かなり風月ワールドになってるお話です。
人魚姫の大まかな話ししか知らないので、自分で勝手に都合良いように色々付け加えちゃってます。
クオンとキョーコで描いてみました♪
注意;ショーちゃんの扱い酷いかもです。
興味がある方はどうぞ。


*****

人魚姫

日の光も当らぬ深い深い海の底には、美しい人魚達が暮らす素敵なお城と都がありました。

そのお城に住む美しき4姉妹のお姫様たち。長女は明るい茶色のストレートの長い髪。柔らかで澄んだ歌声をもつ都一の美女逸美姫。
次女の奏江姫は黒髪のストレート。何にも動じず素っ気ない態度が大人の魅力を醸し出すと人気も高い。
「もーー。どこにいったのよ!キョーコはー!ちょっと目を離すとすぐにいなくなっちゃうんだからー!!」
どうやら三女のキョーコ姫を探しているようだ。
「お姉様なら、憩いの珊瑚礁ではないかしら??なんでも綺麗な真珠を見つけたとかで、嬉しそうに出かけて行ったわ」
四女のマリア姫がそれに答える。まだまだ見た目はあどけない子供だが、侮れないところがある。金髪でウェーブのかかった長い髪を漂わせている。
「まぁ、それならきっと尚ちゃんのところね。」
逸美姫が楽しそうに答える。
「はぁーー。またあのバカ尚のとこ?!あの子どれだけ馬鹿なのよ。あんな俺様男のどこがいいんだか…。」
心底飽きれた風に奏江は零す。


ところ変わってここは、美しい人魚が集まる憩いの珊瑚礁。
今日もたくさんの人魚達が笑い合い歌を歌っている。
「きゃー。尚!今日も来てくれたのね!」
「尚ー。待ってたわー。」
美しい人魚に囲まれて大満足の尚。
そこへキョーコ姫も尚を探してやってきました。
「ふふふ。尚ちゃんびっくりするだろうな♪この間綺麗な大きな真珠が欲しいっていってたもん♪喜んでくれるかなー?」
ウキウキと探してると、尚ちゃんに話しかける声と尚ちゃんの声が聞こえてきました。
「尚、こないだ真珠の首飾りをくれるって言ってたけど、いつくれるのー??」
「祥子さん、もう少し待っててくれるか?あと一個手に入れば完成するんだ。とびきりでかい真珠が手に入ればな。今頃キョーコの奴が探してるはずさ。」
「全くあんたも酷い男よね。あのキョーコ姫に真珠集めさせてるの?!この間くれたこの貝の髪飾りもキョーコ姫が探してきたっていうんじゃないでしょうね?」
「そうだけど??あいつ昔から俺の為ならなんだってやるし。人魚姫って割には色気もなにもないんだから、俺様の為にこれくらいするの当然だろ??人魚姫って名称は祥子さんみたいな人にこそ相応しいぜ。」

そんな話をしてる尚のこめかみを何か煌めく物が凄い勢いで掠める。
そして、それは砂の中に物凄い勢いで突っ込んでいった。きらりと光るそれは大きな真珠の様な美しさだった。
飛んで来た方をふり返るとそこにはキョーコが今まで見たことない形相で立っていた。
人魚姫にあるまじき魔女のような邪悪な姿に驚きを隠せない尚と祥子さん。
「きょ、きょ、きょ、キョーコ姫様!今の話聞いて…。」
と祥子さんは震え出す。髪にはキョーコが苦労して探した貝の髪飾り。
それを見つけたキョーコは怒りに震えるのを抑え、尚に問いかける。
「今まで私に色々探させてきたのは、彼女にプレゼントする為だったのね…?」
「そうだけど??それに俺は別に探してくれなんて言った覚えはないし、どっかに落ちてないかなー。って言ってた物をたまたまお前が拾ってきてたんだろ?」
鼻でせせら笑う尚に一気に怒りを解き放つ。
「シヨータロー!!!!こんの…あんたなんて、ただのヒトデの癖にーーー!このヒトデなしーーー!!」
どかーん。という音と共に周辺に大渦と悲鳴が発生する。
人魚の中にはごく稀に天候や海の気分まで左右する力を持つものが生まれることがあるという。
キョーコ姫の怒りにより、憩いの珊瑚礁は大渦に巻き込まれ、
キョーコ自身も波に飲まれてしまった。
「きゃーーー」
憩いの珊瑚礁にいた人魚達は渦に呑まれ皆が散り散りになった。
制御のきかないキョーコの
怒りはとどまるところを知らず、キョーコを海面へと引き上げた。




ポカポカと暖かい日の光を浴びて目を冷ましたキョーコは、初めて見る海上の景色に目を見張る。
「ここ…は…??」
うわぁー!綺麗!もしかしてこれが…空??

ぽかんと考えていると一艘の巨大な船が近付いて来るのが見えた。
『大変!海面には出てはいけない掟なのに!にんげんってのに見つかったら命はないって聞いてるもの!早く海底に戻らないと!』
そこまで考えて、先ほどの出来事を思い出す。
考えただけでムカつく尚の言葉の数々…。
「どうせ私は、逸美お姉様のような美女でもなければ、奏江お姉様のようなクールビューティーでもないし、マリアちゃんのような可愛らしさもないわよ!あんな最低のヒトデに今まで使われてたのかと思うと腹立つーーーー!」
ドロドロとした感情は天候を左右した。
今まで晴天だった空はどんよりと暗雲がたちこみ大波と大雨が先ほどの船を襲った。
突然の嵐に見舞われた船は大きく揺れ、転覆しそうになる。
嵐に船が襲われているのを目の当たりにして呆気に取られているキョーコ姫。
キョーコ姫は、ボトボトと船から降って来る樽や箱から必死に逃げる。
「きゃーーー」
すると、その声に気付いたのか、一人の金髪の青年が海面に向かって嵐の中飛び込んだ。

「クオン様ー!!」
船の中から誰かを呼ぶ声が聞こえる。

キョーコ姫を守る形で覆い被さった金髪の青年とキョーコ姫は二人大きな渦へと呑み込まれた。


渦へと呑み込まれたキョーコは抱き締める青年の腕の力が弱まるのを感じていた。
『私を…護ろうとしてくれたのよね?大変!!早くこの人を助けなきゃ!!』
金髪の青年を抱えてキョーコは
急いで海面を目指す。
「ぷはっ!」
ようやく海面に出たキョーコ。嵐は止んでいて船もなくなっていた。
何処かこの人を休ませれるところを探さなきゃ!
キョーコは必死に泳いでようやく砂浜を遠くに見つけた。
「あそこなら、この人も休めるかもっ!もう少し頑張って下さいね!」
ぐったりした青年に声をかけるキョーコ姫。だが、返事はない。

砂浜から少し離れた所に岩場を見つけた!
岩場なら彼を連れていけるかも!
そっと彼を岩場に上げる。砂浜だとすぐに海に戻れない為人間にバレる可能性がある。その点、岩場はうってつけだった。ここなら海に身を隠せるので彼が目覚めても正体がバレることはないだろう。
「大丈夫かしら…。だいぶ海水を飲んだみたいね。」
顔色が悪く呼吸もしていないようなので、心配になる。
『これは…人口呼吸が必要かしら?人間にもやって大丈夫なのかしら?でも…それってキスになってしまうんじゃ…』
そう考えて少し躊躇したキョーコ姫。それもそのはず。人魚は初めてキスをした相手と生涯愛し合わなければいけないのだ。
しかし、目の前でますます顔色が悪くなる男の姿を見て、そうも言ってられないと思い直し、人口呼吸を施す。
何度か繰り返すと、ようやく彼が海水を吐き出し、荒い呼吸が聞こえてきた。
キョーコ姫はほっとして、胸を撫で下ろす。
顔を覗き込むと顔色も大分良くなったようだ。
そしてキョーコ姫は息を呑んだ。
うっわ…。綺麗な人…。金髪のサラサラの髪が白い肌に張り付いて、長いまつげが閉じている。鼻と口も形が整っていて、がっしりした腕と胸板にドキッとする。凄く逞しくて綺麗な人。
「まるで生きてる宝石のようだわ…」
この人…どんな目をしてるんだろう??
ドキドキしながら見ていると、彼の手がピクッと動いた。慌てて海の中を移動して岩場に隠れるキョーコ姫。
「うぅっ…」っとうめき声を上げた彼が腕を額に当ててゆっくりと目覚めた。
「うっ…おれ…は…?ここ…は…?」
そして、何か思い出したのかはっとして身体を起こす。
「あの彼女は!?うっ…くっ!」
身体が痛いのか起き上がってすぐに顔を歪める。

そして岩場から覗いていたキョーコ姫と青年の目がぱっと合った。
「キミ…は…。あの時の…?そっか…無事だったのか?」
彼は安堵したのかホッとした笑顔をみせてくれた。
その瞬間キョーコ姫の心臓はドキッっと激しく跳ねた。
目を合わせたまま真っ赤な顔でコクンと頷く。
「あっ…もしかして、君が俺を助けてくれたの?」
キョーコ姫は助けてもらったのは私の方じゃ…と首を傾げたが、ここまで運んだのは私だからそう言うことになるのかな?と考えて、ゆっくりと頷いた。
「そっか、ありがとう!」
そしてまた極上の笑顔を向ける青年をみて、キョーコ姫は心臓が壊れそうになり、顔を背けた。
「上がっておいでよ。いつまでもそんな所にいたら身体が冷えるよ?」
優しい声をかけられてぴくっと肩が跳ねるが、寂しそうに青年を見つめると、フルフルと首を振った。

青年は少し驚いた顔をしたが、すぐに顔を綻ばせて
「海の中が好きなんだね?」
と微笑んだ。
キョーコ姫はにっこり微笑み返してコクンと頷いた。
青年はまた驚いて息を呑み、満足そうに微笑んだ。
「やっと笑ってくれたね。君、名前は??俺はクオン。クオン・ヒズリ」
ニコニコと返事を待つクオンと名乗った青年を見つめる。
ドキドキとうるさい心臓をキュッと握り閉めて、キョーコ姫は小さく「キョーコ…」とだけ呟いて逃げるように背を向けた。
「あっ!待って、キョーコ!!」
名前を呼ばれただけで心臓が跳ねる。
「また…、会えるかな?」
キョーコは振り返ってクオンを見つめる。
何か答えなければと思ったが、
言葉が見つからない。
腑いてしまった私にクオンは何か思いついたのかポケットを探って、手を差し出した。
「ねぇ、キョーコ…手を出して?」
じっとクオンを見つめて、おずおずと手を伸ばすと、手のひらの上にポトンと蒼い色の石が乗せられた。
「それ、お礼だよ。こうやって陽の光に当ててみて?」
クオンの動きを真似して光を当ててみる。
キラっと色が変わった。
目をキラキラさせて魅入っていると、クオンは続けた。
「今の、魔法だよ」
「うわぁ!凄い!綺麗ね。コーン!!」
私は初めて彼の名前を呼んで、目を輝かせたまま彼を見た。
彼は今までで一番神々しい笑顔を向けて、嬉しそうに微笑んでくれた。
また心臓が跳ねる。
「本当に…これ、私にくれるの?」
「うん。君に持ってて欲しいんだ」
「…ありがとう!!」
キョーコ姫は嬉しくて、満面の笑顔でお礼を言った。
するとクオンは目を見開いて、手で口元を覆ってそっぽを向いてしまった。
「あ…。うん。喜んでもらえたなら、その…良かったよ。」
と言ったあとに、ごほっ。っと咳払いを一つして向き直ると何かを言いかけたが、近くで人の声がしてキョーコは焦った。
「あっ!人が来たみたい!ごめんなさい。コーン。私…行かないと!」
「まって!次はいつ会える?キョーコ!」
「ごめんなさい。わからないの。またね!」
そういってキョーコ姫は海に戻った。


「彼女は…人魚…か??」
キョーコが去って行った海をじっと見つめるクオン。
先ほどのことを思い出す。それにしても…なんて可愛いんだ!あの可愛さは殺人的だろう!!
と心の中で叫んだ。
不思議そうに小首を傾げる姿。おずおずと恥ずかしそうに頷く姿。寂しそうに首を振る姿。
不意に見せてくれた満面の笑顔。全て脳裏に焼き付いている。
「最初はしゃべれないのかと思ったが…恥ずかしがってたのかな?」クスリと笑う。
消えてしまいそうな声で自分の名前を名乗る姿。
「一挙手一投足が、反則だ!」
初めて名前を呼ばれた時は、心臓が高鳴ったよ。
「まぁ、間違えて名前を覚えられたみたいだけど…」
苦笑いを浮かべてもう一度彼女の消えたあたりを探すが、やはり浮かんで来ない。
「次は、いつ会えるかな…?」
ほぅっ…っと海を見つめて、立ち上がる。
「それにしてもここは何処だろう?皆心配してるだろうな。早く探さないとっ!」
…もう一度海を振り返ると、何か考えるようにふとクオンは
指を口元に当てる。僅かに口元に残る甘い香り。
あれは夢だったのかな?それとも…。暖かい唇への感触が妙にリアルだった。
「はぁー。なんか、彼女のことばっかり考えてるな。俺…。また、会いたいな…」
海を名残惜しそうにみて、俺は岩場を後にした。



クオンと別れたキョーコ姫は、なんとかお城へ帰り着いたが、城の中は大騒ぎになっていた。
何事かと思って召使いの人魚を捕まえたら、素っ頓狂な声が上がって、皆が一斉に集まってきて、騒ぎが一層酷くなった。
「キョーコ様!よくぞご無事で!」
「キョーコ姫様がもどったぞーー!」
「まぁまぁこんなにお疲れになって。一体全体どちらまで行ってらしたのですか!皆心配しております。」
「キョーコ様!直ぐにお食事お持ちします故、大人しくしていてください。」
「ささ、こちらへ」
皆に促されて、城の奥へと進むと正面からマリア姫が泳いで突進してきた。
「お姉様ーー!もう心配したんだからーー!!」
「ごめんね。マリアちゃん。」
そしたら後ろからバシンと叩かれる。
「いったーい。」振り返ると奏江姫が涙を貯めていた。
「もーー。ばかキョーコ。心配したのよ。3日も帰って来ないでどこほっつき泳いでたのよ。」
「ごめんね。モー子姉さん。」
「本当に無事で良かったわ。お父様もお母様も心配してたのよ?ちゃんと後で挨拶に行きなさいね?」
「逸美姉さん…」
皆の顔を見てホッとして涙が流れた。実はクオンと別れた後、どうやって帰ればお城に着くかわからずに3日も海を彷徨っていたのだ。その間に改めて海の恐ろしさを思い知った。
暗い海の底は心細く、鮫やシャチに見つかりそうになりながら必死に逃げて来たのだ。

着替えを済ませていたら、使用人が食事を運んで来てくれた。3日振りのまともな食事を楽しんでいるとふと、あの人の事を思い出す。
何時の間にか食事を忘れ、ぼーっと海の遥か遠くを見つめた。
思い出すのは私を護ってくれた逞しい腕と、唇の感触。そして彼の様々な笑顔。強い眼差し。
どのくらいそうやって考えていたのか、奏江のノックではっと現実に連れ戻された。
「あんた…いったいどうしたのよ??さっきから様子がおかしいわよ?食事進んでないようだし。食欲ないの?」
「え…?あ、いや…その…。ごめんなさい。食欲はあるのよ?ただちょっと考え事しちゃってて…」
「ふーん??何かあったの?ショウちゃんと…。」
「へ??ショーちゃん??」
「え?違うの??なんか頬を赤らめて何か考えてるからてっきりそうかと…」
「ちがうわよ!なんであんな馬鹿ショーが出てくんのよ!!」
「あんた…こないだまで、その馬鹿ショーにお熱だったじゃないの。」
「勘弁してよ。あんな最低ヒトデ思い出したくもないわよ!!あー!名前聞いたらムカムカして来たー!!」
ゴゴゴゴゴという音と共に部屋の中に海の渦が出来る。
「ちょ、ちょ、ちょっと!落ち着きなさいよ!キョーコ!!」
ドキン。キョーコって、あの人もそうやって私のこと呼んでくれた。胸の奥がキュッ切なく痛む。
渦が収まりホッと胸を撫で下ろす奏江。でも少し何かを考えておもむろにキョーコの手を掴んだ。
「ちょっとお父様の所に行きましょう!」
「え??モー子姉さんどうしたの?急に??」
「あんたもしかしたら、父様もまだ知らない特殊な体質持ってるかもしれないからよ」
「特殊な体質…??」
「憩いの珊瑚礁であんた達を襲った突然の渦はあんたが原因なんじゃないの?」
「はぃ??モー子姉さん何言ってるの??」
「いいから行くわよ!」
「わかったから、自分で歩けるよー。」
ザバザバと進んで行く奏江姉さんは手を離さず引きずりながら進んで行く。
はぁー。今頃、彼は何をしてるのかしら?もう3日も経ったし、
私のことなんて忘れちゃったかしらね…?
また会ったら、覚えてくれてるかな?そっとクオンからもらった蒼い石を取り出して握り締める。また、会いたいな…。
そんなことを考えていたら、何時の間にかお父様のお部屋の前に辿りついていた。
奏江は軽くノックをすると
「お父様、いらっしゃる?奏江です。」
中から返事が帰って来た。
「おう、奏江か?入れ!」
「失礼します。」
引きずられるように奏江と一緒に部屋に入る私を見て、
お父様の顔が綻んだ。
「よう、キョーコ。3日もどこにいってたんだ?心配したんだぞ。」
「お父様。ごめんなさい。ご心配おかけしました!」
「謝罪はいいからそばに来い。ちゃんと顔を見せてくれ。」
「はい。」
お父様は私を手招きすると顎に手を置き、ふむ。と見つめるとニヤッと笑った。
「お前、運命の口付けを交わしたな」
「え?!なっ!…何で…それ…」
真っ赤になって反発する私とは対象的に、真っ青な顔をした奏江が割って入る。
「はぁ!?あんた!何時の間にそんなことっ!!」
「や…あれは、しょうがなかったのよー!命が危なかったんだからー!」
「まぁ、落ち着け二人共。それはそうと、誰と運命の口付けを交わしたんだ??」
「そーよ!一体誰と交わしたのよ?!まさかあの馬鹿ヒトデじゃないでしょうね?!」
「なっ!!違うわよ!もうあんな奴関係ないんだから!あいつは私を利用してただけだってことが充分わかったわよ!」
「なにそれ?!利用ってなによ?!ちょっと全部洗いざらい話しなさい!」
「落ち着けと言ってるんだ!奏江、お前は黙ってろ!…キョーコ、一体誰としたんだ?運命の口付けの意味をお前はちゃんとわかってるんだろうな?」
「わかってます。口付けを交わしたもの同士は結婚しないといけないんですよね?」
「そうだ。だが、一番大事なのは何者としたのか?と言うことだ。
「…おっしゃってる意味がよくわかりませんが…?」
「つまりだな。お前の相手は、人魚か??」
「…違います。」
隣の奏江が息を飲むのがわかった。
「違うって…あんた!…っ!」
奏江が何か言いかけたが、父上の一睨みで言葉を飲み込んだ。
「…で、相手は誰なんだ?」
何故父親にここまでキスのことを突っ込んで聞かれなきゃいけないのよ!!と内心毒づくキョーコだが、隣で奏江姫も静かにキョーコの答えを待ってるのがわかる。キョーコは渋々という形で答えを口にした。
「人間です…。」




運命の口付けの相手を口にしてからと言うもの、城の中は再び大騒ぎになっていた。
「お姉様!!人間の王子様と運命の口付けを交わされたと言うのは本当ですの!?」
「キョーコちゃん、本当に??」
マリア姫は嬉々として、逸美姫は心配そうにして話かけてくる。
「…うん。ごめん。ちょっと一人にしてくれる?」
「そうね。でも、後できちんと話聞かせてね。ほらマリアちゃん、行きましょう?」
逸美姫は優しく微笑むとマリア姫を促して部屋を出る。
ぼーっとしたままのキョーコ姫は、クオンのことを考えながら、父親に先ほど言われた事を思い出す。
手にはしっかりコーンの石を握り締めている。
『いいか、キョーコ。よく聞けよ。運命の口付けは人魚同志なら問題ないが、その他となれば話は別だ。
運命の口付けを交わしてからは一ヶ月という時間をかけて、我々は変化が始まる。人によっては一ヶ月掛からなかったり、一ヶ月以上かかりもするが、人に口付けた者は人に。イルカに口付けた者はイルカに。ヒトデに口付けた者はヒトデに。口付けた者と同類に変化を遂げる。』
『えっ?!じゃあ、私は一ヶ月後には人間になってしまうと言うことですか?』
『そうだ。もちろん、人魚ではなくなるわけだから、水中で呼吸も出来なければ、今までのように海底で暮らすことも出来なくなるだろう。そして、一番厄介なのは、その相手と、変化した後半年以内に愛し合うようにならなければ泡になって消えてしまうと言うことだ。』
『いやです!そんなの。なんとかなりませんか?!』
『こればっかりは、王である俺でも何とでもならん。』
『そんな!お父様!私はもう家族と会えなくなってしまうということですか?!それを受け入れろと、お父様はそう言うの?!』
『会おうと思えばいつでも会えるさ。お前が泡になったりしなければな。会う方法はいくらだってある。』
『でも…。愛されるなんて…私には…』
私は何も言えなくなった。あんなに素敵な方に愛されるなんてことあるはずがない。ヒトデにだって捨てられた人魚だ。
私はあの方に認められなければ、泡となって消えてしまう。
そして、一ヶ月後にはここにもいられなくなるんだ。一人っきりで生きて行かなければならないんだ…。
キョーコが自分の世界に入って考え事をしていると、父親から楽しむような声がかけられた。
『まぁお前がどうしても人間になんてなりたくない。って言うのなら、一つだけ方法はある。』
『んなっ?!あるんなら、勿体ぶらずに教えてくださいよ!』『その運命の口付けから2週間以内に別の奴と口付けを交わせば塗り替えられるぞ。人魚と口付けを交わせば人間にはならずに済む。』
『……え…?』
『まぁ、そんなことをしたら、お前の相手との記憶も、相手のお前との記憶もお互いに消えてしまうがな。それでいいならそうしろ。お前の相手してもいいっていうやつならいくらでもいるぞ。』


「人魚とキスすれば、コーンとの記憶が、消える…。人間にならなくても済む…?」
ズキン。胸の奥が苦しい。これは一体何だろう?
私は…。私はどうしたら…。
『ねぇ、コーン。…私が人間になれば、貴方は私を愛してくれるの??…人間になって一人ぼっちだったら、私嫌だよぉー。』
握り締めている蒼い色のコーンの石を見つめる。海の青と重なって溶けているみたい。海の結晶なのかな?
人魚が嫌だと思ったことはない。人間になりたいだなんて思ったことはない。家族と離れ離れになるのは嫌。でもキスしたいと思える人魚なんていない。コーンのことを忘れたくはない。忘れて欲しいとも思わない。彼の目にどう言う風に映ったかわからないけれど…。
それでも私はどこかでまた彼と会いたいと思っている。彼の事を考えて胸が苦しくなる。締め付けられる気持ちが愛おしい。
「変なの。あれはキスなんかじゃないのに。あれは、そう、ただの救命行為よ!」
そういいつつも、顔が真っ赤になる。そして思い出すのは彼の笑顔、声や仕草。
「今、貴方は何をしているの?何を想っているの?ねぇ、コーン…」
静かな潮の中で声が切ない声が響く。
コンコン。
「入るわよ?」
「モー子姉さん…。」
「あーもぅ!何を辛気臭い顔してんのよ。一人でウダウダ考えててもどうしようもないでしょ?!話しなさいよ、私にくらい。一人で抱え込まないの!」
「うわーん!モー子姉さーん!!」
「はいはい。わかったから!さっさと話しなさい!」
コンコン。
「キョーコちゃん、少しは落ち着いた?キョーコちゃんの大好物のオヤツを作ったのよ。食べれるかしら?」
「お姉様ぁ…」
「逸美姉さん、マリアちゃん。」
にこやかに入ってきた逸美姫と、泣き腫らした目をしたマリア姫が入って来て、キュッとキョーコ姫の脚にしがみついて来た。
「マリアちゃん…泣いてたの?どうして??」
「だってお姉様、お姉様ともう会えなくなるだなんて、私耐えられないわ!」
「マリアちゃん、聞いたのね?」
「さっき逸美お姉様が話して下さったの。私はお姉様のすべすべで素敵なドハデピンクのこの鱗も大好きなのよ?」
「うん。マリアちゃん、ありがとう。大丈夫よ。私はどこにも行かないわ。」
「本当??」
「キョーコ…。あんたって子は…、何が大丈夫よ!何が!!そんなに辛そうな顔して!」
「辛そう…な顔??…私が??」
「そうよ!鏡見て見なさいよ!そんな身を切られてるような顔して!何が大丈夫なの?」
「そうよ。キョーコちゃん、無理しないで?一人で悩んでないで話してくれる?」
「逸美姉さん…」
するとマリア姫がしがみついた手の力を強めながら、更に続けた。
「わっ、わったし、私、お、お姉様、が、決めたことなら、寂しくっても、応援しますわっ!」
「マリアちゃん!」
私はたまらず、皆を抱き締めて泣いていた。
「はいはい。わかったから。あーもー。うっとーしわね!さっさと話しなさい!」
「うん。ごめんね。モー子姉さん。逸美姉さん、マリアちゃん。全部話すわ。」

そして憩いの珊瑚礁で渦に呑まれたところから、クオンの乗ってた舟が嵐に襲われたこと、そしてクオンが海に飛び込んで、私を護ろうとしてくれたこと。気を失った彼を助ける為に人口呼吸をしたこと。
また会えるかと聞かれたこと。
コーンの石をもらったこと。
私は起きたことを洗いざらい全て話をした。三人は口を挟まず黙って聞いていた。
「それが、運命の口付けになっちゃったってわけね。」
と奏江姫の言葉に、私はこくん。と頷く。
「その彼素敵ね?危険な海だとわかってて、キョーコちゃんを護ろうとして飛び込んできたんでしょ?!」
「無謀以外のなにものでもないわよ!何考えてるのよその男!嵐の中で海に飛び込むなんて!」
「でも、お姉様を護ろうとしてくださったのよ?私も守られたいわー!私だけの王子様と会いたい。うん、きっとその方はお姉様の運命の方に違いないわっ」
「ちょっ、運命の方ってそんな!」
「でもあんたはそんな彼に惚れてるわけでしょ?」
「いや、惚れてな…」
「惚れてるのよね?キョーコちゃん。」
「え?…あの、ちょ…」
「確実に惚れてますわね。さっきのお顔は」
「お顔??」
「あんたねー!そんな顔しておいて何が惚れてないよ!惚れてないわけないでしょー!」
「そして?惚れてないって抵抗するのはどうして?ショーちゃんに捨てられたからこわくなっちゃったの?」
逸美姫の返事を受け、ズキンと胸が痛む。
「あんまりですわ!そんなの。お姉様は何も悪くないのに!お姉様は誰よりも幸せになるべきよ!」
「そうよ!キョーコ!あんな態度だけデカイヒトデ男なんて、ギャフンと言わせてやればいいのよ!」
「キョーコちゃん。大丈夫よ。その彼もきっとキョーコちゃんのことを大切にしてくれると思うわ。だって、そんなに綺麗な石をくれたんですもの。」
「お姉様自信をお持ちになって?私の大好きなお姉様はこんなことでくじけたりしませんわ」
「皆…ありがとう!!」
「それにあんた、その男以外にキスなんか出来る人いるの??」
「う…それは…。自信、ないかも…。」
どんどん小声になるキョーコ。
「それに、ほら!まだ時間あるんだからさ、様子見に行ってもいいんじゃない?」
「え…?様子って??」
「だから、コーンのところに行ってきなさいよ!」
「えぇえぇえ?!!」
「何よ?その反応は!」
「だ、だって!!場所なんて覚えてないもの!ここまで帰り着くのだって必死だったんだからー!」
「はぁー??あんた何してんのよ!一ヶ月後には人間の姿になっちゃうのよ?!半年以内に愛し合わなければ泡になるのよ?!」
「嫌よーお姉様!泡になんかならないで!!」
「落ち着いて、皆!困ったわね。仕方ない、皆で探しましょう?」
「「「どうやって??」」」
「え??えっと…気合で??」
「………」
「もーー!逸美姉さん…。」
「だって、それしか思いつかなかったんだもの!!」
クスクス。と笑出す私とマリアちゃん。
「ふふふ、逸美姉さん。流石ね。そうね。気合と根性よね?」
「ふふ、そうと決まれば準備が必要ですわね!私、お父様に伝えて来るわ!」
「ちょっと待って!マリアちゃん!皆でって、貴方まで?!」
「嫌ですわ。お姉様!私だけ仲間外れにしようって言うの?」
「いえ、そういうつもりはないけど、外は危険なのよ?貴方はまだ小さいし、危ないからお父様は許してくれないと思うわ?」
「大丈夫よ!だってお姉様達が一緒だもの!待っててね!すぐに戻るからー」
と言い残して去って行ったマリアちゃんを唖然と見送る私に奏江姫が声をかける。
「無駄よ。ああ言い出したあの子は何を言っても辞めないわ。」
そして私達は三人でどのようにして危険を回避しながら探しに行くかを計画しだした。



「おーい。クオン?クーオーン?」
目の前にひょっこり顔を出されてようやく呼ばれていたことに気付いた長身の男。
「なんですか?社さん?いきなり目の前に現れないで下さい。」
社と呼ばれたメガネの男は不機嫌そうに答える。
「何だよ?どうしたんだよー。こないだからずーっと海ばっかり眺めて。そんなに海をみるの面白いか??」
「放って置いて下さい。」
「ふーん?こないだ海に落ちた時からだよな?様子がおかしいのは。どうしたんだ?人魚にでも会ったのか?」
ケラケラっと笑う社さん。
最後の一言に思わず反応して肩をビクッとしてしまったが、社さんは笑っていて気付かなかったので、何でもない風を装った。
「まさか、そんなわけないじゃないですか」
作り笑顔を綺麗に顔に貼り付けて答えたら、社さんは一歩さがって
「んな!お前、何で怒って…。笑ったこと怒ってるのか?!悪かったよ!干渉しないようにするからさー。そのため息ばっかりなのは辞めてくれよなー。そしてちゃんとご飯くらい食べなさい!」
「すみません。どうしても食欲出なくて…」
「はぁー。元々食欲ないくせに、
お前はー。もう一週間、ろくに食べないで海ばっかり眺めてるじゃないか!国王様も心配なさってるぞ!」
「気が向いたら食べますよ。」
「気が向いたらってお前…」
ガタンっ!
海を見ていたクオンが物凄い勢いで急に立ち上がったので、社は驚いて後ずさった。
「な、な、な、なんだよ!クオン!!」
クオンは答えずに、一目散に走り出した。
ーあれは…、もしかして!!!
クオンの目には、遠くの海からこちらの海岸に向かって泳ぐ人影が飛び込んだのだ。
心臓がドクドクと高鳴る。
前に彼女と別れた岩場に辿りついたクオンは、激しく脈を打つ心臓を落ち着かせようとしながらも、海を見つめる。
しばらくすると、息を切らせた社さんがやってきた。
「ぜぃ、ぜぃ、おまっ…、いきなり走り出すなよな!」
クオンは答えない。ただじっと海を見ている。
その真剣な眼差しを見つめて、社は諦めて手頃な岩場に腰を下ろした。
そのまま、30分ほど経っただろうか?

少し離れた岩場から、数人の女性の声が響いてきた。
「ちょっと!大丈夫?!しっかりしなさい!!」
「お姉様ーー!」
「ダメよ!大きな声出しては!近くに人影があったの忘れたの?気付かれちゃうわ。キョーコちゃん、しっかりね!」
「うぅ、ゴメンね。モー子姉さん、逸美姉さん、マリアちゃん…」

耳を澄まして聞いていたクオンは確信した。最後の弱々しい声は間違いなく、彼女のものだ!

「奏江ちゃんは、キョーコちゃんについててあげて。私は傷に効く海藻とって来るわ!」
「逸美お姉様!私も探すの手伝うわっ!」
「わかった!二人とも気をつけてね!」
動きだしたクオンを慌てて追いかける社。
『よくもまぁ、こんなに足場の悪いとこを、ああも優雅に歩けるよな。』
と感心しているとふとクオンの動きが止まる。
「キョーコ!!!!」
突然のクオンの叫び声にビクッと揺れる人影。
黒髪ストレートの美女。
『彼女がクオンのハートを射止めたのか…確かに絶世の美女だ…』
社が遠くから顔を真っ赤にして絶句してると、クオンの目当ては違うようだった。
その黒髪の美女の前に横たわっている息も絶え絶えの少女に釘付けのようだ。
黒髪ストレートの彼女は眼中に入っておらず、慌てて駆け寄ってクオンは横たわっている少女を抱きかかえる。
「ん?怪我してるのか??」
社がよく見ると腕から赤い血のようなものが滴り落ちている。
その傷口へクオンは顔を近付けると、傷口を口で塞いでいた。
その光景をみて顔を真っ赤にして固まっている奏江姫と社。
「キョーコ!どうしたんだ!大丈夫か?!」
「…コーン…?」
不思議そうに名前を呼ばれて顔が綻ぶクオン。
へぇ、あいつあんな表情もするんだ…。とか感心していたら、急に名前を呼ばれてびっくりした。
「社さん!傷の手当をしたいので、救急車を読んでください!早く!」
「お、おぉ、わかったよ。」
そこへ、先ほどの黒髪の美女が割り込む。
「ちょっと!なんなのよ!いきなり現れて!もー!冗談じゃないわよ!この子の傷ならだいじょうぶ!今薬草持って来るから!これ以上人間に見つかるわけにはいかないのよ!」
「え?…人に見つかる訳にはいかないって…?」
すると海から2人の美女が頭を出してきた。手には何やら海藻らしきものを握っている。
「奏江ちゃん!あったわ!これで大丈夫かしら…?…って、えぇぇえー?!!」
茶髪ストレートの美女逸美姫はキョーコを抱き締めている知らない男をみて驚愕している。
「きゃーーー!なんて素敵な殿方なのーー?!」
金髪ウェーブの四女マリア姫はクオンの美貌にメロメロのようだ。
「あの…貴方がもしかして…」
逸美姫がクオンに何か問いかけようとしたが、それは奏江姫によって遮られた。
「ちょっと!話は後よ!早く薬草貸して頂戴!」
そう言って奏江姫は、海藻を口に入れて、細かく噛み砕くと、それを口から出しキョーコ姫の傷口へ擦り当てた。すると、みるみる内に傷口が塞がっている。
「んな!…魔女…か?」
今見たものが信じられず口をあんぐり開けて問うとクオンがクスクス笑った。
「違いますよ。社さん。彼女達は人魚です。良く見てください。」
「へ?!人魚??」
社は近付くと、皆体を海の中につけていて、上がってこようともしない。ふとキョーコ姫に目を向けると、クオンが抱きかかえた為か、腰の辺りまで海から出ており、ピンクの綺麗な鱗がお臍の下あたりから続いている。
「大丈夫かい?キョーコ。痛みは引いた?」
「コーン…大丈夫よ。ありがとう。」
「もー、無茶するからよ!あんた力無い癖にシャチの囮になったりするからー。」
「だって、皆で見付かるよりいいでしょ?私一人なら皆が傷付かなくて済むもの。」
「だから馬鹿だって言ってるのよ!あいつらにとっては私たちはご馳走なんだからね!今回助かったのはたまたま運が良かっただけよ!」
「まぁまぁ、奏江ちゃん落ち着いて。キョーコちゃんも無事だったんだし、良かったじゃない。」
「お姉様死んじゃうかもと思って怖かったよー。」
「ごめんね…。マリアちゃん、皆心配かけて…。」
話しを聞いていたクオンの周りの空気がみるみる内に重くなり、地を這うような低い声を出してきた。
「君は…囮なんて、そんな危険な…そんな無茶をしたのか…?」
「ひっ!!こ、コーン?!どうしたの?」
キョーコだけでなく、そこにいる皆の顔と身体が引き攣る。
「君は、何でそんな無茶をしたんだ!!」
「だ、だってこっちにはマリアちゃんがいたし、皆で見つかってしまったら大変だと思っ…」
その言葉は最後まで言えなかった。クオンの口がキョーコ姫の口を覆ってしゃべれなくしてしまったのだ。
周りで見てるものは赤面するしかない。顔を真っ赤にして固まっている。
しばらく続いた口付けが離されると、クオンの力強い腕がキョーコ姫を抱きしめる。
「無事で…よかった。」
「…コーン…。ごめん、なさい…。」
クオンの服にキュッとしがみつくキョーコ姫。
その仕草にまた愛しさが増すクオンの腕に力が入る。
一向に離れる気配のない二人を見ながら某然と各々の感想を述べる。
「なによ。もう相思相愛って感じじゃない…。」
「本当にそうよね。この分じゃ泡になる心配はなさそうね。」
「きゃー!お姉様ーー!いいなー羨ましいー!」
「クオンがあそこまで他人に関心持つの初めて見たな…誰とでも一定の距離を保ってきたあいつが人の為にあんなに取り乱すなんて…。」
「それにしても、いつまで抱き合ってるつもりかしら?」
「クスクス。いいんじゃない?折角会えたんだから。」
「お姉様幸せそうー!」
「…そういえば、君たちはどこから来たの?人魚の住むところは近いのかな?」
「遠いわよ?ここまでずっと休むことなく泳いで来て丸々2日もかかったもの。まぁそれはあの子の記憶が曖昧だったせいもあるけど」
「ここまでなら、そうね。泳ぎ続けて片道1日半ってとこかしら?」
「ここまで来るの大変だったんだからー」
「そっか、じゃあ滅多にこっちには来れないよな。クオンがあの調子じゃ海に返したくないとか言いそうだ。」
「そうね。あの子も戻りたくなさそうだし、どうせあと三週間で人間になっちゃうんだし、このままおいて行った方がいいかしら?」
「そうね。もしかしたら姿が変わってしまうまであと三週間もないかもしれないし、海の底で変化が終えたら大変だわ。」
「え?姿が変わるってなに??」
「ふふふ、私達人魚は、初めて口付けを交わした者と結ばれないといけない運命なんです。」
「そして、それがあの子達みたいに人魚同志でない場合は、相手に相応しい姿に一ヶ月かけて変化しちゃうんです。」
「だから、お姉様は人間になっちゃうのよー」
「へぇー。そうなんだ。」
「口付けを交わしてから半年以内に愛しあえるようにならないと、私達人魚は泡になって消えてしまうんですけどね。」
「あの2人なら…大丈夫そうよね?」
「まぁ、その心配はないだろうね。クオンは彼女にメロメロみたいだし。」
「全く、あの子ったら私達の存在なんかすっかり忘れちゃって。」
「寂しくなるわねー?奏江ちゃん?キョーコちゃんは奏江ちゃんにべったりだったものね?」
「べ、別に寂しくなんか…」
「奏江お姉様も、人間の男と運命の口付けを交わせばいいんですわ!そうすれば、ずっとお姉様の側にいれるし」
「馬鹿言わないでよもー。私はだれとも付き合う気はないわよ。恋だの愛だの面倒臭いのは勘弁だわ。」
「ふーん。そーなんだ。口付けで人間にねぇ…」
社さんは、ちらっと奏江姫を盗み見る。
「なっ、何よ?」
「ずっとキョーコちゃんの側にいたいの?」
「そりゃ、できる事ならいたいわよ。あの子は私にとって本当に大切な妹なんだから。」
「そっかー。じゃあそれなら…」
「それなら…何よ?」
不意に社が奏江姫にちゅっとキスをする。
「な、な、な、な!!」
一気に赤面する奏江姫。
「あらあら、奏江ちゃん!」
「も、モー子お姉様!」
側で見てしまった姉妹達も赤面するしかない。
「真っ赤になっちゃって、可愛いなぁー奏江ちゃんは!」
満足そうに笑う社。
「ちょっともー!信じられない!!なんって事すんのよ!この男!!」
「俺の側にいたらいいよ。俺はクオンの付き人だから、必然的にキョーコちゃんの側にいられるよ?名案でしょ?」
「な!だからって…!!何で貴方までキスなんて!!」
「うーん?勘かな?何となく、君をここで手に入れないと後悔する気がしたから。」
社が飄々と答える。
「もーーー!バッカじゃないの?!」
奏江姫は真っ赤になって海に潜ってしまった。
「あ、気にしないで下さいね。社さん?奏江ちゃんのあの反応は照れてるだけですから。」
「流石だわ。お姉様も、モー子お姉様も、こんなに素敵な殿方を虜に出来るなんて!!あぁ!私も早くおとなになりたい!」
マリア姫は二人の世界を作ってるクオンとキョーコ姫をキラキラとした目で見つめた。
「キョーコ!もう君を離さないよ!!俺の城で一緒に暮らそう!!」
「はい!喜んで!!」
「あぁ、一刻も早く君を両親に紹介して、式をあげたいよ!忙しくなるぞ!そうだ!社さん!!」
「ん?なんだ、クオン?」
「キョーコを今すぐ我が城に案内したいので、馬車を手配して頂けますか?」
「でも、人魚だぞ?!どうやって一緒に城に暮らすつもり…って!!あぁーー!!だからお前、いきなり部屋にどでかいプール作らせたのか?!部屋の中にあんな大きなガラス張りのプールなんておかしいと思ったんだ!!計算の上か!!」
「もちろんですよ。社さん!彼女が人魚かもしれないと気付いたので、次にキョーコに出会ったらすぐに連れて帰って一緒に住めるようにしようと思ったんです!急ぎで作らせて良かった!今日完成する予定でしたよね?早速使えますよ!」
クオンの声はウキウキと弾んでいる。
「お前って奴は…ホント呆れるほど、準備がいいよな。」
社はやれやれと呟いたが、嬉しそうにキョーコ姫を見つめるクオンの顔を見て顔を綻ばせると、人魚たちの方を振り返った。
するとそこには何時の間にか戻ってきていた奏江の姿があった。
「さてと、我が愛しの奏江姫。貴方はいかがいたしますか?」
奏江はその言葉を聞き、真っ赤になったが、そっぽを向いたままぶっきらぼうに言った。
「わ、私も一緒に行くわよ。」
社はそれを聞いてホクホクと微笑むと、残りの二人の人魚姫に向き直った。
「君達は…どうする?」
「私達は帰りますわ。」
「そうね。お邪魔しちゃ悪いし。御父様も心配してるだろうしね?」
「でも、大丈夫?逸美姉もマリアも二人だけだと危険じゃないかしら?」
奏江が心配そうな顔を向ける。
「それなら心配は、いらんぞ!!」
ザパーンと、盛大な水しぶきをあげながら、キョーコ姫達の父親が大勢の従者を引き連れて派手に登場した。
突然の事に驚き、その場にいた全員が固まった。
「お父様…」
キョーコ姫がポロリと呟いたコトで、クオンがハッと我に返る。
「キョーコのお父様?」
「うん。そうなの。」
すると、クオンはキョーコ姫の父の前で姿勢を正すと、キョーコを嫁に欲しいと申し出た。
その言葉を受けたローリーは満足気に微笑んで同意した。
「愛とは素晴らしい!!ここで我が娘達が二人も愛を結ぶコトができた!我が姫君達の中で、一番愛に不器用な二人だったからな!心配してたんだ!存分に愛し合ってくれたまえ!」
その言葉に、キョーコ姫も奏江姫も真っ赤になった。
「遠慮なく…」
「愛し合えって…」
「もう、お父様ったら!」
「本当にもー!愛が全てなんだから!」
「良かったですわね!お姉様!!モー子お姉様!」
「ありがとう。マリアちゃん」
お祝いの言葉を述べるマリア姫にキョーコ姫も微笑んだ。
「社さん、キョーコの為に城の中に、人魚が出入り出来る入り口と広場を作るよう手配しましょう!」
「お前は本当にキョーコちゃんにベタ惚れなんだな。」
「む。気安くキョーコちゃんなんて呼ばないで下さい!!」
「お前!俺にまで嫉妬するなよ!はぁー先が思いやられる…」
「…と言うことなので、完成したら、皆さんキョーコの為に城に遊びに来て下さいね。」
「もちろんですわ。クオン様!!」
クオンの申し出にマリア姫は瞳を輝かせた。
「それでは、我々は帰るとしよう。逸美、マリア帰るぞ。クオンと言ったな、キョーコを頼む。」
「はい!勿論です。」
「社も、奏江を幸せにしてやってくれ。」
「はい!必ずや幸せにしてみせます。」
その言葉に、キョーコ姫とクオンは抱き合ったまま首を傾げる。
「え?モー子姉さんが?どうして??」
「社さん?どう言うことです?」
その二人の発言に、周囲の人達は呆れ返った。
「本当に完璧にお互いしか見えてないのね…。」
「仕方ないわよ。奏江ちゃん…」
「クオン…お前…」
「愛は美しいが、そこまで周りが目に入らんとは、危険だな。」
「流石お姉様とクオン様ですわ。ラブラブっぷりは半端ありませんのね。」
「まぁ、こう言うことだ。」
社は奏江を海から引き上げると、お姫様抱っこをした。
「きゃ!ちょっ!何?!」
暴れる奏江の額にキスを一つ。
奏江は真っ赤になって俯いてしまった。
「まぁ!モー子姉さん!!なんて可愛らしいの!!」
キョーコが感激していると、後ろからクオンがキョーコを抱き締めてその頬にキスをした。
一気に顔を真っ赤に染め上げたキョーコを見て耳元でこっそり一言。
「キョーコの方がずっとずっと可愛いよ。」
キョーコはこれ以上ないくらい全身真っ赤になってしまった。


数ヶ月後、完璧な人間へと変化を遂げたキョーコ姫と、クオンの盛大な結婚式が行われた。
クオン王子はどんな美女にも興味を示さないと言うのがこの国の常識になっていたので、突然の結婚に国民は一目相手を見ようと押しかけ、王族の式の中でも過去最高の人数が結婚式に集まった。
結婚式と披露宴は約一週間続き、国のお祝いムードは二ヶ月ほど収まる気配はなかったという。

キョーコ姫とクオンは、いつまでも末永く幸せにくらしましたとさ。

めでたし、めでたし。