安楽死させるにあたっても1万円くらいお金がかかること。


そんなことをただ黙々と話続ける獣医師。

胸のバッチには『獣医師 鬼頭』と書かれていて、
私は
これは悪夢で、今私は、この目の前の鬼にいたぶらるているんだと、頭の中で考えていました。
これは現実なんかじゃない。絶対に。


『お金は必ず用意します。安楽死は絶対に考えていません。どうかどうか、助けてやって下さい。』



私はいつの間にか泣き崩れていました。


4日前にはドッグランで元気に走り回っていたんです。

あと2週間で3歳の誕生日を迎えるんです。


バカみたいにしゃべり続けました。

キューピーが死ぬはずなんてない…

そんな無意味で無価値な自信だけが私をなんとか平常心へと戻し、まずは資金の調達をしなければと、急いで家に帰りました。


そして帰ってすぐにパソコンでパグ脳炎を調べ、絶句。頭の中が真っ白になりました。


症状も経過も全て酷似していること。
原因不明の病気であること。
そして発病してから2日~1ヶ月で予後不良(100%死ぬ病気)であること。

発病してから死ぬまでもがき苦しみ、最悪な末路をたどること。

安楽死を選ぶ飼い主が多いこと、など…

そこには想像もしていなかった絶望が長々と書かれていました。


キューピーが本当に死ぬかもしれない…


もしパグ脳炎が発病していれば、今日で4日目…

私はそんな子を経過観察と言う名の冷たい牢獄に閉じ込めてきてしまったことに気付き、
カバンも持たず、病院へ走ったのを覚えています。

『私がそばにいてあげなきゃ』


どうしよう…
どうしよう…
どうしよう…


パニックの中、病院に到着し、
『3日後のCTは予約します。
でも今すぐこの子を連れて帰ります。』

と受付に話すと、2日間の入院費用と治療費約5万円の請求をされ、財布も持たずに家を出てきてしまったことにその時に気がつきました。


『今お会計できなければ、わんちゃんをお渡しすることはできません』

ときっぱり受付の女性に言われ、その言葉の意味が理解できず、
狂っているのは、この人なのか、もしかして私なのか?

いつ死んでもおかしくないこの子を目の前にして、今すぐお金をおろしてこいと言う女性の顔が悪魔のように見えました。

必死で時間がないんです。

お願いします。

お金ならあとで必ず払いますから。