一昨日は、23年来の友人である 青井 ゆかり さんが来日していたので、一年ぶりにお会いしました。ゆかりさんと初めてお会いしたのは、1995年。ですからもう四半世紀近くになります。お互いに貧乏で将来どうなるか分からない状態の時に会った。今思えば隔世の感がありますが、その当時を思い出すとなんだかとても懐かしく、毎度昔話で盛り上がります。

僕は80年代後半から90年代前半まで南カルフォルニアのここアーバインに住んでいたので第二の故郷です。そしてこの故郷の姉的な存在が、ゆかりさんなのです。ゆかりさんは、当時 幼い子供2人を抱えて異国の地でシングルマザーとして人生をカリフォルニアで再スタートされました。アーバインは全米一安全な街。あの頃はまだ日本人の駐在員が結構住んでいて、コミュニティーもあり賑やかでした。でも今では中国人や韓国人ばかり。留学生も日本人は少なくなってしまい寂しい限りです。そんなアーバインで、ゆかりさんは24年も前に語学学校立ち上げ、そしてコネも金もなく言葉もしゃべれないと言う三重苦の中、学校をどんどん広げていって成功を収めた。

知り合ってから23年、ほとんど毎年彼女と会っていたので、僕はそんな彼女の成功の足跡を定点観測してきました。もちろん順風満帆ではありませんでしたし、つい最近も人種差別的な体験もされ事業がうまくいかなかった経験をされました。しかし神様と言うのは、乗り越えられない試練を与えないと言う通り、彼女はすべての困難を見事に乗り越え現在に至っています。そんな ゆかり さんを僕はとても尊敬しています。

さてそんな ゆかり さんですが、語学学校やホームステイの会社は人に任せて、現在は昔から好きだった映画制作の会社を立ち上げ、頑張っています。今までも何本か震災等のドキュメンタリーを制作してきましたが、今回 最新作を日本で発表され、その試写会に行ってきたのです。そのタイトルは、「アラフォーの挑戦 アメリカへ」 と言うもの。結論から言いますと、ものすごく良かったです。つい最近話題の「万引き家族」も見ましたが、それ以上に今の日本人に見てもらいたい作品です。

先日、日本の婚活市場のアンバランスさについての記事を書きました。日本の婚活市場は非常に歪んでいます。たくさんの素敵な女性が余っており、逆に良い男性が圧倒的に少ないのが原因です。その理由は、小泉政権の負の遺産で派遣労働者を増やしたため。日本の20代や30代の若い男性の給与水準がとても低く、多くが貧困にあえいでいることに起因しています。年収300万円そこそこではまともなデートもできないし、ましてや結婚して子供を産むなんて現実的ではないでしょう。それに対し女性は、意欲的でネット環境を上手に使えば誰でも起業し、そこそこの収入を稼ぐことができる。昔だったら考えられないことですが、女性にとってはとても良い時代なのです。それにより女性たちが自立し、結婚しなくなって晩婚化が進む。そしてそれが、少子高齢化につながっている。片や男性が性的にも弱くなり、「草食男子」あるいはもっと酷いのは「絶食男子」が増殖している。このままでは素敵な女性は、全部アメリカ人にとられてしまうのではないか?という危機感を記事にしました。このメルマガ記事は、かなり読者から反響がありました。

さてこの作品は、そんな現代のアラフォー女性の苦悩を見事に描いています。そもそもアラフォーとかアラフィフなどと言う言葉は、アメリカにはありません。差別的な表現に感じますので、アメリカならセクハラで訴訟されかねません。日本の社会では30を過ぎると親が「そろそろ結婚は?」などと子供の将来について口出してくる。もちろん心配なのはわかりますが、子離れしてないあらわれ。そして子供も親離れしてない人が多いような気がします。40過ぎて親元で生活していると言うのは、日本ぐらいでしょう。

 

アメリカでは20歳を過ぎたら、一人の大人として自立せねばいけません。当然家から出て自活します。仮に自宅に住むのであれば、家賃を払い家の手伝いをせねばいけないし、小さい頃からアルバイトをするのは当然。授業料なども自分で稼いで学校に行きます。アメリカではこの年齢になったら、こうしなければいけないなどと言うルールは一切無いのです。世界中の移民が集まり、それぞれの個性を大切にするお国柄。国も社会も一人ずつ大人として扱っています。でもそれには当然責任が伴います。

 

この作品では、学校卒業して就職してやりたいことも見つからず、結婚相手も見つからず、自分の探しの旅にアメリカに出る。37歳と言う微妙な年齢の深層心理を見事に描き、主人公がアメリカ社会で体験する様々な出来事をリアルに再現している。物語は、ロサンゼルスの空港からホームステイ先の家庭ご訪問するところから始まる。そこは典型的な位だからアメリカ人家庭生活。そして学校での授業の風景、週末のアメリカ家庭でのボランティアなどの体験。主人公には全てが新鮮に映る。僕自身も30年以上前に体験したあの日が蘇り、見ていて懐かしくなった。

この作品は、単なる語学留学だけの話に留まらないのがすごい。いろんな人がインタビュー形式で登場してくる。例えば弁護士のスティーブが、アメリカの人種問題について語っている。ゆかりさんの義理のお父さんであるボブは、ニューポートビーチで不動産事業で成功された方だが、彼の人生についても語られている。83歳にして新しいガールフレンドを作り、人生を謳歌している姿は微笑ましい。いとこのトムとガールフレンドが日米比較文化論を語ってる。ゆかりさんのダンスの先生であるリチャードが、同姓愛者であり自らHIV感染者であることを告白している。そしてリチャードの恋人であるマイク。彼も同性愛者の迫害について生々しく語っている。どれもこれもが、知らないアメリカの真実の姿。こうしたタブーにもメスを切り込み、それを包み隠さず赤裸々に語っているところが、特筆すべき点である。

また撮影の技術も素晴らしかった。Orange Countyの雄大で美しい景色が空撮されていたが、すべてドローンで撮影したと言う。最初はヘリコプターで撮った映像かと思い、ずいぶんお金をかかけたんだなぁと感心した。しかしドローンでの撮影技術がここまで発展しているとは驚いた。欲を言えば南カルフォルニアの美しい風景や街並みをもっとダイジェストで入れて欲しかったかな。いかにこの地アーバインやニューポートビーチが天国に近いか?これは行った人でないとわからないかもしれない。でももう少し映像を入れることで、それを伝えることが出来たのではないかと思う。

じつは、僕はこの作品の登場人物の多くの人と実際にお会いしている。だからこそ余計に親近感がわき、懐かしくなりました。ほとんどの日本人が知らないアメリカの現実の姿が、この90分の中に凝縮されている。「万引き家族」以上に多くの日本人に見ていただきたい作品です。来年日本でも劇場公開予定ですが、もし公開されない場合は僕の方で試写会を主催したいと思います。それだけ社会的に意義のある作品だと思います。ゆかりさん、このたびは素晴らしい作品の完成おめでとうございます!次回の作品は脇役で出演させてください(笑)  *写真は主演の松下恵さん(中央)と監督のゆかりさん