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昔にもせよお家のためだから生きるとか死ぬとか騒ぐ奴がよくあつたが

それはみな自負心だ。うぬぼれだ。

うぬぼれを除ければ、国家のために尽すという正味のところは少しもないのだ。それゆゑにもしそんな自負心が起こった時には、俺は必死になってこれを押さえつけた。

維新の際にも、大島とか榎本とかいふ英物は、例のお家のためだといって箱根の方に逃げて言つたが、俺は“愚物は到底話をしても分らず、英物は自から悟る時があるだろう”と思つてうちやつておいた。ところが彼らは果たして後悔する時が来た。

お前も今日政府の役人であるから、天晴れ国家の為につくしているのだとうぬぼれて居るが

試みにそのうぬぼれを除けて平気に考えて見るがよい。

車夫や馬丁がその主人に仕えるほかに、なお国家に尽くすところがあるとすれば、お前のそれに較べてどうだろう

勝海舟