感謝しておりますドキドキ

明後日は大阪で講演会です音譜

年内でしばらくお休みを頂く講演会は、残すところこの大阪と26日の東京の2講演を残すのみびっくり

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それでは今日も、物語の続きをどうぞ音譜

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『しあわせ探偵の事件簿』
第五話:「ものがたり」④

「はい。それではゆっくりと目を開けて、意識を“今”に戻しましょう・・・」

はなゑの優しい声に導かれて、渡部の意識は引き戻された。
気がつけば、顔中が涙と鼻水でぐしゃぐしゃである。
慌てて、手に持っているハンカチで拭いた。
それだけでは足らず、近くにあったテッシュで鼻をかみ、ようやく落ち着けることができた。

「ちょっと、休憩しましょうか」

そう言ってはなゑは席を立ち、電話の内線でマキにおかわりのコーヒーを三つ、頼んだ。

運ばれてきたコーヒーを飲んだ渡部は驚いた。

「こんなに優しい味がしてたんだ。
来たときにはこの味に気づけないぐらい、自分は追い込まれていたんだな」

さらに二口、三口と飲むと、ほわぁ〜っと幸せな気持ちになれた。

「ああ、幸せって、こんなに身近なところにあるんだな」

渡部はコーヒーを味わいながら、そう思った。

「ところで、先ほどのはなゑさんが私にやってくださったのは、催眠術ですか?」

渡部の問いに、はなゑはこう答えた。

「う〜ん、催眠術とはちょっと違うかな。
ワークというか、セッションというか、簡単にいうと、渡部さんの意識を顕在意識から潜在意識の深いところに誘導して、魂の記憶に触れさせたっていう感じかな。
ちなみに、どうだった?」

渡部は自分が見たこと、感じたことを語った。

一通り渡部の話を聞き終えると、はなゑはポケットから金色に輝くお札のようなものを取り出し左手に乗せ、その上に右手を乗せてから両手を胸の位置にもってきて目を閉じ、何かをつぶやき始めた。

それは祈りを捧げているようでもあり、精神統一をしながら自分の推理を検証している風でもある。
さらにいえば、その一連の所作は巫女が神前で行う儀式のように、優雅で美しかった。

1分ほどしてからつぶやきを止め、ゆっくりと目を開けると渡部と視線を合わせ、優しく微笑み、こう言った。

「うん。大丈夫。すべての謎はスカッと解けたわ。
あなたのことを苦しめ続けている真犯人。
それは、渡部さんももしかしたら気づいたかもしれないけど、今回の事件の真相は、渡部さん自身が描いた“物語”にあります」

「物語ですか!?」

沙由里だけが驚きの声を上げた。
渡部はうなずいているところを見ると、そのことに気がついているのだろう。

はなゑは話を続けた。

「渡部さんは生まれてくるときに、今世で学ぶことを決めて、そのためのストーリーも考え、そこに必要な役も魂の仲間にお願いし、描いた物語を神様に見てもらってオッケーをもらい、その記憶は神様に預けてこの世に生まれてきたんです。

これは、表現を変えて言えば“因果”ということになります。
誰もが前世で自分が起こした“過ち”を因果として抱えていて、その因果を解消するためにこの世に生まれてくるんです」

それを聞いた渡部はこんな質問をした。

「僕が先ほど観た映像というか、イメージでは、僕はかなり多くの人にひどいことをしていたようです。
躾や罰と言いながら、相手が気絶するぐらい殴り続けたり、中にはそれで死に至ることもあったようです。
もしこれが因果なら、私も死に至るぐらい殴られないと因果は解消しないのでしょうか?」

「そんなことはありませんよ。因果は“罰”ではありません。
『因果』と聞くと、どうしても何か恐ろしげなことを想像する人もいるかもしれないけど、因果とは“原因と結果”であり、生まれ変わってくるときにも前世の因果が関係してくるのは、肉体は滅びても魂は死なないのでそのまま因果を引き継ぐからであり、さらに言えば“魂を成長させるため”に私たちは生まれ変わってくるのです。

それで、前世で起こした過ちは天国で反省して生まれ変わってくるので、その因果は大体四分の一ぐらいに減っています。
さらに『ああ、自分も過去にやったんだな』ってその因果に気づけば九分の一に減るんです。
だからもう、渡部さんの因果は解消されてますよ」

「よかった」

渡部は今日一番の笑顔を見せた。
つられて、横で聞いていた沙由里まで笑顔になった。

つづく・・・