新しい鋼材の庖丁 | 包丁研ぎ師月山の包丁研ぎ磨ぎブログ

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ようやく少し暑さが和らいできたようにも感じるようになってきましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。

5月に試作品の研ぎ試しをして7月中頃に入荷をしたある庖丁をお客様に話したところ、ブログで紹介をしてほしいと言われたので少し紹介させていただきます。

これは今まで庖丁には使われることがなかった新しい鋼材を使用した庖丁だそうです。



最近日本の庖丁は海外での過度の需要で業界が非常に大騒ぎしておりますが、そのような中でも今まで庖丁に使わることがなかった鋼材に挑戦した庖丁に関心がありました。

鋼材名は「PS60」。

 


PSはPure Stainless (ピュアステンレス)の略だそうで、60はHRCの硬さを表しているそうです。

名前のイメージでは銀紙三号相当のものではないかと思っていたのですが、研いだ感触では銀三のようなねっとりした感触よりは硬くは感じ、砥石によく引っかかるようなザックリとした感触で良く研げる印象です。

ニューケントの硬口の中からさらに選んだ非常に硬いタイプのもの(ビトリファイドのため硬さにばらつきがあります)でも引っかかりがよかったので、砥石をあまり選ばない鋼材ではないかと感じます。

均質に焼きが入ることが特徴であると聞いているので、全鋼の庖丁としては安心できる要素ですね。



そうなると気になるのが鋼材の粒子のサイズ。

病気ですね(笑)

粒子のサイズや均一性が研磨のスピードを左右している要因の一つと感じております。

砥石の平面と庖丁の面で研いだ際、粒子のサイズが大小不揃いの場合は削れるスピードは遅くなる傾向に感じやすく、さらには大きなサイズの粒子が刃先にきた際に欠けに繋がりやすくなると感じます。

逆に粒子が細かく、サイズが均一であれば研磨は早くなる傾向に感じます。

天然砥石を使用されている方は特に感じることもあるかもしれませんが、ステンレス系統の庖丁より明らかに硬い粉末鋼が同じスピードで、場合によってはより早く研げるように感じることがないでしょうか。

それは粉末冶金法で粒子が均一にされていることが要因ではないかと考えております。

そのためか粉末鋼は白紙系統の炭素鋼に相性の良い砥石が向いているケースがあります。



このステンレスはSUS440Cなどよりは粒子の塊は少ないように感じ、炭化物のサイズは4ミクロン前後と粉末ハイスに近いと感じます。

 

ただ研いだ感触では銀三のような粘りを強く感じなかったため、はまぐり刃であり欠けにくさを意識した研ぎが無難であると考えます。



実際PS60の三徳庖丁を使用しましたが、全体の厚みは薄めでも、背から刃先までの厚みが薄すぎないため安定感がよく振りやすいです。

特に牛刀210mmや240mmはバランスがいいですね!

ただ私の場合使用頻度が高い庖丁が白紙一号の和三徳のため、食い込んだ際の抵抗やスライドでの切れ込みや切り抜けなどの抵抗に少し不満はあります(笑)



庖丁にも特徴がないといけないと感じるこの頃。

選べることがとても重要に感じます。

もちろん鋼材だけでなく、厚みや形状、そして意匠的な部分も同じだと感じます。

いい庖丁は使用用途によっても変わってきますから、いろんなものをご提案できればと思っております。

またご興味がある方はお知らせください。

ではまた。