現実とは思えない | 月のベンチ

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両親の闘病記


父の病室にいる。

泊まるかどうかはわからない。

とりあえず18時ごろ一度帰宅してネコの様子を見て、ご飯をあげてトイレ掃除をしてお膝抱っこをしてから、母の病院に寄ってから来た。

母はやはりサーチが低く、90を切るときもあった。
心拍数は相変わらず100以上。
原因がわからない。
ネブライザーをかけてもらい、酸素を倍にしてサーチを安定させてから21時過ぎにここに着いた。

抗生剤は続行中だが、熱が上がったり下がったり。
一度夕方に来たときは酸素マスクが外れていた。
病院はそういうところなので驚かない。
外れないよう直してから母の病院に戻った。
さっきここに来たら、酸素マスクが外れないよう工夫してあった。
遅いよ。

肺ガンに肺炎は文字通り命取り。
私がもっと父に付き添っていられたら、もう少しの間肺炎を防げたかもしれない。

夕方眠ったままの父に、いろんな話をした。
ところどころで目を開けかけたり、顔を歪ませたり、頷いたりしていた。
子供のころ、父の背中におんぶされてスキーで滑り降りたことや、父の畑のことや、スーパーで知り合った友人たちのこと、そして父が作った夏野菜を毎日二人で食べたこと。
ゴルフで初めてホールインワンをしたこと。


この5ヶ月は、母が倒れてから一番穏やかに過ぎた日々だったと思う。
テレビを見ながら一緒に夕食を食べ、父の蘊蓄や昔話を聞き、ときおり母の経管栄養の具合を見る。

いがみ合うこともなく、怒鳴り合うこともなく、笑顔と穏やかな会話だけがあった。

後悔は山のようにあるが、父に謝る機会とありがとうを言う機会を与えてもらった。



私は、きっと、父は不死身だと思っていたんだろう。
何を言っても、何をしても許される。
そう甘えていたんだろう。



父には、心からの感謝を、さいごに伝えたいと思う。