男が人生の中で一番緊張する瞬間。



好きな人に告白するとき。


「好きです!」


大切な人にプロポーズをするとき。


「結婚しよう!」


相手の両親に結婚の挨拶をするとき。


「お嬢さんを幸せにします!」



人生の節目で幾度となく緊張する瞬間に出会うが、拓海にもその瞬間が近づいてきていた。





優菜の実家の前を車で通り過ぎる2人。


約束の時間にはまだ早かった。


近くの喫茶店でお茶を飲む。


昼間にスーツ姿でお茶を飲んでいる男は拓海しかいなかった。


優菜の父親は中学校の校長だった。


約束の時間ちょうどに校長住宅の前に着いた拓海と優菜。


優菜の両親も喜びと緊張が混ざったような感じだった。


家の中から “拓海くんスーツで来てるよ。” という声も聞こえてきた。


事前にそれなりの格好でお邪魔することは伝えてはいた。


両親も体験したことのない状況に、信じられない部分もあったのかもしれない。


家の中に入り、お土産を渡し、しばらく話をして昼食を頂いた。


なかなか本題を切り出せない拓海。


昼食を食べ終わると、デザートまで出てきた。


とりとめない話が続くと、不意に玄関のチャイムが鳴った。


両親とも玄関に行く。


どうやら、ご近所の方のようだった。


拓海と優菜は暫くの間、作戦会議に入る。


両親が居間に戻ってきた頃には、拓海も優菜も正座をしていた。



拓海 「今日は、お話しがあって来ました。」



両親が座った瞬間、そう拓海が切り出した。


慌てて正座し直す両親。


前置きはもう必要なかった。



拓海 「優菜さんと結婚したいと考えております。」



一呼吸おく拓海。



拓海 「私たちの結婚を、どうぞ認めてください。」



その場が一瞬静まりかえり、父親が口を開く。



父親 「拓海くん。 優菜をよろしく頼みます。」



差し出された父親の温かい手を、拓海は力強く握り返した。。。