さて続きです。
激甘系ギュイェに突入し始めるんでカモーン!って方だけどぞ。
【Time to fall in love6】
「………っ…」
左足を押さえたまま蹲って動かなくなったイェソンに最初に駆け寄ったのはソンミンだった。
ダンスレッスン中に突然蹲ったイェソンは左足を捻ったらしい。しかも結構酷く捻ったようで、肩を抱くソンミンへと体を預けたまま浅く呼吸をしていた。
「大丈夫?ヒョン…」
心配そうに顔を覗き込んだソンミンへと軽く頭を縦に振るものの、声を出す事さえ出来ない状態にその場にいた全員が大丈夫では無いだろうと認識する。
「ジョンウナ、手…どかして?」
イェソンの足元へとしゃがみ込んだイトゥクは半ば強引に手を退かさせて、ズボンの裾を捲り上げた。現れた足首、ソコは捻ったばかりだというのに普段の倍は膨れあがっていて、想像以上に酷い状態だという事が傍目にも判る。
「………結構酷いね…」
そう言ったイトゥクの言葉にイェソンはやっと顔を上げた。その顔は蒼白していて痛みで脂汗が滲んでいる。それでもイェソンは首を横に振って大丈夫。それだけ言って立ち上がろうとした体をソンミンが制した。
「ダメだよヒョン!酷くなりたいの!?」
骨折はしていなさそうだがかなり酷く捻っている。それを無理矢理動かしたらもっと酷くなるのは明白だ。
そんなソンミンの普段は聞かない強い口調に、イェソンは俯いてしまった。
「ソンミナ…今日は上がっていいから、そのままジョンウナを病院に連れて行ってもらってもイイかな?」
「直ぐに行ってくるよ。」
イトゥクに言われなくてもそうしようと既に決めていたソンミンはニッコリ微笑んで、イェソンの膝裏へと腕を入れて振動を与えないようにとユックリ体を持ち上げた。想像以上に軽い体重に驚くソンミンへとイェソンが泣きそうな瞳を向けてくる。
「……ゴメンな…」
ポツリと呟かれた言葉にソンミンは優しく微笑みかけた。
「何言ってんの。てかもっと体重増やしなよ、ヒョン軽すぎ。」
そうやって笑ってくれるソンミンへと泣きそうな笑顔を向けて、その肩口へと顔を埋めた。その小さな手がソンミンの服を掴んで震えているのを、キュヒョンは遠巻きに黙って見つめていた。
「全治三週間って所だって。」
そんな報告を受けたのは、帰宅した宿舎の中での事。それも軽く見ての診断であって、本当は一ヶ月と言いたい所だと言われたらしい。だが自分達の仕事に一ヶ月なんて拷問でしかない。痛み止めを打って動けるようにしたとして、本当に痛みが引くのは一ヶ月以上掛かるだろう。そう言われたとソンミンは心配そうにイェソンの居るだろう寝室へと目を向けた。
「で、ヒョンはどーしてるの?」
リョウクも心配なのだろう。縋るようにソンミンへと聞いている。
「黙ったまま部屋に閉じこもってる…」
今レッスンしているのは新曲のダンス。まだまだ先の話ではあるが、メインで歌うイェソンにとってはレッスンが出来ない期間はかなりの打撃だ。
しかもダンスが余り得意ではないイェソンは人一倍努力をしている事もメンバーは知っている。それだけに練習期間が短くなる事に余計にショックを受けているのだろう。
「まだ時間はあるんだから気にしなくていいのに…」
そんな風にメンバーが思っても、きっと彼は今回の自身で負ってしまった怪我を許せないままだろう。それ程にダンスの重要性も判っているから仕方の無い事ではあるが。
「取り敢えず腫れが酷いから今日は熱も出るだろうって。だから何か消化のイイ物食べさせてやれって言われてるんだけど…」
それにはリョウクは一つ返事で腕まくりをしてニッコリと微笑んだ。
「任せて!リョウギ特製卵粥作るからっ」
そう言ってキッチンへと行こうとしたリョウクへと、それまで黙っていたキュヒョンが久しく口を開いた。
「……リョウギ。ちょっと、頼みたい事があるんだ…」
扉をノックしても返事が無い。それを気にするでもなく部屋へと入ったキュヒョンは、その部屋の持ち主の元へと迷わず足を進めた。病院で睡眠作用のある鎮痛剤も打ったらしい、その薬が効いているのだろう。静かに寝息を立てたまま布団も掛けずにベットへと俯せに横たわるイェソンの顔を覗き込む。その頬には涙の跡があった。
「………一人で泣いてたんですか…?」
濡れた頬をソッと撫でる。思った通り怪我をした事で自分自身に悔しさを感じていたのだろう。それを誰にも見せたくなくて、だからといって一人で泣いていたなんて…女性のように滑らかな頬を労わるように撫でてやって。そうしている内にイェソンの閉じた瞼が震えたのに気付いた。そのままその瞳がユックリと開くのを黙って見つめていたキュヒョンを虚ろな瞳が捉える。薬で意識が朦朧としているようだった。
「……キュ、ヒョナ……?」
何で此処に居るのだろう?そんな瞳で見つめてくるから、キュヒョンはその瞳へと優しく微笑みながらイェソンの頬をまた撫でてやった。
「目、覚めそうですか?」
優しく撫でてくれる感触を暫く気持ち良さそうに受けている内にイェソンはやっと覚醒したらしい。体は動かさないままキュヒョンをジッと見つめてくる。その瞳を見てまたキュヒョンは自分の心臓が煩くなるのを感じた。そんな風に見つめないで欲しい。今のイェソンは普段以上に弱々しくて抱き締めてしまいそうになるじゃないか。
「リョウギが卵粥作ってくれたんです。食べれそうですか?」
自分の気持ちを無視する為に、サイドテーブルへと置いておいた卵粥へと目を向けて聞くと、暫く考えた後でイェソンは小さく頷いた。それを見たキュヒョンは優しく微笑んでイェソンの体へと腕を伸ばした。
「………美味しい。」
リョウクの作った卵粥を一口食べてそんな感想を述べる。だけど、二口目を中々口に入れないイェソンに困ったようにキュヒョンはその顔を覗き込んだ。
「食べないとリョウギが泣きますよ?」
その言葉を聞いても動かないイェソンの手。その手からスプーンを取り上げて、粥を掬いあげる。そのままイェソンの口元へとソレを近付けた。
「ほら。食べないと薬、飲めないでしょう?」
そんなキュヒョンの行動に苦笑してイェソンはやっと口を開いた。イェソンの小さめの口に入る位の量を掬って粥を運ぶ。そんな動作を何度か繰り返して、半分食べたか食べないかで今度こそイェソンは首を横に振って食べる事を止めてしまった。元々食べる量の少ないイェソン。先程触った頬が熱かったから熱があるのだと判ってはいたが。やはりその熱で食欲が減退しているのだろう。
「じゃあ薬、飲みましょうね。」
イェソンにしては良く食べた方だとキュヒョンは素直に食べさせる事を止めてイェソンへと薬を渡した。
「……何でキュヒョナが居んの?」
熱でボゥっとし始めたイェソンの体を横たえてやって、布団を掛けていたキュヒョンへと向けられた言葉。それは至極当然の事で本来ここはイェソンとリョウクの部屋だ。リョウクが看病するならまだしも、何でキュヒョンなのかとイェソンは疑問に思ったらしい。
それに苦笑顔で答えた。
「だって……辛いでしょう?」
だから今日はリョウクに言って部屋を交換してもらったんだと。そんな事を言うキュヒョンに、イェソンは目を見張った。
イェソンは普段皆に甘えるフリをする。それはあくまでフリであって、本当に甘える事はしない。それは同室であるリョウクにも同様だった。それをキュヒョンは見抜いていたのだ。見抜いていたから、敢えて自分が来たのだと告げられる。
「…泣きたいんでしょう……?」
ソッと目元を撫でられて、イェソンは溢れそうになる涙を耐えるのに必死だった。近頃優しく甘えさせてくれるキュヒョンにだけ、本当に甘えている自分がいた事にこの時初めて気付く。
「泣いて、いいんですよ……」
そうやって寝ていた体を優しく抱きしめられるから、耐えていた瞳から涙が溢れ落ちた。それを合図にどんどんと落ちてくる涙を止められなくなって。気付いたらイェソンはキュヒョンの胸元へと顔を埋めて声を殺したまま泣いていた。
「……俺、ダンス…下手、なのに……」
「………ええ…」
「…足でまとい…なりたく、ない…のに……っ」
「そんな訳、ないでしょう?」
「皆に、迷惑……かけっ」
「迷惑だなんて、思いませんよ…」
言いかけた言葉を遮って強く抱きしめてくる体に、イェソンは今度こそ声を抑えないまま泣いた。自分の気持ちを汲み取って泣かせてくれるキュヒョンの優しさ。それに感情のまま身を寄せてきたイェソンを、キュヒョンは泣き止むまで優しく抱き締め続けた。
ポンポンと背中を叩いてくれる手に久しく涙の止まったイェソンは、シゲシゲとキュヒョンの顔を見上げる。そこにはやっぱり優しく微笑んでいる顔があって。
「………今日はずっとココに…居るのか……?」
キュッと自分の胸元の服を握る小さな手に目をやる。泣いて大分スッキリはしたんだろうが、それでもこれから先の事を考えて不安になってしまうんだろう。その事が手に取るように判って、キュヒョンはクスリと笑んでその手を握る。その優しい感触にイェソンはその手へと自然と指を絡ませていた。
「こうやって、縋るのを僕だけにしてくれるなら……」
そうやって指へと唇が落ちてくるのを不思議な気持ちで受け止める。
「……俺、誰にも縋って、ない。」
そんなイェソンの額へと唇を寄せて、今度は苦笑を見せるキュヒョンがいた。
「ミニヒョンに、縋ってましたけど?」
それはキュヒョンの嫉妬。イェソンが怪我をしたあの時、ソンミンが彼を抱き締めた。それに酷く嫉妬していたキュヒョン。それだけでも嫌だったのに、そのソンミンの服を掴んで肩口へと顔を埋めたイェソンを見て。怪我をしていた彼よりも、その行動の方にしか目を向ける事が出来なかった。
それ程に自分はイェソンの事を好きらしい。
だから……
「甘えるなら、僕だけにして下さい……」
そうやって、瞳へと降りてきた唇を受け止めながら、イェソンは不思議そうにキュヒョンを見上げている。
「……俺は、お前にしか…甘えて、ない。」
なのに何でそんな事を言うのか。そうやって当たり前のように言われた言葉にキュヒョンは泣き腫らした瞳を見つめた。
何でこの人はこうやって簡単にそんな事を言うのだろう?
自分にしか甘えてないだなんて、勘違いしてしまうじゃないか…
そんな気持ちのまま、目の前の唇へと指を触れさせる。
「……じゃあ、甘えさせてあげますから…ご褒美、くれますか…?」
唇をなぞる指を黙って受け入れていたイェソンは、その言葉に小首を傾げる。その瞳は先程よりも虚ろなものになっていた。
飲んだ薬が効いてきたのだろう。睡眠を誘う作用があるようだ。
「……ご褒美…っ………て?」
優しい指の感触に余計に眠気が誘われる。
呂律の回らなくなり始めたイェソンの額に自分の額を寄せて。
「キス………して下さい…」
その言葉を認識するのに、少しの時間を要したらしい。
イェソンは僅かに瞳を見開いてから、力の入らない手をどうにか動かしてキュヒョンの唇をソッと触った。
「……俺…男、だけど……?」
思考が回らなくてもソコは判るらしい。当たり前の疑問に笑って。
「知ってますけど?」
そんなふうに言えば、今にも閉じそうな瞳を一生懸命開けて。
「………ソレで、イイ……なら…」
もう既に何を求められているのか判っていないんじゃないか。そんなイェソンをジッと見つめるキュヒョンの頬を小さな手が包み込む。そのままイェソンの顔が近付いてきて。
チュッ。軽く触れた唇……
直ぐに離れたその唇から、意外な言葉が漏れた。
「…………何か…知ってる、気……する……」
そのまま動かなくなってしまった体にキュヒョンは抱きしめていた体を少し離して、ジッとその顔を見つめる。イェソンは呟きと同時に意識を手放してしまったらしい。
もしかしたら、今の記憶も無いかもしれない。例えあったとしても、夢と感違いするかもしれないなと苦笑して。
それでもイェソンからキスをしてくれたという事実だけでキュヒョンの心は満たされた。ソンミンへと甘えを見せたあの姿に嫉妬した自分。
その気持ちを抑えられずにリョウクへと今日だけでも部屋を変えて欲しいと申し出た自分の子供地味た嫉妬に嫌気がさすけれど。
今日のこの時を忘れない。そう思うキュヒョンだった。
※ミン君に嫉妬して暴走しちゃったギュ。
弱音を吐いちゃう兄さん愛おしい…←
二回目のチューしちゃった二人だけど一回目は全く覚えて無かった兄さん。二度目は覚えてたとしてもご褒美だからって何ら気にし無さそうだなぁとか思うんだよね(笑)
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