2月のなかばのある日、われもこうの食堂兼居間で、入所者のひとり、栗崎さん(81歳)が包帯巻きの作業をされました。包帯巻きの作業は簡単なようで実は難しいものです。芯の方からていねいに巻き上げていく必要があります。
見ていると栗崎さんの手つきは速くはないものの、ていねいそのものです。かつて看護師であった栗崎さんにとって、包帯巻きの作業は仕事の、なくてはならない一環でした。
指先は「脳の出張所」と言われています。包帯を巻く指先の微妙な指使いは、ロボットにはなかなか真似のできない高度な運動です。それだけに、それは、脳の機能をフル回転させているのです。
この日の作業は二つの点で、意味ないし意義があるように思います。
第一には、ひとつ何でもない指先の運動ですが、眠りかけ、あるいは後退しようとする脳の機能を活性化するために、試みる価値は十分あるという点で。
第二には、栗崎さん自身が、自分はみんなのために役立っているのだという気持ちを持つことができるという点。作業ちゅう、栗崎さんは「いい表情」をしておられましたよ。