○十年以上のの年寄りギター愛好家にとってエイトル・ヴィラ=ロボス(1887年生-1959年没)は特別な存在です。ギターレパートリィの主なものは、バッハ、ソル、タレガ、タンスマン、そしてヴィラロボスとなるのです(たぶん)。私の場合は、まず、ジュリアン・ブリュームによるLPコパカバーナ協奏曲を購入し、それではギター以外の作品を聴いてみようと思い、学生時代に仙台のレコード店で唯一売っていた下記LPを購入しました。

ブラジル風バッハ1●ヴィラ=ロボス:ブラジル風バッハ/ポール・カポロンゴ指揮パリ管弦楽団
このCDには、2番、5番、6番、9番が入っている。就職してからも、ときどきCDショップでヴィラ=ロボスのLP(その後CDになった)を探しましたが全然なかった。そのころは日本で売っているのは、日本のメジャー音楽レーベルのものがほとんどだったので、マイナーな作曲家、ましてやブラジルの現代作曲家のCDは出回らなかったようです。なお、このLPで、彼は大変な多作の作曲家であること、代表作が"バッキアーナス・ブラジレイラス”と"ショーロス"というのを知りました。それで、いつかヴィラ=ロボスのこの代表作全曲聴いてみようと思っていましたが、いつのまにかだいぶ時間がたってしまいました。

で、やっとナクソス盤のCDを購入しました。

●ヴィラ=ロボス:ブラジル風バッハ全曲/ケネス・シャーマーホーン指揮ナッシュヴィル交響楽団ブラジル風バッハ2
ナッシュビルは、米国の真ん中よりやや東海岸に近い内陸部テネシー州の町のようだ。私の(独断的)印象では、録音もなかなか良く、いかにもナクソスらしい中堅どころの良い演奏です。ブラジル風バッハは全9曲で、なんとなく聞くと特にバッハ風の印象があるわけではない。ただ、各楽章をみると、イントロダクション、プレリュード、ジーグ、アリア、ダンス、ファンタジー、トッカータ、フーガといったもので構成されていて、古典組曲的風であり、やはりバッハをかなり意識してることは確かです。なお、ヴィラ=ロボスは、「(俺は)ブラジルのクラシック音楽の父、即ちバッハになる」と思ったのではないだろうか。そしてそれはかなえられたと思う。

下記に簡単ですが、私の感想を少し。

ヴィラロボスブラジル風バッハ第1番(チェロのためののための)
イントロダクション、プレリュード、フーガの3部構成。8本のチェロのための作品。イントロの出だしが面白く印象的だ。この作品は1930年の作品で、最後の第9番が1945年の作品。シリーズの最初の曲だけあって、印象が斬新でありエネルギーを感じる。
ブラジル風バッハ第2番(オーケストラのための)
プレリュード、アリア、ダンス、トッカータの構成。最初のプレリュードもいいが、やはり最後のトッカーたが楽しい(そして凄い)。副題が「カピラの小さな列車」です。こういう曲は先に作ったほうが勝ちです。私はこの曲はとても好きで、ブラジル的雄大さとその中に哀愁も感じられ、その標題音楽的な表現が、混沌とした今の時代にますます懐かしく感じられる。
ブラジル風バッハ第3番(ピアノとオーケストラのための)
プレリュード、アリア、ファンタジー、トカータという構成。協奏曲風であり、バックのオーケストレーションは、(なんとなく)ギター協奏曲のコカパバーナ協奏曲に似ている。(私の独断では)ピアノがいまいち。
ブラジル風バッハ第4番(オーケストラのための)
プレリュード、コラール、アリア、トカータの4部構成。全体として大陸的哀愁を感じる。この曲は、このCDで初めて聞きましたが、このシリーズの4つのオーケストラ曲(2番、4番、7番、8番)のなかでは、最も判りやすくて、また、それぞれの楽章で、はぐらかされ、納得するという揺らぎ、それがいい感じです。
ブラジル風バッハ第5番(ソプラノと8つのチェロのための)
このシリーズで最も有名。ソプラノと8つのチェロという構成自体、その発想が凄い。以前にブログで感想を書いているので、ここでは省略。
ブラジル風バッハ第6番(フルートとバスーン)
アリアとファンタジーの二部構成。2つの楽器が交差しながら流れていき、やっと最後にひとつになる。私は学生時代、この曲を聴いて衝撃を受けました。こういう展開の二重奏は、ありそうでない。このCDの演奏は、両パートはもっとそれぞれが主張していいのではと感じた。それでこそ最後の一致が引き立つ。
ブラジル風バッハ第7番(オーケストラのための)
プレリュード、ジーク、トカータ、フーガの4部構成。フーガは前半は渋いがながらなかなか良い。まさにブラジル風バッハだ。最後の展開はやりすぎとも感じたが、オーケストラの集中力(といおうか締まり)があったらもっとよかったかも。
ブラジル風バッハ第8番(オーケストラのための)
プレリュード、アリア、フーガの3部構成。ヴィラロボスのブラジル風バッハで、オーケストラのためのものは4曲あります。2番、4番は楽しい。この7番、8番はすこし渋いというか、いまいちつかみどころが無い。ヴィラ=ロボスのオーケストラの構成力は、僭越ながら「もうす少しがんばって賞」のところがありますが、何度か聞いているうちにそのよさが感じられてくる。派手さは無いが、その音楽構成はバッハ的展開を感じる。
ブラジル風バッハ第9番(弦楽合奏のための)
プレリュードとフーガの2部構成。このシリーズの最後の曲としてはすこし物足りない。ブラジル風田園を感じさせえるプレリュード、そしてそれが展開してブラジル全体に広がっていくようなフーガ。これはこれで面白い。なお、この曲は「無伴奏合唱曲」でもあるらしい。でもそんなのできるのだろうか。

ヴィラ=ロボスは、西洋音楽の流れではシェーンベルクなんかの現代音楽の時代と重なるのですが、そのような音楽に背を向け、ブラジルのバッハをめざした。ちょっと飛びますが、フィンランドのシベリウスやちょっと前の世代ですがチェコのスメタナもそうでした。ヴィラ=ロボスは、やはりブラジルのバッハであり、スメタナでありシベリウスではないだろうか。このナクソス版、そつなくまとめているという感じもしますが、ヴィラ=ロボスの音楽を理解することができる良いCDです。

そういえば、以前購入したブリュームの廉価版にヴィラ=ロボスのコカパバーナ協奏曲が入っていたはず。これも聞いてみようか。・・・ということで。