折々の敬意(From time to time) | 貴方のこゝろにバンドエイドを。(失恋・難病)

貴方のこゝろにバンドエイドを。(失恋・難病)

~14歳の恋愛不能、難病ねこが寂しさと痛みを
ねこセンセーと手放していった宣戦布告手紙集~

 

 

怒った王蟲のように

 

反対車線の車が

猛スピートで走り去っていく

 

前の車たちがハザードランプを

出しはじめると、すぐに上りの

首都高の時間は完全に止まった

 

紺色のキャップを脱ぎ

助手席に無造作に投げた後に、

ポニーテールをバックミラーで直す

 

ラジオをつけて物思いにふけながら

スピードメーター越しに退屈をみつめる

 

簡単に触れるものをいつも

永遠に触れると勘違いしてしまう

 

もどかしい過去の記憶がスローモーションで

再生された車の中は行方不明の朝

 

20分ほどして前方の車が少しずつ時間を泳ぎだす

 

アクセルを踏む

 

止まった時計を元に戻すように

アクセルをギューっと踏む

 

一斉に泳ぎだした

 

首を少し左にかしげると

並木の大群がみえてきた

 

薄紅色の蝶のようなおびただしい

花びらたちが誇り高く降っている

 

絵に描いたように無心に乱舞している

 

はらはらと懸命に散っていく姿は

決して誰かにみせびらかすためではなく

短い自分の役目を知っているかのよう

 

一瞬にして消えていくから美しく儚い

 

30分以上遅れてもカレは笑顔で待っててくれた

 

遅刻した言い訳よりも先に無邪気に伝えた

 

「今朝の景色はすごかったんだよ!」

 

すぐにハグしてくれた

 

私たちの折々の日常は敬意にあふれている