一生に一度、本当に愛する人に告げる言葉。


男にとって、それは告白するときよりも緊張し、考えさせられる言葉である。


その言葉を発すること、それは生涯を懸けて添い遂げ、命の限り幸せにするという意味が込められている。


たとえその言葉を女性が絶対に受け入れてくれると分かっていても、その答えを聞くまでは不安になるわけで、


一世一代のプロポーズが断られたら、男はおそらく立ち直れないだろう。


そのため拓海も朝から仕事に熱が入らなかった。


年が明け、この日は来未の誕生日。


金曜日だったので、もちろん仕事はあるが拓海は市内の高級ホテルを予約していた。


仕事が終わり、来未と2人でホテルに向かった。


普段こんな高級なホテルには泊まったことはない。


拓海は1ヵ月前にこのホテルのスーペリアルームを予約していたが、そのことを来未に言っていなかった。


来未は自分の誕生日を拓海が祝ってくれるということ以外、どこに行くのかも知らされていなかった。



来未 「ねぇ、どこに行くの?」


拓海 「市内。」


来未 「それは分かってるけど・・・。 あたしは別に近場でご飯を済ませてもいいよ。」



だんだんホテルが近づいてくるに連れて、来未は何となく目的地が分かりだしていた。



来未 「ひょとして、あのホテルに行くの?」


拓海 「そうだよ。」


来未 「うそ~。 あそこのレストランおいしいよね。」


拓海 「一応宿泊予約もしてるんだけど。」


来未 「えっ? 泊まるの? あたしまだ泊まったことない。 高かったんじゃない?」


拓海 「まぁ、それなりに・・・」


来未 「ありがとう、すごい嬉しい!」



そんな会話をしているうちにホテルに着いた2人。


チェックインして、予約した部屋に通された。


部屋に入ってから来未は興奮しっぱなしだった。


あまり時間もなかったので部屋の探索は後回しにして、2人は最上階のレストランで食事をとった。


高そうなコース料理を注文し、スパークリングワインを開ける拓海。


窓際のテーブルからの眺めは、色鮮やかに揺れる夜景が最高だった。


お腹一杯になるまで料理とワインを楽しんだ2人は、部屋に戻り思いのままにくつろいだ。


先にお風呂に入った拓海は、窓の外を見ている来未にも入ってくるように促した。


来未がお風呂に入っている間、拓海は準備に取りかかった。


といっても、鞄の中から指輪のケースを取りだし、見えないところに置くだけ。


一緒に入っていた鑑定書なども鞄から取り出しておいた。





お風呂からあがって、再びソファーから夜景を眺める来未。


指輪ケースを手に、拓海は背後から近づいていった。


後ろから大きく腕を回して来未を抱きしめた。


前に回されたその手にはもちろんケースを握っている。


来未はそのケースに気付き、息をのんだ。



来未 「えっ!?」



振り返って息をのむ来未。



拓海 「乗り越えないといけない壁もあるけど、必ず幸せにするから。 結婚しよう、来未。」


来未 「・・・ ・・・ ・・・」



来未の目からは大粒の涙が溢れていた。


何も言わずに、ただただ泣いた。


こんな風に泣く来未の姿はあまり見たことがない。



来未 「・・・ ・・・ ・・・」


拓海 「ほら、どうしたの?」


来未 「だって・・・」



拓海は来未の涙を拭きながら頬に軽くキスした。


それでも、後から後から溢れてくる涙。


結局、来未は何も答えなかったが、その涙が拓海のプロポーズを受け入れた証だった。。。