2月に入ってすぐの頃。
拓海は来未の家にいた。
目的は、来未とちゃんと別れること。
来未の家には拓海の物がいくつか残っており、お互いの家の鍵もまだ持っていたままだった。
そして、来未の誕生日にプロポーズしたときにあげた婚約指輪もある。
拓海は数日後、優菜とスノボに行く予定だった。
その時に、優菜に告白するつもりだ。
だからこそ、来未との関係が中途半端なままでは嫌だった。
今度こそ、優菜だけを見つめていたかった。
拓海 「この家に、まだオレの物いっぱいあるよね。」
来未 「うん…。 結構あると思う。」
拓海 「婚約指輪もここにあると、いろいろ思い出して嫌でしょ。」
来未 「………。」
拓海 「ゴメンね。 元カレの物が家にあったら、彼氏が出来ても家に連れて来れないね。」
来未 「別にいいけど。 予定ないし。」
拓海 「………。」
何も言えずに黙る拓海。
颯太のことなど口に出せる雰囲気ではなかった。
拓海 「それと…、これも返さなきゃね。」
拓海は、自分のキーホルダーから来未の家の鍵を静かに抜き取って来未に渡した。
来未はそれを受け取り、拓海の家の鍵を持ってきて拓海に差し出す。
拓海がそれを受け取ると、来未は泣きだしてしまった。
来未 「うぅ……。 ひっく…。 ひっく……。」
拓海 「………。」
何も言うことが出来ない拓海。
泣くような状況を作った自分に、来未を慰める資格はない。
頭をなでて、抱き寄せたい衝動に駆られるが、そうしてしまえば元も子もない。
ただ黙って、来未が泣きやむのを待つしかなかった。
来未 「……っく。 ふ~~う。」
静かにゆっくりと、大きく息を吐いた来未。
ゆっくり立ち上がって、物入れの奥から婚約指輪を取り出して拓海に差し出した。
来未 「はい。 他の物は、あとでまとめておくから…。」
また、目に涙を浮かべる来未。
拓海は、もうその場にいることが出来なかった。
来未を抱き寄せずに我慢できる自信がなかった。
拓海 「じゃあ、あとの物はまた取りに来るね。」
そう言い残すと、拓海は来未の家を後にした。
来未は、正直まだ揺れていた。
颯太のことは大好きだが、拓海のことも嫌いではなかった。
一番長く付き合った拓海。
自分のことを一番分かってくれていて、別れてから拓海の優しさに気付くことが多い。
でも、一番大好きな人と一緒になりたくて拓海とは別れた。
5年前の、拓海と付き合う前の状態に戻り、もう一度納得のいくまでどうするか考えたかった。
拓海が出ていったあとの寂しさに耐えられず、いつまでも涙が止まらない来未だった。。。