このお話もカインとセツカの生活が始まって少ししてから浮かんだお話です。
続きものまだ一話しか書いてないですが、ちょっと間に一呼吸です。


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理性のヒモは枯れた輪ゴム



もぞもぞと動く音と気配がカインとして眠る蓮を浅い眠りから浮上させた。

ペタペタと床を歩く気配がする。

ーーー起きたの…か?

まだ外も暗く真夜中なのは見て取れた。
好きな女の子と二人きりのホテルの一室。足音がトイレに向かうのを確認すると、むくりと起き上がり、落ち着かない気持ちをそらす為、ホテルに備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すとゴクゴクと流し込んだ。
一息ついてベッドに戻ろうとすると、カインのベッドに倒れこむようにうつ伏せで寝てる彼女が目に入った。

ーーー最上さん。…勘弁してくれ。

ゆっくりとベッドに近付いて腰を下ろすと、いい夢でもみてるのであろう。クスクスと幸せそうに笑う彼女がいた。

ーーー君は…そんなに可愛い顔して、誰の夢をみてるのかな?他の男が出てる夢だったら許せないな。

そう思いながらそっと彼女の髪に手を伸ばす。
優しく髪を梳かしながらみていると、彼女が幸せそうな顔のまま、先ほど自分が使っていた枕を抱き締めながら、満足そうに寝言を言った。
「んふふ。敦賀しゃんの匂ひ~。…敦賀しゃん…ふふ」

ピキン。と蓮の動きが固まった。
今まで髪を弄んでいた手を頬に寄せると、柔らかそうな唇に引き寄せられるように近付く。
あと少しで唇が重なると言う時に、キョーコが身じろぎをし、
自分の行動にはっとする。

ーーーあ、危ない!!俺は…今何をしようとした?!

目の前の無邪気な寝顔を凝視する。
キスしたら、起きるかもしれない。そうしたら言い訳なんて出来なくなる。
歩く純情さんである最上さんは、寝てる間にキスして来るような男だと思ったら、もうセツカの役を降りると言い出すかもしれない。
そう思うとやはり手出しは出来ない。
しかし、このままここで寝られては困る。自分が最上さんのベッドに入ったとしても眠ることなんて出来ないだろう。
早くなんとかしなければ。

「最上さん。起きて。最上さん。…ねぇ、キョーコ?」

呼びかけても起きない姿をみて、普段呼ぶことの許されない呼び方で呼んでみる。
自然と口元が緩む。

「キョーコ。好きだよ。起きて?」
そうして蓮はゆっくりとキョーコの額にキスを落とす。
キョーコはくすぐったそうに身をよじり、

「ふふ。…敦賀セラピー…」
と蓮にとっては意味不明な寝言を零す。

「ん?…俺が何??」

ちょんちょんとキョーコのウィッグを弄ぶ。
でも当然返事はない。

「キョーコ…わかってる?俺は君が好きなんだよ。それなのに、そんな無防備な姿で寝られたら困るよ。ねぇ、キョーコ?」

あぁ、言葉が勝手に零れてくる。このままでは、この子を俺は襲いかねない。と思った蓮はキョーコをセツカのベッドに運ぼうと試みるが、うつ伏せで寝ている為、どうにも簡単にいかない。片膝をベッド乗せ、ゆっくりと肩をつかんで仰向けに変える。すると、キョーコの顔がみるみる曇って行くのがわかった。
「うぅ…嫌だ…置いてかないで…コーン…」
顔を歪めて閉じた瞼から涙が一筋流れる。
ドキンと大きく蓮の鼓動が跳ねた。
「キョーコ…ちゃん。…大丈夫…。俺はここにいるよ。もう二度とキョーコちゃんから離れない。だから、安心して…キョーコちゃん…」
「コーン…。コーンだけ…なの。お母さんも…、ショーちゃんも、私を見捨てたの…。一人は、さみしい…さみしいの…」
顔を隠して泣きじゃくるキョーコを堪らずに蓮は抱き締めた。
「俺はここにいるから…安心して。大丈夫だよ。キョーコちゃん。」

この手を離したくない。この子を一人にはしない。
泣き顏をみると胸が張り裂けそうだ。
「ずっと君の側にいるから、もう泣かないで?俺は君から離れていかないから。ずっと俺の側にいて。…側にいるから。愛してるよ。キョーコ。」

キョーコは安心したのか、また安らかにすうすうと寝息をたてはじめた。
蓮は優しくキョーコの目にたまった涙を指で拭うと、キョーコを抱き締めたまま、眠ることにした。

ーーー今夜だけ…。

自分にそう言い聞かせて。

涙で腫れた瞼にそっとキスを落とし優しく抱き締めなおしてそっと囁いた。
「愛してるよ。キョーコ。いい夢を…」
そうして蓮も久しぶりに深い眠りに落ちて行く感覚を味わった。
腕の中の温もりだけが蓮の心を慰める唯一無二の存在だ。
愛しくて愛しくて堪らなく辛いけど、守りたいと思う。
少しでも長く、少しでも近くにいたい。
彼女の幸せを誰よりも願いながら…それでもきっと隣にいるのは自分以外許せないんだろうな。と苦笑を漏らす。
「絶対に離さないから。」
そう呟いて、蓮も幸せな寝息を立て始めた。




---愛してるよ。
素敵な夢をみた気がした。
日の暖かさが朝を告げる。
「…ん。」
ずっと側にいるよ。って言ってくれてた。愛してるって言葉が夢の中で聞こえてた。夢のなかでしか聞けない言葉だとしても、とても心が暖まると思った。
とてもいい夢を見た日は何だか起きるのが勿体無い。もっと余韻に浸かっていたいから…暖かな身体に身を寄せる。すると、ギュッと抱き締められた。

ーーーん??暖かな身体??何かに包まれてるみたいでとっても気持ちいいけど、何かしら?とっても安心する…。

もぞもぞと動くと自分を抱き締めているものに手を掛けた。

ーーーこの香り…私知ってる気がする。それにこれは…腕?!!

そこまで考えてパチッっとキョーコは目を開いた。
「っっ???!!!!」

「おはよう。」

目の前には神々しい笑顔を惜しげもなく輝かせる美男子がいた…。
キョーコが尊敬して止まない、芸能界一の抱かれたい男ナンバー1の腕の中に、キョーコはいた。

何が起きてるのかわからないキョーコは瞬きを何度か繰り返した。

「くす。…おはよう。セツ」
キョーコが返事をしないので、カインとして蓮はもう一度声をかけた。
セツと呼ばれたことで、意識を取り戻したキョーコは、セツとして兄に向き合う。
「お、おおおおお、おは、おは、おははようございます!!にににに、兄さん!!」
平常心と思ったのだが、そうそう簡単に平常心を保てるものではなく、つい挙動不審になる。だが、キョーコとしては必死にいつも通りのセツカとして振舞っているつもりなのだ。
「どどどどどうして、この様な有様にーーーー?!」
悲鳴にも近い狼狽え振りに、蓮は顏を顰めると、わざとキョーコの耳ともに囁いた。
「セツが勝手に俺の腕の中に潜り込んできたんじゃないか…」
「わわわわ、アタシが?!!にに兄さんのうううでの中に?!」
「ああ、セツがすり寄ってきたんだ。なんだ?昨日はあんなに情熱的に誘ってきた癖に、忘れたのか?」
そう言いつつ、服の中に手を忍ばせ、大きな手でキョーコの背中を撫でる。
「はわわわわ!!そそ、そんな!!もももももうしわけ、申し訳ありませーんんん!!」
もう目がぐるぐる回っているキョーコが必死で腕から出ようともがくが、蓮の腕によりしっかり頭と背中をホールドされてる状態のキョーコは抜け出せるはずもなく。
最近自覚したばかりの恋心がキョーコの動揺に更なる拍車をかけていく。
心臓がバクバクで爆発しそうで、全身茹でダコ状態だ。
一方蓮は、夜中に不用意に男のベッドに入り込んだお仕置きのつもりで、素肌に手を伸ばしたのだが、これ以上は自分の理性がもたないと感じた。蓮は一度キツくキョーコを抱き締めると、キョーコの額にキスを落とした。
「今日はこのくらいで勘弁してやる。」
そう怪しく微笑みかけると、キョーコが真っ赤な顔でみつめてきてるのに気付いた。
真っ直ぐに見つめる瞳は少しだけ潤んでいて、期待と不安が織り混ざった視線をうける。唇は誘うように僅かに開いていた。
ーーーな、んて顔で、見てくるんだ…!!!!
お互いに視線をそらす事が出来ず数十秒。
無意識に蓮の手がキョーコの頬に伸びる。そして、その真っ赤な顔に誘われるように蓮は顔を寄せる。
唇が触れる直前、蓮はキョーコに呟いた。
「ごめん。最上さん、やっぱり…勘弁できそうにない…!!」
そう言うやいなや、キョーコの返事も聞かずに、唇に貪り付いた。

セツ魂の抜けたキョーコの大絶叫がホテルに響き渡るのは、数分後になるだろう。


END

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何だか無理やり終わらせたかった感が…(汗)
この後はご想像にお任せと言う事で☆
うっかり、蓮のベットに入り込んじゃうキョーコちゃんが書きたかっただけなのです。



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