仕事納めの飲み会が終わり、しばらくして帰ろうとした頃。


違う課の男性の同僚が女子トイレから出てきた。



同僚 「ねぇ、来未がトイレでダウンしているんだけど、あとお願いね。」


拓海 「は? オレ関係ないんだけど。」


同僚 「元カノでしょ。 トイレに鍵かけて立てこもってて出てこないんだって。」


拓海 「オレだって、もう帰るところなんだけど・…。」



女子トイレから出てきた同僚は、拓海の言葉を最後まで聞かずに去っていった。


先程、飲み過ぎていた来未を思い出して、どうしようもなく女子トイレに入る拓海。


1つだけ扉が閉じられている個室があった。


扉を軽く叩く拓海。



拓海 「お~い。 大丈夫か?」


来未 「………。」


拓海 「とりあえず、ココ開けてくれない?」



夜も遅かったため、他の誰かが来る様子もなかった。


ジャ~、と水の流れる音がして、扉が開いた。


見ただけで、かなり酔っぱらっているのが分かった。


恐らく、多少吐いたのだろう。



拓海 「今日は、たくさん飲んでたね。 大丈夫?」


来未 「……。」



来未の背中をさすりながら介抱する拓海。


背中とはいえ、別れてから来未に触れるのは初めてだった。


こんなに近づいたのも、2人きりになったのも初めてだった。


来未は隣にいるのが自分だと分かっているのだろうか?


酔っぱらって、そんな余裕はないのかもしれない。


かなり苦しそうな来未を見ながら、背中をさする拓海。


思わず抱きしめたくなる衝動を必死で押さえていたが、つい優しい言葉がこぼれてしまった。



拓海 「もう。 今日だけは、来未の彼氏でいいよ。 面倒見るから。」


来未 「…………。」



突然、顔を上げた来未。


さっと来未の顔が迫ってきて、拓海の唇にキスをした。



拓海 「……。」



突然のことにビックリする拓海。


来未は拓海の胸に頭をあずけて、拓海の腰に手を回していた。





それから、来未が回復するのを待って、拓海は家まで送って行った。


ほとんどまっすぐに歩けない来未を支えながら。


久しぶりに入る来未の家に少し戸惑う拓海。


布団に寝かせようとするが、リビングで座り込んでしまう来未。


拓海は早く帰りたかった。


次の日に予定があるため、早く帰って寝たかったのだが思うようにいかない。


酔っぱらっている来未をほっとけなくて、余計な一言を発する拓海。



拓海 「もう、大丈夫? ちゃんと布団に寝れる?」


来未 「………。」


拓海 「…もうオレ帰るよ。 じゃあね。」


来未 「……帰っちゃ…ヤダ。」


拓海 「じゃあ…。 今晩、一緒にいてあげようか?」


来未 「……う…ん。」



拓海は少し後悔したが、少し嬉しかった。


早く寝たいという気持ちと、ほっとけないという気持ちが入り混じった。


昔なら来未の家で風呂に入っていた拓海だったが、今は着替えも何もない。



拓海 「じゃあ、少し待っててね。 家に帰って風呂入ってくるから。」


来未 「…うん。」





拓海が急いで家に帰り、風呂に入って来未の家に行った頃には、既に来未も風呂に入っていた。


髪が濡れた状態で、リビングの床に座り込んでいるのは同じだった。



拓海 「布団…、別々がいいよね。 もう一つ敷こうか?」


来未 「いいよ。 ないから。」


拓海 「一緒でいいの?」


来未 「……ん。」



来未を連れて、一緒の布団に入る拓海。


別れる前は別々の布団で寝ていた2人。


別れて初めて一夜を過ごしたこの日は、一緒の布団だった。


こんな状況で、男が何もしないわけがない。


来未も少しは分かっているはずだった。


拓海は必死で余計な感情を抑えた。


付き合っているとき、何度も来未に拒否されたことを思い出す。


もしここで手を出せば、何もかもが終わってしまいそうだった。


拓海は、布団の中で来未の後ろからギュッと抱きしめるだけしか出来なかった。


朝まで熟睡できることなく、過ごした拓海だった。





来未は、心が満たされていた。


お風呂に入ったあとは気分も少し良くなって、拓海と色々な話をした。


こんなに酔っぱらった自分を大切にしてくれて、一晩一緒にいてくれた拓海。


何だか本当に嬉しかった。


拓海に後ろから抱かれていると本当に落ち着く。


昔の感覚が呼び起こされ、そのまま優しい拓海の腕の中で眠りについた来未だった。。。