシア人は、反プーチンの人であっても、若い人を除けば、アメリカの方が嫌いだ。

ロシア人は、戦争を始めたプーチンよりも、ロシアを叩くバイデンを憎む。

「鬼畜米英」ということだ。

ウクライナ侵攻を非難する西側の経済制裁が始まった後も、プーチンの支持率は、独立系メディアの調査でも、83%にまで上昇し続けている。

マクドナルド、スターバックス、アップル、ユニクロが営業停止しても、ロシア国民は、プーチンを支持し続ける。

プーチンと共に、ソ連崩壊後の90年代の混乱と衰亡からの復興の20年を歩んできた人々のプーチンへの信頼は厚い。

そして、戦争は続く。

 

 

 

アメリカ政府は、ロシア兵の死者とウクライナ民間人の死者の人数は、詳しく発表を続けている。しかし、ウクライナ軍兵士の死者数については、一切、発表していない。しかも、西側メディアも、ウクライナ軍の犠牲者については、一切報道しない。

もし、ウクライナ軍の犠牲者数が、ロシア軍の犠牲者数を上回っていたら、厭戦気分が広まり、ウクライナ側からロシアとの和睦へ向かう圧力が強まるかもしれない。

 

日本メディアのインタビューを受けたキエフの二人連れのウクライナ人女性の一人は言った。

「私たちの間でも意見は分かれているの。私は、プーチンを少しは信じてもいいと思っている。結局、まだ、実際に亡くなった人は少ないし。でも、この人は、信じないと言うの。」

確かに、今のところ、ロシア軍の侵攻で殺害されたウクライナの民間人の数は、イラク戦争でアメリカ軍の誤射・誤爆によって、同じ1ヶ月間に殺害されたイラク民間人の数より少ない。

 

プーチンもゼレンスキーも、「裏切り者は許さない!」と言う。「この戦争は、何としてもやめるべきだ」と主張すると、どちらの側でも裏切り者になってしまう。

どこの国でもナショナリズムに火がつくと、その火消しは難しい。だから、戦争の当事者でない者たちが、他国のナショナリズムをいたずらに煽ってはならない。

メディアもまた、安易に一方の側に肩入れしすぎてはならない。プロパガンダの片棒を担ぐなど、あり得ない。


多くの日本人が、アメリカの正義への違和感を感じないのは、日本が、アメリカに、とことん依存しているからだ。

頭の中身というか、取り入れるべき情報も、モノの見方も、思考法までも、アメリカに依存している。

だから、日本のメディアも、CNNの日本支局に成り下がる。

独自の視点を持ち得ない。

 

プーチンは言った。

「日本では、原爆によって、アメリカに、罪のない一般市民が無差別虐殺されたことが、教科書に載っていない。」

正確には、そうではない。

教科書に載ってはいるが、大部分の日本人の心情としては、なぜか、落としたアメリカより、落とされた日本の方が悪いことになっている、のが現状だ。

プーチンが言いたいことは、日本はアメリカに、徹底的に調教・洗脳されているということだ。

それは、間違いではない。

 

史上最悪の無差別爆撃で首都を焼け野原にされ、一夜にして10万人の民間人を、焼夷弾で焼き殺された。

史上最悪の無差別艦砲射撃と火炎放射器で、3ヶ月の地上戦が繰り広げられ、9万人の民間人を虐殺された。

唯一の被爆国となり、二つの都市を、一瞬にして、壊滅させられ、16万人の市民が死んだ。

 

アメリカは、日本の降伏を許さず、最後の最後まで、日本人に痛みを与え、二度と立ち上がれないように虐待し、十分に飢えた後で、食糧を与えた。限界まで調教を施し、職とお金と安全を与えた後で、キャデラックと電気冷蔵庫とディズニー・アニメ、ジャズと映画とコカコーラ、ステーキとシャンパンとクリスマス・ケーキで「アメリカは素晴らしい!」と洗脳したのだ。

実に、巧妙であった。

 

ABCD包囲網、ハルノート。

当時の〝侵略者〟日本を日米開戦へ向けて追い詰めるアメリカの戦略は、断固とした徹底的なものであった。

その結果、あまりにも多くの命が失われた。

そして、アメリカは、それを、今度は、ロシアに対して、行おうとしている。

今度は、戦わずして勝つ。アメリカ人の血は流さない。

ニュー・スタイル・ウォーで、ロシアを滅ぼすのだ。

ウクライナは、そのための生贄である。

 

 

 

プーチンも、ゼレンスキーも、早く戦争を終わらせたがっている。

部外者のふりをして、火の粉が及ばない外から罵声を浴びせて、それを邪魔しているのがバイデン。

日本は、そのバイデンにピッタリくっついているが、安心していると、そのうち、梯子を外されるのではないかと、私は危惧している。

 

我々は、今、岐路に差し掛かっているのかもしれない。

我々が、今、見ているものが、どんな結末に辿り着くのか、まだ誰にもわからない。

だからこそ、なおのこと、隠れている悪意を、見過ごすわけにはいかない。

その悪意を見過ごせば、もしかすると第三次世界大戦を招くかもしれないのだから。

今回、その隠された悪意を、不気味なまでに見せつけたのは、実はロシアではなくアメリカだ。

世界の半分は、アメリカの悪意を、見ている。

 

英米中心の西側諸国連合と、中露印などアジア・アフリカ連合との対立構造が、ゆっくりと、だが、鮮明に浮き彫りになってきた。

西側風のリベラルな「自由と民主主義」を絶対視する人々と、必ずしも民主主義や自由を絶対視しない人々との対立とも言えるだろう。

繰り返すが、この対立が、英米の勝利に終わるかどうか、今の時点では、誰にも分からない。

 

「だからこそ、ロシアを叩かねばならない!」と主張する人々がいる。

だが、私はそうは思わない。

ロシアを叩くより、今、戦争を終わらせる方が、100倍大切だと私は思う。

そのためには、外部の人々が、ロシア、ウクライナ、双方のナショナリズムを、いたずらに煽ってはならない。

私たちは、今、西側のプロパガンダの真っ只中にいるが、報道によって、どれほど煽られようとも、「悪魔の所業を行うロシアに正義の鉄槌を!」と、短絡的に懲罰思考に陥ってはならないのだ。

 

今、ロシア軍の民間人虐殺を糾弾する声が、西側で高まっているが、これが、そもそもおかしい。

戦争、特に地上戦、さらに市街戦となれば、史上、民間人の虐殺を伴わない戦争はないのだ。これは、当然、予想されたことだ。戦争とは、そういうものだからだ。

これまでの戦争では、はるかに広範囲に、大規模に、民間人の虐殺が繰り広げられてきた。第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、イスラエル・パレスチナ紛争、イラク戦争、皆そうだ。

 

だからこそ、戦争は、起こしてはならないし、起こってしまった戦争は、何としても、早期停戦に持ち込まねばならない。

ところが、西側諸国、特にアメリカは、戦争の勃発に深く関わり、なおかつ、現在も、停戦の努力をするどころか、状況を放置し、あまつさえ、長期化を促してさえいる。

自ら(アメリカ)の責任を一切顧みず、すべて相手(ロシア)のせいにして、済まそうという自己都合の態度が顕著である。

 

 

 

 

〈備考〉

私のウクライナ戦争に関する上記の見解は、アメリカの言語学者ノーム・チョムスキーの「プーチンに〝逃げ道〟を用意しなければ、世界は想像を絶する悲劇を迎える」という見解と、ほぼ一致する。興味のある方は、チョムスキーのインタビュー記事を参照されたし。

また、今回のロシアによるウクライナ侵攻を予測したシカゴ大学の国際政治学者ジョン・ミアシャイマーの「ウクライナ戦争の原因は西側、とりわけアメリカにある」「ロシアを追い詰めるな」という主張に、私は賛同するものである。

したがって、私は、ロシアの誰の目にも明らかな〝強調される悪意〟よりも、日本では、ほとんど誰も口にしない、アメリカの〝隠された悪意〟を重視している。

 

 

 

 

〈資料〉

◆国連総会 ロシア非難決議

反対 5カ国▶︎ロシア、ベラルーシ、シリア、北朝鮮、エリトリア

棄権 35カ国▶︎中国、モンゴル、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、イラン、イラク、アルジェリア、南アフリカ、タンザニア、コンゴ、中央アフリカ、ベトナム、キューバ、ボリビアなど。

賛成 141カ国

 

◆ロシアへの経済制裁

参加48カ国▶︎アメリカ、カナダ、EU全加盟27カ国、イギリス、スイス、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、台湾など。

※アジアでは、日本、韓国、台湾、シンガポールの4カ国のみ。