交差点を離れた拓海は、他の職員と合流することにした。
災害対策本部のある拓海の職場は増水を続ける川向こうにある。
封鎖された橋を渡ることができなかったため、拓海は現場本部のある病院に向かった。
拓海が乗ってきた車は、交通整理の途中で会った颯太に頼んで災対本部に移動してもらった。
そのため、棒のようになった足で現場本部の病院へ歩いていった。
その病院の少し先まで、もう水が来ていた。
病院から患者を搬送する救急車。
時を同じくして起こる火災。
急遽、消防車が現場に走る。
そして迫ってくる水。
周囲の住民を高台にある体育館の避難所に移し、拓海もその場所へ向かった。
もうすでに外は暗かった。
いつの間に時間が過ぎたのか分からない。
朝ご飯どころか、昼も何一つ口にしていなかった。
次々と避難してくる住民。
車で避難する住民を誘導する拓海たち。
体育館は、人で溢れかえっていた。
やっと運び込まれる食料。
でも、それは避難者の分であり、拓海たちの分ではない。
気付けば、来未もその避難所で避難者に食料を配っていた。
校舎の中では学校の職員がこの水害のニュースを見ている。
拓海は窓の外からそのニュースを見ていた。
拓海が実際に目にしてきたのはほんの一部。
ニュースに映る航空映像はその範囲の広さを、ズームによる拡大映像は川を流れる民家を映し出していた。
その映像の全てに驚かされる拓海。
そして、ニュースを見入る拓海の背後から罵声が飛んできた。
来未 「車! ちゃんと仕事しろよ!!」
車が入ってきたのに気付かなかった拓海。
拓海は怒りを覚えたが、来未を無視して車を誘導した。
一度、家に帰って風呂に入った来未の格好は、ハーフパンツにフード付きトレーナー。
どうしても仕事をしているような格好には見えなかった。
そもそも、来未は昼過ぎから勤務に就いている。
朝から立っている拓海の足は、もう限界に近かった。
そこへ颯太が車に物資を積んで避難所へやって来た。
4月から拓海と同じ課に配属された颯太。
どうやら災対本部で待機しているようだった。
颯太 「拓海さん、今から本部に帰りますけど、一緒に行きません?」
拓海 「本部にみんないるの?」
颯太 「うちの課はみんな本部で待機してますよ。」
拓海 「じゃあ、オレも一緒に行くよ。」
拓海はもう避難所にいたくなかった。
疲れているというのもあったが、何より来未と一緒にいるのが嫌だった。
颯太 「それにしても、来未のあの格好はどう思います?」
拓海 「別にいいんじゃないの? 勝手にしろって感じ。」
颯太 「仕事をしているって自覚があるんでしょうかね…。」
颯太も来未の格好に気付いたようだったが、拓海にはもうどうでも良かった。
高いところにある別の橋を通り、拓海と颯太は災害対策本部に帰った。
本部には、妻子を助けようと途中で水に入って行った先輩もいた。
拓海たちは、そのまま本部で夜を明かした。
結局、水が完全に引いたのは次の日の昼頃。
まる1日以上、濁流のなかにあったモノからは異臭が漂い、そこには壮絶な光景が広がっていた。
その日から拓海たちは、毎日毎晩、災害復旧のために働き、休む暇さえもなかった。。。