いつの頃から、拓海は来未の父親を信用できなくなってきた。


結婚の話が出て少ししてから、不意に来未の父親は言ってきた。



父親 「少しはお金を貯めているのか?」


拓海 「えっ? はい。 一応貯金をしています。」



拓海はすぐに結納金の事だと思って、“100万円程度はあります。” と言おうとした。



父親 「今の相場は知らないが、私は200万円だったよ。」


拓海 「・・・結納金がですか?」


父親 「ああ、そのくらいは貯めないと。」


拓海 「・・・・・・」



今から3年前、この頃のこの地方の結納金の相場がおおよそ100万円だった。


来未の父親が結婚したのは、30年近くも前だろう。


その当時のお金で200万円といえば、かなり相当な金額になる。


しかも、父親の口振りは、“ウチの娘を嫁にもらうにはそのくらいするよ。” と言わんばかりだ。


拓海もさすがに唖然として、それ以上言葉にならなかった。





拓海は、この件でどうも腑に落ちないことがあった。


来未の父親は養子に入っている。


最初は母親が嫁に来て、後から養子縁組をしたという話だったが、養子の話は最初からあったはず。


結婚するときは恐らく父親の実家の反対があり、すんなり養子には行けなかった。


来未がお腹にいる頃、戸籍を移して名字を変えた。


これは、来未の戸籍を汚さないため、来未の名字を変えないためだった。


実の親と縁を切って、来未の家に入った。


結納金200万を持って。


普通、養子にもらうときは、女性を嫁にもらうよりも数倍の結納金が必要になる。


本来、来未の母親の方が父親の家に結納金を支払うべきだが、同時に縁を切ったためそれはなかっただろう。


恐らく様々な事情があり、第三者がそれを図り知ることは出来ない。


しかし拓海の考えでは、来未の父親が払った結納金200万円は、結局自分たちのものになっていた。


嫁にもらうと思わせて結納金を差し出し、そのお金を追うように自分も来未の家に入っていった。


極端に言えば、結納金自体払っていないのと同じである。


それなのに拓海に対して、俺は200万円貯めただの、お前は持っているのかだのと言ってくる。


後からよく考えればおかしな話である。


事実はどうなのか知らない。


あくまでも拓海の推測である。


ただこの頃から来未の父親を信用できなくなり、怒りを覚え始めていたのは事実だった。。。