ある金曜日の夜。


仕事が終わった拓海は、優菜の元に向かっていた。


この日は優菜と2人でスノボに行く約束をしていた。


すこし遠い場所にあるゲレンデにバスツアーで行く予定の拓海たち。


日程も場所も拓海が決めた。


特に日にちにはこだわった拓海だった。





拓海 「お待たせ。 準備出来た?」


優菜 「うん。 出来たよ。」



拓海は、事前に優菜のボードの滑走面のメンテナンスをしており、準備は万全だった。



拓海 「じゃあ、行こうか。」


優菜 「よろしくお願いします!」



優菜を乗せた拓海の車は、ツアーの集合場所に向かっていた。


途中のコンビニで夕食と次の日の朝食を買う2人。


すでにスノボウェアを着ており時間もなかったため、コンビニでの夕食になった。


車を近くの駐車場に止めて、車の中で食事をする拓海と優菜。


時刻は午後11時を過ぎ、集合時間も迫っていた。


食事を終えた2人は、そろそろ行かなければならない時間だったが、黙ったままだった。



優菜 「私、あの車だったら欲しいな。」



突然、目の前の車を指して言い出した優菜。


その車は、来未が乗っている車と同じ、ラシーンだった。


思わず言葉に詰まり、さらに黙る拓海。


だけど、拓海の頭の中は先程からフル回転していた。



拓海 「あのさ…。 もう一度…、最初から付き合えないかな?」


優菜 「えっ…?」


拓海 「久しぶりに会って、やっぱり優菜ちゃんのことが好きで…。 別れて改めてそう思った。」


優菜 「………。」


拓海 「だから。 もう一度、優菜ちゃんと向き合って、これからのことを考えていきたい。」



拓海の唇は乾いていて、頭は混乱していた。


ちゃんと告白するのは何年ぶりだろうか?


来未のときは成り行きで付き合い、優菜のときは告白された方だった。


その反面、優菜の反応はとても冷静だった。



優菜 「私も久しぶりに拓海の声を聞いて懐かしくて、実際に会ってとても楽しくて昔を思い出したよ。」


拓海 「……。」


優菜 「でも…。 今の状況で、また付き合っても結果は同じだと思う。 私、拓海くんに聞きたかった。

    あの時どうして別れたの? それが分からないとまた同じ理由で別れちゃうよ。」


拓海 「………。」



拓海はこの質問に対して、今まで優菜に答えていなかった。


本当のことを言えるはずがなかった。


“来未と付き合っていて、優菜と二股をかけていて、来未を選んだ結果、優菜と別れた。”


そんな言葉は口が裂けても言えず、これから先も言うつもりはない。



拓海 「……気になる人が出来て…、その人をどんどん好きになって…。」


優菜 「そうだったんだ。 だったら、別れるときにそう言ってくれれば良かったのに…。」


拓海 「ゴメン。 言い出せなかった…。」


優菜 「あっ、さっきの話…。 ちょっと私の中で整理がつかないから、…少し待って。」


拓海 「分かった。 ゆっくり考えて…。 …そろそろ行こうか。」



2人はなんとなく気まずい雰囲気の中、集合場所に向かった。


でも、拓海の頭の中だけは告白する前よりスッキリしていた。


この日は、2月10日。


どうしてもこの日に告白したかった拓海。


4年前に優菜が拓海に告白した日だった。。。