怒った王蟲のように
反対車線の車が
猛スピートで走り去っていく
前の車たちがハザードランプを
出しはじめると、すぐに上りの
首都高の時間は完全に止まった
紺色のキャップを脱ぎ
助手席に無造作に投げた後に、
ポニーテールをバックミラーで直す
ラジオをつけて物思いにふけながら
スピードメーター越しに退屈をみつめる
簡単に触れるものをいつも
永遠に触れると勘違いしてしまう
もどかしい過去の記憶がスローモーションで
再生された車の中は行方不明の朝
20分ほどして前方の車が少しずつ時間を泳ぎだす
アクセルを踏む
止まった時計を元に戻すように
アクセルをギューっと踏む
一斉に泳ぎだした
首を少し左にかしげると
並木の大群がみえてきた
薄紅色の蝶のようなおびただしい
花びらたちが誇り高く降っている
絵に描いたように無心に乱舞している
はらはらと懸命に散っていく姿は
決して誰かにみせびらかすためではなく
短い自分の役目を知っているかのよう
一瞬にして消えていくから美しく儚い
30分以上遅れてもカレは笑顔で待っててくれた
遅刻した言い訳よりも先に無邪気に伝えた
「今朝の景色はすごかったんだよ!」
すぐにハグしてくれた
私たちの折々の日常は敬意にあふれている