キャンディファンサイト♥二次小説&小説FINAL STORYの考察漫画・アニメをうろ覚えの方~コアなファンの方まで♪かぎりなく・真面目で易しくマニアック・なブログです
バレンタインDAYということで私がキャンディキャンディの中で好きなシーンやセリフを告白します。なお私は少しズレているかもしれません大目に見てください出て行ってほしいハッキリ言うな カーソン普通の少女漫画なら・・👱♀️「スージーも治ったし、行きますね」👨🦰「いや、でもキャンディ、、もう少し」一旦は引き止め👱♀️「私、旅の途中なので」が、王道じゃないですか?ですがキャンディキャンディは違います「出て行ってほしい」とオヤジの本音を書いちゃうところが原作者がいる漫画のすごさだと思います!あなたが嫌い!ハッキリ言うな フラニーフラニーは最後まで笑いません。二人は打ち解けないままお別れをします。👩💼「どうしても好きになれなかった・・」超リアル!少女漫画なら、最後に和解しそうじゃないですか。でも、違うんです。きれいごとじゃない所がイイ現実世界には『ウマが合わない』ってゴロゴロありますよね?キャンディは悪い子じゃないと分かっていてもなんか苦手な相手。「・・・好きになれなかった」この二人の関係は、このままでいいと思います。病人に国境はないカッコいいこんな鳥ガラBBAのセリフなのに一番響いたどこの国どこの人種そんなものは関係ない!人間は1つだ!コンプライアンス違反途中下車はただ?そんな考え方が通用するのか!?私が同乗者なら、絶対認めないスケールがデカい倉庫の飛行機を勝手に修理して木っ端みじんに壊す倉庫にあるのは、自転車でも加湿器でもなく、パパの飛行機ですよ!笑ってる場合じゃないですよ、あなた達。パティはデブか?データによるとパティ 身長156㎝/体重42㎏キャンディ 身長155㎝/体重45㎏※昭和52年なかよし漫画新聞6月号付録キャンディの方がおデブいや、二人とも全然デブじゃないなのに、パティをデブキャラ?で通すところがスゴイなかよし編集部・・矛盾を感じなかったのかもしかしたら、キャンディは筋肉女なのか・・犬も木から落ちるそもそも犬は木に登るものなのか?大型犬のミーナが「お父さんの木」に登り案の定・・・落ちる。そこで放たれるポニー先生の一言がスゴイ「ミーナさん、あなた、少し太りすぎですよ」木登りは、ダイエットしてからやりなさい、ミーナさん何故かステアが死ぬ死ぬ必要ありました!?※個人的な意見です死ぬのが絶対条件だったアンソニーとちがいステアの死って、完全に後付けですよね?戦争のリアルさを訴えるためにこんないい人を退場させちゃうんですよすごいわ、この漫画は。いい人でも死ぬこれが戦争テリィと別れるすみません🙇♀️🙇♀️🙇♀️別れるからイイんです少女漫画は 好きな人と結ばれるのがいわば王道しかしこの物語は、完全に読者の期待を裏切った。これはスゴイことです私は30年間『キャンディは若いんだから、恋愛なんてまたできる。テリィが全てじゃないさ』・・というような再起のメッセージとして受け取っていました。ええ、もう強引にそう世の中には男性が35億いるんです!※BYブルゾンちえみテリィだけが男じゃないキャ―――Tファン、物を投げないで~ご都合主義に走りがちな少女漫画にはない展開。原作者の力を感じます。テリィはキャンディと結ばれませんでした。テリィの優しさと責任感が、キャンディではなくスザナを選んだのです。カッコいいと思いますよ。スザナを適当にあしらってキャンディを選ぶテリィより遥かにカッコイイと思います。イイ男が涙を流しながら身を引く。万事思うようにはいかない人生のリアルさ読み手が色々考える・・・そのシナリオがスゴイ・・・とはいえ一部の大多数のファンはこんな状態に陥りました※TとTファンですしかし漫画終了から約30年後に発行された小説FINAL STORY(以下ファイナル)ではテリィはスザナの臨終まで傍にいて責任を果たしました。そしてキャンディにぼくは何も変わっていない下巻283積年の想いを静かに告白しました。カッコよさがグレードあっぷ30年以上、夢も希望も無かったTファンのみなさまファイナルに書かれている大人になった30代のキャンディの言葉を紹介しますキャンディを自分だと思って、読んでみてくださいあの日々、たくさん流した涙は、今はきらめくような美しい思い出になった。下巻199もしかしたら、アンソニーがわたしにテリュースを会わせてくれたのかもしれない・・・そう思ったこともある。ファンにとっては、実際そうですよね?だとしたら、あの苦しかった日々も何か意味があったのだ、と。下巻269みなさんの好きなシーンスゴイ!と思うシーンやセリフはどこですか?∻☆・∻☆…∻☆・小説Final Story復刊リクエストページはこちらへ『2024年5月7日更新 めざせ☆ FINAL STORYの復刊!』※2024年5月7日 内容を更新しました。小説キャンディキャンディFINALSTORY復刊を目指しています活動をご存知ない方は こちらをお読みくだ…ameblo.jpご協力お願い致します©水木杏子・いがらしゆみこ&リ○さん、画像お借りしました🙇♀️
今さら・でも―キャンディキャンディいつもアクセスいただきありがとうございますブログを最初から読む二次小説を最初から読む11年目のSONNET 目次Final storyの考察を読む草ネタを読むDear foreign CC fansアメンバー限定記事を読むアメンバー募集はこちら★ブログ主の日常ブログ「井戸端会議場」はココをポチ※井戸端会議はお休み中です表紙につき、このページのコメント欄は閉じていますが他は開いています。お気軽にコメントをお寄せください
キャンディキャンディ二次小説11年目のSONNETスピンオフ伝説の森・後編※前編はこちらです★★★薄暗くなってきたストラスフォードの森に、シチューの匂いが漂い始めた頃だった。「ママー!今ジェイが手紙を届けてくれたよ。アンディからだ。読んでいい?」「ロンドンから?いいわよ」次男ジュリアンは持っていたプラモデルを床に置き、キッチンにいる母親に向かって手紙を読み始めた。「――SOS!・・?・・ママ、SOSってどういう意味?」「SOSっていうのはね――SOS!?!!」キャンディは持っていたお玉を放り投げ、小さな手から手紙を奪取した。SOS!アイリスが大変なんだ!アンディ「電報、、緊急事態ってこと!?内容を書いてくれなきゃ分からないじゃない!」怒りまじりの懸念は、キャンディの心を一瞬でセントポール学院に跳ばした。(とにかく行かなきゃ、今すぐ!)エプロンを脱ごうと背中のリボンに手を掛けた時、「ぼく、お腹がすいたんだけど」その手を阻止するように、ジュリアンが結び目を抑えた。「ジュリアン、あなた何歳!?」「八才」「八才と言ったら十分大人よね!?」小さな肩に両手をのせ、説得するように声を掛ける。「・・・八才は子どもだよ」誘導尋問には乗らないジュリアン。「もうすぐパパが帰ってくるわ!ひとりでお留守番出来る!?」「できるけどイヤだ。ぼくお腹がすいた」「分ったわっ」キャンディはエプロンを放り投げ、鍋とジュリアンを抱えるようにジェイの後を追った。グレアム邸とは道路を挟んだ向かいにある管理人宅。けたたましく鳴る呼び鈴に、帰宅したばかりのジェイは慌てて玄関のドアを開けた。鼻息が荒いキャンディを見た瞬間、ジェイは訪問理由を察した。「ちょっと外出するから、この子を預かってちょうだい!これ、夕飯」早く受け取れとばかりにロボットのような動作で鍋を差し出している。「――いつも、どうも」鍋はキャンディほど熱くなかった。「・・テリィの兄きは?」「書き置きを残しておいたから大丈夫よ。ジュリアン、いい子にしてるのよ」キャンディはリンゴのような頬にキスをすると、玄関前で辻馬車を拾い駅へ向かった。「・・・まったく、君のママは相変わらず鉄砲玉だね」「ぼくお腹すいた」慣れた様子でジュリアンがテーブルについた。いつもは灯りがついている家の窓が真っ暗だった。「キャンディ?ジュリアン・・?」プラモデルのモーター音と蜂の巣箱のようないつもの騒音の代わりに、リビングで待っていたのは煮込み料理のかすかな匂いだけ。部屋の灯りをつけた時、テーブルの上の書き置きが目に入った。ロンドンへ行ってきます。キャンディ「ロンドンへ?・・・実家で何かあったのか?あいつはいっつも一言も二言も足りない!」テリィがイラっとした時、足元に落ちていた電報に気が付いた。「SOS?これか?キャンディは学院へ向かったのか?いったい何事だよ!、、アンディ、頼むからあと一行書いてくれよ」止めたばかりの車に再びエンジンをかけ、アクセルをふかす。一瞬冷静になった時、「・・ジュリアンを連れて行ったのか?」父親らしい側面が顔を出した。「いや、子供を連れていったら足手まといになる」妻と同じ発想を抱いたテリィはそれを確認すべく管理人宅へ向かった。「パパっ!」ジュリアンはプラモデルの組み立てを中断し、父親に抱きついた。「ジュリアン、ママはどうした?」「ママは――いい子にしていなさいって」「キャンディはどこかに行くって飛び出していったよ。はい、これ」ジェイはきれいに洗った鍋をテリィに渡した。「ご馳走様。兄きの分もあるよ。別の鍋に」ジェイは夕飯に感謝するように手を合わせたが、テリィは瞬時に鍋を突き返した。「鍋を連れて行っても足手まといになるだけだっ」テリィの頭もだいぶ混乱しているようにジェイには聞こえた。「今夜ジュリアンを頼んでいいか!?」(・・もう頼まれてるけどね・・)目が血走っているテリィに抗うつもりはない。「いい子だ、ジュリアン」テリィは小さな頭をポンポンと叩いた。「兄き、明日仕事は?RSCには連絡しなくていいの?」「明日は安息日だっ」休みであることを告げると同時に、くるっと踵を返した瞬間全てを忘れたように走り出す。「・・・やれやれ、どこに行くかも告げずに。あのマシンガン夫婦に安息日が訪れますように。アーメン」ジェイが十字を切るそばで、ジュリアンが勝手知ったる衣装戸棚からパジャマを取り出した。「ぼく寝たい」「寝ようかジュリアン」 窓にコツンと何かが当たった気がした。「・・・鳥?・・小石?」二回目の音で確信したのか、アンディは急いで窓を開けた。「かぁっ・・!!」「しっーーーアンディ・・」木の上にいる動物が母親だと秒で判断できてしまう自分は誇らしいのか残念なのか。「どいてちょうだい。飛び降りるから」バルコニーにスタッと舞い降りた華奢な体は、とても三十後半の身のこなしには見えない。「それで?何があったのよ!」キャンディはさっそくSOSの理由を問いただした。一言でいえば、アイリスはこの一週間部屋に閉じこもっているのだとか。「授業は?」「・・・出席してないって、同じクラスの子から聞いた」「つまり、二人でいるところを見つかって自室謹慎ってこと?そんなの反省室や学生牢に比べたら大したことないじゃない」母親の発言に、アンディの眉がゆがんだ。「・・・・母さんの基準ってさ」涼しい視線の息子に、キャンディは慌てて言い直す。「あ~ほら、宝くじは百ポンドより十ポンド当たった方が嬉しいっていうじゃない?つまり、あの子はそういう状態なのね?」「どんな状態??」母親の比喩は相変わらず分かり難いな、とアンディは思った。「それにしても、馬術部は何であんな厩に行ったのかしら!昼間から肝試し!?悪趣味ねっ」とんちんかんな八つ当たりをするのも母親の特徴。「・・新入生の恒例行事なんだってさ。温故知新――古きをたずねて新しきを知る、みたいな・・?」「何それっ、変な行事!」アンディも思った。「アイリスは自室謹慎じゃないよ。僕とアイリスが二人でいるのを見られて、姉弟だって説明しても信じてもらえなかったんだ。下手な言い訳だ、ってみんなに大笑いされて」「信じて貰えない?事実なのに?」「ぼくたち似てないからね。名前も違うしさ。カムアウトしたところで言い訳にしか聞こえなかったみたいで、今や僕たちの”仲”は、、伝説の再来だなんだと全校生徒に知れ渡ったって感じ」「・・・そんな」「でも、たぶん問題の根っこは違うよ。アイリスは、父さんと母さんのことがショックだったんだ」「私たちの?」「学院から駆け落ちしたって。・・僕は信じないけどね」そう言いながらも、アンディは母親の顔を正視することが出来なかった。「・・もしかして学院の伝説の話?」「そう。伝説になってる厩での・・あいびき」アンディの顔は真赤になっている。「――アイリスの部屋へ行くわ」次の瞬間、キャンディは何かを催促するようにアンディに手を向けた。SOSの手紙を送った時に、こうなる予感がしていたアンディは用意していた直伝のシーツロープを差し出した。「母さん、夜は飛ばない約束を父さんとしてたよね?」無駄だと分かっていても一応言ってみる。「黙っていればバレないわよ」言うが早く、白いロープは夜の森の中に消えた。「あれ?・・でも何故父さんが一緒じゃないんだろう?」嵐を見送った後に、ふと疑問が降りてきた。「――いや、絶対来る」そう思った瞬間、窓ガラスがバリンと割れた。「・・・来た」アンディが部屋に転がっている小石を拾った時、「悪い、手加減したつもりだったんだが・・」聞き慣れた声がベランダから聞えた。「父さん!一足違いだったよ。今、母さんが」「・・チっ、飛んだのか。で、SOSって何だ?」速攻バレている母親の素行。黙っていてもバレるのが夫婦というものだろうか。アンディはつい先ほどした説明をもう一度繰り返した。「つまり籠城か?・・・部屋でいじけるぐらいなら、町へ繰り出して発散すればいいのに」「・・・父さん・・」明らかに不信感を向ける息子の目に、テリィは慌てて父親の威厳を示した。「 ” 実際に学ぶことができるのは、現場においてのみである ”――ナイチンゲール」「・・・現場が違うと思うけど」キャンディの影響でナイチンゲールもイケるようになったテリィだったが、名誉挽回には遠い空気。「母さんが心配だ。早く行ってあげて」微妙な空気をアシストするような息子の言葉に、テリィはバルコニーから飛び降りた。「あ!父さん」「なんだ?」「十月祭の招待状届いた?来てくれる?」「――仕事のオファーが入った」「安息日にまで仕事をするの?」「まったくだよな。前向きに検討するよ」テリィは片手を上げながら女子寮の方へ走って行った。勉強するでもなく机に向かいぼんやりしていたアイリスは、「いたぁ~」という声が外から聞こえ、我に返った。「ママ!?」バッとカーテンを開けると、母親がバルコニーで尻もちをついていた。「な、、何をしてるのママ!」「何って、当たり前でしょ!?」「静かに、ママ!見回りがあるのよ」そうだった、とキャンディは慌てて口に手をあて息を殺した。娘の背後には、二十年以上前に自分が使った懐かしい家具が見えている。(・・・変わってない)「ママ、、どうしてここに?」心配性の娘は、緑色の瞳を母親に向けた。キャンディは大きく息を吐いてから意を決したように言った。「・・・学院時代のパパとママの噂を聞いたのね?」返事をしないアイリスを見て、全てを話そうと悟った時、「・・キャンディ」いるはずの無い人物が、カーテン越しから現れた。「テ、テリィ!何をしているのよ、こんな所でっ」「それは俺のセリフだ」「ここは女子寮よ!あなたが居ていい場所じゃないわっ」「そういう問題じゃないだろ。ったく、手続きすれば、正々堂々と面会できるものを」「窓から入って来たあなたが言う?」「朝まで待てるかっ」延々続きそうな気がしたアイリスは「二人とも、、もう少し・・」と開いた両手を上下させ、両親にクールダウンを促した。三人は部屋の真ん中に向かいあうように座ると、しばらくの間沈黙が続いた。「・・・何を聞いたんだ?」「――夜の厩で・・夜な夜な」「ありえない」「・・でも、ロミオとジュリエットだって、十四才と十六才で結ばれて・・」テリィとキャンディは一瞬顔を見合わせた。「夜の厩でママとそうなっていたら、君は十二才じゃない。二十歳をとっくに超えている」「テっテ、テ、、、、、テ、、、」キャンディは口から泡が出そうだった。「ママと結婚した十三年前に君たちを授かった。それまでは・・会うことも叶わなかった」真実を語る時はやけに口数が少なくなる父親。嘘をつく時はやたら目が踊りまくる母親。そんな母親がじっと父親を見つめている。「・・・パパ、ママ・・」アイリスには語られたことが真実だと分かった。「――じゃあ、駆け落ちは?学生名簿にママの名前が無いのは何故なの?」「退学したんだよ、やりたい事があったから。パパは役者の道へ、ママは看護の道へ。道が見つかった者には、学院の教育は無駄に感じた」テリィの説明はちょっと違うな、と思いながらもキャンディはテリィに説明を預けた。退学のきっかけになったイライザの意地悪など、娘に話す必要はない。「 ” 実際に学ぶことができるのは、現場においてのみである ” ナイチンゲールの言葉よ」まさかの同じ言葉のチョイスに、テリィは思わず苦笑した。「・・本音を言えば卒業までいたかったが、あの時そうすることがママに示せる精一杯の愛だった」「それが学生だったパパの愛し方・・?」「ああ」「厩で愛を育てたんじゃないのよね?」「厩で育てたのはスウィート・キャンディの苗だけだ。な、キャンディ?」テリィはキャンディを見つめ、同意を求めるように目を細めた。「・・・そ、そんな感じよ」キャンディはコホンと咳ばらいをした。「――アンディと姉弟だって言っても誰も信じてくれなかったの。私、信用されてないのかな・・」アイリスを悩ますもう一つの問題を夫婦は思い出した。今度は同性として、母親の出番だった。「信じて欲しいと思う人にきちんと伝えることが大事だと思うわよ。あなたって壁を作りがちな性格だから、誰かさんに似て」「信じて欲しい人・・・」「ちゃんと説明して分かってくれる人が親友よ。分かってくれない人がいたら、その人は」「その人は?」「――猿以下よ」(ブっ・・・・)笑っちゃいけない選手権でもやっているのか、というムードになって来た。コンコンッ話し声がバレたのか、「消灯時間は過ぎていますよ」見回りのシスターがドアを叩いた。(いくぞ、キャンディ)(・・じゃあね、また十月祭で!)アイリスは、伝説の森の中にコソ泥のように消えていく両親の後ろ姿を静かに見送った。――来てくれてありがとう。パパ、ママ・・・「どうしたのです。こんな夜中に」窓を全開にしてバルコニーにいる生徒を不審に思い、シスターはいぶかし気に言った。「こ、今夜は月がきれいですね、シスター・・・・」「・・・泣くほどですか?」光っているアイリスの瞳に気付いたシスターは思わず空を見上げた。幸いにもその夜は中秋の名月で、まるでアイリスを励ますように輝いていた。月を味方につけたアイリスが翌朝向かったのは、フェリシアの部屋だった。「お、おはよう・・」「アイリス!体調はどう?今日の日曜礼拝には出られそう?」「あの、あのね、アンディ・ウィリアムは私の――」「弟さんでしょ?」「信じてくれるの!?」「もちろんよ」「で、でも、私たちは顔も似て無いし名前も違うし、、それでも?」「・・・信じるわ。だってあなた達そっくりだもの」「そっくり!?私とアンディが?」にわかに信じがたかった。そんな事を言われたのは初めてだ。「図書館でね、あなた達を見掛ける度に不思議に思っていたの。愛読書はシェークスピアと生徒名簿。そんな生徒が他にいて?」「そ、、そうね。い、いない・・かも」(・・不甲斐なし。穴があったら入りたい・・)「それにね、イニシャルかしら」「イニシャル?」「同じでしょ、A.W.G。あれはきっと、双子を生んだ両親の愛情なのかなって。スペルがIrisではなくAirisだから」アイリスはハッとした。考えたことも無かったからだ。「アンディさんのノートにもA.W.Gと書いてあるのを見たことがあるのよ。Gがファミリーネームよね?」アイリスはあんぐりと口を開けてしまった。同じ環境で育ったからこそ出てしまう癖――「あなたの欠席が続いた時、図書館でアンディさんにあったの。その時に姉弟だって聞いて、腑に落ちたのよ」「あは・・・ははは・・・」凛としていたアイリスの顔が崩れた。「エリザベスもあなたを庇っていたわよ」「――リズが?」「男女の双子で間違いないって、みんなに伝えていたわ」「リズが何故??あの場所にもいなかったのに・・」「さあ?・・でもきっと、エリザベスは何でもご存知なのよ」フェリシアはその理由で納得しているようだった。「最後にあなたに会えなかったことを、とても残念がっていたわ」そう言われて、エリザベスの三週間が昨日で終わっていたことに気が付いた。「・・お礼を・・言いたかったな」返せない借りを作ってしまったことにアイリスが肩を落とした時、「彼女にはまた会えるわ!だって未来の女王様ですもの!」フェリシアはぎこちないウインクをとばした。眼鏡の奥のアーモンド色の瞳と初めて目が合った気がする。「あ、あの、、休んでいた間の一週間分のノートを写させて、、あっ!ダ、ダメね。黒板が見えないのよね」「いいえ、バッチリ!あとでお届けするわ」「――えっ、男子寮を眺めて視力が回復したの!?」(ワトゥシ族!?)「まさか!以前、『私の席を使って』っておっしゃっていたから、遠慮なく使わせてもらいました」許してね、とフェリシアは両手を合わせた。「――ねぇ、礼拝が終わったら、お部屋に遊びに来ない?」重なった声と同時に友情は始まった。キャンディとパティが、かつて友情を育んだこの場所から。「おはよう、パパ、ママ。ぼくいい子にしてたよ」よく食べてよく寝たジュリアンは、早朝迎えに来た両親に元気に挨拶をした。夜を徹してロンドンとストラスフォードを往復したテリィとキャンディは疲労困憊で、洗われた鍋の中に入っている車のプラモデルを見ても反応する気力がなかった。「ママ、SOSの意味を教えて!」「・・・SOSはね、Save Our Sleep(睡眠を守ろう)よ・・・」ママは赤い目をこすりながら答えた。「・・・異存はない」パパも大きなあくびをしながら言った。(完)おまけ10月祭会場 :セレモニーホールゲスト:俳優テリュース・グレアムテーマ:現場で学べ~噂に惑わされるな※前向きに検討した結果、テリィが受けた仕事。。。。。。。。。。。。。。ワンポイントアドバイス後に女王になるエリザベスの誕生日は1926年4月1926年8月生まれの双子たちとは同級生です。エリザベスが「アイリスとアンディは男女の双子」だと知っていた件について1月26日のシャ○ームマム様へのコメ返で回答しています。伏線は貼ったつもりですが、スッキリしていない人は覗いてください。マニアックな方への解説作中の中秋の名月は1938年9月24日(土)です。
※ソネット本編終了後のお話です。時系列では、スピンオフ「おめでとう2」の次です。復習されてからの方が理解が深まります。11年目のSONNETスピンオフ伝説の森★★★「――長い歴史と伝統、多くの偉大な先輩方を輩出しているこの学院で、たくさんの事を学び成長していきたいと思います。新入生代表アイリス・ホワイト」礼拝堂に響くハンドベルのような心地よい声。入学試験を首席でパスした者に与えられる特権、入学式典での答辞。今年は見目麗しい女生徒が選ばれたとあって、誰もがその名前を一瞬で記憶したに違いない。しかもその生徒には他にも注目される理由があった。「――あの子、特別室なんですって」「・・まぁ、どんな家柄なのかしら」ステンドグラスの光を浴び、栗色の艶やかな長い髪をなびかせて壇上から下りる姿を目で追っている生徒たちから「アイリス――虹の女神ね」羨望の声が上がっている。しかし後方の上級生たちの目は、明らかにそれとは違っていた。「――特別室?その内不純異性交際で学院から去ることになる」「いや、一ヶ月で部屋を移る方に賭ける」よこしまなささやきを拾えるはずもなく、アイリスの耳に届いたのは隣の生徒の声だけだった。「素晴らしかったわ。私は寮の――」「――私語は厳禁です」そっけない返事をするアイリス。その立ち居振る舞いは父親そのものと言っていい。DNAというのは恐ろしく、隠しても隠し切れないほど明確なモノがアイリスには備わっていた。それでも自分の出自を隠したかったのは、父親が有名人だったからに他ならない。(・・俳優の子供だと言われるのはもううんざり。まして貴族だってバレたらどんな特別扱いが待ち構えているか。あ~いやだ、いやだ)家族の事は口外しない。グランチェスターのファミリーネームは名乗らない――それが入寮にあたりこの家族と学院長との間で交わされた密約だった。その時のことを学院長シスター・クライスと話し合った時のことも覚えている。『公爵家のご要望とあらば仰せの通りに』二つ返事だったのは、やはりこの学院とグランチェスター家に歴史的な癒着があったからだろう。――ばらはどんな名前で呼んでもばらだ。そんなシェークスピアの影響もあってか、父親はどんな名前で在籍しようと特段反対する理由は無かったようだ。『特別室は空いていますか?』とアイリスが訊いた時、『もちろん空いています』と言いながら、父親と母親の方をチラッと見たシスター・クライス。わずかに下げた眉の意味を誰かが読み取っていれば、入学後アイリスに降りかかる事態は違っていたのかもしれない。母親が青春時代を過ごした同じ部屋をどうしても使いたかった。もしかしたら、運命の人との出会いが待っているかもしれない。そう考えてしまうのは、理想的な両親の姿を見ていたから。一方、弟のアンディは特別室にはこだわらなかった。しかし双子の子供たちを平等に扱うのをモットーとしていた両親は、今回も同じ環境を与えることを選んだ。(・・・はぁ、、どうやったらアンディに会えるかしら。共有スペースですれ違うことがやっとだわ)木立の向こうにわずかに見える男子校舎を恨めしそうに眺めていたアイリスは、入学して五日目ついに解決策を見出した。(共有スペース・・――図書室!?)さっそく昼休みに行ってみようと内心小躍りした時、「ビッグニュース!王室の子がこのクラスに来るんですって!社会体験とかで三週間!」息を上げながら生徒が教室の中に走って来た。(王立の学院に王族が来ることのどこが驚きなの?)アイリスが俯瞰するように席に着くと、シスターに連れられた噂の人物が教室に入って来た。ミント色だった空気が一瞬でばらの香りに包まれる。「エリザベスです。リズって呼んでくださって結構です。短い間ですがどうぞ宜しく」宮廷の奥に十人以上の家庭教師を従える珠玉の王女の気高さは目を見張るものだった。(・・リズと呼べと言われて呼べる庶民がいる?呼ばないと機嫌を損ねる?)クラス中が密かに頭を抱えたことも察せずに、シスターは続けた。「エリザベスの席はそうね・・・アイリス!クラス委員のアイリスの隣でどうかしら?」年度初めの席順は寮の部屋と同じ並び。特別室を使うアイリスが一番前の窓側の席。その隣の席は隣室を使うフェリシアだったが、シスターはフェリシアに退くように指示し、一番後ろの席を指さした。「待ってくださいシスター!フェリシアは目が悪いんです。後ろの席に行くのは」「大丈夫よ、アイリス。その為に眼鏡があるんですもの」フェリシアはべっ甲の眼鏡を触りながらそう言うと、エリザベスに会釈をし席を譲った。授業が終わって間もなく、フェリシアが遠慮がちに話しかけてきた。「・・ノートを写させてくれない?黒板の文字がよく見えなくて」「眼鏡は?」「度数が弱いみたい。部屋にはもう一つあるから明日からは大丈夫よ。先ほどは私を庇ってくれてありがとう」読書好きのアイリスがそうすると分かっていたのか、まるで示し合わせたようにくせのある金髪を図書室で見つけたのはこの日の昼休みだった。アイリスは本棚から幾つかの本を適当に選ぶと、ごく自然に少年の隣に着席した。弟の鼻のそばかすがまだ消えていないことを横目で確認すると、少しホッとする。(やっぱり来たね)(・・・会話は禁止よ)(分かってる)(にせポニーの丘に行ってみたいの)(母さんに地図を描いてもらったから、放課後探してみる)周りから見えないように秘密の手紙―メモーを慎重に渡す。ただでさえ首席入学のアイリスは注目の的。男子と女子の会話は厳禁なのだ。たとえそれが姉弟であっても。そもそも、今や共通するファミリーネームを擁してない二人が姉弟であることに誰が気付くだろう。母親似のアンディは、大人びている姉とは髪の色も目の色も違うのだから。日に日に二人の小細工は手の込んだものになっていった。いつも隣の席にいるのは不自然なので、向かいに座ったり、ある時は本棚を利用して手紙を渡したり、手紙を挟んだ本をわざと落とし、阿吽の呼吸で相手に拾わせ渡すこともあった。(・・・エリザベスがクラスにいるってほんと?)(・・そうよ。陛下の戴冠式で会ったことは覚えてないみたい)(親戚と云っても一瞬挨拶を交わしただけだからなぁ。寮に入ったのか?)(いいえ、宮殿から通ってる。私が特別室を使っているって知ったら、どこの家柄なの?って聞いてきたわ)(なんて答えたんだい?)(ごく普通の家庭ですって。もう百人に同じ言葉を言った気がする)「(宮殿と云えば、父さんが陛下の吃音のちりょ――)あ、、と、失礼」次の手紙を渡そうとアンディがわざと落としたノートだったが、タイミングが悪く他の生徒が拾い上げてしまった。「――あら・・?」「あ、ありがとうございます、レディ!」アンディは慌ててノートを奪い取り、作り笑いをしてみせた。(・・挟まっていた手紙を見られたか?)「どういたしまして」その女生徒はアイリスの隣の席に座り、小声で話しかけてきた。「――ねえ、あなたの部屋は」「まだ荷物が散乱しているの。きちんとおもてなし出来ないから、ごめんなさい」特別室を覗きに行きたい、という興味本位の質問だと先走って答えたアイリスは、ププっと口元を抑えるしぐさと飴色の眼鏡に気付きハッとした。「あなたの部屋は私のお隣ね、って言いたかったの。宜しければ今度あそびに来て」おっとりした口調でフェリシアは言った。「・・眼鏡、変えた?」丸いフレームは以前と変わらないように見える。「視力を変えようと頑張っているわ。スペアの眼鏡の方が度が弱かったみたい」「なっ、、シスターに言って、席を戻してもらったら!?」思わず立ち上がったアイリスに、周りは一斉にシーっと指を立てた。「――言いにくいなら、私がシスターに」「エリザベスの体験期間が終わったら、戻してもらえることになってるの」「なら、それまでは一番前の私の席を使えばいいわ」「・・エリザベスに余計な気を遣わせたくないから」隣室のクラスメイトはずいぶんお人よしだな、とアイリスは思った。「・・・遠くの景色を見れば、視力は回復するそうよ」――だからワトゥシ族の視力は8.0なんだよ、アイリス。祖父アルバートから教わった事をとりあえず伝えた。男子校舎を眺めて回復するとは思えなかったが。(1913年度の生徒名簿は?)(父さんは載ってたよ。でも、母さんは・・・)(1914年度にも載ってなかったわ)図書室に通い詰めて五日後、二人はついにこの疑問にぶち当たった。――キャンディス・ホワイト・アードレーは本当に在籍していたのか?どの年度の名簿にも、写真はおろか名前さえ載っていない母親。この学院で両親が恋に落ちたことを夢見て入学した子供たちにとって、――もしかして、食堂のおばさんだったのでは?そう勘繰りたくなるのは当然だった。「あなたって、アンディ・ウィリアムと仲が良いのね。お付き合いしているの?」来るべくして来た質問をアイリスにしたのは、自習時間に暇を持て余したエリザベスだった。特別室を使う二人が同じ時刻いつも図書室に揃っている偶然に、疑いを持つ生徒がいてもおかしくはない。「あなたが彼に手紙を渡すところを見たわ」ギクっとしながらも、持ち前の機転の速さでその場を取り繕う。「十月祭のパートナーを探しているの」「ああ!来月の十月祭ね。私は参加できないけど皆さんは大変ですこと。男子とはおしゃべりも禁止なのに、ダンスのパートナーをどうやって探すのかと思っていたの。あなたなら、そんなさもしい事をしなくても相手から申し込みがあるのではなくて?」「・・・さもしい?」この学院には五月と十月に大きな催しものがある。祭り色が濃い五月祭と違い十月祭は文化活動の発表会で、著名人による講演会なども行われる。夜の舞踏会のパートナーは、部活動の上級生の力を借りて探す生徒も多かった。「そうね、リズはパートナーに困ることは無いわね。たとえそれが結婚相手でも」「――リズ?」驚いたようなエリザベスの表情を見て、後ろの席の生徒が語気を強めた。「失礼よ、アイリス!」「そう呼んで欲しいって言ったのはリズの方だわ」「だからってっ!」常に取りまきに囲まれているエリザベスと違い、アイリスには一匹狼的な気質があった。「アイリス・ホワイト・・・以前どこかでお会いしたかしら?」「そうね。お会いしているわ、王女さま」王位継承権第一位のエリザベスは、その返答が公私どちらに向けられたのか分からなかった。横から縦の世界へコミュニケーションが広がる頃、新入生はある伝説を耳にする。学院生活が二週間過ぎた頃、その伝説はアイリスとアンディの耳にも入った。「・・・貴族の男子とアメリカの成金女子って、父さんと母さん・・じゃないよな?」地図を頼りに探し当てたにせポニーの丘で初めて行われた家族会議は、疑惑の言葉から始まった。「テリィとキャンディなんて名前、他に誰がいるのよ!しかも特別室の住人ってことも同じだわ」「伝説は語り継がれている内に変化するものだよ」「馬小屋で夜な夜な会っていたのは、、、事実かしら?」「・・・・アイリス、今変な事を考えていた?」嫌悪感を示すような姉の表情にアンディは気付いた。「不純だわ、パパとママっ」「・・・何かの間違いだよ」「じゃあ、名簿はどう説明するの!?駆け落ちしたから除名処分を受けた、ってことじゃないの!?」「除名って、せめて退学処分とか他に言い方は」「退学処分になる親なんて恥ずかしすぎるわっ、私は―――」切羽詰まっているような姉の顔を見て、アンディは話題を変えようとスッと立ち上がった。「――この丘、すごい場所にあるよね。こんな敷地の端っこにある小高い場所に、わざわざ昼休みに来る生徒なんかいないよ」「・・ほんと、上るのも必死のパッチ」「それ、西の方の言葉らしいけど、レディが使ったらシスターに叱られるよ」「いいですか!?正しい言葉遣いは、正しい精神に繋がります」鼻をつまみながらシスターの真似をするのは、母親直伝だ。「今朝のお祈りはいつもの倍です!」アンディが続ける。お祈りを罰のように使うのが、この学院の伝統だということも聞いている。「二倍の刑はまだ食らって無いわ」二人は顔を見合わせて、プッと吹き出した。丘を超えた奥に、脱走できる高さの石の塀があることも、シーツロープでターザンすればシスターに見つからずに移動できることも入寮前に習ったが、両親は決まって最後にこう言った。『やっちゃダメよ』『やってはいけない』なんと説得力がない言葉だろう。「父さんと母さんは、ここで毎日のようにおしゃべりをしていたんだろうなぁ。薄暗い森の中の小屋なんかより気持ちがいい。そう思わないか?」遠くに見える校舎の上に広がる秋の高い空。アンディが胸いっぱいに空気を吸い込んだ時、昼休みの終了を告げる予鈴が遠くから聞えた。「急がないと間に合わない、アイリス!必死のパッチだ」「紳士も使っちゃダメなのよ」「じゃあ、いったい誰が使うのさ」「西の人」笑いながら丘を駆け下りる二人は同じことを考えていた。(父さんたちもきっとこんな風に・・・)実際のところ、父親が走って校舎に向かった事など一度も無かったのだが。「ブルーリバー動物園を貸し切りですって?さすがエリザベスだわ!」教室では相変わらずエリザベスの周りに取りまき達が群がっていた。「いっそ動物園をウィンザー家で買い取ったらいかが?世界中から動物が集まるわ」いかに大げさに褒めるかもレディに求められる条件なのだ。「白黒のまだら模様の熊が見られるそうよ」エリザベスが自慢気に言うと、取り巻きの一人がウットリするような声を上げた。「知ってるわ、そのニュース。新聞で読んだばかりよ」「皆さんも外出できるように院長に頼んであげる。貸し切りは午前の半日だけなの」「ご一緒させて頂くわ!」「なんて光栄なんでしょう」どうやら明日の日曜日、このクラスの生徒は誰一人いなくなりそうな予感。「――あなたも視力回復を試みているの?」外の景色が最高の友人とばかりに背中を向けているアイリスの横に、フェリシアは並んだ。「一緒にまだら模様の熊を見に行かない?」「・・パンダには、興味が無いの」アイリスは遠くを見たまま答えた。「だから今朝の日曜礼拝には、女子が少なかったのか。集団ストライキかと思ったよ」丘の草の上に寝そべりながらアンディは茶化した。「こう規則が厳しいんじゃ、ストライキもしたくなるわね」「言えばよかったのに。ブルーリバー動物園の経営者はウチだって。その内私が継ぐんです!って」「それじゃ、アードレー家の人間だってバレちゃうじゃない。それに私は継がないわっ」戦争で経営状況が悪化した動物園に救いの手を差しのべたアルバートさんが、東の国から珍しい動物を迎え入れたのはつい最近のこと。先行独占公開で見たパンダはかわいかったが、詳しすぎる祖父の説明や、猿に異常な関心をよせる両親の態度の方が、よほど記憶に残っている。「”イニシャルがAの者には継ぐ資格がある”ってアルバートさんはいつも言ってる。今日だって動物園にいるんじゃないか?会いに行けばよかったのに」「イヤよ、まるで集団遠足のような状況なのよ?王女にガイドをするのは園長のアルバートさんだわ。またパンダの出産秘話から聞きたいと思う?」「集団遠足・・・・そうだ!今がチャンスかも」「チャンス?」「例の、厩の場所が分かったよ。馬術部が使っている厩とは違うんだ。母さんが描いた地図の意味がようやく分かった!」「ママが馬小屋の場所を描いていたの?」「学院の森の地図に、小屋のような建物と一緒に、豚のような動物が書いてあって、たぶん馬を描いたつもりなのかな、って昨日気付いたんだ。あれ、豚小屋じゃなくて馬小屋だよ!」「・・・ママって絶望的に絵が下手よね」「母さんのダメ出しは後回しにして、行ってみないか?何か残っているかもしれない」「・・愛し合った形跡?」少し皮肉めいた口調でアイリスは言った。「――まだ決まったわけじゃないよ」藁が散らばり、屋根はところどころ朽ち堕ちていた。無数の蜘蛛の巣が行く手を遮りアイリスは入口から動きたくなかったが、壁に掛かった鞭に気付いたアンディは枝で白い糸を払いながら奥へ進んだ。「――父さんの名前だ、間違いない。ここが例の厩だ」「ここで・・・夜な夜な逢引きを・・」ほこりまみれの父のイニシャルを確認したアイリスの顔が嫌悪感で歪んでいく。その時だった。カサカサと葉っぱを踏むような音が聞こえた。大勢の足音が乾いた小枝をパキパキと鳴らしながら近づいて来る。「・・・この厩?・・」その声と同時に、蝶番の壊れた入り口の扉が鈍い音を立てゆっくりと開いた。ギギギ・・・・(ダメだ!間に合わない!)――逃げられない「――あなた達、ここで何をしているの!?」厩の中には、特別室の二人が肩を寄せ合うように立っていた。つづくんです後編へ。。。。。。。。。。。。。。。ワンポイントアドバイス特別室の位置について漫画やアニメでは、2階の中央付近に位置していた特別室ですがファイナルでは『廊下の行き止まりに、他より大きな扉』上巻258 が特別室だったと書かれています。つまり角部屋(一番端)と解釈しました。アイリスの席順が一列目の窓側なのはその為です。この物語は1938年9月です。この年、ロンドン動物園にパンダがやってきました。必死のパッチ関西方面の言葉で「必死にやる」という意味だそうです。作中の「西の方」は「ウェールズ」だと思ってください。ワトゥシ族について詳しくは『渦の中の再会・エピローグ4-7』をご覧ください。
フォロワーのゆ○さんに言われてハっと気付いたことがあります。ああああああああ・・・相変わらず浅い人間です、私は皆さんは、とっくにお気付きかもしれませんが記事にしたいと思います。○ゆさん、いつもありがとうございます🙇♀️NYのテリィとシカゴのキャンディは文通していました。スザナに隠された手紙もありましたが、それは劇団宛ての手紙。※下巻218テリィのアパート宛てに出した手紙は、無事に届いたはずですよね?手紙の束は、今は象嵌細工の宝石箱の中に収められているとファイナルには書かれています。名木田先生は二人の文通内容を一切秘密にしています。このような文章が初期の小説版の『あとがき』に載っていますし。キャンディの手紙のたばの中に水色のりぼんがかかったのがあって、これはないしょ、とみせてもらえませんでした。たぶん、昔、テリィからきた手紙ではないかしら。※昭和54年発行・小説キャンディキャンディ3巻182名木田先生は、アルバートさんとキャンディの文通の内容は包み隠さず見せてくれているのにテリィとキャンディの間で交わされた内容は、キャンディが内緒と言ったから、という理由で、まったく教えてくれません。ケチっ・・なんでもありません・・・・・己の想像力で補います・・・でも、実はファイナルには、チラッとその片鱗が見える箇所があるのです。でも、テリィはたくさん手紙をくれましたね……忙しいのに。宛て名はいつも、ターザンそばかす――。からかうようなことばかりで、もっとロマンチックな手紙が欲しかったけど、でも、心のうちは分かっていたつもりです。からかいながらもやさしさと思いやりにあふれた手紙― 下巻275ふむふむ・・キャンディをからかいながらも、「すきだ!!」が駄々洩れの手紙だったみたいしかもたくさん送ったって旧小説まではこんなことになるなら、わたし、もっとテリィに手紙を出しておけばよかった、貰っておけばよかった 復刻版517などと後悔を口にしていましたが、ファイナルでは増量されたみたいですん?宛て名はいつも、ターザンそばかす――。テリィは「ターザンそばかすへ」と書いていたようですね?5通出しても10通出しても、常に「ターザンそばかすへ」なのね?だからなのかキャンディはいつも「ターザンそばかすより」と署名していたっぽい。だって、キャンディがテリィに書いた2通の手紙は、両方「ターザンそばかす」と署名しているから。これは『出さなかった手紙』です。テリィがどこにいるのか分からなかった時に書いた手紙と、別れた後に書いた手紙です。とてもシリアスな手紙なのに、『ターザンそばかす』が妙に不釣り合いだなぁ、と違和感はあったのです。しかし私は浅い人間なので深く考えていませんでした。キャンディはいつもこう署名していたから、『出さなかった手紙』でさえ、そう書いたのかな・・泣ける~キャンディ、テリィが付けてくれたあだ名が大切だったんだね。サルでもマントヒヒでもコモドオオトカゲでも、きっとなんでも嬉しいのね。じゃ、テリィは何と署名していたと思う?そうT・Gだったんじゃないかな、と気付いたんです。ご存知の通り、スザナ亡きあとテリィがキャンディに出した手紙の差出人はT・Gでした。何故いきなりイニシャル?手抜き?素性がバレないように?・・などと私は考察していましたが、違う違う当時からテリィは、T・Gと書いていたのかも。だって「ぼくは何もかわっていない」んですよ。だから署名も昔のままのはず。当時のテリィはストラスフォードの新進気鋭のスターでキャンディは聖ヨアンナ病院の看護婦寮に住んでいました。封筒にフルネームを書いたらバレちゃうよねT・Gが、テリィにとってテリュース・グレアムだったのかテリュース・グランチェスターだったのかは分かりませんがとにかく、二人は二人にしか分からない秘密の呼び名で文通していたのではないでしょうか。それがターザンそばかすとT・G名木田先生は、二人の秘密をちょっとだけ教えてくださっていたのですね10年振り(?)にテリィの手紙を受け取ったキャンディは文面もさることながらT・Gの署名を見た時、涙があふれたんじゃないかな。©水木杏子/いがらしゆみこ 画像お借りしますついでにキャンディが他の手紙にどのように署名していたか調べてみました大おばさまやアードレー家関係者にはフルネームで署名。親しい人には、ちょっとおどけたパターン。飛び上がって喜んでいるキャンディたぶんケチ?なキャンディ泣き虫キャンディ『あなたの美しき養女』と、アルバートさんへの手紙で署名した以外は『キャンディ』か『○○キャンディ』と書いていました。また、他の登場人物もしっかり自分の名前を署名しています。1箇所だけアルバートさんが『バート』と自分の愛称を用いています。ターザンそばかすとT・Gどうやら、この2つだけが特別扱いのようです。手紙の内容が分からなくても、二人の秘密が分かっただけでハッピー宜しければこちらもどうぞ『考察⑤ テリィの手紙1』キャンディの「今」をろくに調べもせずに出したようなテリィの手紙の文面。短いながらもテリィらしさ全開の文面は、突っ込みどころ満載です。再現度100%の全文に登場…ameblo.jp
Dear foreign CC fansWarm Welcome.It is one of Candy Candy fan sites in Japan.(❁´◡`❁)There are many fans reading this site and is packed with a lot of information.Unfortunately, Japanese Language is difficult, thus I think that even if you use an automatic translation function, the sentences on my blog will not be translated correctly and will not be conveyed accurately.(ノД`)・゜・。Thus, I prepared a simple English version for you, so that you can at least see theCC considerations.(`・ω・´)ゞIf you are interested, please click here ↓『The MostDreamless CCFSTheoryin the World』The MostDreamless CCFSTheory in the World.*CCFS is for abbreviation ofNove…ameblo.jpJapnese version, please click here ↓『苦手な人の為の1ページ考察』長い考察が苦痛な人の為に、要点だけをドライにまとめた「あのひと考察・総集編」です。※2010年発行の「小説キャンディキャンディFinal story」を、「フ…ameblo.jpTranslated by Cathlynnthank you for your cooperation.
P・S テリィ......好きでした。これは、別れたテリィに書いた(出さなかった)手紙の文末に添えられた言葉です。下巻277この言葉は過去形なのでテリィのことはもう好きではないテリィを諦めたと捉えるも良しテリィを必死で忘れようしているテリィがまだ好きなのね・・と捉えるも良し各々想像力が発動するスレーズだと思います。なのでこの言葉を深追いするつもりはございません今回注目したいのはこの言葉の位置です!!あ~・・とっくに気付いていたあなたは神です私は考察を30ページも書きながら、全く気付いていなかった浅はかな人間です。のーてんきな奴です。外国人のEleannaさんに質問されるまで、ミリも考えたことはなかったです・・と懺悔はこの位にしてまずは原文をご覧くださいターザンそばかす という署名の前に P・Sの文章があります。しかし本来外国において、P.S.は署名の後に来るものらしいです。なのになぜこの位置なのか?名木田先生は日本人だから、うっかり間違えた――・・と思いますか?あまーーーーーーい!!実はファイナルには、他にもP.Sを使った箇所があるのですが・・全て署名の後にP・Sがある(正式な使い方)のです。しかも!!!旧小説でも、「......好きでした」は署名の後(正式)でした。つまり、ファイナルでは敢えて変更したことになります。・・・・意図があるようです。 何故か泣く・・いったい先生は幾つこのようなご自分だけの世界をファイナルの中に仕込んでいるのか・・・ 疲れ切っているちなみに、初期の本にはその文はありません皆さんのご意見を伺いたくて、記事にしてみました皆さんのご意見を参考に 結論が出たら ココに書きますねご意見、お待ちしています【8月21日加筆】たくさんのご意見、ありがとうございました。🙇♀️🙇♀️🙇♀️さすがファンの皆様は、考えることが概ね一致しているようでした。頂いた声をまとめてみました。本来P.S.(追伸)は本文に入れ忘れた事や本文とは関係ない事を伝える役割で、署名の後とされる。ファイナルに登場する手紙は、テリィへの手紙以外、全てこの形式を守っている。仮に署名の後ならば、「テリィ……好きでした」はいかにも言い忘れた事を付け足したような軽い印象を読者に与えてしまう。だから名木田先生はファイナルを執筆するにあたり、その位置を見直した。署名の前、本文の最後にすれば、キャンディが一番伝えたかった事、最後にどうしてもテリィに伝えたかった事になるからだ。キャンディの手紙には、テリィの役者としての活躍を喜び、スザナとの幸せを願う文言が並んでいる。かつてキャンディの手紙を隠したスザナに対しても「スザナはすてきな人です」とまで書いている。スザナはすてきな人です。何よりもあなたを愛し続けていることが、すてきです。そして、そんなスザナを選んだテリィ、あなたも・・。下巻277かなり無理をし、自分の本心を偽っている印象を受ける。そして手紙の最後の方になって、よくやく自分の気持ちに触れている。次の文は、テリィを追ってサザンプトンの港へ追いかけていくキャンディの心の声。そう――自分はまだテリィに打ち明けてはいないのだ。――あなたが好き、と。とてもとても好きなのだ、と。下巻138結局テリィに気持ちを伝えることが出来ないまま、二人は別れてしまった。だから、最後の最後に、密かに告白をしようとした。しかし、今でも好き、とは書けなかった。何故ならテリィにはスザナがいるから。今さら言ってもどうしょうもない、こんな気持ちは終わらせなきゃいけない、という葛藤や諦めの気持ちが、P・Sや過去形に表れている。自分しか読まない、出せない手紙と分かっていても、それでも尚、自分の心をごまかしながら切ない愛の告白をするキャンディ。キャンディの謙虚さや健気さ、テリィが今でも大好きなのだと伝わる一文だと思う。↓小説版キャンディキャンディ・ファイナルストーリーの復刊運動ページです。『2023年6月17日更新 めざせ☆ FINAL STORYの復刊!』※2023年6月17日 内容を更新しました。小説キャンディキャンディFINALSTORY復刊を目指しています活動をご存知ない方は こちらをお読みく…ameblo.jp🌰
長い考察が苦痛な人の為に、要点だけをドライにまとめた「あのひと考察・総集編」です。※2010年発行の「小説キャンディキャンディFinal story」を「ファイナル」と表記します。はじめにファイナルでは、キャンディのパートナーは「あのひと」と平仮名で書かれ、「愛する人」の意味で使われています。但し海外版では「That person」や「He」の文字が充てられているケースがあります。しかしThat Personは「あそこにいる人」の意味なので、名木田先生が意図する「あのひと」とは根本的に違います。キャンディ以外の登場人物は「あのひと」ではなく、平仮名と漢字の組み合わせの「あの人」を使います。日本語版にはこのような巧妙な言葉遊びが随所に登場します。つまり、原文に隠されたヒントを発見できるのは日本人と日本語が分かる人だけです。では、日本人なら「あのひと」が誰か分かるのでしょうか?実際は日本人でも意見が分かれます。本の読み方には二通りあるからです。タイプ①主観的に自由に想像する(想像力)タイプ②客観的に正確に読み取る(読解)①は、文章を厳密に追いません。本から感じたイメージの世界です。イメージは各々違うので、自分が思う登場人物があのひとです。極端にいえば、全文を読む必要はなく、一文だけでも想像の世界は広がります。②は、原作者が文章に込めた意図を正確に汲み取る努力が必要です。仮説を立てる場合、本の中から根拠を探します。さて、あなたはどちらの方法で読みますか?①なら、この考察を読む必要はありません。あなたが思う登場人物が答えです。もし②だと思うなら、この考察を読んでください。例えば、ファイナルに出てくるエイボン川のある国はニュージーランドかもしれない、と考える人はタイプ①イメージ論者です。ファイナルにはその地名は出ていません。一方、エイボン川はイギリスにある、という説は客観性があります。ファイナルにはイギリスが登場し、実際にエイボン川が流れているからです。しかし、イギリスの町ストラスフォードにRSC(ロイヤルシェイクスピア劇団)があるからあのひとはテリィだ、という説はタイプ①です。ファイナルにはRSCは出ていません。これから紹介する考察は、全て②の「読解」に基づきます。ファイナルに出ている言葉だけで考えていきます。これは、最も客観的で公平な考え方です。誰のファンであろうと関係ないからです。私は名木田先生が決めたあのひとを知りたいから、このような読み方を選ぶのです。しかし、この読み方を押し付けるつもりはありません。本の読み方は自由だからです。マンガと混ぜるな漫画の結末はアルバートとキャンディの未来を予感させるものでした。私はキャンディのパートナーはアルバートだと思っています。そして、漫画の結末に納得しています。困難を乗り越え、自分の足で歩き始めた少女の成長物語として支持しているからです。しかしファイナルは、漫画やアニメとは違う作品です。漫画は、いがらしゆみこ、水木杏子、編集者で作り上げた共同作品です。アニメは、漫画をベースにアニメ制作会社が作ったもので、オリジナルの部分が多々あります。ファイナルは、児童文学作家名木田恵子の単独著書です。水木杏子と名木田恵子はDNA的には同一人物ですが、今となっては別人かもしれません。何故なら、ファイナルは漫画終了から31年後の作品で、著作権裁判の後、いがらし先生とけんか別れをした後に書いたからです。「続編ではありません」「全面的に書き直そうと決心しました」と名木田先生は言っています。つまりキャンディキャンディには、漫画・アニメ・ファイナル、3つの結末が有るわけです。あのひとはファイナルにしか登場しないので、読解の対象はファイナルだけです。混ざっている人たちそうは言っても、自覚のないまま混ぜて読んでいる人が多いのです。そこで質問します。①スイートキャンディのバラは何色ですか?②テリィがポニーの丘に立った時、キャンディはどこにいましたか?答えられますか?ファイナルには正解が書かれていますが、漫画やアニメの影響が大きい人は答えを間違えます。キチンと書かれているのに、混ぜて読んでいるか、見落としているのです。二次創作(イラストや小説)なら問題ないでしょうが、読解では原文が全てです。①の答えは、白でも緑でも水色でもありません。上巻121②の答えは、キャンディの故郷ではありません。下巻27620代のキャンディアルバート往復書簡ではキャンディへの感謝が書かれ、親密そうです。キャンディに恋をしている、と感じる人もいると思います。しかし、キャンディを愛している、という文章はありません。愛の告白もしていません。「(キャンディの)幸せがどこにあるのか見極めたい」と書かれています。下巻315漫画では「幸せにしたい」という言葉でした。これは恋心が含まれた表現です。しかしファイナルでは言葉が違います。意味も違います。「見極めたい」という言葉は、もっと上からの、管理者(監督者)の目線に近い言葉です。実際にファイナルの往復書簡では「お父様・養女」の言葉が、旧小説より多く出てきます。→旧小説=4回。ファイナル=13回テリィ「ぼくは何も変わっていない」という手紙を書いています。下巻283悩みながら書き、投函までに1年半掛かっています。作中に出てくるテリィの気持ちは「キャンディが好きだ・幸せにしたい」です。「変わっていない」のは、その気持ちだと考えるのが妥当です。この手紙はスザナの死亡記事の次に登場します。つまり手紙に出てくる「あれから1年経った」は、スザナの喪が明けたという意味でしょう。1年の根拠はそれしか見当たりません。但し、この手紙がキャンディへ届いたかは分かりません。キャンディ アルバートへ信頼を寄せ、感謝と深い絆が書かれています。「テリィ……好きでした」と過去形で手紙を書いています。テリィとの恋は終わった、と感じる人もいると思います。しかし、「心の中であなたと向き合うと~呼吸さえできない・私を忘れないで」という文面からは、恋心が残っていると感じます。Qアルバートへの気持ちは、家族愛か?恋か?どちらとも受け取れる曖昧な表現です。Qテリィへの気持ちは、封印したのか?まだ好きか?どちらとも受け取れる曖昧な表現です。読者は好きな登場人物に有利に読むでしょう。名木田先生はわざと曖昧に書いているので、20代の部分はイメージの世界です。好きなように想像してください。そしてファイナルは、いきなり30代のキャンディに跳びます。30代のキャンディとあのひとのエピソードは具体的に書かれています。つまり、慎重に検証する必要があるのはこの部分だけです。シェークスピア全集30代のキャンディの家に、シェークスピア全集があります。アードレー家のルーツはスコットランド、グランチェスター家はロンドンです。つまり両家にあるでしょう。注目すべきは、テリィの別荘に行った時の10代のキャンディのセリフです。わあ、テリィ、演劇の本ばかりね!シェークスピア全集もあるわ!下巻91テリィの別荘には「シェークスピア全集もあるわ!」と書かれています。このセリフは、かつての小説には無く、ファイナルで足されています。アードレー家に全集があるとは書かれていないので、その可能性を考える必要はありません。あのひとの家には、イギリスとフランスの文学書もあります。つまりあのひとは文学好きで、イギリスかフランスに住んでいるか、イギリス人かフランス人だと考えられます。アルバートは経営学から法律まで習っていたと書かれています。下巻298あのひとが アルバートなら、本棚には法律の本、経営の本、アメリカ文学が並ばなければ不自然です。幸せになり器を直した幸せになり器は、キャンディとテリィの幸せを願ってステアが造った物です。壊れたオルゴールが元の音色を奏でるので、壊れていた物(別れたテリィとキャンディ)が修復されたことを暗示している、と読めます。「ステアの願いが叶った」という比喩です。文学的な視点で読むと、直せるのはテリィだけです。誰が機械を直す技術を持っているか、という視点で考えます。ファイナルにおいて、ステア以外にそのスキルを持っている人物は書かれていません。漫画ではアルバートがスワンボートや椅子を修理していますが、このシーンはファイナルにはありません。冒険談を聞いてきつく抱きしめたキャンディがテリィを追ってアメリカに帰る珍道中の冒険談。それを聞いたあのひとは、「よく無事だった...」とキャンディをきつく抱きしめます。20歳頃のキャンディが書いたテリィへの手紙の中に、次の言葉があります。冒険談、いつかゆっくり話したいと思っている内に結局話せませんでした 下巻275これはかつての小説版には無くファイナルで足された言葉で「話したいと思っていた」と明確に書かれています。テリィが聞いたなら、キャンディのささやかな望みが叶ったことになりますし、俺の為にそんな無茶を、と胸が熱くなって当然です。アルバートなら、この話を聞いたのは同居していた記憶喪失時代でしょう。シカゴ時代を回想したキャンディが次のように言っているからです。わたしは、なんでもアルバートさんには話せた 下巻240シカゴ時代のアルバートが「(キャンディを)きつく抱きしめた」という表現は行き過ぎです。エイボン川とラッパ水仙ポニーの家は遠い。遥か海を隔てていることをこんなに恨めしく思ったことはない 上巻4キャンディはアメリカではない、エイボン川が流れ水仙の咲く場所で暮らしています。キャンディの世界から考えると、イギリス・ストラスフォードかスコットランドのエイボン川と考えるのが自然です。それ以外の町はイメージ論ではOKですが、読解にはなりません。ファイナルでは、学院の草原でテリィが寝転んで水仙のつぼみの香りをかいでいるシーンがあります。上巻317水仙はテリィを象徴する花として新たに設定したようです。30代のキャンディの庭には水仙が満開になっています。上巻231二人の恋が成就する前の学院時代は「つぼみ」で、30代は「満開」です。つぼみが開花した、と解釈できます。つまり、文学的な視点で読むとキャンディのパートナーはテリィでしょう。黄金の光を放っている 上巻231庭の水仙の色は黄色です。黄色いラッパ水仙の花言葉は「もう一度愛して。私の元へ戻って」です。キリスト教においても「復活」を意味するイースター(復活祭)の花です。ストラスフォードはシェークスピア生誕の地です。テリィには十分ゆかりのある町でしょう。ファイナルでは「イギリスでも公演決定!」下巻274という言葉が足されたので、帰国への伏線だと思います。キャンディのばら園キャンディはポニーの家でスウィート・キャンディを育てていたようです。下巻207 ところが、30代のキャンディはこんな事を言っています。わたしは今、(スウィートキャンディの)その香りさえかぐことができない遠くにいるのだ上巻230ばらの手入れだけは、わたしは庭師には任せない上巻231キャンディは積極的に自分のばら園を造っているようですが、スウィート・キャンディは植えていないようです。自分の名前が付いたばらを何故植えないのか?外来種の輸入禁止で苗を持ち込めなかったのか?漫画でもファイナルでも、キャンディはメキシコへ行かされる際、ばらの苗を持参しています。キャンディの世界では輸入禁止を考える必要はありません。テリィは嫉妬深く、アンソニーにとても敏感な性格として書かれています。仮にあのひとがテリィなら、キャンディは配慮してしまうでしょう。アルバートはどうでしょうか?アンソニーはアルバートの甥っこです。アードレー家のレイクウッドの屋敷にも、アルバートが増改築を援助したポニーの家にも植わっています。新居にだけ植えない理由が見えてきません。象嵌細工の宝石箱あのひとはキャンディに象嵌細工の宝石箱を贈ります。大きな宝石箱は、あのひとの家に代々伝わるものだという 下巻149この表現から、あのひとの家は歴史があると分かります。スコットランド移民のアードレー家よりグランチェスター家の方が歴史がありそうですが、それはイメージ論です。【あのひとの家=代々】この表現に注目して、次の二つの文章をご覧ください。★グランチェスター家先祖代々のいかめしい肖像画下巻83★アードレー家の先祖たちの肖像画下巻325名木田先生は、グランチェスター家の表現と宝石箱の表現を合わせています。プロの作家の技だと考えます。宝石箱に入れた物代々伝わった品を愛する女性に贈る。真っ先に思い浮かぶのは指輪やネックレスやブローチなどの宝石ではないでしょうか。しかし、あのひとが贈ったのは宝石箱です。しかも「大きな」です。それを選んだ理由が名木田先生にあったのでしょう。その理由は次の文から分かります。わたしが使うには贅沢すぎるその箱には、だから、私の大切なものだけを入れている。思い出の品々。新聞や雑誌の切り抜き、そして手紙の束 下巻149宝石箱にこれらを入れたかったようです。真っ先に入れた物はテリィの記事の切り抜きで、内容も紹介されています。期待の大型新人!輝ける新星現る!テリュース・グレアム!ストラスフォード劇団公演 「リア王」でのフランス王に異例の大抜擢!下巻185キャンディがテリィの消息を知る記事です。この切り抜きを見た時のキャンディは恋心が溢れています。↓雪崩のように押し寄せてくる感情に立っていることさえできず、思わずしゃがみ込んでしまった‥‥涙でかすんでよく見えない。こぼれ落ちる涙で濡らしたくなくて・・手を伸ばして離した。そうすると、テリィが遠ざかっていくようで、慌てて抱きしめた下巻186その切り抜きを、その後どうしたか?あれからの長い歳月どこに行こうとその切り抜きを持ち歩いていたので、かなり傷んではいたが、凛々しいテリィの写真は今もまだはっきりしている―下巻186キャンディは「長い歳月」それを持ち歩いていたそうです。この切り抜きを入手してからテリィと別れるまでは半年です。つまり別れてからも持ち歩いていたと分かります。アードレー家の本宅でもマイアミのホテルでも、「どこに行こうと」です。「長い歳月」テリィを想っていた、と読み取れます。いつも近くにいて欲しいと望む人 いつもわたしが近くにいることを望んでいるあのひとのそばをわたしも離れたくない 上巻233病気のポニー先生のお見舞いに、キャンディは行きません。あのひとと離れたくないからです。過去にキャンディは、アルバートと同居できる状況にも関わらず、村に戻っています。「(アルバートと)離れたくない」などの強い感情は、ファイナルには書かれていません。これはアルバートも同じです。生来の自由人であり、大総長として世界を飛び回っていると書かれています。何より、人を束縛する性格ではありません。恋をして性格が変わったのでは?そう思うのは自由ですが、それはイメージ論です。アルバートの性格が変貌する兆候は、ファイナルには書かれていません。世界情勢が落ち着かないので上巻233、一人で行かせたくないのか?この場合、アルバートもテリィも同じ状況です。テリィはどうでしょうか。テリィは独占欲が強い性格です。また、キャンディとは数々のすれ違いがありました。仮に二人が再会したなら、10年以上離れていた歳月があるはずです。そのような二人なので、不安が付きまとい、「離れたくない」という気持ちを持つでしょう。スリムの絵あのひとは「昔のポニーの家の絵」をロンドンの蚤の市で見つけて買ってきます。上巻7、233その場所にフラ~と立ち寄れる環境に暮らしていると分かります。あのひととキャンディは「そばを離れたくない」ので、一瞬でも海を隔てることはありません。つまり、二人はイギリスに住んでいると分かります。額は手製です。しかし「あのひとが手作りした」とは書かれていません。絵の作者スリムが作った可能性もあります。鍛冶屋に引き取られたスリムなら、そのような作業は得意でしょう。Q昔のポニーの家だと直ぐに見抜けるか?アルバートは何度もポニーの丘に行っているので見抜けるでしょう。テリィも昔のポニーの家を訪れています。下巻2761度見ているので、テリィも見抜けます。見抜けない、と考える人がいるなら、原文を無視した考え方です。あのひとどうか、どうか、間に合いますように……。テリィに会えますように……。わたしは、まだ、あのひとに下巻138アメリカに旅立つテリィを、馬車で追っていくキャンディのセリフです。既に冒頭で説明しましたが、名木田先生はキャンディのパートナーを「あのひと」と平仮名で表記し「愛しい人」の意味で用いています。キャンディが使う単語と、他の登場人物が使う単語「あの人」を明確に区別しているのです。10代のキャンディが「あのひと」を使うのは4カ所ですが、 その内3カ所は「あそこにいる人」の意味で使われています。ところが下巻138だけは「テリィ(愛する人)」の意味で使われています。この文は「テリィ」という単語を代入できるにもかかわらず、名木田先生は敢えて「あのひと」という単語をテリィに対して選んでいるのです。どうしたんだい?「灯りもつけずに、どうしたんだい?キャンディ」わたしを、いつもときめかすやさしいその声― 下巻331これは、あのひとが発する唯一のセリフです。日本語には語尾の活用が多くあり、人物の口調や性格などを表します。どうした?どうしたの?どうしたんだ?どうしたんだい?この「どうしたんだい?」という優しい口調が、アルバートっぽいという噂があります。これこそがイメージ論です。実際に数えてみます。ファイナルではシカゴ編がカットされている為、アルバートが不利にならないよう漫画版で検証しました。※数字は文庫本版(中央公論社)の掲載ページです。アルバート亀をしっかりかかえて、どうしたんだい?2-286どうしたんだい?怖い顔をして6-1142回テリィそんなにぼくの顔を見つめてどうしたんだい?2-13どうしたんだい?ターザンガール、そんなに慌てて2-160しかしどうしたんだい?今日は 2-290そのバラの君はどうしたんだい?!2-293どうしたんだい?2-311キャンディ、どうしたんだい?3-128どうしたんだい?5-1907回どうしたんだい?は、テリィの口癖です。原作者の発言名木田先生はかつての自身の公式サイト妖精村で、次の事を語っています。特に漫画の終盤、アルバートと暮らし始めた頃に担当者が変わり、正直に言って、とたん、作品の質感が落ちました。作品を見て、原作と違う!と仰天することが続きました。アルバートとキャンディのシーンも『安易』と思わずつぶやいたシーンが幾つかありました。テリィと別れたキャンディの心がそう簡単に、ほかの誰かに移るはずがありません。(また、簡単にアンソニーの面影を忘れ去ることなどもできません)「キャンディを軽々しい女の子にだけはしないで」と言ったことを覚えています。また、名木田先生はファンとの交流で、ファンが抱えていたラッパ水仙の花束を見て「テリィ!!」と大声で叫び、次のような発言をしています。イングランドの花と言えば水仙。シェークスピアの故郷ストラスフォードへ行った時、水仙が咲いていた。私はワーズワース(イギリスの詩人)の水仙という詩が好きで、その詩とイメージがピッタリだったので、ファイナルに登場させました。ファイナル発売の経緯1997年、著作権トラブルで原作者と作画者の間で裁判になりました。それにより、キャンディ関連の物は殆ど販売停止になり、世の中から消えました。7年に渡る裁判は名木田先生に有利な判決が出ましたが、いがらし先生からの謝罪はありませんでした。その後、「小説版を復活させてほしい」というファンの声が集まりました。それを受け名木田先生は、2003年挿絵を省いた「復刻版小説」の出版(ハードカバー版)に同意しました。それに対しいがらし先生は「(原作者が)勝手に本を出して、それは正義であると主張しているのも、すごく納得のいかないことなのです」と不快感を示します。※2004年某大学漫画文化研究所のシンポジウムでの発言2006年名木田先生に祥伝社から文庫本版での再販の話が来ます。しかし気が乗らなかったようです。ところが2007年台湾のイベントでいがらし先生が「新キャンディキャンディ」のシナリオを募集していると知ります。名木田先生は驚き、小説の再販を決意します。過去の小説を読み返した時「これが私の書きたかった世界なのだろうか?」と自問し、「全面的に書き直す」と決心し、2010年ファイナルが生まれました。これらの事は、ファイナルのあとがきに書かれています。名木田先生は漫画と同じ結末を書いたのか?それとも変えたのか?この考察を読んで、どう思いましたか?おわりに私は漫画におけるキャンディのパートナーはアルバートだと思っています。しかし名木田先生は、「ファイナルは漫画の続編ではない、全て書き直した」と言いました。私にはあのひとはテリィに読めます。つまり私は2つの結論を持ち、この物語は、アルバート、テリィと結ばれる2つの結末があると思っています。それぞれのファンは、結末を仲よく分け合うことが出来るのではないでしょうか。※コメント欄にA派と私の対談?が載っています。宜しければご覧ください。
キャンディファンのみなさまアニメキャンディキャンディをご覧になったことはありますね?似てないのよ・・ブーなのよ話も違うし・・体育座りのテリィなんてアルバートさんがテリィを諭すシーンなんて原作には無いのです原作はっ花柄テリィがわけわかんない独り言を呟いて立ち直るんですから感想はさまざまでしょうが、私はアニメ版も好きなんです不遇な生い立ちをものともせず、明るく前向きで、困難に立ち向かい運命に翻弄をされながらも自分の道を見つけ、歩き出す少女。この物語は、後世に残すべき日本の宝です・・ですが、今は完全封印状態キャンディを「京アニレベル」で蘇らせたい、と夢を見たことはありませんか?京アニレベル↓神すぎる・・😭※画像お借りします🙇♀️このアニメ、物語が欧州(架空)とあって私は大いに被りました普通の主婦である私が、素人目線でリメイク版について、熱く薄く👨🦲テキト~に語りたいと思います。もしもリメイクが叶ったら保育園から介護ホームまでど真ん中世代は現在50~60才。放送されれば、全国民が観る怪物アニメになるでしょう関連グッズ人形キャンディ人形は、改良しなくてもイケます。開発費ゼロ!テリィの髪型だけは大改良が必要です原画をよく見て再現して頂きたいです分け目、そこじゃないっ💢前髪つくって💢キューティクル大事!💢衣装は、セントポール学院の制服バージョンロミオ・ハムレット・ペトルーキオ※じゃじゃ馬ならし・パック※夏の夜の夢シェイクスピア劇を全部やっちゃってくださいアンソニーはもちろん、アルバートさん、ステア、あのアーチーでさえ売れるはず。5体揃った『プレミアムセット』なら、秒で完売ですアクセサリ―ポニー先生のクルスそこそこ売れると思います。 丘の上の王子さまのバッジ御守りと称し、アラフィフが大人買いするでしょう。品切れ続出です。テリィの白いタイただの白いハンカチなら販売する意味はありません。しかし、隅にT.Gと刺繍を入れるだけで、バカ売れ間違いなし!Tファン単純すぎだぞ、おいっコスプレキルトとか如何でしょう?幼稚園からコミケまで、丘の上の王子さまに扮する輩が大量発生。グレートハイランド・バグパイプを持つ必要はありません。湯たんぽでそれらしく見えますブルーベル・mamaの工作教室①湯たんぽの側面にドリルで穴をあける②タータンチェックの布を両面テープで全体に貼り付ける④100均の園芸用の支柱を穴に突き刺すグレートヲタク・バグパイプの完成書いててバカらしくなってきましたキャラクター解説本過去の解説本があまりに混沌としているので「これが公式ファイナルアンサー」と題した本を出しましょう。テリィの生まれた西暦とアルバートさんの生年月日を設定してください一説によると、6月28日(本日)はアルバートさんのお誕生日です🎉🎊←出さずにはいられないアルバートさんの誕生日ガイドブックでは設定されていないので、ファンの間で広まった説のようです。①6月28日説作画者いがらしゆみこ先生の誕生日8月26日を逆から読んだ説?②8月8日説同じく作画者の誕生日8月26日にちなんで8月、2+6=8日と足してみた説?この日は髭の日・パパの日(養父?)八は末広がりで縁起がいい横にすると∞であることから、無限の可能性を秘めている、などなど・・・私はペーペーのテリィ派なので由来を知りません💦ご存知の方がいらしたら挙手を~🙌予想される社会現象バグパイプ習い始める人がにわかに増えると思います。しかし日本の狭い住宅事情では、練習する場がないのが悩みの種ラッパ水仙今日の日本のバラブームの火付け役にキャンディキャンディが一役買っているのなら第二次ブームとして、「ラッパ水仙ブーム」が来るでしょう。日本水仙の地位が脅かされるかもしれません。※みなっちさんのブログから画像をお借りしました。🙇♀️大学の卒論「あのひとは誰か」をガチで研究するサークルが結成されるでしょう。キャンディカフェ秋葉にキャンディカフェが登場するでしょう。日本だけでなく韓国まで波及するかもしれません。キャンディのコスプレは、十代ならずともアラフィフの夢←やめろ店員は男性版も可能キルトでおもてなしイケメンに目がないアラフィフが押し寄せる。キャあああ!アンソニ~※テリィ派はどーしたメニューはチーズケーキ、チキンパイ、ホットドッグ、サンドイッチ全てUber Eatsで賄える忘れてはいけない生ビール宝塚で上演ベルばら&天河のように、上演されるでしょうアンソニー編、テリィ編、アルバート編が可能です。アライグマ・クリン出演NGです野生化したアライグマに苦慮している地域があることを忘れてはいけません。看護婦目指す若者が増え、人手不足が蔓延する日本の医療現場に光明がさします。ハラスメントなセリフ今の社会でNGな部分は、どうぞバッサリやってください←あ~た何様?頑固ばばぁ!→石頭!でいいです。夜勤をサボる→夜勤はナタリーが代わってくれます。いろんな忖度コミック再販名木田先生6・いがらし先生4の印税配分でいきましょう!ファンの為と割り切って下さいっ憎い相手の為に作品があるのではないのです不安があるなら、100歩譲って電子版で我慢します←あ~た何様?2アニメ制作旧制作会社への忖度はやめましょう。ジャニーズだって、今やあ~です。※あ~は想像力で埋めてください。この際、クラウドファンディングで初期製作費用を募ったら如何でしょうか。ど真ん中世代は老後の資金を貯めている為、見境ない援助が期待出来ますアニメ制作への要望マンガのストーリーを忠実に再現してください。でも、テリィがピアノを弾くシーン(小説版)は入れてくださいアーチーのピアノのシーンはど~でもいいです※アーチーファンの方ごめんなさい。🙇♀️🙇♀️地上波にのせろ!などとワガママは言いません。OVAで我慢します心の叫びっっファイナルのエピは、ラストの「おかえりなさい」だけを取り入れてください。静止画で、後ろ姿のあのひとが帰宅したイラストだけで結構です。髪の色は分からないように、肩甲骨から下のアングルでお願いしますでも、これだけだと【あのひと=アルバートさん】なので※問題発言ですスザナ死亡の新聞記事とテリィの手紙を5秒ずつ映してください。←細かいこれで、両派の夢を奪うような事はないでしょう声優さん・・・私はその方面に疎いので、鬼滅キャラから概ね引っ張って来ればいいのでは?いきなり雑 テリィの声優の選定は、Tファンがうるさそうなので明言を避けますいかがでしょうか?アニメキャンディキャンディどこでもいいから作ってくださいっ🙇♀️🙇♀️🙇♀️🙇♀️アニメ企画に何かご意見があれば聞かせてネ※諸々の画像、お借りしました🌰
※投稿日は生誕祭当日ではありません目に映ってたけど、見てなかったよこれは、我らがT・Gが5月祭の時に放った最強フレーズです。バッチリ見ているのに、しらを切っていますね。しかし、この目に映ってたけど見てなかった現象は、よくあることです。例えばアーチーの誕生日いつなのか、ご存じ?知らない?誕生月は知ってる?知らない?私も知らない。興味もございません。でも、本当はみなさん知っているのです。だって、ほらアニーが言ってます。もうすぐアーチーの誕生日だからと。しかもその時にパティが丁寧に説明している「5月祭の花の精」その両横の男の子たち何やら同じ衣装の殿方彼らは、選ばれし5月のお誕生日の「男版・花の精」ではなかろうか?そう思って5月祭当日のアーチーに注目「男版花の精の衣装」を着てる。手にブーケも持ち歩いてる。つまりアーチーは男版・花の精になってる―――アーチーは5月生まれだってみんな知ってた・・そう、これこそが目に映ってたのに見てなかった現象メジャーな言葉に言い換えるとコリジョンコース現象見通しの良い信号の無い交差点で、等速直線運動をする車同士が衝突する現象。田園地帯などで起こりやすい。「目に映っている車が見えない」という意味で筆者は引用したようだが、コリジョンコース現象の本質とは乖離している。更にこの言葉がメジャーかどうかは疑問が残る。なぜ我々には、アーチーが見えなかったのか?ズバリ興味がないからどーでもいいからテリィしか見えていないからこの資料が原因かなかよし・漫画新聞 アーチーとステアの誕生日情報が入れ替わっています名木田先生が釈明してたけど、伝わるわけない先生によりますとアーチの誕生日は5月25日だそうです※ステアの誕生日は10月11日出典・名木田先生のエッセイ『キャンディとであったころ』なかよし編集部責任トレ地球上に5人いる五万といるアーチーファンの為にせめて今年ぐらいは生誕祭をしてあげようと思いました。アーチーの魅力泳ぎに自信があっても絶対泳がない。唯一、苦節ゼロの生存者約束された地位「アードレー家の一族としての仕事が待っている。アンソニーやステアの分まで頑張るつもりでいる」下巻222何気にニール・ラガンと同じ境遇・・・ココまで書いて、何故か文書に愛が感じられない気がしたのでアーチーが男気を見せたシーンをご紹介しますなんと優しい言葉ッしかし実はこのシーン、ファイナルではカットされていますそして、カットされている事にも気付かないファンたち・・このシーンは、ファイナルでは次のように書かれています。イライザに秘密の会話を聞かれてしまったアニーは、動揺のあまり走って逃げるも、キャンディが追いつき肩を掴む。「放して!わたし、だめ・・もう学院にいられない!アーチーに知られたら・・死んでしまった方がまし――」「アニーのバカ!甘ったれるのもいい加減にしてよ」キャンディ、アニーを強く押し、アニーは草むらに倒れ込む。降り始めた雨が激しさを増すキャンディ、泣きながら叫ぶ。「アーチーは、孤児院出身だからって蔑むような人じゃないわ!そんなこともわからないで好きになったの!」「キャンディ・・」「アニーはそんな冷たい人を好きになったの!?」「・・ごめんなさいキャンディ。わたし、はずかしい」ずぶ濡れの二人だが、青空のような笑顔だった。※詳しくはファイナル下巻43~45をお読みください。これは、・・・単にキャンディが男前ですね。アーチーの名シーンを、キャンディが根こそぎ奪っています書けば書くほど、アーチーの株を下げている気がしてきましたこの辺で、ずらかろうと思います。キャンディ系キャラの歌声で、フィナーレです。おめでとうアーチーたけし・ごうだT・Gアーチーファンの記事です。併せてどうぞ『皐月“モヤモヤ”病』開園してたみたいで〜す五月です誕生日ですキャンディと、アニーと、アーチー❤の🎉だから……今日は “私の” アーチーについてですでも、なんで?ばっか…ameblo.jp資料提供・○スさんありがとうございます🙇♀️💕©水木杏子・いがらしゆみこ/画像お借りしました
11年目のSONNET・スピンオフジュリエットとオフィーリア・後編★★★「では、『きらきら星』を」テリュースの口から出た曲名に、オルガはぷっと吹き出した。「童謡?いいねぇ~」自ら恥をかきたいとは奇妙な奴だと鼻で笑う。他の団員も「最高だぜっ」と、少し大げさなアクションで天を仰いだり、床に倒れたり。しかしテリュースは気にするそぶりもなく、おもむろに鍵盤に向き合うとまつ毛を伏せた。「――ジャズ・アレンジで」つぶやくと同時に、指が覚えている鍵盤をたたき始める。『即興の練習』という遊びをしていた幼い自分を思い出す。頭に浮かんだイメージを瞬時に指先に伝え、アレンジを加える。ピアノの先生から、そんな暇があったらモーツァルトの一曲でも練習しなさい、とお小言を言われたっけ。(・・こんな所で役に立つとは・・)※♪幼稚だったメロディはいつの間にかジャズに変化し、奏者は誰だと数人がエントランスに集まってきたが、期待を裏切るように演奏はあっという間に終わってしまった。テリュースが弾いたのは『モーツァルトのきらきら星変奏曲』ではなく、宣言通りの童謡だったからだ。「あなたが聞きたいのは、ピアノじゃなくて、俺の泣き言ですよね?」「・・く、くそ、、お前何者だよ!」「――たしか、中部の田舎者」テリュースは片唇を上げながら椅子から立ち上がった。イギリス出身の自分に中部のなまりが有るなら、それはキャンディの影響に他ならない。(・・・自分でも気付いていなかったよ・・)「テリュース、違う、君はイギリス人だ」追いかけてきたアルフレッドがささやくように言った。「――え?」「イングランドだろ?僕もそうだから分かるよ。しかも君はかなり上流―」「――アルフレッド!」強い口調のテリュースに、触れてはいけない事だったのかと、アルフレッドはたじろいだ。「上流――テムズ川の上流に実家がある」テリュースはどこを見るともなく言うと、肩で風を切るようにパーティ会場へ入っていった。「・・つかみどころのない奴だ」アルフレッドは思い出していた。夜のグランドセントラル駅ですすり泣いていた少女のことを。――僕がシカゴ行きの切符を渡した白衣の天使は、君の恋人だったんだろ?(今、その子とはどうなっている?・・・まだ、繋がっているのか?)こんな簡単な質問を呑み込まなくてはいけない程、テリュースの周りには、見えない壁があるように思えた。夜空に白い煙がぽわ~と上がるのを眺めていたら「お隣いいかしら?」影が揺れた。宴が終るのを待ちくたびれているようなテリュースを見つけたのはカレンだ。「やあ、ヘレナ。姫をもてなすような席はないけど」「花壇の縁でいいわよ。木の根っこを枕にするよりマシだわ。そう思うでしょ?森の妖精パック」お互いの役柄で呼び合うのはこの世界の常。煙草の煙に割り込んでくる香水とワインの香りは、さほど不快ではない。「・・まだマーロウ家にいるの?」カレンの興味の対象が隣の男ではなくスザナであることに、テリュースは苦笑する。「あなたを奪ったら、スザナ悔しがるでしょうね。奪っちゃおうかしら」流行りのフラッパードレスを着ているカレンのシルエットは、シャンデリアの光を背中に受け、どこか挑発的に浮かび上がっている。「遠慮しておくよ。君の恋人にくし刺しにされたくない」「あなた、RSCに挑戦したらいいのよ。正々堂々とスザナから逃げられるわ」「君には俺が囚人に見えるのかい?」「そうとしか見えないわ。しかも冤罪よ。だってあの事故はあなたには何の過失もない、照明係の落ち度だもの。照明係がスザナの想い人だったら、マーロウ夫人もスザナも、きっとそっちをターゲットにしたはずよ」アルコールが入っているせいなのか、カレンの言葉はいつにも増して躊躇がなかった。「前にも言ったはずだ。スザナの傍にいるのは俺の意思だと」「なら、魔法に掛かったデミトリアスね。パックの仕掛けた魔法で、求愛する相手を間違える男」「『夏の夜の夢』?」「あなた、この芝居の続きを考えたことはあって?」「三組が結婚する大団円の続きかい?」「ええ。デミトリアスだけは惚れ薬の魔法が解けていないわ。恋していると思い込んだままヘレンと結ばれ劇は終わってる。でも、魔法が解けたら彼はどうなると思う?」「彼は――」求めていた女が他の男のものになった姿を見ることになる。そして、何故かヘレナが自分の側で大きなお腹をさすっている。あなたの子がもうすぐ生まれるのよ、と頬を染めながら。一瞬寒気がしたのは、夜風のせいなのか。「・・・魔法は解けないさ。観客は誰もそんなことは考えない。皆がハッピーになる楽しい喜劇だ」「魔法はいつか解けるわよ」「魔法が効いている間に、ヘレンを愛するようになるのさ。誰もがそう思っている。だから誰も何も言わない」「あなたもそう思ってるの?いつか好きになると――スザナを。・・・それとも、もう惚れた?」瞬間、目を反らしたテリュースを見て、カレンは”やっぱりね”と言わんばかりに大きく息を吐いた。「そんなの偽善だわ」偽善であろうがなかろうが関係ない――という言葉は口にしなかった。父親と同じ轍を踏んでいる自分。人生にはどうしようもないこともある。愛のない結婚なんて貴族社会では当たり前。古臭くてナンセンスだと思っていたかつての自分は若かっただけだ。そんな言い訳を心の中で必死に繰り返している自分は、酷く汚れた人間のように思えてくる。「――スザナのことは好きだよ」テリュースは煙草の火を靴で消すと、会場に戻ろうと立ち上がった。「彼女は――列車を追いかけてきた彼女はどうしたのよ!」テリュースはハッとしたようにカレンの方に振り返った。「みんな知ってるわ!髪の長い、金髪の子よ!」確かにあの時、列車を追いかけてきたキャンディの姿は劇団員に見られていた。「彼女を捨てたの!?」迫るようなカレンの言葉は、考えないようにしていた雪の日の情景を蘇らせた。全てを悟ったようなキャンディの揺れる瞳、震える唇、一気に駆け下りる後ろ姿――「・・・違う、捨てたんじゃない。決めただけだ」そう、キャンディはとっくに決めていた。俺が何か言う前に、何も言わない内に、別れることを決めていた。「・・・雪が降り始めて・・積もる前に、あいつは決めた」「――あいつ・・?」カレンは初めてテリュースの本心に触れた気がした。「な、何故引き止めなかったのよ!そしたら彼女だってきっと」「・・・何も変わらないさ」――スザナを見捨てることはできない。俺は、そう思っただけ。何日もそう思いながらも思考はその先へは進まなかった。今夜の汽車で帰るとキャンディが言った時、俺が導けなかった『その先』を決めたのだと分かった。スザナが死のうとしたから――命の重さを知っている看護婦だから、アンソニーの死を見たキャンディだから、自分の幸せよりスザナの幸せを選んだ。「・・あいつは、一度決めた事を覆すような奴じゃない・・」「そんなこと分からないじゃないっ!」「分かるんだ・・」・・・愛してるから――カレンにはそう聞こえた。普段他人に全く興味を示さないテリュースが、唯一『分かる』という女性。どれ程の存在だったのか、崩れたロミオの芝居を間近で見ていたカレンには、全てが繋がった。「あなたたち、、、間違ってるわ!三人ともどうかしてる!!」カレンが思わずテリュースの腕を掴んだ瞬間、庭先の木々が一瞬光った。「――何!?」「――しまった!」潜んでいた丸い望遠レンズが、ひんやりとした暗闇の向こうに消えた。葉脈が青空に透ける季節になった頃、小鳥のように活き活きとしたスザナの声が屋敷に響いた。「次の演目はハムレットですって!」「ああ。オーディションを受ける資格を与えられたよ。異例の大出世だろ?」テリュースは冗談交じりで言うと、「きっとあなたが合格するわ!」と大きな瞳を輝かせた。「・・プレッシャーだな」「そうだわ、今夜から一緒に練習しない?オフィーリアのセリフなら、私も手伝えるわ!」事故以来、芝居から距離を置いていたスザナがそんなことを言うこと自体、大きな進歩だった。もとより、自分よりはるかにキャリアがある元女優。練習相手として不足はない。スザナは女優の血が騒ぐように、毎夜稽古に付き合ってくれた。だから、ハムレット役を掴んだのは、自分一人の力だとは思っていない。応援してくれた人も、意地が悪い奴も、お節介な助言をくれた同僚も、ただの傍観者も、きっと全てが糧になったに違いない。心の支えが、その中にいなかっとしても――「おめでとう、テリィ!!ついに主役を勝ち取ったのね」「ありがとう。君さえよければ、プレビュー公演を観に来ないか?一番良い席を用意するよ」「・・でも、オフィーリアはカレンでしょ?・・私――」「君に観てもらいたいんだ」「・・行くわ。ありがとう、嬉しいわ」・・・きっとキャンディに伝わるだろう。俺が主役のハムレットを演じることは。直ぐじゃなくても、公演が成功すれば、いずれ――返り咲いたプリンス テリュースの復帰を支えたスザナの愛! 愛の巣に帰宅する二人テリュース・好演の陰にスザナの内助の功 既に同棲「まぁ・・、私何もしていませんのに。テリュース、見てこの記事。ふふ・・」テリュース・グレアム復活は、スザナ無しでは語れないと云わんばかりの報道だった。雑誌によっては劇評よりそちらの方がメインだったかもしれない。「君のおかげだよ、スザナ」そう、それは嘘じゃない。けれど、記事と自分の口から出る言葉は、いつもどこかピントが合っていないと感じた。順調にスケジュールを消化していた秋の公演が中盤に差し掛かった頃だった。一誌のすっぱ抜きが、稽古場の空気をガラリと変えた。ハムレットで復活のテリュース。オフィーリアのカレンと蜜月!!「・・こんなの嘘だからっ、何もかも嘘っぱちよ!」苛立ちを隠せないカレンが、雑誌をバシッと床に叩きつけた。稽古に集まっていた団員たちの目に、その大きな見出しが映った。秘密の場所で親密そうにしている男女。それはまさしくハムレットとオフィーリアだと団員の誰もが判る写真だった。「まさか、あの写真がこのタイミングで記事にされるなんて。すぐに載らなかったから変だと思ったの。最も効果的なタイミングを計って出すなんて卑怯だわ!」なじるようなカレンの声が広い稽古場の壁に次々当たる。「嘘の記事でも、三角関係はスキャンダルだよな・・せっかく公演は順調なのに、、」雑誌を拾いながらアルフレットは不安を口にした。まったくテリュース・グレアムという人物はマスコミに追い回される宿命なのか、と誰もが思った。「心配いらないわ。私、結婚することにしたから。これでぬれぎぬも晴れるでしょ」突然のカレンの結婚宣言に周りは目を丸くした。「どうして急に?」説明を求めずにいられないテリュースは一歩前に出た。「結婚はタイミングだと思っているの。求婚されて、断る理由が無いなら、受けるべきだとも。もちろん、この公演は最後までやらせてもらうわ。有終の美を飾るつもりよ」この記事が恋人の怒りを買ったからだ、という説明などカレンのプライドが許さなかった。「――芝居をやめるのか?」テリュースは確認するように訊ねた。「芝居より大事なものがあるのよ、私には」カレンの言葉が、当てつけのように感じたのは何故なのか。俺は・・?一番大事なものは何だ?芝居なのか?それとも・・・「せっかく公演の延長が決まったのに、カレンは降りるの?・・引退して結婚するって本当?」「本当だよ。クリスマスにフロリダで挙式するらしい」瞬間、スザナは自分の唇を噛んだことにも気付かずに、マーロウ夫人が乗り移ったかのように言った。「あんな記事が出たんですもの。劇団に居辛くなって当然だわ」「カレンとは芝居の話をしていただけだ」プライベートな話に及んだのはわずかな時間だけ。以来、その手の話は一切していない。「あんな時間に二人だけで!?」スザナにはテリュースを問い詰める当然の権利があるかのような口調だった。「スザナ。ゴシップ誌が嘘ばかり書いているのは知っているだろ?」「た、たまには本当の事も書いてるじゃないっ」テリュースはそれがどの記事なのか考えたくなかったし、重苦しい空気を変えたくもあった。「・・・何かお祝いを渡すかい?」「――あなたが渡したらいいわ。私は友達でも同僚でもないから。あ、そうだわ、クリスマスに何が欲しい?」スザナも話題を変えたかったのだろう。思い出したように言うと、テリュースの顔を覗きこんだ。「いや、俺は・・別に――」途端に眉を下げたスザナを見て、テリュースはハッとした。きっとスザナには欲しいものがあるのだ。「君は?」「――指輪。誕生石の」スザナはとっくに答えを決めていたようだった。特別なリクエストをされた気がして、テリュースの心はざわついた。「指輪は・・・今の俺の給料じゃ、大したものは買えないよ」「あ・・・でも、他に欲しい物も無いの」「――今は無理だけど、覚えておくよ」スザナの顔がパァーと明るくなった。「あら、もうこんな時間。寝室に連れて行ってくださる?」両手を伸ばすスザナをいつものように抱上げ、注意深く階段を上る。寝室のドアを開けようと片手を出した時、スザナの両腕がテリュースの首に回り、視界が途切れた。「・・・ん・・」それがスザナの欲しいものなら、テリュースは拒めない。キスが上手い男か下手な男。どちらを演じようかと迷っている内にスザナの唇が離れた。「はしたなかったかしら?」「――お休みのキスにしては、少しタイミングが早かった」「・・・指輪、誕生日に欲しいな・・」廊下に出た時、ドアの隙間から独り言のようなスザナの声が聞えた。秋の公演が千秋楽を迎えたその夜、両手いっぱいに花束を貰ったカレンは、団員一人ひとりに挨拶して回った。「テリュース。入ってもいいかしら?」カレンが来ることが分っていたテリュースは迎えるように楽屋のドアを開けると、意外にも身軽な装いのカレンが立っていた。全てを片付けた後なのか、大きなトランクケースを引きずりながらつかつかと楽屋の奥まで進み、くるっと向きを変えた。「結婚式には来てくださる?」「あいにくだけど――」「スザナが行くなって言ったのね?あなた、囚人じゃなくて奴隷じゃない」独善的なカレンの言葉も今日で最後、などと感傷に浸っている暇を与えてくれそうにない。「間違えたわ、奴隷じゃなくて魔法が解けないデミトリアスだったわね。そんなあなたは、どんなクリスマスプレゼントをスザナにねだられたのかしら?」「――」「ひょっとしてエンゲージリング?あの子、私への対抗心が凄いから」「いや、ただの誕生石の指輪を。でもそれは」「それ、エンゲージリングって言うのよ!だってスザナの誕生日は4月、ダイヤだもの!全てスザナの計算なのよっ」カレンの鋭さにハッとする。「贈ったら、一年以内に結婚することになるのよ!?」「・・・求婚されて、断る理由がないなら受けるべき。後はタイミング。君が言った言葉だ」達観したようなテリュースを前に、カレンは言おうと決めていたセリフを口にした。「スザナは罰を受けるわ。それがこの世の理(ことわり)よ」「――女優の夢も片足も失ったスザナが・・・罰を受ける理由はない」「スザナが汚いからよ!あなたを解放しないから!そんなカップル、神様がお認めになるわけがないわ!」「・・・なら、俺も汚れてる。同類だよ」「違う、あなたは純粋だわ。だから純粋な子に惹かれるのよ!転ぶまで汽車を追いかけてきたあの子のような、バカが付くぐらいお人よしの子にね!・・・間違ってもスザナじゃないわ」カレンの瞳は黒水晶のように未来を見渡せる――そんな輝きを放っていた。「愛は目ではなく、心で見るものでしょ」「・・・この期に及んでヘレナのセリフかい?オフィーリア」「ええ、言いたいことはそれだけよ」カレンはエンゲージリングが輝く左手にキスをしながら、「お幸せに!魔法が解けないデミトリアス!」と芝居じみた動作で片腕を広げ、楽屋から出ていった。「――いっそ、魔法に掛かっていれば・・」テリュースは寂し気に微笑しながら、窓から見える大通りに目をやった。頼りない路地の灯りが、角の宝石店を照らしている。(・・・せめて、あの店で買うのはやめよう・・)三年前にあの店で買った緑色の指輪が脳裏に浮かぶ。エメラルド――それが、キャンディの誕生石だと分かった瞬間、無性に手に入れたくなった。・・それなのに、今は何だ?四月の誕生石はダイヤと知って、気持ちが重くなっている。――全てスザナの計算なのよ!カレンの言葉がこだまする。たとえ計算だとしても、受け入れるしかない。それが俺の選んだ道なのだから・・・「わあ、、キレイ。はめてくださらない?左手の薬指に」「それじゃ、エンゲージリングになっちまう。これは――」「だめ・・?」「・・・いいよ、それなら、もっと大きなダイヤにすればよかったな・・」全てカレンの予想通り。「誕生日にプロポーズしてくれるなんて、あなたってロマンティストだったのね」そうか、これはプロポーズなのか・・。――テリィ、スザナを大切にしてあげてね。それがキャンディの願い――これでいいんだよな・・?キャンディ・・・「・・・・どうしたの、テリィ」「――キャンディ?」「もう朝よ」「あ、ああ・・そうか」(――夢・・)前髪をかき上げるしぐさを確認したキャンディは、大きなため息を密かにつくと、わざとらしく笑った。「メリークリスマス!テリィ」キャンディはテリィに抱きつくと「プレゼントちょ~だい」とおねだりをした。「昨日渡しただろ。ケチャップ色のマフラー」「もう、分かってないわね」キャンディはテリィに抱きつくと、十年分のキスをプレゼントした。「息が出来ないよ、キャンディ、、」クスクス笑うテリィに笑顔が戻った。テリィの瞼の隅にあった一粒の涙。その意味をキャンディが知るのは、もう少し先。ジュリエットとオフィーリア完。。。。。。。。。。。。ワンポイントアドバイステリィが弾いたのはこちらきらきら星 ジャズ・ヴァージョン/フランス民謡/ピアノソロ(中級)丹内真弓・著『ピアノ基礎トレ365日!』より★Kindle版→http://amzn.asia/hRnPLiL★ぷりんと楽譜→8月10日より楽譜配信スタートhttp://www.print-gakufu.com/score/detail/156376/1曲購入できます!★@エリーゼからも楽譜配信スタートしました!...www.youtube.comラストのやり取りは「スピンオフ・スコットランドの冬休み」の翌朝になっています。本編6章の前です。どうやら皆さん、急にこの話が読みたくなるようです(笑)↓宜しければどうぞ。『空白の時① 《本編前》スピンオフ』今回のお話は 本編1章⑩「ニアミス」の続編です。こちらを復習して入ると、読みやすくなります。※本編未読の方には、ネタバレになりますのでご注意ください。…ameblo.jp
テリィとキャンディが再会する前の物語です。本編未読の方には、若干のネタバレになります。11年目のSONNETスピンオフジュリエットとオフィーリア★★★初めての扉を叩く時、少しの高揚感と共に新たな出会いに思いを馳せる。古巣の扉なら、待っているのは温かい言葉か熱い握手か。しかし、いま目の前にある扉はどちらでもない。重い扉を後押ししてくれるのは、愛する人の思い出の笑顔。それがあれば、一歩踏み出せる。それがあるから、一歩踏み出さなくてはいけない――その男が稽古場に現れた時、一瞬誰もが息を呑んだ。驚きの瞳が次第に誹謗めいた輝きに変わったのは、男が起した惨事を思い出したからだ。「・・お久しぶりね。もう、懺悔は終わったの?」口火を切ったのは、一番の被害者であるカレン・クライス。初めての主演舞台をロミオ役が足を引っ張り、早々に討ち切られた屈辱は、一年半たっても忘れた日はない。「よく戻って来られたわね。あなたにはプライドがないのかしら」嫌味の一つも言わないと気が済まない。「今日から・・また宜しくお願いします」四方から注がれる批判的な視線を遮るように、テリュースは深々と頭を下げた。いくら待っても言い訳一つ返ってこない状況が、団員たちをいらだたせた。「おい!面だけで芝居ができると思ったら大間違いだ!モデル事務所にでも移ったらどうだ」「残りたいというなら、何でもやってもらうぜ!ああそうだ。劇場の清掃員から始めろよ」ニ期先輩であるオルガはペッと床に唾を吐いた。「モップを持ってこいよ」ココを拭けと言わんばかりに、あごを突き出している。「おおかた中部の女に甘えていたんだろ?ますます中部なまりが取れなくなるぜ」「――中部なまり?俺が?」初めて聞いた言葉に思わず反応した。「田舎者っ!中部のド田舎に帰れっ」加勢するように、他の団員が怒鳴った。「いや違う、こいつの母親は確かニューヨーク出身だった。な、テリュース・ベーカー?」反射的にテリュースはオルガを睨みつけた。「な、なんだよ。首になっていないのは、恩赦があったからだろ!!ロバート先生とエレノア・ベーカーが旧知の仲だから!」「――やめなさい!!」テリュースの背後から持ち前の声量で口を挟んだのは団長のロバートだった。「お前たち、何度言ったらわかる!あの事故はテリュースのせいじゃない」「だが、公演の失敗はこいつのせいだ」「愛する人の一大事に、冷静でいられる人間がどこにいる!キャストの変更が遅れた私の失態だ」「愛する人?ウソよっ」カレンから漏れた言葉が真実なのは、団長以外の誰もが分っていた。あの雪の夜、金髪の少女がスザナの命を救った事、その子がテリュースの恋人であり、中部に住んでいることを知っていたからだ。その情報源ともいえる人物がスッとテリュースに握手を求めた。「また一緒に頑張ろう」同期のアルフレッドの一言で、その場は収まったかのように見えた。熱いようには見えない握手をする二人を横目に、ロバートは団長室の方を指しテリュースに言った。「丁度これからマーロウ夫人が来ることになっている。すまんが君も同席してくれ」事故の賠償金などの請求で頻繁に劇団を訪れていたマーロウ夫人は、この日もアポイントを取っていた。ロバートに続いて部屋に入って来た人物を見て、マーロウ夫人は絶句した。無言の二人をとりなすようにロバートは言った。「スザナと君の仲は夫人から聞いている。心の整理が出来たから戻って来た、そうなんだな?テリュース」「はい」スザナとの仲――それがどんな仲なのか、恋人なのか、被害者と加害者なのか。(――加害者?)しっくりしない響きだった。自分はその場に居合わせただけだ。しかし、そんな言い訳などマーロウ夫人の前では通用しないと分かっている。「宅にはあなたの荷物がまだあってよ。どうするの?出ていくなら取りに来てちょうだい」目くじらを立てながらマーロウ夫人は強い口調で迫った。「マーロウ夫人。あなたの気持ちもわかるが、彼はまだ十代です。一人で抱えるには重すぎたのです。そもそも事故も公演の失敗もテリュースの責任ではありません。我々全体で招いたことです」「娘はこの一年、事故後の自分と独りで向き合ってきたわ。この男は逃げ出したのよ!」「ですが、彼は戻って来たのです。スザナを支えるために」「こんな落ちぶれた俳優が戻ってきたところでっ」「まぁ、そうカリカリしないで。幸いマスコミはテリュースの復帰を待望視しているようです。若いカップルに降りかかった惨事に同情しているのでしょう」「同情なんて、何の役にも立ちませんわっ」「大衆は彼の味方だということです。・・とはいえ、失踪騒ぎを起こして直ぐに無罪放免となっては、他の団員に示しがつきません。しばらくは下働きで我慢してもらう必要がありますが、禊が済んだら必ず」「・・・それはどういうことですの?出世を保証されたという事ですの?」「彼を見捨てるつもりはない、ということです。後は彼の芝居次第です」陽の射さない山の中を徘徊していたようなテリュースにとって、ロバートの言葉は目の前に一本のつり橋が見えたような光景だった。渡れるか分からない朽ちている橋だとしても、とにかくそこが道なのだ。「彼のような逸材をこんなところで埋もれさせはしません」テリュースの実力を高く評価しているがゆえに自然に出た言葉だった。そしてそれは、テリュース・グレアムの不確かな復帰プロジェクトが密かに交わされた瞬間でもあった。「まぁ・・!」感嘆の声でテリュースを迎えた人物は一人だけだった。思わず車いすから立ち上がった瞬間、片足を失っていた事に気付き、ガクッ「キャァ!」と悲鳴を上げたが、「スザナっ!」床にたたきつけられる前にガッチリとした腕が華奢な体を受け止めた。二人が接近する。きりりとした眉に海の色の瞳。理想の全てを兼ね備えたその顔立ちに、スザナは思わず見惚れた。「あ・・・ありがとう。私ってば駄目ね」舌を出しておどけてみせるスザナの顔は、以前より痩せたように見える。「・・おかえりなさい。――ずっと・・待っていました」そう口にした瞬間に実感したのか、スザナの瞳からは雨上がりの花びらに残るしずくのような丸い涙が、後から後からこぼれてきた。その透明さに引き寄せられるように、テリュースは優しく伝えた。「・・心配をかけてすまなかった。今日劇団ヘの挨拶を済ませてきたんだ。明日から劇団に通う」思いがけない言葉に喜びを隠せないスザナだったが、心の奥では隠さなければならない感情が一瞬で渦まいた。――キャンディと会ってきたの?キャンディの所で暮らしていたの?なぜ、私のところに戻ってきたの?・・・私は、選ばれたの・・?「また一緒に・・暮らしてくださるの、、ね?」おそるおそるスザナは尋ねた。運命を受け入れ、責任を取るために戻ってきたテリュースとしては、アパートに戻りたい、という本音が、どれ程わがままかは分かっていた。「マーロウ夫人さえよければ」後方に立っていたマーロウ夫人にテリュースはチラッと視線を移した。「・・・心配には及びません」マーロウ夫人にとってテリュースほど複雑な存在はなかった。将来有望な俳優だったあの頃とは違い、今は無職に近い状態。それでもロバート団長の言葉を聞いた後では、どこか投資に似た期待が芽生えてくる。約束されたのだ。”テリュースは再び脚光を浴びる”と。何より、娘のスザナはテリュース無しでは生きていけない。毎夜涙に暮れながらこの男の帰りをどれほど待ちわびていたかは知っている。今はただの介添え人でも、いるだけましなのだ。「――期待していてよ、テリュース・グレアム」睨みながら言った後、「あなたの寝室はニ階。スザナの隣の部屋でいいわね。スザナをサポートしてあげて」と、召使に指示するかの如く言った。「ニ階?」(足が不自由なのに?)不思議そうな顔をするテリュースを、スザナは見逃さなかった。「去年記者が庭に侵入して盗み撮りされたでしょ?なんか、怖くて・・」「障がいを見世物にはさせないわ。食事以外の生活の拠点をニ階に移したのよ」「滅多に外出しないから、さほど不自由じゃないわ」「今日劇団に行ったのは、エレベーターの設置費用の相談。ギルが膝を悪くしてね。スザナをおんぶして二階に上がるのは、きついって言うものだから」「覚えてる?執事のギルバート。健康の為に毎日ランニングしていたでしょ?それで膝を壊していたら、意味ないわね」スザナは茶化すように笑った。もっと若くて体力のある男に――と言おうとして、テリュースはやめた。スザナの若い男に対する警戒心の強さを思い出したからだ。女優スザナ・マーロウは、男連中のアイドル的存在だった。選べる女性は、簡単には男を近寄らせない。その半径三十センチ以内に入れるのは、半世紀以上生きた執事か相手役だけ。「あなたは今日からギルの代わりをしてちょうだい。エレベーターより先に、台所の移設をしてもいいわね。今は足やら腕やらを失って帰国する兵士で溢れているから、エレベーターの設置には時間が掛かるのよ」マーロウ夫人の言葉の語尾にはことごとく『あなたのせいで』と、付いているかのようだった。「・・足がないなんて、今は普通のことかもしれないわ」スザナはテリィを気遣うように微笑んだ。出戻りに与えられた最初の仕事は、劇団の事務室の手伝いだった。「この売れ残ったチケットを売りさばいてくれる?」年配の事務員の女性は、デスクの上に雑多に置かれたチケットの束をトンッと指ではじいた。「・・・どうやって?」「知り合いに買ってもらうのよ」「――知り合い・・」「いないなら、劇場近くのバーやショップに宣伝して来ることね。はい、これがチラシ」チケットよりも高い頂きを、短い指でバンバンと叩いた。「いつもこんな風に?」「あなたがしくじってからは特にね。高いお金を払って、散々な舞台を見せられた観客はたまったもんじゃないってこと」事務員は正直だった。(しくじり・・)自分の失態が多方面に与えた影響はどれほどだったのか。劇団員たちの態度は、ごく当たり前の反応なのだと実感する。「それから、このファンレターを皆の楽屋に配達してくれる?掃除しながらでいいわ」バケツとモップ、そして手紙の束を渡しながら事務員は言った。「あなたが第一線で活躍していた頃は、この十倍届いていたと思うわよ。そうそう、毎日のように同じ名前の子から来てたわよね」「・・そうでしたか?」「すごくかわいい名前の子。え~と・・ショコラ?だったか」ファンに注意が向いたことがなかったテリュースには、ピンとこなかった。「スザナにもファンレターが多く来ていたっけ。毎日事務所までわざわざ受け取りに来て。楽しみだったんでしょうね」「スザナが?」そんな一面もあったのか、とテリュースは意外に思った。「覚えてないの?あなた宛てのファンレターを楽屋に届けていたのもスザナだったでしょ。会いに行くきっかけがあれば、なんでも良かったって感じ。あの頃からあなたに惚れていたと思うわよ」事務員は茶化すようにそう言うと、「スザナは元気にしてる?」と尋ねた。好奇心の赴くまま問いかける中年女性の厚かましさ。劇団員の誰ひとり訊いてこないその質問に、若干の可笑しさを感じる。「ええ、元気ですよ。家に引きこもっていますけど」「君宛てのファンレター」「あら、ご苦労様」化粧台の前に座っていたカレンは、メイクをしながら鏡越しにテリュースに話しかけた。「掃除はいいわ。今、忙しいから。・・へぇ~、そーいう格好も似合うのね」鏡に映った灰色のつなぎ姿は、今の自分に似合いすぎてるな、とテリュースも思った。「そうそう、スザナがあなた宛てのファンレターを破いている現場を見たことがあるわ」カレンが突然振り返り、思い出したように言った。「まさかっ・・」「ホントよ。ライバルを一人でも減らしたかったんじゃないの?彼女、あなたにご執心だったから」スザナとライバル関係にあったカレンの言葉にどれほど信憑性があるのか、テリュースには分からない。「今の俺にはファンレターは来てないから。もうその心配はないよ」テリュースは、この話題を終わらせることを選んだ。「さぁ、どうかしら?この雑誌にあなたの復帰の記事が載ってるわ。扱いは小さいけど」カレンは化粧台に置かれた雑誌を見せようとしたが、テリュースは首を振りながら「インタビューなど受けてないのに、どこからその情報が」と苦笑した。「・・あなた、マーロウ家に戻ったの?」記事に書いてあったのか、カレンは半信半疑で訊いたのだが、否定しないテリュースを見て察した。「そうなんだ・・ふ~ん。スザナ、喜んでいるでしょうね。あなたを手に入れることが出来て」「俺は――・・文無しのただの居候だよ」「そんな言い訳が通用すると思ってるの?男女が同じ屋根の下に住んで」竹を割ったような性格のカレンという人物は、スザナとはことごとく正反対のように思えた。「スザナは策士よね。あなたの慈悲深さを利用するなんて」「違う、俺の意思だ。スザナはとても純粋だ」「純粋な人は他人のファンレターを勝手に破いたりしないわよ。ひょっとして、あなたの大切な人からのラブレターだったのかしら?」一瞬、ギクッとしたテリュースだったが、キャンディの手紙は専らアパートに届いていた事を思い出し、「それはないよ。手紙の件はスザナも反省していた。もう以前のスザナじゃない」と返した。スザナを信じ切っているようなテリュースに、カレンは苛立ちを覚えた。「どこがよ、全然変わってないじゃない!あなた気付いてないの?自殺未遂、あれは自作自演よ!」「考えすぎだ」「公演が終わる時間を選んでいるあたり計算じゃないの!あなたに見てもらう為のお芝居なのよ。悲劇のヒロインのね!」「まさか、そんな――」「邪魔をしたかっただけよ。あなたと恋人の夜を!」「――っ!」病院の屋上で起きた惨劇に居合わせたのはキャンディだけ。吹雪のスクリーンに映し出された映像がどんな光景でどんな会話だったのか、テリュースもカレンも見ていない。「”恋をする人と狂人の脳は煮えたぎっている。冷静な理性では考えられない妄想を生む”。我らがシェークスピアもそう云っているじゃない」「・・・『夏の夜の夢』か」「冬の夜の夢よ。スザナの描いた妄想が現実になったんだわ」カレンは確信めいた口調でそう言うと、議論に見切りをつけたように鏡の方に向き直り、「本番の時間が迫ってるの。出てってくれる?」と真赤な口紅をひいた。次のドアをノックすると、舞台衣装を身に着けたオルガが腰に手をあて鏡の前に立っていた。テリュースは一通のファンレターを差し出したが、オルガの手はぴくりとも動かず、鏡台の前に置けとばかりに鼻先を向けた。「――自分の方が多かった、とでも言いたいのか?」オルガは瞬間、足元のゴミ箱を蹴り倒した。「おっとすまん、片付けておいてくれ」テリュースはチッという音が口から出そうになるのを抑えゴミをかき集めたが、その傍から足元にペッとガムが飛んできた。「悪い、紙が無くてさ。ガムもキャンディみたいに消えてくれればいいのにな」黒い瞳をギラギラさせ、うすら笑いを浮かべている。キャンディみたいに消えてくれれば――偶然だとしても、気分のいい言葉じゃない。「では、どうぞこれを」テリュースは掃除用具の中にあったトイレ用の紙を無造作に渡し「ガムはチョコレートと一緒に食べると消えますよ。参考までに」と、栗色の髪と共に踵を返した。「ちっ、お高くとまりやがって、下っ端のくせに!!」テリュースにはどこかインテリジェンスの香りが漂っていると、オルガは常々思っていた。黒人を祖父に持つ南部出身のオルガにとって、テリュースという人物は劣等感を自覚する対象でしかない。いずれ主役に返り咲くであろう脅威の存在――。男優なら誰もが抱くテリュースへの対抗心は殆ど嫉妬に近いものだった。劇団の雑用は多岐にわたった。楽屋や劇場の清掃はもちろんだが、大道具や小道具の手配や修理。本番では役者たちの着替えなどのサポート、大道具小道具のセッティングや舞台装置の操作など、休む暇など無かった。それでも、団員たちが夜遅くまで稽古をする中、テリュースは自分の業務をこなしながらも稽古の様子を観察していた。他の団員より早く帰るわけにはいかない。劇団の演目の段取りは一部始終頭に入れたい。この性分は入団以来の事で、テリュースにとって当たり前だった。「がんばってね、あなたの実力は私が一番知っているわ。必ず報われる日が来ると信じてる」スザナは優しかった。励ましの言葉をかけて毎日送り出してくれた。スザナ自身、自分の身体に起きた現実に慣れたとは云えない状態だった。体調がすぐれない日、眠れない夜はテリュースが付き添うこともあった。お互いがどこか不安定な者同士。誰かに必要とされ、役者として辿り着きたい場所があるだけで今のテリュースには十分だった。そんなテリュースにチャンスが巡ってきたのは、食中毒が発生し団員の幾人かが数日間舞台に立てなくなった時だ。そう、芝居の世界にはこれがある。不意に訪れるチャンスをものにできるか否かは、運であり実力だ。「パック役を僕が、ですか?」アルフレッドは困惑気味に言った。周りの団員がくすくす笑っている。「パックって、、妖精ですよね。女性か男の子が演じる役だと思いますが・・それに衣装が、、踊りが、、どうなんでしょうね、僕に出来るとは」アルフレッドは、プヨプヨの自分のお腹を見ながら、額から吹き出してくる汗をぬぐった。「いくら喜劇とはいえ、登場した瞬間に爆笑の渦じゃ芝居がぶち壊れるぜ」適役じゃないとばかりに、主要キャストであるデミトリアス役のオルガが異存ありげに言った。『夏の夜の夢』に登場するいたずら好きの妖精パック。この演目の中では物語をかきまわす重要な役柄だが、ベテラン俳優がやるような役柄ではない。「十代の役者がいいんじゃないですか?」誰かが提案した。「そうだ、お前、テリュースやれよ。十代だろ?それに場を引っ掻き回すのが上手い」劇場の隅で舞台装置の調整をしていたテリュースの体が、ピタッと止まった。適役だから推す、というわけではなさそうなオルガの言葉に、周りからもせせら笑いが洩れている。「周りが上等の衣装を着けている中で、裸同然の姿だ。演じて見せろよ」「・・・パック」それはストラスフォード劇団に入って初めて与えられた役柄だった。当時十七才だったテリュースは、パンフレットに名前を載せて貰えたと喜んだものだ。それからフランス王、ロミオと、一度は主役の座を射止めた俳優にとって、今、再びのパック役をどう受け止めていいのか・・――いや、選択の余地はない。「俺でよければ」その返事に劇団員は目を丸くし、ロバートは耳を疑った。「・・本気かよ」オルガは呆れたように言った直後、バカにしたような笑い声をあげた。アルフレッドが慌てて助言する。「テリュース、少し考えろ。なんでもやればいいってもんじゃない。君のファンがどう思うか――」「ファン?そんなのいないさ。やらないより、やった方がいいに決まっている」テリュースは着ていたシャツを脱ぐと、腰に巻き付けた。「セリフはとっくに頭に入っています。いつでも行けます」決意に満ちた声に劇団員はたじろぎ、「め、目立ち過ぎないように、バランスを考えろよ!」と吐き捨てるようにオルガが言った。脇役に主役級の役者を起用することはある意味リスキーだ。他の役者を喰ってしまう恐れがある。それ以上に、陽気なパックのイメージとは異なる俳優を起用することは、劇にとってどうなのか。今のテリュース・グレアムのイメージとは違う役柄は、本人のマイナスにならないか。この配役が吉と出るか凶と出るかは、団長ロバートにも分からなかった。「――少し演出をいじりますか?」そばにいた演出家が提案したが「いや、そんな時間はない。やれるか?テリュース」「もちろんです!」ロバートは賭けてみることにした。テリュース・グレアムの復帰作――と触れ込む暇もなく数日間のピンチヒッターとして舞台に立ったテリュースは、その存在感で観衆の目を引き付けた。テリュースのパックを見たロバートは、自分がいかに保守的だったのかを思い知った。既存のイメージをいい意味で裏切り、どこか小悪魔的な魅力を放つ妖精役に新たな脚色の可能性を見つけたのだ。そして元からのファンの間では、肉体美が見られると口コミで広がり、当日券はあっという間に完売してしまった。パンフレットに名前は載らなくても『夏の夜の夢』の舞台でテリュースの好演が目立ったことは、復活の兆しとしてブロードウェー界隈では認知された。とはいえ、マスコミのテリュースへの関心は既に失せ、他の旬の俳優たちのスキャンダルを追っていた。それほどこの世界は流れが速かった。ロバート邸で行われた打ち上げパーティでの出来事だ。たった三日しか舞台に立たなかった者が参加するのは分不相応と断ったのだが、君にも参加する権利があるから、とロバートは譲らなかった。パーティ嫌いも手伝って遅れ気味に会場入りしたテリュースを迎えたのは、エントランスの隅に置かれたピアノのポロンポロンというぎこちない音だった。数人がふざけるように人差し指で鍵盤をたたいている。その横を通り過ぎようとした時、「へい、パック!いま流行りのジャズは聴いたことはことはあるだろ?」グランドピアノにもたれているオルガが、両腕を組んでニヤついている。「・・・聞いたことなら」「ジャズをリクエストする。風来坊のお前にピッタリだ。弾けるんだろ?」「曲を知らないので」弾けない、という返事を期待していオルガにとって、目論見とは違う答えが既に癪に障った。「全ての役柄のセリフを頭に入れて、隙あらば役を盗んで行くお前なら、聞いただけで弾けるだろ」「そんな才能はありません」「お前は天才だろ?入団一年で主役の座を射止めたロ・ミ・オ」オルガは嫌味が言いたいだけなのだ。生まれてこの方、公爵家の跡継ぎだなんだと常に嫉妬の対象に晒されてきたテリュースは、嫉妬との付き合い方は熟知していた。無視するか、木端微塵にする。――今回はどっちだ。続いてしまう。後編へ。。。。。。。。。。。。。。ワンポイントアドバイス『夏の夜の夢』の妖精パックを演じた(と思われる)入団当時のテリィカレン・クライス漫画ではたった3コマしか登場しませんが、二次小説界隈では重宝されるキャラです(笑)マーロウ家の執事ギルバートについて実在するモデルがいますが、無許可なので言いません😷バレバレ?1話で収まらなかったので、2話に分けました。後編は既に完成していますが、公開はTG の生誕祭(来年1月28日)を予定しています。😑シレッ「もっと早く出せ!」とイカ🦑やタコ🐙が投げられた場合は、善処します。※たくさんの🦑と🐙の投げ込みをありがとうございました。
『11年目のSONNET』本編終了後のお話ですが、未読でも大丈夫です。時系列としては、スピンオフ『テリィVSアルバート』の数カ月後です。こちらを復習してからの方が理解が深まりますが、未読でも支障ありません。※途中YouTube動画がありますので、再生しながらお読みください。11年目のSONNETスピンオフおめでとう!2★★★100年前の空気が厳かに流れているようなグランチェスター公爵邸。本日午前、それをかき乱すような熱波がアメリカから渡来した。「それでね、その珍しい熊はかなりの割合で双子を出産するんだが、元気そうな一頭を早々と選びもう一頭は見捨てるそうだ。何故だか分かるかい?」「アルバート、、、さん」テリィは延々と続く動物の出産話に耐えかねた。(僕が話したいのはキャンディについて、なのですが・・)「ウィリアム様、白黒の熊の話はほどほどに」同席していた秘書ジョルジュがテリィの意をくむように口を挟むと、一瞬客間の空気がひんやりした。「ジョルジュ、熊は人と同じ哺乳類だよ」「キャンディス様は霊長類です。出産の話をするなら猿かゴリラの方が宜しいのでは」ジョルジュの助け舟に若干のズレを感じたテリィだったが、口には出さない。「ゴリラの出産の話は前回来た時にしたんだよ。テリィ、覚えているだろ?」「――ええ」(・・全く覚えていません。右から左へ抜けました)「違います、ウィリアム様」ジョルジュは手に持っている手帳をパラパラとめくり、「前回はゴリラの寝相といびきについてです。出産の話しには及んでおりません」ときっぱりと言った。記憶違いはビジネスマンにとって命取りになりますよ、とでも言いたげな厳しい口調だ。「そうだったかな?すまなかったテリィ、ゴリラの出産について聞きたいのかい?」「い、いいえ、、、僕はキャンディの――」「キャンディの出産については、三人の医師が付いているんだ、そちらに聞いてくれたまえ」――そうでしょうとも。この時間は全く無駄になったのか、とテリィが息を吐いた時、歩くブリタニカ事典の異名を持つアルバートは何かを思い出した。「ああ!そうそう、聞くところによると人の出産は」テリィの喉がゴクリと鳴った。「鼻から――」「鼻?」「スイカだそうだ」瞬間、テリィは青ざめた。花鳥風月の感性はシェークスピアで慣れてはいたが、いとも簡単に超えてくるアルバートの比喩。(――出せるのか?鼻の穴から)振り回されるテリィをよそに、アルバートは腕時計に軽く目をやりながらソファから立ち上がった。「おっと、もう移動する時間だ」「そろそろキャンディの検診が終わる頃だと思いますよ」引きとめるようにテリィは言ったが、アルバートはスーツの上着を肩に掛けながら微笑んだ。「遅れると信用問題に関わるからね。それが済んだらまた寄らせてもらうよ」「ロンドンに着くなり仕事ですか?」「おいおい、今はサマーバケーション中だよ」「ではどちらへ?スコットランドですか?」「ブルーリバー動物園だよ。飼育員のアルバイトをするんだ」テリィはこらえた。とにかくいろいろこらえた。「シャバーニ(←イケメンゴリラ)とカンパネルラ(←野良猫)は元気だと思うか、ジョルジュ」「測りかねます」私情を一切挟まない秘書の中の秘書ジョルジュ。「約束の時間に遅れます。急ぎましょうウィリアム様」その柔軟性は尊敬に値する。ジョルジュは手帳をパタンと閉じるとアタッシュケースを持ち上げ、弾むような足取りのアルバートの一歩後ろに付いて、グランチェスター家をあとにした。拠点をロンドンに移しているRSC。他の劇団と稽古場をシェアしてる関係で、その日も午後からのゆるいスケジュール。鏡台の前に置かれた数通のファンレターをぼんやり眺めていると、「よう、テリィ!キャンディの調子はどうだ?そろそろ臨月だろ?」同じ楽屋を使う相棒のジャスティンが入って来た。「多胎児だからね、いつ陣痛が来てもおかしくないと言われたよ。まだちょっと小さいけど」「知ってるか?熊は半年間も妊娠期間があるのに、赤ちゃんの大きさはこのぐらいらしい」ジャスティンはこぶしを突き出し、人の胎児は熊より遥かに大きいのだと、テリィを励まそうとした。「・・・熊?」(哺乳類か。せっかくなら霊長類の話の方が――)どこか上の空のテリィの様子に、雄弁家のジャスティンはこのままでは終われない。「熊は冬眠中に妊娠と出産をするんだ!眠っているのに妊娠するって凄くないか!?その理由は」「いや、、その話はいい」(これ以上、熊の知識は要らない)鏡に映るテリィの顔は疲れ切っている。ジャスティンはピンときた。「・・どうしたテリィ、不安なのか?――もしかして、あの大富豪の養父か?」相変わらずイノシシ並の嗅覚を持っているジャスティン。「――仕事で今朝イギリスに」(動物園、、とは言いにくいな)「だからあの養父は怪しいって言ったんだ。こんな時期に来るなんて、まさか出産に立ち会うつもりなのか!?」「誤解だジャスティン。アルバートさんはキャンディに会いに来たわけじゃない。アルバートさんは・・仕事で――」(シャバーニとカンパネルラに・・)口ごもるテリィを見てジャスティンは追及を止めた。不安を煽るのはよくない。「・・公演の見通しも立たないし、俺、映画のオーディションを受けようと思うんだ。テリィもどうだ?」「出産が済んでから考えるよ」屋台骨である劇場が焼失した今となっては、劇団も団員の副業を認めている。「このガラ空きのスケジュールを活かさない手はないぜ?ナイルも家業を手伝っている」その時だった。噂をすれば影とばかりに「ジャスティ―ン、テリィ―!実家からの差し入れだ、冷やしておいて後で食おうぜ」ナイルが超御機嫌な様子で楽屋のドアを開けた。腕に抱えているのはまん丸のスイカ。どうやら家業は農家のようだ。テリィは吸い寄せられるようにスイカを奪い、無意識に鼻先まで持ち上げた。(・・・無理だろ、絶対無理。鼻からどうやってスイカを出すんだよ)「・・・何をやってるお前?」スイカで筋トレしているようなシェークスピア・アクターの姿に、ナイルとジャスティンは眉をひそめた。情緒不安定だという事は理解した。ポンとテリィの肩を叩いたジャスティンのヘーゼルの瞳は同情的にキラキラ光っている。「大丈夫だ・・!父親になる時は誰だって不安だよな。お前しばらく休め」「何をっ」「いいから休め。今が公演中じゃなかったことを神に感謝しろよ」テリュース・グレアムは妻の出産で頭がいっぱい――そんなト書きが台本に書き加えられたように、その日テリィは団員達から温かい声を掛けられた。「ついていておあげなさい」「スイカは餞別だ、持っていけ!」「台本だけ渡しておこう。オーディションの日が決まったら連絡するよ」監督から渡された新しい台本のタイトルは『じゃじゃ馬ならし』。(英原題:The Taming of the Shrew)「馬・・動物――」どこにいても、休まる気がしない。「スイカの食べ過ぎでお腹が冷えたのかしら?さっきからお腹の調子が変だわ・・」ベッドに寝そべりながら、キャンディは大きくなったお腹をさすった。「そうなのか?」窓を閉めようとしていたテリィは、キャンディの元へ駆け寄った。バルーンのように膨れ上がったキャンディのお腹は、爪が当たっただけで破裂してしまいそうで、テリィは手の平で軽く撫でながら「スイカ、美味しかったか?」とお腹の二人に話しかけている。「・・・テリィ、もう名前は考えたの?」「いいやー―・・顔を見てから決めようと思って」「そうなのね・・」「君は?何か考えた?」「私は――、テリィが付けてくれるなら何でもいいわ」キャンディは甘えるように両手を広げ、ベッドサイドでひざまずくテリィを首元に呼び寄せた。「あのね・・。アードレー家の男子はみんなAで始まる名前を付けるんですって。アルバート、アーチー、アリステア、それから――」「アンソニーか」キャンディは若干遠慮がちにコクンと頷いた。(もし・・あいつが生きていたら)俺とキャンディは出会わなかった。・・そして、キャンディのお腹の子はアンソニーの子供だったかもしれない。考えても仕方が無いと思いながらも、テリィは考えてしまう。「アルバートさん、大おばさまが企てた縁談を破談にする為にこっちに逃げてきたみたいよ。私の子供を養子に迎えるつもりだから、結婚は必要ない、なんて言ってるの」「冗談言うなよ、グランチェスター家の跡取りはどうなる」「テリィとキャンディなら、子供をたくさん授かれるだろうから、一人ぐらい回して欲しいって」言いながら、キャンディは顔を赤らめた。「犬だと思われてるな」テリィはクックと笑った。「俺の子供は将来アードレー家の跡継ぎになるのか。――それも悪くない」「なら、名前にAを付けなきゃね」キャンディはいたずらっぽくウインクする。「ところで、ニールはのけ者?」二人揃って同じことを言ったら最後、可笑しくて笑いが止まらなくなった。「・・なんだか、やっぱりおかしいかも・・これ陣痛なのかしら?」お腹をゆすったからなのか、キャンディは不安を口にした。「えっ――」一気に緊張感が増したテリィは、「ドクターを呼んでくる。安静にしてろ!」と早口で言うと、部屋から出て行った。「間違いありません。始まっています」妊婦とさして変わらないお腹のドクターボリスは、超音波のモニターに向かってつぶやいた。「胎児は狭いスペースをフル活用するような体位をとっています。第一児は頭位、第二児は骨盤位、いわゆる逆子です」これはマズいですね、とでも言いたげな緊張感のある声。「・・何か問題でもあるのか?」「このままですと第一児は頭から、第二児はお尻から産まれる、ということです」「それが?」「リスキーだということです。おそらく第一児の分娩の後・・・」「――なんだよ!」考え込むようなボリスの言葉にテリィは言葉を荒らげた。「陣痛は収まってしまうかもしれません」「はぁ?なんだよそれ、そんなことがあるのか!?」「はい。双子でも、誕生日が同じになるとは限りません。数日後に改めてというケースもございます。その間に、胎児が逆子ではなくなることをお祈りして・・無理なら、二人目は帝王切開になることも。今、それを選ぶという選択肢もございます」今頃そんなヘビーな知識などテリィの頭には入ってこない。「キャンディの体にメスを――?」――美しい肌に、ほくろ一つ無い白い肌に。「妊婦と胎児の命を最優先しなければなりません」重い言葉に、テリィは一気に不安になった。「大丈夫よテリィ。ボリス先生、自然の流れにお任せします。後の子は、後に考えます」看護婦であるキャンディは予備知識を持っていた為か冷静だった。医師団はもちろんこのような事態は想定内で、グランチェスター家の一室はさながら簡易手術室に様変わりしていた。「心配しないで、私には最強のお守りがあるから」キャンディは胸の十字架を指さして「ほら、ポニー先生とマリア様がここに」とウインクした。徐々に強くなる陣痛の波を傍で見ているテリィは、何をしたらいいか分からなかった。真夏の暑さを少しでも和らげてあげようと、風を送ったり妻の額の汗をぬぐったり。時折、祈るような気持でキャンディの胸元の十字架を握る。そんなテリィを気遣うように、キャンディは微弱な陣痛の間に声を掛けた。「赤ちゃんはね、陣痛の波に乗ってこの世界へ来るの。私と赤ちゃんの共同作業だと思えば、、、あ、また来た、、いたぁ~」心血注ぐ母子の共同作業に手を貸せない無力さを感じながらテリィは言った。「――俺にできることは?」「・・手を握ってて欲しい」「もっと言ってもいいんだぜ、パイを食べたいとか、宝石を買って欲しいとか」キャンディが頑張れる為には何でも叶えたい気持ちになっていた。キャンディはハァハァと陣痛の痛みを逃がすような呼吸を行いながらかすれた声で言った。「じゃあ、アイスクリームが食べたい」「分かった」「5個」「分かった、、、」「本当に分かってる?」「君が食べたい物は分かった。でも、アイスだけは無理だ。溶けちまう」「それならチーズケーキ。レイン先生のチーズケーキと同じ味の――マダムコレットの」「、、、夜中に店は開いてない」「じゃあ――」お菓子のリクエストがどこまでも続く。「キャンディ、食い物以外で頼む」「そうね、寝そべりながら食べるのは行儀が悪いわね。それなら、セリフを言って」「セリフ?誰の?ハムレットか?生きるべきか死――」(ダメだっ、、この先は言うな、テリュース!!)テリィはこらえた。「ちがうわ、ロミオとジュリエットのセリフよ。バルコニーで愛を語るシーン」キャンディはここぞとばかりに一番のリクエストをした。テリィはお安い御用だと身を乗り出し、最も有名なセリフを情感たっぷりに唱えた。「名前が何だというのだ!スウィート・キャンディ・・別の名前で呼んでも、甘い香りは変わらない」「ダメよ、そこは名前が重要よ」「ターザンそばかす、別のあだ名で呼んでも、おてんばは変わらない」「そのあだ名は要らないわ」陣痛の痛みを和らげるようなテリィの戯言。「君が聞きたいのはロミオのセリフじゃないだろ?」ドクターボリスの他に産婦人科医と外科医、それに二人の看護婦がいたが、テリィは構わなかった。「愛してるよ、キャンディ――」繰り返し繰り返し、祈る様な気持ちで耳元に声を掛ける。だから、どうか無事に・・・【※再生しながらお読みください】When I find myself in times of troubleMother Mary comes to meSpeaking words of wisdom,Let it be私が困難の中にある時聖母マリアが来てくれて知恵ある言葉を授けてくれる神に委ねなさい、とAnd in my hour of darknessShe is standing right in front of meSpeaking words of wisdom,Let it beそして私が暗闇の中にある時聖母はわたしの前に立って知恵ある言葉を授けてくれる委ねなさいLet it be Let it beLet it be Let it be・・・(翻訳:フェイスりさ)オギャーーーー長い夜が終わりを告げ地平線の彼方に朝陽が上る頃、第一子が元気な産声を上げた。しかし、黎明(れいめい)の泣き声に酔いしれている暇などなかった。医師団はこれからが本番とばかりに息を詰めてモニターを見つめている。「・・どうですか、先生」テリィとキャンディは同じ言葉を口にした。胎児は全く産まれるつもりがないのか、妊婦の腹の中でのんびりしている姿が映し出されている。逆子は変わらない。一度収まってしまった陣痛はしばらく待っても始まらない。「では、やりましょう」医師団が何かを決意した瞬間、「いたたたたた!!」キャンディの悲鳴に近い声が上がった。先ほどまでの分娩の痛みとは違う声。「ボリス、何をやっているっ!」キャンディの身体の上に馬乗りになっているようなボリスを見て、テリィは阻止するように言った。「胎児の位置を動かしています―」まるで最後の生クリームを絞り出すように、強い圧でお腹を押されている感覚にキャンディはパニックになった。「ゥぐっ、、な、何!??」「下がった」「―――い、、いたい―っ!!」「よし、掴んだ」「おい、何をしているっ!」「次、回転させろ」「押せっ」「出たぞ!」気が付くと、二人目が産声を上げていた。嵐の大洪水が一斉に引き、オリーブの葉をくわえた鳩が箱舟の前に突然現れたようだ。「私、何もしていないのに・・・産まれちゃったの?」キャンディとテリィは、いったい何が起こったのか分からなかったが、何やら医師団は「奥の手」を使ったのだと分かった。キャンディのお腹に傷跡は残らなかった。「おめでとうございます」全身の力が抜けたように床に座り込んだテリィの元に、先に産まれた子供がおくるみに包まれて運ばれてきた。戸惑いながらも受け取ったテリィは、自分が父親になったのだと初めて感じた。「・・・女の子・・」なんと小さく、はかなげな命。なのに、この重みはなんだろう。(俺と同じ栗色の髪――)「どう?初めて見た生まれたばかりの子供は。どうせ猿みたい、って言うんでしょ」キャンディの口調はいつもと変わらなかったが、その柔らかな表情はいつの間にか聖母のほほえみになっている。「いや・・かわいいよ、とても」――かわいい。こんなにかわいいものなのか。窓から差し込む陽射しに目を向けると、神々しい光が琴線となりテリィの瞳の前に涙の虹を掛けた。「・・・・アイリス・・」テリィはフッと降りてきた名前を口にした。「――虹?外に虹が掛かってるの?」キャンディは不思議そうに言った。「・・ああ、この子の名前はアイリスだ」キャンディはにこっと笑った。「はい、こちらは男の子ですよ」後から生まれた子を看護婦から手渡されたキャンディは、安堵の瞳でその子を見つめた。「まだ生まれたくなかった?・・ふふ、ようこそこの世界へ」金髪、青い瞳――「・・アイリスとは違うわね」「女の子に見えなくもないな」天使を抱くキャンディの姿は、どこかで見覚えがある気がした。(・・・ああ、そうか)初めてアードレー家を訪れた時に見た肖像画だ。幼いアンソニーを抱いた、ローズマリー。(・・・アンソニー・・なのか?)「え・・?何て言ったの?」僅かに呟いたようなテリィの声に、キャンディは耳をそばだてる。「アン・・・」――いいや、俺とキャンディの子供だ。「・・ディ・・」「アンディ?」「・・・・・フっ」何故かテリィは愉快な気分になった。頭文字にAを付けるつもりなど、今の今までなかったのに。「――そうだな、男の子はアンディ・ウィリアム。命のリレーだ」「おめでとうございます!テリュース様、キャンディス様」その日グランチェスター家は、おめでとうの声がやまなかった。おめでとう!2(完)。。。。。。。。。。。。ワンポイントアドバイス出産シーンは「骨盤位・横8式上肢解出術」を表現しています。何だそれ・・気分が悪くなった方がいらしたら申し訳ありません。🙇♀️現在妊娠中の方は不安を感じませんように。ノアの方舟(はこぶね)の漢字、作中では箱舟と表記させていただきました。子供達のエピソードは「エピローグ★」にも掲載されています。次のスピンオフはこちら★です。スピンオフの目次はこちら★です。イケメンゴリラシャバーニのイメージ画本人じゃんThe Beatlesの『Let it be』の訳についてフェイスりさ様の訳をご本人の許可を得た上で掲載しました。作詞者のポール・マッカートニーはカトリック信者であることから、今回のお話にはこの訳が一番しっくりくると感じました。解説はこちら⤵©水木杏子/いがらしゆみこ 画像お借りしました
考察系記事ですが、ファイナル未読の方も読める記事ですかんたんですよ~ファイナルの3章は主に【手紙】で構成されています。キャンディが書いた手紙とキャンディに届いた手紙が羅列し、その間に、30代のキャンディ目線の回顧録が8カ所挟まっています。それゆえに、現在と過去が混在し、時系列がバラバラと言われています。本当にそうなのかファイナルは、30代のキャンディが過去を回想する、という形式の著書です。つまり手紙の順番は消印順ではなく回想順です。それを忠実に書き出してみます。※手紙の内容は、流れを掴み易いよう超要約です。まず回顧録に登場する30代のキャンディが、大人になったスージーが看護婦になって頑張っている、という絵葉書を手にしたところから、過去の手紙の世界に突入します。途中に入る回顧録は敢えて省き、手紙だけを紹介します手紙形式の物語① セントポール学院を出た後下巻153~カーソンさんへ「私を家に泊めてくださって、ありがたかった!麻疹に掛かったスージーを看病した時、看護婦になりたいって思ったんです」カーソンさんの3人の子供へ「私のいるポニーの家は、親のいない子が集まっているんだけど、サムのように優しいお兄ちゃんはいないな」ジャスキンさんへ「アメリカ行きの船に乗船できたのも、ジャスキンさんのおかげ。なんとね、密航仲間がいたのよ!私たちは直ぐに見つかってしまったけど、優しいニーブン船長に助けられたの」ジョルジュより「メリー・ジェーン看護学校入学希望の件は承諾しました。何があろうと、あなた様がアードレー家の一族であることは変わりありません」ニーブン船長へ「午後にはポニーの家を出て、看護学校へ入学します。新しいアドレスを書いておきますね」クッキーより「キャンディ、いよいよ看護婦へ出航したんだな。おれも船長になれるように頑張る!」カーソンさんの子供たちへ「新しいママができて、本当におめでとう!私は看護生として勉強しています」テリィへ「テリィ・・私は今看護学校に入学して充実した毎日を送っています。あなたもアメリカのどこかで前を向いて進んでいるのでしょうね。いつかきっと、また会えたら胸を張って言いたいことがあります」アーチーより「君が看護学校で学んでいるなんて。近々にアメリカに帰ります。ヨーロッパがきな臭くなってきた」ステアより「ピリピリした空気がロンドンを覆っている。帰国命令がでた。バンザーイ!もう規則はこりごりだ」シスターグレーへ「コーンウェル兄弟に聖書を託してくださり。感謝で胸がいっぱいです」メリージェーン校長へ「マクレガーさんの死で落ち込んでいた私に休暇をくださり、院長先生の思いやりが身に沁みました。これからシカゴの聖ヨアンナ病院に派遣されても、しっかり学びます」アニーより「シカゴに戻ったらもっとキャンディに会えると思ったのに。一刻も早く知らせたくて切り抜きを同封します」切り抜き『期待の大型新人!テリュース・グレアム。ストラスフォード劇団公演・フランス王に大抜擢!』フラニーへ「新聞でフラニーが従軍看護婦として表彰されたという記事を見ました。戦争がこんなに長引くとは」パティより「シカゴへ発つ日が決まりました。イギリスが参戦しました。キャンディの病院にアルバートさんが運ばれて来たって本当?しかも記憶を失っているって・・」ヨセフ病院フランク先生へ「看護婦試験の合格祝いに医学書を下さりありがとうございました!フランク先生は記憶喪失の患者さんを診断なさったことはありますか?恩人が運び込まれて、どうしても直って欲しいのです」フランク先生↓如何でしょうか?キャンディがカーソンさん宅で自分の道を決め、看護婦に合格するまでが描かれています。漫画をお持ちの方は分ると思いますが、時間の流れに乱れはありません。つまり手紙形式とはいえ、2章の続きになっていると分かります次に登場するのはラガン家関連の人たちへの手紙です。アルバートが大おじさまとして登場し、終戦しているので、時間がジャンプしていることが分かります。では本の順番に抜き出します。ラガン家の人たちへの手紙 下巻200~ラガン夫人へ「ホテルのオープニングパ―ティでは懐かしい方々と再会できました。一族の前で『私が手癖が悪い』という噂を否定してくださり、感激しました」スチュワートへ「お抱え運転手からホテルのフロントチーフになったのね!ポニーの家に初めて迎えに来てくれた時の事を思い出します」メイドのメアリへ「てきぱきとパーティの指示をしているメアリに、時間がもどっていくようでした」庭師のホイットマンさんへ「ホイットマンさんがレイクウッドのお屋敷を訪れては、部屋に風を入れたり、庭園を見守ってくださっていたと知り、胸が熱くなりました」ジョルジュへ「パーティで強烈なウィルスでも貰ったのでしょうか。ジョルジュともあろう人が風邪をひいたらいけません」如何でしょうか。手紙の内容に統一感が無く、物語になっていません。本筋と関係が薄い「ただの手紙」です。これらが3章の中に紛れ込んでいる事で「時系列がバラバラ」という印象が強いのかもしれませんが、実際はこのラガン家関連の部分だけです。ちなみに、イライザとニールへの手紙はありません(旧小説にはありました)。ファイナルの30代のキャンディにとっては、ど~でもいい二人なのかも次から、再び本筋に戻ります。本の順番で抜粋します。手紙形式の物語② ステア編下巻220~アーチーより「ステアの奴、こんなに皆を悲しませて!父も母も嘆き悲しみ、ステアの死を悔やむばかりだ。何で志願兵などになったのか、アメリカはまだ参戦もしていないのに!」ボウフマン大尉より「彼は優秀で大切な部下でした。彼は激しい空中戦を繰り返した後、撃沈されました。彼の機体には眼鏡が描かれていました。彼は彼女とともに、夕陽の中へ消えていったのでしょう」パティから「ありがとうキャンディ!大尉の手紙をコーンウェルの屋敷で見せてもらいました。新しい勤務先のハッピー診療所、忙しそうね。アルバートさんの具合はよくなるのかしら。いよいよアメリカも参戦しそうね。近々、アニーとチキンパイを焼いて訪ねるつもり」アニーから「キャンディがチキンパイを残したのが気になったの。私調べたのです!スザナが大怪我をしてしまった事。私は悔しい、簡単にテリィを諦めないで、キャンディ!」アーチーから「ニールの奴、本気だと思う。あいつは策略家であなどれないやつだ。気を付けてくれ。アルバートさんのことは、僕たちも捜している」マーチン先生へ「マーチン先生は、アルバートさんを全く偏見も差別も無く治療してくださいました。だからウィリアムAアードレー氏の申し出を受け入れ、新しい診療所を建てて欲しいのです!」マーチン先生へ「新しい診療所はシカゴではなく、この村に建ててくださるのね。なんてありがたい!メリークリスマス!」ブラウン氏へ(アンソニーの父)「クリスマスカードありがとうございました。ステアの葬儀の時、私に声を掛けてくださいましたね」マグノリア荘管理人へ「わざわざお便りをいただき恐縮です。新聞でアルバートさんの正体を知って、仰天なさったとか。私は故郷の村に戻り、看護婦として励んでいます」エルロイ大おばさまへ「ステアを偲ぶ会の参加を許してくださり、お礼が言いたかったのです」物語が続いていると分かります。写経って大事ですねいや、写経になってない手紙の「消印」は分かりませんが、読者はそれにこだわる必要はなく、手紙の順番が【物語の時系列】と考えればいいと思います。引き続き、本の登場順で抜き出してみます。手紙形式の物語③ アーチー編下巻256~アーチーへ「アーチーが大学院に移ってしまったことは、アニーもショックだったようです。戦争がやっと終わったというのに、世界は混乱が続き不安があります。ステアを偲ぶ会を開くことが出来て、アーチーもほっとしたと思います」大おばさまへ「アーチーから苦悩に満ちた手紙をもらいました。アニーとの婚約をエルロイ大おばさまをはじめ、(中略)反対されている、と。アーチーとアニーは愛しあっています。どうか大おばさま、分かってやってください。アニーは私と同じ孤児院で育ちましたが、捨てられたのは私たちのせいではありません」天国のステアへ「ステア!アーチーとアニーの婚約式の日が決まりました!」ココまで読むと、手紙の時系列がバラバラと言っていたのは何だったのか、と思います。原作者が筋の通った物語を提供するのは、当たり前だと思います。そのまま読むのが一番ですねそう思って次の手紙を見てみます。手紙形式の物語④ テリィ編下巻270~ハムレットの招待券『ストラスフォード劇団 秋の公演「ハムレット」 主演テリュース・グレアム』エレノアへ「ごめんなさい、ミス・ベーカー。テリィの舞台は観たい・・でも、観たくないのです。観ればきっと会いたくなります。スザナとの約束もあります。この招待券は私の宝物として大切にします」テリィへ「ハムレットの大成功おめでとう!ロングランに次ぐロングランですね!・・・こんな手紙は出せるはずないわね・・。分かっています。あなたが舞台に立つとき、力いっぱい拍手する私がいることを忘れないで。テリィ・・・好きでした」※この手紙は出していませんスザナの死亡記事『テリュースは闘病生活も支えていた。しかしスザナはテリュースと婚約したまま結婚することはなかったという』テリィから「あれから一年たった。ぼくは何も変わっていない」『下巻284頁の空白』名木田先生から読者へ「私は本の中でそれら全てを収めることができませんでした。だからファンが想像力でそれらを埋めるように空白のままにしました」=長い物語※2019年フランス語版ファイナル出版の際のインタビュー以上が3章です。いかがでしょう、物語がぐちゃぐちゃだと感じましたか?不自然さを感じましたか?何故こんな面倒な作業をしたのかというと、要するに「ちゃんと時系列ですよ。スザナが亡くなってから、テリィは手紙を書きました。つまりテリィの手紙が一番最後です」という事を客観的に証明したかったからです。ただ、勘のいい方は「あれ?スザナからの手紙が無い」と気付くかもしれません。あえて外しました。というのも、スザナからの手紙は回顧録の中に登場していることから(下巻278~281)3章冒頭の大人のスージーからの絵葉書と同様に別扱いにしました。「わたしは白い封筒(←スザナの手紙)を見つめる。宝石箱の中でその封筒の周りだけがひんやりとしている」下巻278という文章があるので、30代のキャンディが今見つめている手紙(封筒)という括りになり、『手紙形式の物語』ではないと考えます。3章の次に来るのがエピローグです。エピローグは、キャンディとアルバートさんの往復書簡&アンソニーへの手紙です。エピローグ 往復書簡&アンソニーへの手紙これらの手紙は、前の手紙を受けて返事を書いているような流れがあります。つまり全て時系列と言えそうです。ただし、本来の場所は「3章のどこか」です。アーチー編の前なのか後なのかテリィ編の前なのか後なのかそれが分からないので「バラバラ」という表現になってしまうのかもしれませんね。往復書簡とアンソニーへの手紙が3章のどこに挟まるかは、各々自由に想像をお楽しみくださいちなみにブログ主の予想は、こちら★です。おわり参考までに、往復書簡の要約は以下の通りです(テリィファンの要約です)★丘の上の王子さまの正体★アルバートから誕生日に貰ったプレゼント★キルトを着てポニーの丘にいた理由★アードレー家の跡取りとして、生き方に悩んでいた過去★キャンディの日記の返却★アンソニーへの気持ちの昇華★お互いへの感謝アンソニーへの手紙の要約は以下の通りです(テリィファンの要約です)★アルバートの正体(大おじさま&丘の上の王子さま)★アンソニーに似た人に惹かれたこと©水木杏子・いがらしゆみこ 画像をお借りしました
小説版を確認していると、くだらぬ発見をしてしまう事が多々ございまして今回はそんな発見を書き綴りたいと思います。みなさまの「ど~でもいい」というつぶやきが多ければ多いほど悦を感じるという、そんな記事を目指しました。どうぞお付き合いくださいカーソンさんは再婚していた!愛妻の名前はビクトリア早速の「ど~でもいい」ありがとうございます。蓼食う虫も好き好きといいますし、この情報に「カーソンロス」を感じたご婦人もいるのかもしれません。次、行ってみよう!!カーソンさんの子供の名前が美しい!この名前、実は愛称!本名はこんなにオサレサミュエルジェフリースージー・アン(まさかのミドルネームつき)「興味ない」あざーーす!アルバートのファイナルの一人称は、漢字の「僕」旧小説では平仮名の「ぼく」。格上げですちなみにファイナルのテリィは平仮名の「ぼく」。まだまだ青い!おっとォ⤴考察系読者の目が一瞬光った気がしたかぁ?(★ ω ★)ぴかーんキャンディのボケ、違う気がする下巻304アルバートの手紙「キャンディ、ほかは何でも耐えるから、その、丘の上の王子さまって呼ぶのだけはやめてくれないかな。背中がムズムズしてくるんだ」それに対してキャンディが書いた返事はこれ「これからは決して『大おじ~さま』とは呼びません。もうアルバートさんを耐えさせません!」キャンディボケかました?『おうじさま~』ではなかろうか??これは・・・原作者の間違え登場キャラの名前が違う!アーチーボルトがアーチーボルドに改名したのはあまりに有名ですが実はその陰で他のキャラの名前も変わっていました。スチュアートスチュワート(ネイティブに近い発音か)メアリ―メアリ(言いきった)ジミイジミィ(語尾を小文字に)ついでに、ホテルの名前も違う!リゾート・イン・テンリゾート・イン・エックスラガン家の運転手スチュワート&メイドのメアリ「どーでもいい」ありがと~う!ファイナルには英語版がない!フランス、イタリア、スペイン語版があるのに、なんでやねんアメリカ、イギリスが舞台の物語なのにね英語圏のファンの方、ご愁傷さまでございます※アニメの放送がこれらの国だったと思われます。小説版には『ジミィ』『カートライトさん』宛ての手紙はない!これは、ジミィファンには痛いですね。キャンディが二人に手紙を書かない理由はずばり「毎日のように会っているから!」←超地元シカゴの本宅ではなく故郷の村に住んでいる、ということでしょうね。小説版テリィはハーモニカを吹かない。 まさかの「テリィファンにはど~でもよくないネタ」来た! そうなんです。アニメや漫画では吹きますが、小説世界では「ハーモニカを貰ってない」ので、吹いていません。漫画と小説版(旧小説・ファイナル)を比較してみると、「ハーモニカを貰うシーン」は「テリィがピアノを弾くシーン」に該当するようです。漫画テリィは貰ったハーモニカを吹きながら空を見上げ、母親とピクニックに行った思い出を語る。小説世界テリィはピアノを弾きながら、母親が弾いてくれた子守歌の思い出を語る。うううううう・・どっちも好きなシーン小説版アルバートは散髪しないだって『髪を切った』という文章が無いですもん。ロン毛のままですよ。テリィより長い・・?さすがにロン毛でCEOとして仕事をするのはジョルジュの指導が入ったと思うので、行方をくらました後に切ったのではないでしょうかアンドレのように(※ベルばら)髪を結ぶアルバートさんもいいかも誰か描いて~ファイナルではダグの手紙がカットされた!「・・ダグって誰?」って言いました?ラガン家のコックです。キャンディにパンやパイの焼き方を教えた旧小説まではダグへの手紙はありましたが、ファイナルではメアリへの手紙に統合されているようです。ああ、残念!ダグはラガン家を辞めていた!ファイナルのダグは、なんと独立して『パン屋』を開いたのですお店の名前は『はらぺこ野郎』。ちなみに、旧小説では「レストラン」でした。お店の名前は『はらぺこやろう』とオール平仮名ですダグは常に腹ペコなんでしょうねはい、「ど~でもいい」頂きました!フランク先生はキャンディに医学書をプレゼントしていた!キャンディが看護婦に合格したお祝いに贈っています。下巻194これはファイナルで追加されたエピ。隣室の書斎の壁は革表紙の書籍で埋まっている。シェークスピア全集、イギリス、フランスの文学書、そして、医学に関する書籍――。下巻197この「医学に関する書籍」はこれかもしれません「フランク先生?・・・いたかも」ありがとうございます!!聖ヨアンナ病院のレナード副院長は院長に昇進した!キャンディをクビにした人⤵漫画ではラガン家に頭が上がらない様子でしたからね。キャンディをクビにして、昇格したんでしょうよファイナルではレナード院長宛ての手紙もカットされた!旧小説まではありました。カットされて残念ですね。レナード院長はエルロイ大おばさまの主治医になった!「・・・ほんとにど~でもいい」ありがとうございまーーす!最後は怒涛のレナード三連発で〆てみました。途中「どうでもよくないネタ」が混じっていた気がしますが、まぁ良いでしょう©水木杏子・いがらしゆみこ先生/画像お借りしました。
ロックスタウンのエピをファイナル設定で肉付けしてみました。漫画とファイナルでは、NYの別れから既にシナリオが違いますので、漫画派の方は頭を柔らかくしてお読みくださいね。SONNET本編が未読でも、AもTも関係なくお読みいただける一話完結編です。11年目のSONNET スピンオフロックスタウン©水木杏子/いがらしゆみこ 画像お借りしました★★★演目:胸さわぎみのがすと損!全席自由。元ストラスフォードのテリィの演技が光る!貼り紙に吸い寄せられるように入った場末の芝居小屋。酒と煙草と土の匂いが混じる観客席。キャンディがそこに足を踏み入れた直後、受け入れがたいテリィの姿が緑色の瞳に映った。酒に酔っておぼつかない足元、使い古したヨレヨレの衣装、魂が抜けたような演技――かつて栄光というライトの中で輝いていたテリィの姿はそこにはなかった。(――テリィっ・・!!)悲しみだけではない。こうなってしまった責任が誰にあるのか、自分自身を咎めたくなるような行き場のない気持ち。――しっかりしてっ!! あなたは、あなたの夢を忘れてしまったの!?心の底から湧き上がる叫び。声には出していない。しかし、まるで天の声がとどろいたかのようにテリィの演技は落雷の如く突然光り始めた。それまで野次を飛ばしていた観客は前のめりになり、相手役の太った女優は瞬く間に心臓を射貫かれた。ストラスフォード仕込みの本物の芝居に誰もがグイグイ引き込まれていく。「・・・やっぱりあなただわ」テリィの実力を確認するように、訳の分からない事を何度もつぶやいていた。閉じ込めたはずの甘酸っぱい想いが胸の奥から溢れてくる。(・・・私は、まだ・・あなたが――)いつの間にか幕が下り、指笛を伴った野太い声のカーテンコールが沸き上がっていた。しかし、奇跡を目の当たりにしたキャンディは周りが見えなくなっていた。――テリィ・・・ストラスフォードに戻って。そして、そして・・・スザナのもとへ――舞台に引き寄せられるように一歩足を出した時、キャンディは思い出した。『あなたは・・・テリィとはもう会わない、ということ?お芝居も一切観ないと思っていいの?』――そうだ、スザナと約束したのだ。テリィとはもう会わない、お芝居も観ないと。観てしまったという動揺がキャンディの身体を駆け巡った時、舞台のカーテンがぎこちなく開いた。中央でお辞儀をしているテリィの晴れやかな顔。その視線が、何かを探すようにこちらに向いた瞬間、――舞台が終わったら、テリィが来る!!キャンディの足は咄嗟に出口の方に向いていた。逃げたいわけじゃないのに、体は心とは正反対の向きを刻む――「キャンディー!?」背後から声が聞こえた。気のせいかもしれない。振り向くのが怖かった。背徳感からなのかスザナの顔がちらつき、無我夢中でその場から離れた。テリィに会いたかった。でも、・・会ってはいけなかった――「――あの・・・キャンディスさん?」混乱のあまり全力疾走してしまったキャンディが上がった息を整えていると、女性の声に呼び止められた。そこにいたのは、黒子のような姿をしたテリィの母エレノア・ベーカーだった。春とは名ばかりの寒空を避けるように近くの喫茶店に入った二人は、寒さで震える唇を一口のコーヒーで温めてから、静かに話し始めた。「ごめんなさい、急に呼び止めて」「いえ・・・」ミス・ベーカーの口調はスコットランドの夏の日より遥かに弱々しく、息子を案じてこの町を訪れたのだと涙ながらに語る姿は、キャンディの胸を幾度となく熱くした。「・・今日のあの子は違いました。あの子はもう立ち直ります」「あの薄暗い劇場の中で、テリィに私が見えたとは・・・」「分かったはずです。あの子があなたを愛していたなら・・これでもあの子の母親ですもの」大女優である母親は、息子と少女が別れた原因など推測しか持っていなかった。流れた一年以上の月日が多感な少女にとってどれほどの長さだったのか、全てが過去の思い出になっていてもおかしくはないと頭では分かっていた。それでも、母親として今何ができるのか思いを巡らせていた。「キャンディ・・スさん。――あの、住所を教えていただけません?」せめて繋がりだけは持っていたいというささやかな結論。「あ、はい」やや唐突気味の申し出に戸惑いつつも、キャンディはバッグから手帳を取り出した。白紙のページを開こうとした瞬間、手帳に挟んでいた新聞記事がひらりとテーブルの上を舞った。「――あっ・・」二人同時に声が出た気がする。――期待の大型新人!輝ける新星現る!テリュース・グレアム!!デビュー当時の切り抜きを見られてしまった。キャンディはあわてて手帳に戻し、咄嗟に作り笑いを向けた。「ゆ、有名人と知り合いなんて自慢ですから!もうあっちこっちに自慢していたんです。ほんとテリィってば、返り咲いてくれないと自慢も出来ないわっ」「キャンディスさん・・・」(あなたもまだ、テリュースのことを――)勘が当たってしまったミス・ベーカーは、やるせなさそうに瞳を伏せた。「・・・今、映画を撮ってるの。クランクアップしたら、招待状を贈らせてもらうわね」キャンディはマグノリア荘の住所を書きながら「わあ!光栄です」と少し大げさに言ってから「アルバートさんが見つかるまで、このアパートを離れるつもりはありません」と付け加えた。「・・アルバートさん?」その名前が出たのを境に、会話はガラリと変わった。記憶喪失の患者だったとか、看護婦をしているとか、行方不明になってしまったとか、キャンディばかりペラペラしゃべっていたのは、ミス・ベーカーが聴き上手だったからかもしれない。「この春用のコートが、この町から発送されていて。でも、今日の天気には似合わなかったですね」夜半過ぎから雪が積もるとお店のラジオが言っている。「素敵なプレゼントだわ、よくお似合いよ。この町は炭坑もあって人の出入りはあるの。その人が見つかることを祈っているわ」ミス・ベーカーは穏やかな微笑を添えながら、映画の撮影に戻ると言って席を立った。それから数時間、マーチン先生が描いてくれたビラを片手に懸命にアルバートさんを探した。「この人を見ませんでしたか?髪はブロンドで、青い目で、歳は――」消印が押された郵便局、春用のコートを買ったかもしれないお店、人が集まる市場。町のどこかにアルバートさんがいるかもしれない期待と同時に、近くにテリィがいるという事実が、自分の足をせわしなく動かした。一箇所に留まっているとテリィとバッタリ出くわしてしまいそうで、そこはかとなく心がざわついた。©水木杏子/いがらしゆみこ 画像お借りしました「キャンディ・・――」クッションもない木の椅子に温もりなど残っているはずもないのに、わずかな手掛かりを手繰り寄せるようにテリィはキャンディが見えた座席に触れた。――確かにいたと思ったのに、見間違いだったのだろうか。「・・安い酒が見せた幻影か?」(――逃げた?)「・・まさかな」「テリュースさん、団長が呼んでるよ」管理人の老人が、ぼんやり突っ立っているテリィの背中越しに声を掛けた。片手にほうきを持つこの老人がチケット売り場にいたことを思い出したテリィは、おもむろに訊いた。「さっきの舞台に若い女が見にこなかったか?若くてかわいい・・そう、元気がよくてそばかすがいっぱいあって・・」「さぁ・・元気がいいのねぇ・・そんな子いなかったなぁ」「・・・・ですよね」――幻だ。幻だったんだ・・。「やあテリュース、やっと調子が出てきたな。この調子でこれからも頼むよ」小太りの団長がご機嫌な様子でやって来た。「・・・悪いけど、できないな」「どうして?やればできるじゃないか」――どうしてかって?ブロードウェーの一流の舞台、シェークスピア劇の主役に返り咲いてこそ、キャンディが笑顔になる、幸せにしてやれる。あんな悲しそうな涙を流させるのは、まぼろしだけで十分だ。必ず、必ず復活してやる。あいつの為に!「俺は今夜の汽車でニューヨークへたつ」――ストラスフォードに戻ろう!もう一度やり直すんだ!!©水木杏子/いがらしゆみこ 画像お借りしました陽が暮れてきた。「・・・明日は炭鉱の方を探してみよう。そろそろ宿を探さなくちゃ。――そうだわ、宿!」アルバートさんが泊っているかもしれない。何故真っ先にそうしなかったのか。キャンディは町で一番大きな宿に足を向けた。©水木杏子/いがらしゆみこ 画像お借りしました「アルバート・・・泊っておりませんね」宿帳をめくりながら、HOTEL・ROXのフロント係の男は言った。「・・・そうですか。あの、今夜泊めていただきたいのですが」するとフロント係は首を振り、「スウィート・ルームなら、ちょうどキャンセルが入りましたよ」と皮肉めいた笑顔を向けた。「い、いえ、、けっこうです」思わず両手を顔の前で揺らす。十六才の女の子に、そんな大金があるわけない。「・・この町に、他に宿はありますか?」すると、無礼な質問だとばかりにフロント係の眉が上がり「駅の裏手に一軒。日雇い労働者が使う古びた宿だ」見下すように、駅の方向を指さした。「――確かにボロだわ」宿の前でキャンディは肩を落とした。小雪がちらつく重たい空。雪がしのげれば馬小屋でもいい、と言うほど楽観的ではない。落とした肩に力を入れ、祈るような気持ちでアルバートの事と空き部屋を尋ねたが、先ほどと同様フロント係の答えは「NO」だった。「あ~・・ついてないわ。今夜の汽車で帰るしかないかしら・・」落胆しかけた時、バケツを持ったエプロン姿のおばさんがロビーの隅から声を張り上げた。「支配人!さっき一部屋空いたんだよ。長期滞在していた客が精算したんでね」「あ?それは知らなんだ。お客さん、あんたは幸運だ。二人断っちまったよ」支配人とおぼしきフロント係の男性は悪びれた様子もなく、宿帳に住所と名前を書くようにキャンディに促した。「三人目でラッキーだったわ」断られた二人が戻って来ないように祈りつつキャンディが記帳していると、先ほどのおばさんが「今から部屋を掃除するから、お嬢ちゃん、ちょっと待ってておくれね」と言いながら布団とシーツを両手で抱え、明らかに足元が見えていない姿勢でよたよたと階段を上って行った。「手伝います」キャンディはおばさんからサッとシーツを奪った。「二人でやった方が、早く終わるでしょ?」キャンディが笑顔を向けると、おばさんは賛成、とばかりにニマッと笑った。その部屋は煙草の匂いが充満し、つい今しがたまで人がいたような空気が漂っていた。キャンディがこの部屋に入るなり真っ先にしたことは、春用のコートを脱ぐことではなく鼻をつまむことと窓を開けることだった。「さむい・・・」眼下の駅舎のトタン屋根に、薄っすらと雪が積もり始めている。「悪いね、一ヶ月以上滞在していたお客でね」ベッドサイドに残された酒のボトルを持ち上げながら、呆れ気味におばさんは言った。「・・・その瓶、まだお酒が入っているみたい」「飲みたいのかい?毒が入っていても責任もてないよ」「い、いえ、、、遠慮します」キャンディは吸殻が山ほど積み上げられた灰皿をおばさんに渡した。「短気な男だね」「あら?喧嘩でもなさったんですか?」「吸殻を見れば分かるってもんさ。貧乏人はギリギリまで吸うだろ。それに比べてどうだい、この長さ。この男は煙草好き、って訳じゃないんだろう」「煙草を吸ってるのに?」キャンディは不思議そうに言った。「気分で吸ってるんじゃないかね、落ち着くのかもしれない。そういう吸い方もあるんだよ」人間観察が趣味であるかのように、おばさんは得意げに言いながら吸殻をバケツの中に捨てた。「あら、本だわ。忘れ物かしら?」キャンディは机の上に置かれた冊子に気が付いた。持ち主が取りに戻ってくるかもしれない。キャンディがおばさんに渡そうとした矢先、「忘れ物だって?」と、おばさんは本をパラパラめくり無造作に灰だらけのバケツに放り込んだ。躊躇ない動作にキャンディが驚いていると「捨てていったんだよ。そういう客が多いんでね、分かるのさ」と、今度は机の下のゴミ箱に手をかけた。「そうなんですか・・」キャンディは一瞬で灰色のごみと化したその本をチラッを見た。『胸さわぎ』「え・・・?」本に書かれた文字を見た途端、キャンディの身体に稲妻が走った。先ほど観た演目が、そんな名前ではなかったか?(――テリィなの?)ポォォォォーーーー開けた窓の外から汽笛が聞こえた。駅舎の屋根の向こうに汽車が止まっている。乗り降りする足元がわずかに見える。「――おや、ニューヨーク行きの汽車が着いたんだね。あのお客さん、間に合ったかな」おばさんは部屋の隅にかけられた八時丁度を指す時計の針を見て言った。「その人、ニューヨークへ行くって言ったんですか?」「そうだよ。『好きな女でも待っているのかい?』って冷やかしたらさ」おばさんはにやけながら続けた。「『これ以上泣かすわけにはいきませんから』って言ってたね、ハハっ!キザな男だよ」泣いているのが誰なのか、そんなことはキャンディにはどうでもよかった。ブロードウェーに戻ると分かっただけで嬉しくて、目じりに沁み出た雫をぬぐいながら言った。「・・・ホント、キザな人ですね」「ちょっといい男だったんだよ。俳優にでもなればいいのに、勿体ない!」おばさんは白いシーツをバサッと広げながら、短気でキザな男の顔を思い出している。キャンディはフフ・・と微笑みながら「アメリカで一番の俳優になりますよ。きっと――」とつぶやいた。するとおばさんは驚いたように作業の手を止め、キャンディの方を振り向いた。「おや、お嬢ちゃん!あの男と同じ事を言うんだね」「同じ事?」「俳優になればいいのに、って助言したんだよ、宿代を清算しながらね。そしたらその男、自信たっぷりに言ったのさ。『大陸レベルの俳優になりますよ。サインを貰わなくていいんですか?』って」テリィらしい言葉に、キャンディの顔は緩んでいく。――テリィの事が聞けただけでも嬉しい。どんなに些細なことでも。「若いもんはアメリカの広さを分かってないねぇ!」おばさんは今にも吹き出しそうに言うと、再び白いシーツを手に持った。「サイン・・・貰わなかったんですか?」少し残念そうな口調になったのは、あるなら見せて欲しい、という思いが頭をかすめたからだ。「貰ったさ!チェックインする時に、宿帳にね!」おばさんがニッと笑ったので、キャンディもつられるように笑った。ポォォォォーーーー再び汽笛が響いた。出発の合図だ。キャンディは窓から飛び降りたい衝動に駆られながらも、東へ向かって動き出した汽車をたくさんの願いを込めて、いや、願いは一つだったのかもしれないが――必死に、静かに見送った。真っ白な雪の向こうに消えても、なお――「・・・なごり雪だね。寒いから、もう窓を閉めておくれ」「――なごり雪?」「春に降る雪のことさ。冬の最後の落とし物」「落とし物・・」(ううん、・・プレゼントだわ。アルバートさんからの)――最後にテリィと会わせてくれた・・。「ほら、そっちの端っこを引っ張っておくれ」感傷に浸っている暇もなくキャンディを使う容赦ないおばさんの声。「まって、おばさん」こみ上げる想いをギュッと閉じ込めるようにキャンディは胸の前で手を結んだ。「・・・ベットメイキングは、しなくてもいいわ」「え?でも」「自分でやりますから、もう結構です。ありがとうございます」キャンディは深々とお辞儀をしたので、おばさんはこれ以上のこの部屋にいる理由がなくなった。「・・・テリィ、なのね」枕にほのかに残るテリィを感じながら、キャンディは瞳を閉じた。叶わない夢なら、せめて夢の中だけでも――テリィの腕にいだかれるように、春まだ浅いロックスタウンの夜は更けていった。©水木杏子/いがらしゆみこ 画像お借りしましたロックスタウン(完)。。。。。。。。。。。。ワンポイントアドバイスファイナルのキャンディは、芝居小屋を出た後「どうしていいか分からず混乱していました」下巻272テリィのデビュー当時の切り抜きを「長い歳月、どこに行こうと」持ち歩いていました。下巻186ロックスタウン以降のテリィの消息について漫画では、キャンディが大おじさまを訪ねてレイクウッドへ行った時に初めて知るに至ります。このシーンです。⤵ファイナルでは、この「レイクウッド巡り」は数年後にズレていますので、今回、アルバート経由ではなくキャンディは自ら知った、という設定にしました。テリィが演じていた役名についてはこちら★で検証しています。エレノアは映画の仕事をキャンセルしていない旧小説では「映画の仕事をキャンセルして(ROXタウンに来た)」復刻版519漫画では「仕事をすて・・・駆けつけた」と書かれていますが、ファイナルではそれらの記述はありません。というわけで、当エレノアは撮影スケジュールを調整してROXタウンに来ました。イルカの『なごり雪』が聴きたくなった方はこちらをなんと用意のいい私(笑)
11年目のSONNETスピンオフ空白の時 最終話★★★劇場に、キャンディが来ていたかどうかは分からない。分からなくて良かったのかもしれないとテリュースは思った。その方が、希望がつながるから――結局、その日は病院に泊まった。ホテルには帰らないで、とスザナに懇願されたからだ。――キャンディと逢い引きするとでも思っているのか。(・・・信用されてないんだろうな・・)イライザをキャンディと勘違いしたことは棚に上げ、テリュースの胸中はいささか複雑だった。今のテリュースにとって、キャンディがいない環境が当たり前。芝居を観て欲しいという淡い期待が叶わなかったからといって、軽くため息をつくだけ。落胆することなど、甚だお門違いだ。 心の奥底で誰を愛していようと、それはもう関係ないことだ。翌朝、二人の劇団員を引き連れ、見舞いに訪れたロバート先生は、慰めるようにテリュースに声を掛けた。「昨夜の公演の事は気にするな。家族が病気じゃ仕方がないさ。私などワイフが出産した時は三ケ月も劇場を留守にしたものだ」「・・・家族?」奇妙な響きだった。「君たち、決まったんだろ?」「――ええ」既に教会は予約していた。スザナを不安な気持ちにさせることは、体調や薬の量と直結している。スザナの心の負担を軽くすることが、婚約者の務め。「まだ睡眠薬が効いているみたいで、・・せっかく来ていただいたのに、申し訳ありません」スザナといると、嘘が上手くなっていく。病院の玄関先でお預けをくらったにもかかわらず、ロバート先生は笑顔だった。「朝から押しかけて悪かったね。ニューヨークへ戻ったら春の公演の慰労会をやるから、その時にスザナもどうだね」ロバート先生は常にスザナの味方だった。あの事故で責任を感じていたのは、自分だけではないことも重々承知している。「伝えておきます」「おい、アルフレッド!慰労会に向けて面白い企画を考えてくれないか?」「そうですね~。ブラックパーティとか如何ですか?ハムレットの舞台衣装にちなんで全員が真っ黒な衣装で参加するんです」同期のアルフレッドが得意げに鼻の下をかいている。「あら~、縁起でもない。お葬式じゃないのよ。派手に、パァーと!レッドパーティにするべきね」丁度五周したのよ、というミセス・ターナーの言葉の意味は、テリュースにはよく分からない。「え~嫌ですよ。それならレインボーパーティはどうです?七色全て身に着ける。団長、いいアイデアでしょ?」アルフレッドらしいユニークな発想に、ああ、それがいい、とロバート先生も乗り気だ。「そんなの恥ずかしいわよ。いっそゴールドパーティがいいわ」どちらも恥ずかしいな、と思いながら、避けたようにホワイトが出ないことに、テリュースは苦笑していた。「お待たせしたわね」マーロウ夫人が二つのトランクケースを持ちながら、スザナの病室から出てきた。劇団員とマーロウ夫人は一足先に特急列車で帰路につくことになっている。スザナの入院の関係で、テリュースとスザナだけが乗り遅れる、と言った方がいいだろう。「ちょっと、そこの若い子。こっちを持ってくださる?」マーロウ夫人は鼻先で命令するようにアルフレッドに言うと、「もちろんですよ」とスザナの赤いトランクを手にとった。目下の者はみんな下僕とでも思っているのか。アルフレッドがイギリス出身の紳士であることに、マーロウ夫人は感謝するべきだな、とテリュースは思った。そんな劇団員の一行が病院から引き揚げていく様子を窓から見ていたスザナは、ホッと胸をなでおろした。レースのひざ掛けでグルグルに包み、トランクの一番下に隠した大きな封筒は、ギャングが麻薬でも密輸するかのように念を入れた。爆弾が投下されてもトランクが開かないようしっかりと鍵をかけ、命と呼べるほどの金属を化粧ポーチの中にしまい込んだ。『新婚旅行の予行演習をしたいの。ママはロバート先生たちと先に帰って』我ながら上手い言い訳だったと思っている。あの忌まわしい封筒は、一刻も早くテリュースから遠ざけたかった。(・・・いつかキャンディに返します、必ず。神様、赦してくださるでしょ?だって私には返す術がないのです)これは不可抗力なのだ。「キャンディが劇場に来てくれれば、私は心から謝罪ができたんです――」独り言のようにつぶやきながら、スザナは『約束した日』のことを思い出していた。――テリィを、離しちゃだめよ・・・信じられない言葉が、そばかすの少女の口からもれた。『それはつまり、あなたは・・・テリィとは、もう会わない・・・ということ・・?』『―・・ええ。だから、安心して治療に専念して』『――それは、お芝居も一切観ないと思っていいの?』少しの沈黙の後、キャンディはコクリと頷き、病室から出て行った。しばらくして病室に戻って来たテリュースの顔を見れば、先刻の言葉は実行されたのだと直ぐに分かった。窓からぼんやり雪景色を見ているテリュースの心が誰を追っているのかは分かっていた。『――追ってらしてもいいのよ、私のわがままで、あなたを苦しめたくない』悪者になりたくなかった。私はきちんと、テリュースに選択権を与えた。二人に別れて欲しいなんて、一言だってお願いしていない。『ぼくはずっときみのそばにいる・・・これからも』私は選ばれたのだ。キャンディではなく私が。たとえ私がこの世で二番の愛の相手だったとしても、一番の存在が永遠に目の前に出現しなければ、とどのつまり一番は私だ。「この世であの人の愛を享受できるのは、私だけよ」あの約束をした日から、テリュースの言葉とこの思いにすがってきたのだ。いずれ名実ともに一番になることを信じて。のどかな各駅停車で次の都市まで向かい、次の都市で特急に乗り変える。少し面倒だが、早く家に帰りたい、というスザナの希望を汲み取る形で帰路のルートが決まった。向かい席には赤ん坊を抱いた若い夫婦が座っていた。目の中に入れても痛くない、自分の命より愛しい、そんな楽し気な会話が自然に耳に入ってくる。聖書の言葉よりも知られた言葉だったが、スザナの中でビビっと何かがひらめいたように、別の選択肢が降りてきた。(・・もしかしたら、手紙を返すのは今じゃないという、神のお導きだったのかも――)テリュースとの間に子供が生まれ、子供にメロメロになった頃に返すべきだと。子供という絶対的な愛情の前では、子供の母親の昔の罪など、薄まるのかもしれない。(・・そうよ。その頃にテリュースに打ち明けるのも悪くないわ)――子供は一人でも多い方がいい。母親の腕の中ですやすや眠る赤ん坊を見ながら、スザナは近い将来の自分に想いを馳せた。「・・・ね、ダーリン?」同意を求めるように、テリュースの肩にもたれかかる。「何がだい?」「ふふ・・なんでもないわ」スザナのご機嫌な理由が分からないテリュースは、読んでいた本に直ぐに目を戻した。スザナが甘い未来を夢見た直後、その赤ん坊が火のついたように泣き始めた。若い母親は席を立ち、通路を行ったり来たりしながらあやしている。途中で父親に変わったが、泣き声は激しさを増している。ちっ、うるせーな、という乗客の誰かの声がテリュースとスザナにも聞こえた。「・・・デッキに移動してくれないかしら」テリュースは、スザナのリクエストが誰に向けて発せられたのか、一瞬分からなかった。「みんなが迷惑しているわ」という次の言葉を聞くまで。「・・デッキは寒い。あんな小さな子供に、それはかわいそうだよ」「それなら、もっと乗客の少ない車両に移るべきだわ」テリュースは何も言わなかったが、スザナは我慢できなくなったように「私たちが移りましょう」とテリュースに車椅子を持ってくるように言った。「動いている列車で移動するのは、賛成できないな」テリュースは軽く返した。「それなら、次の駅まで我慢するわ」そう言った直後、駅でもないところで列車が急に止まったのは、偶然だったのか。前方を見ると、行く手に牛の長い列が続き、線路を塞いでいた。牛飼いの青年が拝むようなしぐさをし、列車を降りた車掌が、さじを投げたように両手を腰に当てている。「一時間ほど停車します。乗客の皆さんは降りて体をのばしてください」車掌が一両一両回り、状況を説明している。「・・・降りるか?スザナ」「ええ。赤ん坊の泣き声には疲れたわ」テリュースはまだ気づいていなかった。この村がどこか。道端には色とりどりの春の花が咲き始めていた。そよ風に揺れる花をいたずらするように蝶が陽気に舞い、さえずる小鳥たちは小枝の間を追いかけっこしている。大自然の空気を胸いっぱいに吸い込むと、セントポール学院の森の香りがした。―・・コロコロ変わる表情。お節介で、鼻ぺちゃで、笑顔が眩しいそばかすの少女。 ――もう、テリィったら!一瞬髪を揺らした風の中に、キャンディの声が聞こえた気がした。(・・・?何だ?)キャンディが近くにいるような錯覚。花と緑の香りは何故か懐かしさを伴って、テリュースの全身を包み込む。「・・・診療所?」その時、古ぼけた看板が目に入った。民家のようなたたずまいではあったが、屋根の上に大きな手作り風の看板が乗っている。あまりに田舎の景色に溶け込んだ風情ある看板に、テリュースの心は一瞬で和んだ。「あそこで少し休ませてもらうか、スザナ」幻想痛の発作が昨日の今日という事もあり、テリュースはスザナの体調を気遣った。「そうね」テリュースの目には『ハッピー・マーチン』という文字は映っていなかった。映っていたところで、反応などできない。テリュースが知っているキャンディは、シカゴの聖ヨアンナ病院に勤務し、今もそこにいるのだから。「・・・誰もいないのか?」ノックする前に、ドアにひっかけてあるプレートに気が付いた。 下の川で釣りをしています。御用のある方は川へ「呑気なお医者様ね」スザナはクスクスと笑った。今日が日曜日だという事に、その時ようやくテリュースもスザナも気が付いた。「下の川、とやらに行ってみる?」「でも・・これじゃ」車椅子でどこまで川に近づけるのか、下見をしなければ分からない。スザナをがっかりさせることも考えると、その冒険は却下した方が良さそうだ。「よそう、上流はでっかい石がゴロゴロしている場所が多いからね」テリュースは車椅子を列車の方に向けた。ポッポー出発を知らせる汽笛が、短く鳴った。どうやら牛たちの大移動が終ったようだ。「さようなら」乗客たちは、つかの間の自然を満喫し、列車に乗り込んだ。列車が走り出して間もなく、テリュースはハッとして思わず立ち上がった。――見たことがある駅舎、キャンディの故郷!!「どうなさったの?テリュース・・?」スザナの声など聞こえない。テリュースは無我夢中でデッキに向かって走っていた。「・・・君の村だったのか・・・?」デッキから大きく身を乗り出しながら、テリュースの目から、何故か涙がにじんでいた。――だから何だと言うのだ。――だから、何だと言うのだ・・・。自分で繰り返す。飛び降りても危険じゃないほど、その列車は遅かった。飛び降りることも出来た。飛び降りたかった。しかし、今のテリュースには、飛び降りる理由など無かった。「・・・キャンディ・・・君はいま――」流れていく空気に乗ったか細い声は、一瞬で消えていく。この六年後、かの地に向けて短い手紙を出すことも知らず。一年半も掛けて、たった七行の手紙を書くことも知らず。「やぁ、キャンディ!また先生と釣りかい?」小麦色の肌の牛飼いの青年は言った。「子供たちの今晩のおかずにするの。それよりトム、また汽車を止めたでしょ~!見えたわよ」キャンディはいつものように大自然の中で笑っていた。空白の時(完)。。。。。。。。。。。。。。。キャンディ変わりはないか?・・・あれから一年たった。一年たったら君に連絡しようと心に決めていたが、迷いながら、さらに半年がすぎてしまった。思い切って投函する。――ぼくは何も変わっていない。この手紙が届くかどうかわからないが、どうしてもそれだけは伝えておきたかった。T.G lllustration by RmijuriReproduction is 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テリュースとスザナ二人は何を思い暮らしていたのか空白の十年を描いた短編です11年目のSONNET スピンオフ 空白の時②※本編未読の方にはネタバレになります。ご注意ください。★★★真夜中近くになって、ドアをノックする音が部屋に響いた。「――スザナ、どうしたんだ?」特に何も思わず、車椅子のスザナを部屋の中へ招き入れる。初めて見るナイトウェアだな、と思うより先に、いくらマイアミだと言っても 二月にその薄着はどうなのか、と感じたぐらいで、それが自分を誘う為の演出だとは夢にも思わない。「・・・体が冷えるんじゃないか?」スザナの体の弱さは知ってた。足の切断以降、様々な合併症や原因不明の痛みなどで絶えず医者の世話になっている。しかし、そんなテリュースの心配など耳に入らないのか 、スザナはベッドわきのサイドテーブルに置かれたグラスと氷を見て言った。「――お酒を飲んでらしたの?珍しいのね」テリュースはマーロウ家では一切飲酒はしなかった。スザナを抱きかかえて階段を上り下りするのが日課だったこともあったが、体調の急変に備え、いつでも車を運転できる状態にしておく必要があったからだ。しかし今夜はそんな縛りはない。何より、飲みたい気分だった。「・・・マイアミの地酒だそうだ」昨夜も殆ど眠れなかった。その分今夜はぐっすり眠れるはずだったのに、瞼に焼き付いてしまったキャンディと男のシルエットが、ことごとく睡眠の邪魔をした。テリュースは、明日の公演に備えてアルコールの力に頼るしかなかった。「ひと口いただける?」それこそ珍しいな、と思ったが、テリュースは拒否する理由も見当たらず、飲みかけのグラスをスザナに渡した。ゴクリと喉が鳴ったそばから美しい顔は歪み、グラスはあっさり元の場所へ戻された。スザナにとって、これからテリュースに言おうとしている事は、苦手なお酒の勢いさえ借りたかった。「・・・ベッドへ移して下さらない?」スザナは普段と変わらない口調で言ったので、テリュースもいつも通りに答えた。「え?ああ、分かった」「――違うわ。あなたのベッドよ」その時ようやく、あまりに透け感のあるナイトウェアの意味を理解した。「スザナ・・――俺は」テリュースの中の決まり事。再度それを、胸の中で確認した時、スザナが見透かしたように言った。「分かってるわ。あなたは私生児だから、神様の前で夫婦になると誓ってからって言いたいのね。立派だわ!」いつになく強い口調のスザナに、テリュースは困惑した。「・・・何かあったのか?」「――何も無いわよ!!・・何もないからここに来たのよ!」取り乱すようなスザナに、テリュースはどう返事をしていいか分からなかった。抱けば済むことなのか――・・それがスザナの望みなのか?「・・・六月に結婚する。それじゃダメか?」「待てないわ」今までも、似たような会話は何度かあった。その度になんとか引き延ばしてきたのは 、自分が私生児だという、逃れようのない因縁を抱えていたからだ。苦悶の表情を浮かべるテリュースを見て、スザナは急激に自分が情けなくなってきた。「あなたの信心深さは分かってるの・・でも、愛してるの、あなたを」体を震わせながらむせび泣くスザナを、テリュースの優しさは見放すことが出来ない。包み込むようにスザナを抱きあげ、そのまま自分のベッドへと運ぶ。「・・・テリュース?」テリュースは静かにスザナを寝かせると、バラ色の唇を慰めるように唇を重ねた。男として、こんなにも自分を求めてくる婚約者にどう接するべきなのか、もはや頭を抱えて悩むような問いではなかった。「ごめん・・。情けない男だよな」テリュースの口づけは、明確な意思を持ってスザナの口を開き、次第に深いものになっていく。こんな吸い込まれるようなキスは、スザナにとって初めてだった。同時に流れ込んでくる、強いお酒の香り。(・・・酔ってるの・・?)ふいにその唇が自分の唇を離れ胸元に移ったことをスザナは感じた。(・・この人は義務で応えようとしているの・・?どっち!?)「テリィ――・・」スザナの声に、テリュースはハッとして、瞬間身体を起こした。スザナがテリィと呼ぶことは今までもあったのに、その愛称が、今この瞬間に放たれるとは。テリュースとスザナは、お互い、冷静さを取り戻すように見つめ合った。「・・・ごめんなさい。わがままだったわ。あなたの信仰心を私は誇りに思うわ。・・・私を大切にしてくれて、ありがとう・・」気高いまでのプライドを、スザナはこの期に及んで取り戻してしまった。バカな女を演じきれたらどんなに良かったろうと、哀しみが渦巻く中で。「一緒にいるよ、朝まで・・・」スザナを満たしてあげられない罪悪感が、テリュースにその言葉を言わせた。力強い腕はスザナの華奢な体を抱きしめる。――スザナを幸せにすることが、俺の務め――そう思う事に、もう何の苦痛も疑問も感じない。とっくに決めた事だ、四年も前に。俺の為に全てを失ったか弱い女性を支えなければいけない。芝居以外の全てを犠牲にして――スザナの香る金髪がテリュースの顎を優しく撫でた。今頃効いてきたマイアミの地酒が、テリュースを深い睡眠へといざなう。(・・・今はこれでいいわ。この人が傍にいてくれれば―・・)スザナもまた、四年前から呪文のように繰り返している言葉を抱きながら、眠りについた。シカゴ公演を終えた頃には、私たちは結婚するのよ。テリュースは私の命。私の全て。キャンディス・W・アードレー 。あなたの分まで、私はテリュースを愛しつづけます。それがあなたに対する、精一杯の誠意だから――「この劇場は、この辺り一帯のレジャー施設の開発を手掛けた大富豪の所有物だそうだ」真新しい客席を眺めながら言うロバート先生の言葉に、テリュースは一瞬耳をそばだてた。それは二か月前、マイアミのホテルで聞いた言葉と全く同じだったからだ。しかし、ここはシカゴ――いや、シカゴだからか。ここはアードレー家の本拠地。だからこそ、スザナはこの公演についてきたのだろう。NYの寒さが身に染みるという理由だったマイアミ公演と、同じ理由とは思えない。「――もしかして、その大富豪ってアードレー家ですか?」「おお、よく知っているな、テリュース。その知識と教養は一体どこで身につけたものだね」「ゴシップ誌ではないことは確かですね」経済誌を読む者ならきっと常識だろう。しかし経済誌をろくに読まない自分が知っている皮肉に、テリュースは苦笑した。ロバート先生の話で、正面の張り出したロイヤルシートのような席は一族専用の特別席だと分かった。そうと知ったからには、テリュースに期待はするなと言う方が、どうかしている。――今度こそ、キャンディは来てくれるかもしれない。同じ人物を、正反対の気持ちで待っているスザナの姿が、劇場のロビーにあった。(・・・キャンディ、彼女はシカゴに住んでいた)スザナがキャンディの住所を記憶していたのは、過去に一度手紙を書いたからではなかった。あまりに憎らしいその住所をさんざん目にしていたからだ。シカゴ・・・聖ヨアンナ病院の看護婦寮207号室――劇場の事務局から抜き取った手紙の数々は、自分宛てのファンレターをチェックする、という名目で足しげく通った頃の負の遺産だ。キャンディという差出人のファンレターは呆れるほど毎日のように届いた。いつも同じ封筒だったので、何度も行為を繰り返す内に抜き取る手際も熟練された。ある日、いつもの筆跡にも関わらず、差出人の所にかわいらしいキャンディの絵だけが描かれているのを目にした。その瞬間、頭に血が上り、感情任せに封筒を真っ二つに破いた。しかし、あと味が悪いだけだった。とにかく、テリュースの手に渡らなければいいのだと思い直したのは、何通かの手紙を破り捨てた後だ。「・・・全部、捨ててしまえばよかった―・・」スザナは、レースのひざ掛けの下に隠してある大きな封筒の重みを感じながらつぶやいた。キャンディの人となりを知った後では、これ以上、悪事を重ねることは出来ない。(――今夜もし、キャンディがこの劇場に現れたら・・)この封筒ごと返そうと思ったのだ。手紙を隠してから四年半以上経っている。キャンディは優しい人だ。精一杯の謝罪と涙をもってすれば、きっと許してくれるに違いない。だってテリュースを譲ってくれるような人だもの。そして、この事をテリュースには言わないで、と懇願すれば、きっと守ってくれる。それほどスザナは、キャンディを信頼していた。(・・・でも、彼女が本当に約束を守ってくれる人なら―)――そもそも、この劇場には現れない。キャンディの住所に送ろうかと、考えたことが無かったわけではない。ただ、届かなかったらどうしようという不安が付きまとった。届かずに送り返されて、万が一にもテリュースに見つかるような事になれば―「・・・おしまいだわ」スザナは、絶望したようにつぶやいた。テリュースのアパートから抜き取った五通ほどは、既に見つかってしまった。普段感情をあらわにすることがなかった人だけに、問い詰められた時は本当に怖かった。それでも愛想をつかされなかったのは、当時の自分がジュリエット役だったからだと思っている。テリュースの芝居にかける意気込みがそうさせたのだと。あの自殺未遂の後、自分なりに精一杯の謝罪と感謝を伝えるつもりで、キャンディに手紙を送った。しかし、キャンディからの返事は来なかった。届かなかったのかもしれない、という一抹の不安と、キャンディは気分を害したのでは、という不安で、胸が押しつぶされそうだった。(・・・いいえ、キャンディは優しい人よ。きっと私の気持ちを理解してくれたのよ)しかし、もし、自分の手紙でキャンディが少しでも不快な気持ちになったのなら、こんな手紙の束を突然送り付けられた日には、どうなってしまうのだろう。激高して、テリュースを返して、と怒鳴り込んでくるかもしれない。――もしそんなことになれば、テリュースは間違いなくキャンディを選ぶ。手紙は直接キャンディに渡す―――いつしかそれが、スザナの中で正義になっていた。自分の母親でさえ知らないことなのだから、母親や、ましてテリュースに頼むことなどあり得ない。だから今日はこうして母親の付き添いを断り、冷たい風が時折吹き込み、埃が舞っているような場所で、金髪でそばかすの少女が現れるのを待っている。(・・・キャンディなら、きっと大丈夫。私の罪を許してくれるわ)高鳴る緊張に負けそうになりながらも、スザナは車椅子に座ったまま、糸で何重にも固く閉じられた封筒を膝に乗せ、劇場の入り口だけをじっと見詰めていた。本番に備え、リハーサルをしている最中、テリュースはその輝けるシートをちらちらと何度も確認していた。その席にスポットライトが当たるようなことはなくても、キャンディの輝きだけは見逃さない。そんな自信がテリュースにはあった。「おい、君に面会人が来ている。例の財閥のお嬢様だそうだ」思いがけない言葉を耳にしたテリュースは、飛ぶように稽古場をはなれ、”関係者以外立ち入り禁止”と貼られたドアを勢いよく開けた。「イライザ・・―」テリュースは、自分の単純さを思い知った。「覚えてくださっていたのね。光栄だわ」女狐に似た巻き毛の女性は、昔と変わっていないように見えた。テリュースにとって、この女性との思い出など無いに等しい。嫌な記憶もあったと思うが、愛しい人との思い出の下に、全て埋もれてしまっていた。目の前にいるイライザに何か興味があるとすれば、全てキャンディに関する事だけ。――どこに住んでいる、看護婦は続けているのか、今日は観に来るのか、・・結婚しているのか?しかし、そんな手も足も出ない情報を入手したところで何になる。テリュースは奥歯にグッと力を入れ質問を呑み込んだ。「・・・芝居、楽しんでいってくれ」「これ、花束を持ってきたの。結婚のお祝いも兼ねて」「結婚?」「あら、当の本人がご存知ないの?何度も出てるじゃない。同棲、結婚秒読みって」「・・・あれは――」ゴシップだ、と否定できない自分がいる。結婚を控えた幸せいっぱいの男性にはとても見えないテリュースの暗い表情に、イライザは直感した。テリュースにとって、キャンディとの思い出は、まだかなりの割合を占めているのではないかと。イライザの嫉妬心に突然火が付いた。「――あの子は元気よ、ええ、とっても楽しそうにやってるわ。昔の事なんかとっくに忘れたみたい」いきなりキャンディの話をしだすイライザを前に、テリュースは困惑した。「あんな薄情な子、捨てて正解よ」「やめろ、イライザ」分かりやすいテリュースの反応に、イライザはいよいよ確信した。(キャンディをまだ好きなのね、テリィ・・!)「あの子、言ってたわよ。足一本であなたと結婚できるなら、足を二本失えば、戻ってくるかしらって。おかしな子よね。どうやったって、ポニーの家の子とブロードウェーのスターが釣り合うわけがないのに」「黙るんだ、イライザ!!」テリュースは思わずイライザの両肩を掴んでいた。「冗談よ・・、むきにならないでちょうだい。誰だって足がある方がいいに決まってるじゃないっ」イライザが少し焦ったように言った時「・・・テリュース・・」背後からスザナのか細い声がした。歯に衣着せぬイライザの発言に、スザナの顔は血の気を失っていた。緊張で張り詰めていた感情が限界を超えたように、その直後、スザナは足の痛みを訴え、車椅子の上で激しく悶えた。「テリィ・・!痛い・・、イタイっ・・」「スザナ・・っ!!誰か、医者を、いや、病院に!!」「テリィ、一緒に来て――」スザナに強く掴まれた腕が重く圧し掛かり、テリュースは、付き添いを逃れられる状況ではなくなった。――テリィを返して。テリィはあなたなんか愛してない。分かっているでしょ?私たちは愛しあっていたの。とっくに結ばれていたのよ。誰?キャンディなの・・?私は、あなたに手紙を返そうと――そんなものは要らないわ。返して欲しいのは手紙じゃなくて、テリィよ!テリィを返して!「いやぁぁぁぁーーー」スザナは自分の叫び声に驚き、病院のベッドで目が覚めた。気を失っていたようだ。どれほど時間が経過したのだろう。「鎮痛剤が効いているはずだ、痛みはどうだ?」テリュースが心配そうにスザナの顔を覗き込んだ。「・・・今、何時?お芝居は――」外はまだ明るかった。テリュースの表情を見れば、開演時間にはなっていないという事は分かった。「ありがとう、私はもう大丈夫よ。テリィ、早く劇場へ――」「芝居が終ったらまた来るよ」退出しようと立ち上がったテリュースを見た瞬間、スザナはここがシカゴだったと思い出した。(キャンディがいるかもしれない劇場へ、この人を返すの?)「・・・・いやよ、行かないで・・」「・・え?」聞き取れなかったテリュースが振り向こうとした時、劇団員であるミセス・ターナーが部屋に入って来た。「スザナの体調はどう?」「治まったようです。では、スザナをお願いします」「あ、そうそう、これ車椅子に残されていたわよ。大事な書類かしら?」テリュースに渡そうとしている様を見て、スザナの心臓は破裂しそうなほど動揺した。「触らないで!!私のよ、私に、わたしに!!」片足が無いのも一瞬忘れ、スザナはベッドから飛び出した。「スザナっ!」テリュースが振り返った瞬間、スザナは叩きつけられるように床に落ちた。しかしスザナは、強打した体を庇うことなく、限界まで手を伸ばし空気を切り裂くような声を上げた。「ダメ―!!私に渡してっ!!」「い、いったいどうしたって言うの?だ、大丈夫よ、、あなたに渡すわ」スザナを助け起こそうと二人が近づくと、スザナはテリュースに力いっぱいしがみついた。「行かないで!テリィ!私のそばにいて!」テリュースの白いシャツが瞬く間にスザナの涙で濡れていく。「スザナ、何を――」「行っちゃいやっ、ここにいて――!!」駄々をこねる子供のように、スザナはもう、なりふり構っていられなかった。あまりのスザナの取り乱しようを見たミセス・ターナーはテリュースに訊いた。「・・・どうする?代役を立てるかい」開演時間が迫っている。――キャンディが観に来ているかもしれない・・テリュースにとって、この期に及んでも捨てることのできない希望。「・・・テリィ・・行かないで」繰り返し放たれるスザナの言葉に、テリュースは大きな息を吐いた。長く長く・・すべてを諦めた者のように。「――いておあげなさい。ロバート団長には伝えておくよ」その言葉を覆す術を、テリュースは知らなかった。空白の時②③へ続く。。。。。。。。。。。。。。。ワンポイントアドバイスベッドから床に落ちた時のスザナの体勢について。映画「リング」の「貞子」のイメージで、ほぼ間違いありません。「隠された手紙」のエピソードは、本編8章前半に集中しています。考察では、考察⑧テリィとスザナで詳しく扱っています。宜しければ併せてご覧ください。