来未の父親は、来未の家に養子に入っていた。


結婚したときは、母親が嫁に行ったのだが、来未が生まれる前に養子縁組をしていた。


どういう経緯でそのようになったか詳細は分からないが、来未の名字が変わるのを嫌がったためだった。


では、何故最初から養子縁組しないのか?


それは、来未の父親の実家の問題があったらしい。


事実、来未の父親は親兄弟や親戚と縁を切っている。


自分の育った家を捨てて、養子に行ったのだった。


来未の母親は3人姉妹の長女だ。


次女と三女は既に嫁に行っているため、家を継ぐ者は来未の両親と来未自身しかいない。


昔から商売をしていて、その家を継ぐために来未の父親は養子に入った。


主に米と農薬を取り扱っている会社で、会社といっても見た目は個人経営の商店のような感じだった。


米の取扱量は思ったよりも多いが、需要が伸びないこのご時世では今後の経営の不安材料が山積みだった。





拓海の父親は、以前来未の家の会社と少しだけ仕事をしていたことがあった。


取引先のような間柄であり、農業のことについては拓海の父親も同じように知識を持っていた。


そのため、拓海の結婚を反対もした。


養子に来なくてもいいと言いながら、養子の話を持ち出してくる来未の父親。


最初は来未を嫁にもらっても、来未の父親と同じように養子縁組をさせられるのではないか。


拓海は自分の親兄弟と縁を切らされることになるのではないか。


そして、会社を辞めさせられて、先行き不透明な合名会社を継がされるのではないか。


合名会社の倒産は悲惨である。


その時は、全ての責任を拓海が負わされるのではないか。


ここまで来ると拓海の父親も悪い方にしか考えられなくなっていた。





少し前に拓海は友達と飲む機会があり、“合名会社”とは何なのか教えてもらったことがある。


株式会社や有限会社はよく聞くが、合名会社ってのはあまり聞かない名前だった。


“合名会社” は、無限責任社員のみが出資している会社のことである。


“無限責任” とは、会社の債務を会社財産で完済できない場合に自己財産を弁済に充てる責任。


つまり、もし会社が倒産した場合、株式会社などは株主が株式購入金額を失うがそれ以上の損失はない。


合名会社の場合は、会社の負債額を自分の財産で返済しなければならない責任を負う。


その反面、会社に対する住民の信頼が厚く、地域に深く根付くことができる。


文字通り、負うべき“責任”に限度が有るのか、限り無く“責任”を負わなければならないのかの違いである。


そんな会社を来未の父親が経営している。


もし、来未と結婚して、養子に入って、会社を運営することになったら・・・


そんなことは、今は全く考えられない拓海。


これから先も出来れば考えたくないことだった。。。