真夏の吐息(HOTARU) | 貴方のこゝろにバンドエイドを。(失恋・難病)

貴方のこゝろにバンドエイドを。(失恋・難病)

~14歳の恋愛不能、難病ねこが寂しさと痛みを
ねこセンセーと手放していった宣戦布告手紙集~

 

 真夏の吐息

 

 

乾いた浴衣の袖を揺らす朝の風

 

絹のように光る青いペンキの空

 

折々を思い出したかのように

静かに鳴る風鈴

 

「いってらっしゃい」

お母さんの声

 

ショーウィンドーで

前髪を直したら

待ち合わせの高架駅へ

 

陽に灼けた微笑み

浮かべる彼

 

二人の沈黙を和らげる

アイスクリームの溶ける音

 

清々しい想いと

恋に濡れていたい

ひととき

 

激しい通り雨で

距離を縮める雨宿り

 

触れ合いたいけど

ためらいがちな二人

 

人がいない雨上がりの

神社のにおいと

消えた蜃気楼

 

神秘的な深みを含み

沈んでいく真っ赤

な太陽の黄昏

 

燃えては消えていく

一滴一滴の刹那の花火

 

闇を漂う冷気と彼の

甘い香水のフレーバー

 

暗がりで接吻(キス)の

音(ね)をかき消す

海辺の波のメロディ

 

このまま夜風にさらわれたい

 

星の瞬(またた)きも

きこえてきそうな

凛とした夜の静寂

 

いつか終わることを

知ってしまった夏の片隅

 

月が照らす帰り道

 

地面はまだ濡れている

 

遠くでかすかに

儚いピアノの音がする

 

あぜ道には

点いては消える

蛍の妖光

 

哀しく、切ないばかりに蒼い

 

届かぬ恋が囁いてるみたい

 

 

真夏のページをめくり返すと

 

夢ばかりみてた

忘れられぬ男性(ひと)の

 

あの日の吐息がきこえてきそう