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『しあわせ探偵の事件簿』
第三話:「ごんべえ」⑥

でもこれで、ハッキリしました。
この事件を解決するカギは、幸さんが自分の名前にまで込めた想いに気づいて、それを行動に移すことです。

そこでまずお聞きしたいのは、幸さんが感じる苦しさややましさは、どんなときに、どんな風に感じますか?」

「そうですね。それはやっぱり、自分が相手の要求通りにならなかったときに、『自分は劣っている』と感じることでしょうか。

マキさんの話を聞きながら考えていたんですが、私もやはり『母を幸せにしなければいけない』という想いが強かったんだと思います。
だから、母の期待や要求に応えられない自分はダメなんだと感じ、母に対して『ダメな娘で申し訳ない』という気持ちがあります。

娘に対しても、『この子が不登校になったのは、私の母親としての資質が劣っているからだ。ダメな母で申し訳ない』という気持ちがあります。

仕事でもよく『期待通りの仕事ができているだろうか』と心配になります。
だから、今回も上司の村山にこちらを紹介してもらったときに『上司に心配ばかりかけているダメな部下で申し訳ない』という気持ちになりました・・・」

横で二人の会話を見守っている沙由里は少しギョッとした。
というのも、普段から笑顔を絶やさないマキの顔色が曇りだし、かなり怖い顔になっているからだ。
特に小泉の『自分は劣っている』という発言から曇りだし、さらに小泉が『〜で申し訳ない』という言葉を言うたびに眉間にシワが寄り、怖い顔になっていく。

マキ自身が自分の顔色に気づいていたかどうかはわからないが、自分の中にこみ上げてくる“怒り”の感情を抑えきれなくなったのか、明らかに今までとは違う強い口調でこう言った。

ちょっと、いい加減にして!あのね、あなたが一番に『申し訳ない』って謝らなければいけないのは、お母さんでも娘さんでもないでしょ!それがわからないの!?」

「えっ、誰ですか?・・・ご先祖さまですか?・・・」

違うでしょ!自分でしょ!!

あなた、最近、鏡をちゃんと見たことある!?
そんなにキレイな顔をしてるのに、肌の手入れも、髪の毛の手入れもちゃんとしてないでしょ!
服装を見ても、あなたが自分のことを大切にしてないのが丸わかりよ!もっと、自分を大切にしなきゃダメでしょ!
お母さんとか娘さんの幸せを考える前に、まずは自分のことをちゃんと幸せにしなきゃダメじゃない!!」

「自分の幸せ?・・・
“他人”じゃなく、“自分”を幸せにしていいんですか?・・・」

自分を幸せにしていいんだ・・・。
でも、誰もそんなこと言ってくれなかった。
みんな、「自分のことよりまず、相手のことを考えなさい」って言った。

相手を幸せにできない自分は、価値がないと思ってた。

だから、幸せになっちゃいけないと思ってた。

でも、違うんだ。私も、幸せになっていいんだ。

小泉がそう思った瞬間、体の力がフッと抜けた。
それに合わせて、涙があふれ出てきた。

泣いてもいいよね?
泣いたら周りが困るから、ずっと我慢してたけど、自分を幸せにしていいんなら、泣きたいときは泣いたっていいよね?

そう、自分に問いかけ、自分に「大丈夫だよ。ここにいる二人もきっとわかってくれるよ。
だから、泣きたいだけ泣いていいよ」と許可を与え、小泉はひとしきり泣いた。

沙由里は黙ってそっと、隣からティッシュを渡す。

つづく・・・