岩手県盛岡出身の天野滋(1953年生)、中村貴之、平賀和人で、1972年、高専在学中に結成された3人組フォーク・グループ、N.S.P(ニュー・サディスティック・ピンク)の独断と偏見によるベスト曲です。

本当に地味で目立たないグループで、同じ時期に、同じように〝叙情派フォーク〟と呼ばれた、北海道出身のフォークデュオ〝ふきのとう〟よりも、さらに地味だった気がします。

でも、〝ふきのとう〟と〝N.S.P〟のどちらを、今、聴きたいか、と訊かれたら、私は、断然、〝N.S.P〟が聴きたい、と答えるでしょう。

事実、ここに挙げた15曲は、今でも、よく聴く曲ばかりです。特に、ベスト5は、折に触れて頭の中で流れる脳内楽曲の中でも上位の曲目です。どれも、何度聴いても飽きないんですよね。

 

 

①チケット握り締めて

作詞作曲 天野滋

◯アルバム「The WIND'S SONG(1981年発表/12th/ー)」初収録。

◯アルバム「NSPベストセレクション 1973〜1986(2003年発表)」収録。

この作品は、歌詞、メロディー、アレンジ、すべてにおいて、天野さんの音楽の到達点・集大成と言うべき最高峰の名曲だと思います。でも、世間では、ほとんど知られていないのが、本当に残念です。

「そこは、誰も、僕を知らない、もちろん、君を知る人もいない、君を路上で抱きしめた時に、季節の中に溶け込むさ。」

 

②浮雲

作詞 天野滋/作曲 平賀和人

◯アルバム「彩雲(1980年発表/10th/9位)」初収録。

◯アルバム「NSPベストセレクション 1973〜1986(2003年発表)」収録。

◯アルバム「NSPプラチナムベストBesTouch(2015年発表)」収録。

二葉亭四迷の浮雲を連想させる後期の名曲で、1980年代のN.S.Pを代表する一曲です。平賀さんのメロディーと天野さんの詩が、うまくかみあった曲。

「優しさだとか、思いやりだとか、わかったつもりでも、些細な事で傷つけあい、あいつと別れたなんて、告げたならば、笑うだろうか、ウブだ、若かったと。自分自身もおかしくて、笑みを浮かべてしまう。」

 

③夕陽を浴びて

作詞作曲 天野滋

◯アルバム「天中平(1980年発表/11th/35位)」初収録。

◯アルバム「NSPプラチナムベストBesTouch(2015年発表)」収録。

この曲は、当時、私の就寝曲でした。この曲を聴きながら眠りにつくと、安心して熟睡できました。

「ギター弾いていると、君が半分暗くなる、夕陽を浴びて。」

 

ここまでが、私の不動のベスト3です。

3曲とも、N.S.Pが時代の波に取り残されつつあった1980年代初頭の曲ですが、完成度が非常に高く、音楽性という点では、頂点を極めていた時期ではないか、と思います。

 

④青い涙の味がする

作詞作曲 天野滋

◯シングル(1979年発表/16th/61位)

◯アルバム「NSPベストセレクション 1973〜1986(2003年発表)」収録。

70年代末の〝センチメンタル〟で〝ウブ〟な感性をストレートに素朴に表現した曲。シングル化されたこともあり、ベスト5の中では、世間の認知度は最も高い。N.S.Pの代表曲のひとつ。

「握手をしてもダメさ、頭を下げても無駄さ、心の距離を感じてしまう、青春なんて文字が、心の隅をつつく、傷口をまたつつく。」

 

⑤やさしい街

作詞作曲 中村貴之

◯アルバム「明日によせて(1977年発表/6th/10位)」初収録。

中村さんの代表曲。シングルにはなりませんでしたが、発表当時から話題曲で、よくファンのリクエストでラジオから流れていました。

「パチンコやって儲けて、あの角の茶店に入って、レコード聴いて、コーヒー啜るのが、あの頃のお決まりのコース。」

 

⑥見上げれば雲か

作詞作曲 天野滋

◯シングル(1980年発表/18th)

◯アルバム「天中平(1980年発表/11th/35位)」初収録。

◯アルバム「NSPプラチナムベストBesTouch(2015年発表)」収録。

これも、純文学的な青春のテーマを歌った天野さんらしい作品。一度聴くと、忘れられない曲。N.S.Pとして珍しく、訴えかける迫力(インパクト)のある曲。

「それぞれ人は、その足元に、自分の影を引きずり続け、立ち止まる時、思い出すのは、愛しい人の笑顔じゃないか。」

 

⑦17歳の詩

作詞 矢吹夕子/作曲 天野滋

◯アルバム「2年目の扉(1975年発表/4th/14位)」初収録。

◯アルバム「青春のかけら達(1978年発表/初のベスト/19位)」収録。

◯アルバム「NSPベストセレクション2 1973〜1986(2005年発表)」収録。

哀愁(ペーソス)に満ちた青春の名曲。発表当時、ファンレターの詩に曲をつけたと天野さんは言っていましたが、実は、奥様の詩だそうです。学校の国語の先生が、授業でこの詩を紹介して「本当に気持ちよかったんですかね」と仰っていましたが、堅物というか生真面目な先生でしたね。

「嘘をついて、悪口言って、嫌われてしまえば、こんな気楽になるなんて知らなかった。」

 

⑧あの夜と同じように

作詞作曲 天野滋

◯アルバム「黄昏に背を向けて(1977年発表/7th/15位)」初収録。

◯アルバム「青春のかけら達(1978年発表/初のベスト/19位)」収録。

◯アルバム「NSPベストセレクション 1973〜1986(2003年発表)」収録。

ミディアム・テンポでリズムの心地よい、N.S.Pとしては〝疾走感〟があると言ってもよい名曲。

「今年最初の雪が降る、お茶をふうふう飲みましょう、あの夜と同じように。」

 

⑨漁り火

作詞作曲 天野滋

◯アルバム「青春のかけら達(1978年発表/初のベスト/19位)」初収録。

◯アルバム「NSPベストセレクション2 1973〜1986(2005年発表)」収録。

オリジナル・アルバムには入っていない、幻の名曲。とても雰囲気のある曲です。

「ひとりじゃつらすぎるし、2人じゃダメになる。漁り火、海鳴り、二人の愛、いえいえ、みんな、まぼろし。」

 

⑩愛のナイフ

作詞 天野滋/作曲 細坪基佳

◯シングル(1979年発表/17th/94位)

◯アルバム「彩雲(1980年発表/10th/9位)」初収録。

◯アルバム「NSPベストセレクション 1973〜1986(2003年発表)」収録。

◯アルバム「NSPプラチナムベストBesTouch(2015年発表)」収録。

〝ふきのとう〟の細坪さんとの共作です。この曲が発表された1979年は、〝ふきのとう〟が、その音楽性の頂点を極めた傑作アルバム「人生・春・横断」がリリースされた絶頂期でもあります。

そういうわけで、この曲は、また違った魅力のある〝ふきのとう〟版もあるのですが、私としては、N.S.P的なアレンジのセンスが好きなのです。この曲には、より合っていたんじゃないかな。

「何が悲しいの? 何が寂しいの? 心、心、心を開く、愛のナイフが欲しい。」

 

⑪夕暮れ時はさびしそう

作詞作曲 天野滋

◯シングル(1974年発表/4th/11位)

◯アルバム「N.S.P.Ⅲ ひとやすみ(1974年発表/2nd/4位)」初収録。

◯アルバム「青春のかけら達(1978年発表/初のベスト/19位)」収録。

◯アルバム「NSPベストセレクション 1973〜1986(2003年発表)」収録。

◯アルバム「NSPプラチナムベストBesTouch(2015年発表)」収録。

言わずと知れたN.S.P最大のヒット曲。叙情派フォークという形容・表現(フレーズ)は、この曲によって生まれたのではないかと思います。

「こんな河原の夕暮れ時に、呼び出したりして、ごめんごめん、笑っておくれ、うふふとね、そんなにふくれちゃ嫌だよ、夕暮れ時はさびしそう、とてもひとりじゃいられない。」

 

⑫さようなら

作詞作曲 天野滋

◯シングル(1973年発表/1st/デモテープ版/46位)

◯Liveアルバム「N.S.P FIRST(1973年発表)」ライブ版収録。

◯アルバム「青春のかけら達(1978年発表/初のベスト/19位)」新規スタジオ録音(リメイク)版収録。

◯アルバム「NSPベストセレクション 1973〜1986(2003年発表)」収録。

◯アルバム「NSPプラチナムベストBesTouch(2015年発表)」収録。

デビュー曲にして、N.S.Pの代表曲。1970年代の和製フォークを代表する一曲でもあります。

「やけに真っ白な雪がふわふわ、真っ裸の木を凍えさせ、蝉の子供は土の下、あったかいんだね、ゆっくり眠る。」

歌詞がとても印象的で、初めて聴いた時は衝撃的でした。

1973年のデビュー時の音源は、ライブ録音に近いデモテープ状態でスタジオ録音された荒削りなもの。デビュー・アルバムでは、これも荒削りなライブ音源。キチンと編曲され丁寧に編集されたスタジオ録音版(リメイク1)は、1978年に初めてつくられました。

 

⑬八月の空へ翔べ

作詞 天野滋/作曲 平賀和人

◯アルバム「八月の空へ翔べ(1978年発表/8th/10位)」初収録。

◯アルバム「青春のかけら達(1978年発表/初のベスト/19位)」収録。

◯アルバム「NSPベストセレクション 1973〜1986(2003年発表)」収録。

◯アルバム「NSPプラチナムベストBesTouch(2015年発表)」収録。

N.S.Pにしては珍しい、軽快なテンポの明るい朗らかな曲です。これも平賀メロディーの佳曲。

「八月の空はどこまでも続いた青い空、自然を愛する気持ちさえ、忘れていたようだ。僕は今、あの時の君に口づけた一人の少年。」

 

⑭You Love Me

作詞作曲 天野滋

◯アルバム「天中平(1980年発表/11th/35位)」初収録。

天野さんがラジオに出演して「天中平」の宣伝をしていた時、この曲の解説で、「I Love Youじゃないのがイイんだ!」と力説していました。当時、「天中平」と同じ発売日(80年11月21日)に、オフコースのアルバム「We are」がリリースされて大ヒットし、少し遅れてシングル「I Love You」も大ヒットしたりしていたので、天野さんなりの〝負け惜しみ〟〝対抗意識〟だったような気もします。

 

⑮北斗

作詞作曲 天野滋

◯アルバム「天中平(1980年発表/11th/35位)」初収録。

暗く、重苦しいけれど、壮大な美しい曲。N.S.Pではお馴染みの夜空の星をテーマにした歌です。

ちょうど谷村新司さんの〝昴〟がリリース(1980年4月1日)された直後で、天野さんも刺激を受けたのかな。財津和夫さん(チューリップ)の「アルバトロス(1982)」とかも、〝昴〟の影響を感じるし。

 

 

アルバム「天中平」から、4曲も選んでしまいましたが、そう言えば、このアルバム名について、天野さんは、占いの「天中殺」からひねってつけたと、ラジオで言っていましたね。

N.S.Pが、まだ、それなりに人気を保っていた時期の最後のアルバムでした。

 

15曲をまとめて聴きたい場合、曲順としては⑮⑩⑤⑭⑨④⑬⑧③⑫⑦②⑪⑥①の順に聴くのがおすすめです。