来未が追突されたことで、拓海も多少動揺していた。


しかし、この場をなんとか乗り切るため、頭をフル回転させる。


仕事上、職員が事故を起こしたときの処理を担当していたこともあって、自分一人で処理できると考えていた。


拓海は事故処理のことで来未の叔父さんと電話していた。



叔父 「相手の住所、氏名、電話番号それから任意保険の会社名を聞いて。 ナンバーも控えて!」


拓海 「はい、了解しました。」



叔父さんの言っていたことはもう全てやっていた。


ただ、相手が任意保険に掛けているか分からないと言っていた。


車検証入れに入っている保険の領収書を見せに来て、ここの保険だと言っていた。


相手も動揺しているのか、どうやら任意保険と自賠責の違いが分からないらしく、拓海はそれを一蹴した。


雨は大降りになっていた。


警察が来るまで車の中にいた方がいいと思い、相手の運転手にもそう伝えた。


相手の運転手は怯えからか寒さからか、顎がガクガク鳴っていた。


だが、警察が来るまで待っていると言って、傘も差さずにその場を動かなかった。


なんだかその青年が少し可哀想に思えた。


中までびしょ濡れになったラシーンを横目に見ながら自分の車に戻り来未の顔色を窺った。


やがて警察が到着し、事情聴取が始まった。


その頃には、もう雨は小降りになっていた。


来未は親に怒られるのを恐がっていた。


友達の家に行くと嘘を言っていた来未。


事故を起こした場所は、その友達の家の方向とは逆だった。


親に電話をする来未は先程よりも少し落ち着いていた。


拓海が電話を替わることはなかったが、両親はどうやら来ないようだった。


その方が拓海にとってもやりやすかったし、もう警察も来ているのでそんなに時間はかからないと思った。





その後、暫くすると来未の叔父さんがやってきた。


まさか来るとも思わなかったし、来ても意味がないように思えた。


ただ、来未にとっては信頼できる叔父さんが来てくれて安心したかもしれない。


叔父さんは相手の運転手に掴みかかる勢いで何やら言っていた。


あの恐い顔で言われたら誰でも何も言えなくなる。


追突してしまった相手の叔父さんが保険会社の人で、恐い顔の持ち主だったことは不運だった。


さらに、叔父さんが用意したのか警察が連絡したのか分からないがセーフティーローダーが到着した。


ラシーンがローダーに引き上げられて載せられた。


ラシーンが修理工場に去ってから、間もなく来未の両親がやってきた。


拓海は、これにも驚いた。


来ないと言っていたのに娘を引き取りに来たらしい。


警察ももう引き上げていたので、両親は来未を取り上げるように連れて帰っていった。


来未の叔父さんもその後すぐに帰ったが、来未の両親まで来たのには驚いていた様子だった。



叔父 「兄さんたちまで呼んだのか? 兄さんたちにも迷惑をかけて・・・」



叔父さんからすれば、来未の父親は義理の兄にあたる。


別に両親を呼んだ覚えはない。


逆に来て欲しくなんかなかった。


もしかしたら、来未が呼んだのかも知れなかったが、もうどうでもいいことだった。


その場には、もう来未も両親もいなかった。





加害者の青年と拓海だけがその場に残された。


来未は念のため病院に行くと言っていたが、どうするかと拓海は青年に聞いた。


一緒に行くと言ったので、自分の車の後をついてくるように拓海は言った。


来未が行くと言っていた病院には誰もいなかった。


来未に電話をすると休日のため医師がいなかったので、違う病院に行ったとのこと。


その病院に向かった拓海と加害者の青年。


だが、バックミラーに写った青年の車は怪しい動きをしていた。


明らかに車速が遅くなり、拓海を撒こうとしていた。


拓海もわざとゆっくり運転したが、突然青年が脇道に入ったのでそれ以上は無視することにした。


拓海は来未に経緯を電話し、もう自分も来ないことを告げた。


そして、飲み会に誘った友達にも来れない連絡をし、1人家路についた。





翌日、来未に連絡した拓海。


来未の実家に出向き、両親に謝ろうと思っていた。


もうすぐ、両親と家を出てご飯を食べに行くと言っていたが、少し待ってもらうことにした。


いつも使わない高速道路を急いで来未の家に向かった。


まず、来未の母親が出てきた。


明らかに怪訝そうな顔で迎えられた。


“ご飯は食べないで帰るんでしょう” と言われた。


次に父親が現れたが、拓海は早く話を済ませて帰ろうと思った。


来未の父親は表情を顔に出さずに応対した。



拓海 「昨日のことはすみませんでした。」


父親 「・・・いや、来未も側に拓海くんがいてくれて安心したでしょう。」



その父親の一言に救われた気がした。


少し安心して、早々に立ち去った拓海。


この事故の影響で来未の体調が次第に悪くなり、2人の関係も悪くなっていた。。。