運命の歯車 1
~壊れた歯車~


その爆弾は、なんの前触れもなく落とされた。
人通りの少ないテレビ局の廊下で、片想い中の少女と出会い、たわいもない会話を交わす中で、片思い中の相手であるキョーコから告げられた突然の告白。
「そうだ。私…光さんに告白されちゃいました。付き合ってみようかと思います。」
「…………え…?」
一瞬にして俺の頭がフリーズする。光さんって誰…?男??
それに気付かずハニカミながら彼女は続ける。
「私ずっと、恋なんてしない。って決めてたんですけど、光さん凄く真剣に気持ちを伝えてくれたんです。…私をこんなに好きになってくれる人なんて、この先現れないんじゃないかなー。って思ったから。それにあんな馬鹿ショーのせいで恋をしないなんて決めつけて、人生棒にふるなんて勿体無いかと思いまして。恋をしたくないって私も引っくるめて光さんは好きだよって認めてくれたんです。光さんのように真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる人なら信じてみてもいいかな?って思えたんです。」
「…君…は、…いいのか?…それで…」
喉の水分が一気に蒸発したようにノドが乾く。掠れた声をようやく絞り出す。

「はい。もう決めましたから!それに、恋人を作ればいつか恋人役が来た時に慌てずに済むと思いまして」
寂しそうに、困ったような顔で笑いながらいう最上さんを見て胸が苦しくなる。
「なんで…俺に、それを…?」
「敦賀さんは私が、一番尊敬する先輩ですから!黙ってて他の人から敦賀さんの耳に入るのもどうかと思いまして、きちんと伝えておきたかったんです。」
「君は…彼が好きなの?彼が相手じゃなきゃ駄目なの?」
自分の声が情けない。

「好きか嫌いかと言われれば好きですよ?彼じゃなきゃ駄目って訳ではないんですけど、気持ちを伝えてくれた彼に何か返事をしなければと思ってますし。」
「…俺じゃ…駄目なの?」
「へ??敦賀さんですか??駄目に決まってるじゃないですか!何考えてるんですか!敦賀さんともあろう方が、私なんかの相手してたら、私は良くても、世間が認めませんよ!!」
「俺は世間なんか、どうでもいいんだっ!!」
つい声が上ずり必死になるのがわかる。
「俺は…」
目の前の彼女を抱きしめる。
「君しかいらない。世間なんてどうなったっていいんだ!」
「ちょっ!敦賀さん!離して下さい!こんなとこ、誰かに見られたら…写真でも撮られたら、スキャンダルになって敦賀さんの名前に傷が…っ!」
「だからっ!俺はスキャンダルなんて…っ!君が、君さえ近くにいればなんだっていいんだっ!」
「離してください!」
逃れようとする最上さんを力いっぱい抱きしめる。逃すもんか!離すもんか。離したら君は…君は…

「蓮!!!!」
突然背後から社さんの声が響く。暴れてた最上さんもビクッと固まる。
「おまっ!なにしてんだ!こんなとこでっ!!ここはテレビ局の廊下だぞ!そういうことはせめて楽屋でやってくれ!スキャンダルになったらどうするんだ!」
社さんの言葉で最上さんが俺を突き飛ばす!
「そうですよ!スキャンダルになったらどうするんですか!勘違いされちゃうじゃないですか!」
「…勘違い…?」
彼女は俺を突き飛ばしただけなのに一気に地獄へと叩き落とされた気がした。
「そうですよ。冗談でも辞めてください!私じゃなかったら勘違いしちゃうとこですよ。」
何故…気付かないんだ!!俺の想いにっ!!
ギリッと奥歯を噛み締める。耐えられなくて、顔を反らす。
「俺は、冗談でもだめなのか?!光さんは良くて、俺は駄目なのか…」
もうダメだ。彼女の顔が見れない。見たくない。
「そんなに、俺の想いは迷惑…?…ごめん。最上さん、もう今後は俺に近付かないでくれ。仕事以外では…もう顔も見たくない。」
「…っ!」
彼女の方を見れないでいた俺。彼女がその言葉で酷く傷付いたことに全く気付かなかった。
いや、気がつく余裕なんてこれっぽっちもなかった。
「え??お、おい?蓮??」
社さんが何が起こったのか理解出来ておらず、説明を求める声に答える余裕もなく、俺はそれ以上何も言えずに、拳を力一杯握り締めて彼女に背を向けてその場を出来るだけ早足で離れた。


〈続く〉

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なくした記憶とはまた違う転換をお楽しみ下さい〓