2004年の7月、拓海は仕事の都合で忙しい日々を送っていた。


毎日夜遅くまで残業し、土日も休みがなかった。


そんな拓海に追い打ちをかけるような言葉が発せられた。


それは来未の父親の言葉だった。



来未 「なんか、時間があったら一緒に食事をしたいって言ってたよ。」


拓海 「…時間ない。」


来未 「……。」


拓海 「ってか、どういうこと? オレが今忙しいのよく分かってるでしょ。 8月以降じゃダメなの?」


来未 「うちの親が7月しか都合がつかないって。」


拓海 「そんなこと言っても、オレも忙しいんだけど。」



拓海はイライラしていた。


拓海が忙しいのを一番よく分かっている来未だったが、親の仕事の都合も分かっていた。



拓海 「で、どういう意味で食事会をするって? そこで結婚を決めるってこと?」


来未 「わかんない。」


拓海 「何も聞いてないの?」


来未 「…別に。」



拓海はガッカリした。


自分たちの結婚のことなのに、他人事のように関心がないみたいだ。


確かに父親のことが嫌いで、話すのもイヤだというのは知っているが、大事なことは聞いてほしかった。


この食事会で、婚約まではいかないにしろ、何かしらの進展があるはずだった。





拓海の父親はこの食事会に否定的だった。


元々、拓海と来未の結婚を良く思っていない。


来未のことが気に入らないのではなく、来未の父親のことが信用できないのだった。


この食事会にも絶対に行かないと言っていた。


"ただの食事会だから…" という拓海の説得もあり、なんとか出席させることに成功した。


そして、拓海も毎日更に遅くまで残業し、仕事の都合をなんとかつけることができた。


そんなとき、来未がある提案をしてきた。



来未 「仕事が忙しかったら、親だけでいいって言ってたよ。」


拓海 「はぁ? どういう意味?」


来未 「休めないんでしょ。 仕事。」


拓海 「忙しいけど、オレがいなくて済む問題なの?」


来未 「さぁ? 知らない。」



拓海の中で、静かに何かが切れる音がした。



拓海 「知らないって、聞けよ! オレ達の問題でしょ。 結婚する気あるの?」


来未 「単なる食事会なんじゃないの? あたしに聞かないでよ!」



来未の態度に拓海は頭にきていた。


お互いの家同士がうまくいっていない今、このような食事会は歓迎すべきことだったが、


拓海がいない食事会など、何の意味があるのか理解できなかった。


単なる食事会でも、2人の結婚に関する話題になるのは分かりきっている。


拓海が出席しなければ、拓海の両親も行かないだろう。


そうなれば、もう両家の食事会ではなくなる。


拓海は何よりも、来未の態度が気に入らなかった。


もう、結婚なんてどうでもいいのだろうか?


2人が協力して両家の意志の疎通を図らなければ、とうてい結婚などできないはずなのに、


2人の間には少しずつヒビが入っていった。。。