「お父さんの様子が変なの。
急がないけど様子を見に来て。」



母から電話があった。






会うたびに痩せていく父。



父の背中は
こんなに小さかったけ?




ついこの間、
そう思ったばかりだった。





仕事を早く切り上げ、
実家に行って来た。





私の突然の訪問に
父は喜んでくれた。




しばし会話したけど
特におかしいところはない。







父が席をはずした時に
「別におかしくないよ?」
と母に言った。





“同じことを何度も聞くし、
さっき話したことを忘れるし、
目が虚ろでおかしかったのよ。”


と母。





でもしばらくして
父がおかしいことに私も気がついた。





このところ、
実家はリフォームばかりしている。




両親が快適に暮らせれば、
と思うので何も言わなかったが、
それにしてもやり過ぎな気がしていた。





両親の年齢を考えると
あと何年住めるだろうか?



なのに
リフォームそんなに必要か?


手摺をつけたり段差をなくしたり等の
バリアフリーなら分かるが・・・





ようやく最近落ち着いたと思ったら
今度は殆ど使ってない
2つ目のトイレを替えると言う。





いやいや、
そんなに古くないし、
使ってないし、

と思って父に言うと、



“いや、どうせなら
全部新しいのにしたい”

と譲らない父。





母はどう思ってるのかと、 
キッチンにいた母を呼び寄せると

「お父さんはああ言うけど、
私はやらなくていいと思う」
と言った。





母がリビングに来るまでに
たった数秒。





その数秒で
父の記憶が飛んでいた。





「何の話をしてるんだ?
トイレ?トイレもやるのか?」


と。






ついさっき、
やると自分で言ったじゃないか!


驚いて父の顔を見ると、
目が虚ろだった。





“あれ?
お父さんはこんな目してた?”


と違和感しかない。





戸惑う私に
母が目配せをする。





あとで父のいないところで
母と話した。




「ねっ、お父さんおかしいでしょ?
ああなったら、こちらが引いた方がいい。
“さっきこう言ったでしょ?”
とか言わない方がいい。」



そういう母の顔は
不安で一杯だった。




私が卵子提供の移植で
ワンコを預けた時は
毎日散歩に行ったり元気だったけど、

移植が終わってワンコを引き取ると
父は目に見えて寂しそうだったとのこと。





それ以降は
一人では散歩にも行かなくなり
家にいることが増えていたそうだ。




とうとうその時が来たか。



と言っても
認知が始まってたとしても
まだ初期だろう。




でも先々のことを考えて
備えていかなければな、と思った。