谷口との会話を振り返りながら

ふと思った。

２時間ドラマじゃあるまいし

私を脅迫して口止め料を要求するようにも思えない・・・

なら本当に私との肉体的な関係が目的なのか？

けれど

特別な美貌をもつわけでもない私のような女を

弱みをチラつかせてまで口説くなんて

それこそ安っぽいドラマのシナリオではないか、とも思う。

谷口の目的が何であれ

自分となんの関係もない翔太の未来を壊そうと企んでるとは思えない。

なので『不倫現場目撃』という情報は

私に与える脅威なのだ。

けれどそれは

私が夫との離婚を望んでない場合にしか効力を発揮しない。

谷口は『私の守りたいもの』を捉え違えている・・・

それならば

今後も谷口が翔太の身辺を探ることなどないだろう。

いくら谷口でも、「念のため」程度で探偵をするほど暇ではないはず・・・

それに気づいたとき

翔太の情報を持っていない谷口が出来る嫌がらせなど

離婚を望む私にとって、むしろ好都合なのではないか、と感じた。

このまま何もしなくても

谷口が勝手に私と夫を離婚に導いてくれそうな気がしていた。

もちろん、それなりのリスクは考えられたが

『翔太の未来』という人質さえなければ

怯えることなく戦える、そんな強気な自分が成長し始めていた・・・

未練の中でもがき苦しんでいた私は

その時初めて

翔太との関係に終止符を打っていたことに安堵した。

心がどんどん汚れていくのを感じながら

自分の選んだ道はキレイゴトなんかでは済まされないのだと

やっと夢から覚めた思いだった。