2007年11月2日、金曜日。
その日、拓海たちの職場では少し早い忘年会が開催される予定だった。
毎年12月になると色々な忘年会が重なるため、拓海が所属する係の忘年会は毎年11月に開催していた。
毎年県外に旅行に行くのだが、この年は拓海の妻が出産を控えていたため市内での開催になった。
前日の11月1日の夜、優菜から拓海に電話があった。
おしるしがあり弱い陣痛が来ているので、様子を見て翌日には入院するとのこと。
結局、夜明けと共に入院した優菜だったが、拓海はとりあえずいつものように出勤した。
11月2日の朝。
優菜から入院したことの知らせを受けると、拓海は仕事を切り上げ休暇をとった。
生まれる時間によっては、その日の忘年会は出席できないと伝えて急いで病院へ向かった。
病院へ着くと、優菜の両親がいた。
優菜を乗せて来たようだった。
そして、当の本人である優菜はとても普通に見えて、出産間近のような雰囲気ではなかった。
お昼を過ぎて、好きなものを食べていいと助産師に言われた優菜。
拓海にコンビニのサンドイッチを買いに行ってもらった。
拓海は、優菜が食べる予定だった病院食を食べた。
キレイに拓海が食べたため、助産師に食欲はありますねと言われた優菜だった。
夕方近くになると、どんどん陣痛がひどくなる。
医師や助産師が数名集まり、優菜も苦しそうな表情をする。
拓海は立会出産を希望したため、ずっと優菜の側にいた。
何もすることができずにうちわで優菜を扇ぐだけだった。
午後6時42分。
突然出てきたそれは、大きな産声をあげてこの世に誕生した。
へその緒を切って優菜の胸の上に抱きかかえられると、安心したかのように泣きやんだ。
拓海と優菜から生まれた女の子は、拓海と優菜の心と体を受け継いで生まれてきた。
この瞬間から少しずつ父親を実感し始める拓海。
首の据わらない我が子を危なげに抱いて、元気に育つように願いつつ、その子の将来を考える拓海。
その子の名は “美侑(みゆう)”。
多くの人に祝福されこの世に生まれてきた。
拓海と優菜の宝物だった。。。