式場を決めるのと同じ頃に、両親同士の顔合わせをすることにした。
結婚とは家同士がするもの。
たとえ本人同士が惹かれあっていて、結婚する意思があっても、どうにもならないこともある。
拓海にはやはりそのことが引っかかっていた。
ここまで進んでいて、もしどちらかの親が相手の親を気に入らないと言ってきたら…。
拓海と優菜は、顔合わせする会場や時間のセッティングを綿密に行った。
何の落ち度もないように、お互いの情報のパイプを太くすることに気をつかった。
終わってみれば、ただの3対3の食事会だった。
2人の結婚の妨げになることはなく、杞憂に終わった。
その数日後には優菜の誕生日が迫っていた。
拓海は、その日に優菜にプロポーズするつもりだった。
本当はプロポーズをしてから、優菜の両親に挨拶をするつもりだった。
しかし周りの後押しが激しかったため、式場の予約をする都合上、挨拶を早くした拓海だった。
優菜の誕生日は金曜日。
この日は月末で、優菜が勤めていた会社を退職する日だった。
拓海は会社が終わるとすぐに優菜の元へ車を走らせた。
優菜も職場の人に見送られながら、会社を後にして拓海を家で待った。
優菜を乗せた拓海は、ある高級ホテルへと向かう。
そのホテルのスーペリアルームを拓海は予約していた。
いつかと同じ全く同じ展開。
仕事が終わった金曜日に同じホテルに向かう。
予約した部屋も同じ部屋だった。
同じく最上階のレストランで食事をとり、部屋に戻ってプロポーズをする。
違うのは婚約指輪を用意していないこと。
指輪を買いに行く時間もなかったが、優菜は事前に婚約指輪はいらないと拓海に言っていた。
婚約指輪は普段つけることがないうえ、相当な値段がする。
それよりも、気に入った結婚指輪を買って、婚約記念にネックレスが欲しいと言っていた。
だからこの日に拓海は、誕生日プレゼントとしてリングピローを用意していた。
結婚指輪を収めるためのものだった。
お風呂からあがった優菜が分かるように、窓際にリングピローを置いた。
優菜はそれに気付かず、拓海の方にやってきた。
拓海 「…なにか部屋の中で変わったところはない?」
優菜 「……?? なにが?」
拓海 「えっと……。」
拓海が向けた視線の方に顔を向ける優菜。
優菜 「えっ? なに?」
そこには見慣れない物が置いてあった。
優菜の顔に笑顔が咲いた。
優菜 「え~。 なに? 開けてもいい?」
拓海 「うん。 誕生日おめでとう。」
優菜 「ありがとう!」
袋の中には、優菜好みのリングピローがあった。
そのリングピローには、2つの指輪を乗せられるようになっていた。
拓海 「これからは、もう電話しなくてもいいからね。」
優菜 「………。(泣)」
拓海 「いつも一緒にいるから、電話なんてもう必要ないよ。」
優菜 「………。(嬉)」
拓海 「優菜。 結婚しよう。」
優菜 「………。 はい。」
最初は泣きそうだった優菜の顔が最後には笑顔に変わっていた。
こうして拓海は、人生で2度目のプロポーズを終えた。
もう二度とすることはないと心に誓う拓海だった。。。