次の日の夜。
来未は泣いていた。
泣きながら携帯を片手にメールの文章を考えていた。
メールを打ち始めて、もう2時間以上も経つ。
別れの言葉を思い出すたびに、付き合っていた4年半の間の楽しい思い出も一緒に蘇っていた。
恐らく、直接会って話しても言葉にならない気がした。
泣く来未を拓海がなだめて、有耶無耶のうちに付き合い続けてしまいそうだった。
そのため、今回ばかりは決意が固い来未は、会って別れを告げずにメールで別れようとしていた。
“あたし”と結婚がしたいの? それとも、ただ“結婚”をしたいの?
長く付き合いすぎて、自分の気持ちが分からなくなった。
“1回別れてみたら?” と颯太に言われたのがキッカケで、別れを考えたこと。
嫌いになって別れるわけじゃない。
今までいろいろとありがとう。
そのようなことを長々と綴った。
ただ、本当の理由だけは書けなかった。
颯太と密かに逢って、昔の関係に戻っていること。
やっぱり、颯太のことが大好きなこと。
それを書けば、浮気していることを証明することになる。
1回のメールには収まりきれなかったため、4回に分けて一斉に送信することにした。
涙を流し続けながら、長い間続いた2人の関係に幕を下ろす送信ボタンを静かに押した。
8月初旬の真夜中。
拓海の携帯がメールを受信した。
来未からの無題メールが4通。
何が起きたのか分からないまま、そのメールをしばらく読んでいる拓海。
それから、何度か来未とメールのやり取りをしたが、結果は変わらなかった。
こっちこそ、彼氏らしいことをしてやれなくてゴメンね。
颯太と来未は気が合うから、うまくいくと思うよ。
オレのことは早く忘れて、颯太のことを好きになってあげてね。
今まで本当にありがとう。
拓海は、自分たちが別れる原因が颯太にも少なからずあることを知っていた。
ただ、来未のメールの中で、1つだけ気にくわないことがあった。
“良い方にいくにしても、悪い方にいくにしても、1回別れてみたら?” と颯太に言われたということ。
それが理由で別れたのなら、他人によって関係を壊された感じになるのが嫌だった。
それで、颯太が来未と付き合おうとしているつもりなら、少しは理解が出来る。
しかし、颯太の八方美人の性格からしてそれはまずないだろう。
もちろん、そんなことは来未に言えないが、彼女も少しは分かっているはずだった。
拓海は、昔の颯太と来未の関係を知っているため、今後も友達以上の関係に戻ると思っていた。
ただ、もう既に戻っていることは、この時点では知らなかった。
拓海がメールを受信して少しした頃。
颯太の携帯が鳴った。
メールではなく、通話だった。
来未 「今、メールした。」
颯太 「えっ? 誰に?」
来未 「拓海。 別れたよ。」
颯太 「えっっ! うそ? 本当に?」
来未 「……。」
颯太 「本当なの? 拓海に電話して聞いてみてもいい?」
来未 「…すれば?」
颯太 「冗談だって。 へぇ~、本当に別れたんだ。」
颯太は、意外とあっけない別れにビックリしていた。
来未が別れるとは思っていなかったのだ。
数日前に誕生日を迎えていた拓海。
来未と付き合って、初めて1人で迎えた誕生日だった。
予想どおりに寂しい誕生日だったのを覚えている。
でも、今回の別れは予想していなかっただけに、4年半の寂しさが一挙に押し寄せてきた感じだった。。。