真夜中に車を走らせる。
こんなにも胸が詰まる思いで運転したのは初めてだった。
優菜からの深夜の電話。
明らかに様子がおかしかった。
話を聞いてみると、二股の事実を知ったということだった。
交通量の少ない深夜の幹線道路を飛ばし、優菜の元へ急ぐ拓海。
頭の中は不思議と冷静だったが、何も考えることは出来なかった。
頭も体も空っぽになったように、ただ黙ってステアリングを握り、アクセルを開けていた。
優菜の家に着いた拓海は、背中に冷たいものが流れる感触がした。
ついているはずの電気が点灯していない。
外から見て家の明かりが全くなく、真っ暗な状態だった。
このとき初めて色々なことが思い浮かんだ。
自暴自棄になって体を傷つけていないだろうか?
どこかへ行っていて、もう帰って来ないのではないだろうか?
チェーンでロックされ、家の中へ入れてくれないのだろうか?
とりあえず、合い鍵を使い中に入る拓海。
チェーンは掛かっておらず、中には入れた。
中からテレビの画面の光だけが漏れていた。
慌てて中にはいると、意外なほど冷静な優菜がそこにいた。
拓海 「大丈夫? 外から見て暗かったからビックリしたよ。」
優菜 「ゴメン。 少し落ち着こうと思って。 夜遅くにゴメンね。」
そう言う優菜の部屋にはお香の香りが充満していた。
拓海 「謝らないでよ。 悪いのは全部オレだから。」
優菜 「そうだね。 もう私、謝らない。」
拓海 「……うん。」
優菜 「どうして、あんなことをしたの? 理由を教えて。」
そして、いきなり本題に入っていく優菜。
拓海 「………。 あの時は、来未と付き合って初めてのバレンタインで…。」
拓海の頭の中では、もう嘘をつく気がなかった。
拓海 「男友達と新潟にスノボに行くって言って…、もうどうでも良くなって…。」
洗いざらい優菜に話し、あとは優菜の決断に任せるつもりだった。
拓海 「そんな不安定な時に優菜に告白されて…、気が付いたら2人と付き合っていた。」
優菜 「………。 そんなの言い訳じゃない!」
2人の間に暫しの沈黙が走る。
優菜 「じゃあ、そんなことが無かったら二股していなかったって言えるの?」
拓海 「………。」
優菜 「その時、私の気持ちを考えた? 来未ちゃんの気持ちを考えた?」
拓海 「…………。」
優菜 「自分がされたらどういう気持ちになるか、考えたことあるの?」
拓海は何も言えなかった。
言えるはずもなかった。
ただ、優菜の顔を真っ正面に見たまま、目から何かが流れていた。
泣いているという感覚が無かった。
自分のしたことがやっと分かったような気がした。
優菜に取り返しのつかないことをしたことだけが、申し訳なかった。
目の前にいるはずの優菜が遠くにいる感じがして、茫然と涙を流しながら心の中で謝っていた。。。