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『しあわせ探偵の事件簿』
第四話:「めがね」③

「めがね!?」

「そう。眼鏡。サングラスと言ってもいいかな。
俺の人生がうまくいかなかったのは、人や出来事を“色メガネ”で見てたんだよ。

自分では正しく見ているつもりでも、いつの間にか知らないうちに色メガネで見るようになって、正しい判断ができなくなってた。
だから、人生がうまくいかなかった。
オーナーはその“めがね”の存在に気づかせてくれたんだ」

「う〜ん、なんとなくは分かるんだけど、もう少し、私に分かるような具体例で説明して」

「そうだな・・・。例えば、沙由里ちゃんは、どんなときに『自分は幸せだな』と感じて、どんなときに『自分は不幸だな』と感じる?」

「それはやっぱり、嬉しいことや楽しいことがあったときは『幸せだな』と感じるし、苦しいことや辛いことがあれば『不幸だな』と感じるかな」

「なるほど。つまり、“出来事”が人の幸、不幸を決める。そういうことかな?」

「そう思うけど、違うの?」

「じゃあ、沙由里ちゃんが宝くじで3億円当たりました。嬉しい?」

「そりゃ、嬉しいに決まってるでしょ」

「でも実際は、宝くじの高額当選者のほとんどは不幸になってるって話だよ。
では、別の問題です。沙由里ちゃんは“貧乏”で“虚弱体質”で“学歴がない”とします。やっぱり、不幸?」

「そりゃ、不幸に決まってるじゃん。“貧乏”な上に“虚弱体質”で“学歴がない”と何もできないよね」

「でもね、“経営の神様”と言われている松下幸之助は、この三つがあったおかげで成功できたって言ってるんだよね。
つまり、『貧乏だから、お金を得ようとがんばった』『体が弱かったから、人をうまく使うように心がけた』『学歴がないから、謙虚に人から学べた』って。

このことからも分かるように、人の幸、不幸を決めるのは“出来事”そのものではなく、起きた出来事を“どう見るか”であり、どう捉えるかの“考え方”なんだよ。

では、違った角度からも考えてみようか。
例えば、『嬉しい』とか『楽しい』という感情も、『悲しい』とか『怒り』の感情も、出来事に対して“自然に”湧いてくるものだと思われているけど、実は、出来事と感情との関連性は、みんなが思っているほど“密接な関係ではない”んだよ。

このことを解き明かした理論があって、アメリカの臨床心理学者のアルバート・エリス博士が考案したもので、“ABC理論”と言われてる。
この“ABC”っていうのはそれぞれ単語の頭文字から来てて、
AはActivating event(アクティベイティング・イベント)のAで『出来事』っていう意味。
BはBelief(ビリーフ)のBで『信念』や『信条』『固定観念』『認知の仕方』『考え方』という意味。
CはConsequence(コンセクエンス)のCで『結果』や『感情』という意味。

多くの人はA→Cというように、自分に起こった出来事(A)が直接、結果や感情(C)をもたらしたと思いがちだけど、実際の人の感情の動きはA→B→Cという流れで生まれるの。
そして、どんなB(固定観念や考え方、認知の仕方)を持っているかで、結果も大きく変わるんだよ。

たとえば『仕事で失敗をした』という出来事(A)があるとするよね。
これに対して『仕事で失敗するのは自分の能力が劣っているからだ』という考え方(B)をする人は、『自分はダメなやつだ』という感情(C)が湧いて落ち込んじゃう。

でも『人間だから失敗するのは当たり前』という考え方(B)をする人は、落ち込むことなく、失敗の原因を考えて修正し、次の成功に結びつけるという結果(C)を得ることができるんだよ。

『アフリカに靴を売りに行ったセールスマンの話』っていうのがあるんだけど、二人のセールスマンが別々に、アフリカに靴を売るための市場調査に出かけたの。
それで、一人は『あそこはダメです。あんなところで靴なんか売れません。だって、誰一人として靴を履いてないんです』って報告したんだけど、もう一人は『あそこは素晴らしい市場です。なぜなら、誰一人として靴を履いてないんです。そこの人に靴の良さを知ってもらえば、みんなが靴を買ってくれます』って言ったんだよね。

結局、幸せな人と不幸な人、成功する人と失敗する人の違いって、どんなB、つまり固定観念や考え方や価値観を持っているかだし、起きた出来事や相手のことを色メガネで見るんじゃなくて、正しく見て判断することが大切なんだよね」

つづく・・・