去年の年末。


拓海の所属する課の忘年会があった。


もちろん、同じ課である颯太も出席している。


そんな飲み会も終わってみんな帰っていったが、拓海と颯太だけはその店に残った。


その店はよく拓海や颯太が行く店で、店の主人とも仲が良かったので2人はそこで飲み直すことにした。


先程まで一緒に飲んでいた人で拓海と同い年の人(颯太の係の先輩)にも一緒に飲まないか電話した。


その先輩も加わって3人で飲んでいた時に、颯太の電話が鳴った。


来未からだった。


席を外し、来未と話す颯太。


どうやら来未も別な飲み会があったらしく、その帰りのようだった。


その後、颯太は来未にメールした。



颯太 “先輩と飲んでいるんだけど、良かったら一緒に飲まない?”



確かに颯太は先輩と飲んでいた。


先輩は1人ではなく、2人だったが。


颯太からのメールを見た来未は、嬉しくてそのまま颯太に電話した。



来未 「もっし~。 今、どこで飲んでんの?」


颯太 「いつものところ。 あなたも来るね。 久しぶりに一緒に飲まない?」


来未 「え~。 いいけど、誰と飲んでんの?」


颯太 「先輩。 ちょっと待って、電話を代わるから。」



拓海も先輩も、颯太が誰と話しているのか全く分からなかった。


先輩が颯太から電話を渡されて来未と話した。



先輩 「もしもし?」


来未 「どうも~。 何か飲みに誘われたんだけど。 行っていいですか?」


先輩 「えっ? あぁ~。 う、うん、別にいいけど…。 来ない方がいいと思うよ。」



拓海と同い年で颯太の先輩であるこの人の口調が明らかに重くなった。


颯太と来未の関係は知らないが、拓海と来未の関係は知っている。


拓海の方を見ながら、歯切れの悪い電話をする。


その様子を見ていた拓海は、誰からの電話なのか大体予想がついた。


結局、来未は来ないような雰囲気になり、拓海は安心してお酒を飲みだした。


それから数分後、突然颯太の後ろから手が伸びてきて、颯太の背中をつついて去っていった影。


拓海にはハッキリと見えなかったが、来未のようだった。


颯太の背中をつついて帰っていった人が誰なのか、拓海たち3人の意見が一致した。


颯太も先輩も、来未らしき姿を見たという。


颯太は来未にメールした。



颯太 “どうして来なかったの?”


来未 “ むっ



その来未からのメールを見せる颯太。



颯太 「ちょっと見てくださいよ拓海さん。」


拓海 「……怒ってるね。 オレのせいじゃないのは確かだよ。」


先輩 「俺は来ない方がいいって言ったんだけどね。」



それから暫くは、来未の話を酒の肴にして3人は飲んでいた。





来未は颯太からの誘いで颯太が飲んでいる店に行った。


颯太と一緒にいたかった。


他にも先輩がいるみたいだったけれど、あまり気にしない。


飲み会が終わった後、いつものように颯太と一緒にいられるかもしれないのだ。


もしかしたら、朝まで一緒にいられるかもしれない。


先輩の “来ない方がいいかも” という言葉が引っかかったが、颯太に誘われて断る理由がない。


店の扉を開けると颯太の声がした。


颯太の背中を発見し、後ろから脅かそうと思ったその時。


拓海が颯太の向かい側に座わっているのが見えた。


颯太の背中に伸ばしかけていた手で背中をつつき、そのまま店を出た。


ひょっとすると3人は気付かなかったかもしれない。


でも、背中をつつかれた颯太には分かって欲しかった。


そのために颯太の背中をつついたのだから。


暫く店の前で待っていた来未。


もしかしたら気付いた颯太が出てくるかもしれない。


数分後、颯太からメールがあった。


“どうして来なかったの?”


どうやら颯太は自分に気付いてくれなかったみたいだった。


ちゃんと店には行ったのに気付いてくれない淋しさ。


拓海と一緒にいるのが分かっていたら行かなかったのに。


自分が拓海のことを嫌いなのを、颯太なら分かってくれると思っていた。


指先に残る颯太の感触が冷たい風の中に消えていく。


来未は、怒りマークを携帯でうちながら、その店をあとにした。。。