前編アメンバー様 100人到達記念リクエスト

☆雪兎さんからリクエスト頂きました☆

<題材は『昔の家族写真』。
キョーコが、モー子さんと喫茶店でお茶をしていて、偶々1冊の雑誌に目が止まる。
それは、クーの特集が載っていて、その中には、家族写真が・・・。クーにジュリそして久遠。
そう、それは昔クーが久遠を京都に連れて行った時の、家族写真。その写真を見た瞬間キョーコは・・・。コーン=久遠だと知る・・・。カインに扮した蓮を見破ったキョーコは、コーン(久遠)=蓮だという事に気付かない筈がなく・・・。
社さんから、上がりの時間を聞いたキョーコは、蓮に会いにテレビ局へ行きます。蓮の楽屋に。
互いの想いを知った2人は・・・。
キョーコが、テレビ局に入って来た時に、祥子が偶々見ていて、それを尚に話します。
尚がキョーコを探して、蓮の楽屋に辿り着きます。楽屋に乗りこみ、キョーコを自分のもの呼ばわりします。何も理解していない、自分勝手な尚に、うんざりした蓮とキョーコは・・・。>


妖精界の王子様《前編》


「やぁーん♪モー子さんとデートなんて夢見たぁい!!」

キョーコは浮かれながら目の前の奏江をウットリと見つめた。

「もーうっとおしいわね!相変わらずあんたはぁー!」

奏江の言葉は乱暴だが、心底嫌がってる訳ではないことを心得てるキョーコはホクホク顏のままだ。

お互いの撮影が近くの現場でほぼ同時に終わり、たまたま奏江に出くわしたキョーコは、奏江を連れて喫茶店に入っていた。
たまたま入った喫茶店はレトロで、隠れ家的な雰囲気のあるお店だった。

店内の装飾も、昔ながらの物で統一されており、ここだけ時が止まってる様な不思議な気分になる。

本棚には、雑誌や新聞、コミックなどが並べられているのだがそのどれもが古そうなものばかりだった。

コーヒーを飲みながら他愛ない話をして、のんびりとした時間を過ごす。

こう言う時間いいなぁー。とキョーコがホクホクほわほわしながら目の前の親友を見つめていると、親友は照れを隠すように、一冊の雑誌に手を伸ばした。
キョーコも反対側から覗き込み、たまに雑誌の内容について話しながら、パラパラと雑誌を捲ると、奏江の手がピタリと止まった。

「あら?これって、あんたの先生じゃないの?」

奏江に見せられたページには、デカデカと『クー来日!夏休みの家族旅行!!』と書かれており、奥様と仲良く並んでる姿や、その息子さんと思われる人の写真等が大きく掲載されていた。

「うわっ!本当だ!!先生だわ!!やだ!凄く若い!!」

写真のクーに一気に興味が向かったキョーコは、奏江から雑誌を受け取ると、クーとジュリエナのツーショット写真を穴が空くほど見つめた。

「あ!この子が久遠さんかな?先生の息子さん…の……。」

そして、久遠少年の写真に目が向いたキョーコは、途中でピキリと固まってしまった。

マジマジと見つめたキョーコは雑誌を見つめたまま、いきなりガタリと立ち上がった。

顔面蒼白になってしまったキョーコに、奏江が訝し気な目を向ける。

「キョーコ?」

「コーン…??!!!!」

奏江の呼び掛けも耳に入らなかった様子で、キョーコは涙を浮かべながら写真を見る。
写真の中で優しく柔らかい笑みを浮かべるのは紛れもなく自分が会いたくて堪らない想い出の中にいた妖精界の王子様で、自分が過去に唯一気を許した相手だった。

キョーコが記事に慌てて目を通すと、夏休みに家族で京都の実家に10日間ほど遊びに来たと書いてある。
キョーコはクーのことを始めて社長から聞いた時に、京都育ちであったと言われたことを思い出した。

慌てて表紙に目を通すと、約10年前の夏に発売された雑誌で、キョーコとコーンが出会った時期にピッタリと重なった。

写真を見て、朧げだった彼の記憶が鮮明に蘇る。
王子様だと言われても違和感がないほどの美貌。優しい声、困ったような笑顔。

「コーン!!コーンが久遠さんだったんだ!!コーンは…先生の…」

ーーー亡くなった…息子さん…?…ううん。違う!だって、息子さんは生きてるもの!!敦賀さんがそう言ってたんだから、間違いないわ!

「…え?あれ??」

キョーコはもう一度写真に目を向ける。

蓮のことを思い浮かべながら、久遠の写真と、クーの家族で映る写真を見る。

「似てる…。似てるわ…!まさか、そんなはず…でも、でも、もしかしたら!!」

ーーー確かめなきゃ!!!!

キョーコの中で、湧き上がった思いは止めることが出来ない。

思い立ったら吉日とばかりに、今すぐ確認しないと落ち着かない。

そう思ったキョーコは鞄を漁り、慌てて携帯を取り出した。

「え?!ちょっとキョーコ?!」
奏江は突然忘れ去られたかのような状態に驚き、行動を起こすキョーコに慌てて声を掛けた。

「あんた!一体どうしたのよ?!」

「ごめん!モー子さん!!私どうしても確かめなきゃいけないことがあるの!!行かなきゃ!!あの、すみませーん!!」

キョーコは心ここにあらずで慌てた様子で店の人に声を掛けた。

「あの、この雑誌を譲ってくれませんか?!お願いします!!幾らでもかまいませんから!!」

キョーコのあまりの剣幕に押された店の叔母さんは、コクコクと了承を示した。

「いえ、お金はいいですよ。古い雑誌ですから、お持ち帰り頂いて構いません。」

「ありがとうおばさん!!モー子さん、ごめんね!私今から行かなきゃならないところがあるの!私の分のコーヒー代置いて行くから、モー子さんはゆっくりしてて!じゃあまたね!」

あっと言う間に、嵐のように去ってしまったキョーコを、残された奏江は只呆然と見送るしかなかった。

先程取り出した携帯を握り締め、タクシーを捕まえる為に大通りに出る。

電話を耳に当てつつタクシーを探すと、数コール後にようやく目的の人物に繋がった。

「はい。もしも…」

「社さん!!お疲れ様です!最上です!あの、敦賀さんの今日のスケジュールを教えて下さい!!出来るだけ早い空き時間と、場所もお願いします!!」

社が喋る間も与えず、物凄いスピードで捲し立てるキョーコに社はちょっと待ってて!と慌ててスケジュールを捲る。

その間にタクシーを捕まえたキョーコはタクシーに乗り込んだ。

「ちょうどこの後なら空き時間あるよ。今の撮影終わったら次の現場の入りが19時なんだ。18時20分に終わる予定だけど、今日の蓮は調子良いみたいだからもう少し早く終われるかも。場所はTBMのS1スタジオだよ。」

「今すぐ、TBMに向かって下さい!!お願いします!!…社さん、ありがとうございます!!」
「うん。キョーコちゃん、一体何が…」

ーーーパタン

社が何か言いかけたことにも気付かず、キョーコは携帯の蓋を閉じて通話を切った。

そわそわと過ぎ行く景色を眺めながら、キョーコは緊張する胸に貰った雑誌を抱き締めた。



社は、一方的な内容で終った電話を只呆然と見つめるしかなかった。

「どうしたんですか?社さん?」

突然、蓮に話しかけられ、社はびっくりとして振り返る。

「あ、蓮…今から休憩か…?」

「えぇ、続け様に撮って疲れただろうから少し休んで来ていいと言われたんです。それよりどうしたんですか?」

「うーん?それがなぁ…。今、キョーコちゃんから電話があったんだけど、どうやら様子がおかしくてな。慌てて電話を掛けて来て、今すぐ蓮に会いたいみたいで、次の移動時間までの空き時間を聞かれたんだ。」

「え?!最上さんが俺に会いに…?」

蓮の目の色が少しだけ変わった。

「あぁ、今どうやら急いで向かって来てるみたいだな。とりあえず今の撮影終わったら少しは時間あるはずだと言ってあるんだけど…」

「そうですか、ちょっと監督と掛け合って速攻で仕事終わらせて来ます。」

「え?!あ、おい!蓮?!」

蓮はニッコリと微笑むと、サッと身を翻し、優雅に尚且つ、物凄いスピードで監督に近付くと、何かをボソボソと囁き、監督を促すと、撮影を直ちに再開させた。


18時20分に終わるはずだった撮影は、17時には終わり、社は驚愕の表情で蓮を見る。

つい先程到着したばかりのキョーコを、社が楽屋に送り届けて戻ってきた時には既に撮影が終わっていたのだ。

「社さん、では行きましょうか!」

爽やかな笑顔で戻って来た蓮に、社は、ははははは。と渇いた笑顔を浮かべてしまっても仕方がないだろう。

一体どんな悪どい手を使ったのか?
社には知る由も無かった。


「最上さん、お待たせ。」

楽屋に現れた蓮に、キョーコは目を見開いた。

社に言われていた時間まではあと一時間と少しもあったので、無理もないだろう。

「敦賀さん!」

突然現れた蓮に、疑問を投げかけるよりも、やはり一番気になるのは別のことで、キョーコは蓮に駆け寄った。

「どうしたの?いきなり俺に会いたいなん…」

「敦賀さん!顔を良く見せて下さい!!」

蓮の問いかけた質問をバッサリと切り、蓮に近付いたキョーコは、蓮の両頬をガッシと掴むと、グイっと自分の方に顔を近付けた。

「も、最上さん?!」

「えぇえぇぇ?!キョーコちゃん?!」
蓮は動揺して目を見開き、社からは驚きの声が上がる。

「やっぱり…。」
マジマジと真近で蓮を見つめたキョーコはポツリと呟くと、社に真剣な視線を向けた。

「社さん、敦賀さんと2人だけでお話したいことがあるのですが、よろしいですか?」

キョーコの改まった言葉に、二人の男は目を見合わせる。

蓮の目には、今すぐに出て行って下さい。という社へのメッセージが込められており、社は何がなんだかわからないながらも、コクコクと頷き、部屋を後にした。

社が楽屋を出て、扉を閉めたことを確認したキョーコは、蓮の手を徐に掴むと、無言のままソファに連れて行き座らせる。

突然手を引かれてソファに座らされた蓮は、キョーコの行動の意味がわからずドキマギとしていた。

困惑の目で蓮がキョーコを見つめると、キョーコが無言のまま鞄から一冊の雑誌を取り出したのを見て、目を見開いた。

表紙にデカデカと「クープライベートに家族で来日!」と書かれた古い雑誌には、見覚えがあったのだ。

ハッとしてキョーコを見ると、キョーコは確信に満ちた目で真剣に蓮をただ見つめていた。

「も、がみ…さん?」

「………。」

蓮がいつものように、呼びかけると、キョーコは淋しそうに目を伏せ益々無言になってしまった。

重ぐるしい沈黙が流れる。

ギュッと唇を噛みしめて、キョーコは再び蓮を真剣な目で見つめてくる。
まるで、それは蓮の何かの言葉を期待して待ってるようだった。

キョーコの確信に満ちた目を見て堪忍した蓮もグッと唇を噛み締めると、キョーコの名前を呼び直した。

「キョーコちゃん…」

蓮が漸く口に出した呼び名に、キョーコは目を丸々と見開くと、涙が瞳にみるみると溜まってきた。
涙を一杯に溜めた目で、蓮をフルフルと見つめるキョーコ。

蓮は、キョーコのその目をみて、軽蔑されるか批難されることを想像したが、そうされても仕方がないことをしてしまったんだと、グッと拳を握り締め、キョーコを不安そうな目でジッと見つめた。

二人の視線が絡まると、キョーコの瞳からハラハラと涙が零れた。

ギョッとした蓮は、オロオロとキョーコの側に跪いた。

「あ、あの、キョーコちゃん…ずっと黙っててごめ…」

「良かった!!」

蓮が謝ろうとした所で、キョーコは突然蓮の首に抱きつき、泣きながら喜びの声を上げた。

「やっぱり…コーンは生きてたんだ!!良かった!!本当に良かった。」

キョーコに抱きつかれて掛けられた言葉に、蓮は一瞬何が起こったのかわからずに呆然としてしまう。

「え?キョーコ…ちゃん?」

「コーンが生きてて、良かったよぉーー!!!!」

そう言いながら、ボロボロと自分の胸で泣きつくキョーコを蓮が恐る恐る抱きしめる。

「ごめん…ずっと黙っててごめんね。キョーコちゃん。」

怒られると思っていた蓮は、キョーコが自分が生きていたことについて感激して泣いてくれてることに対し、申し訳ない気持ちで謝罪をする。

ずっと心配をかけてしまっていたんだ。蓮が思うよりもずっと…。
こんな風に泣かせてしまうくらいなら、もっと早く打ち明けてあげればよかった。

蓮が後悔の念をいだきながらキョーコを抱き締めると、蓮の言葉にキョーコはフルフルと首を振った。

「いいの。コーンが生きててくれたんだからそれでいいの。」

キョーコは顔をあげると、涙を流しながらも花が綻ぶようにニッコリと蓮に笑いかけた。

「ずっと、黙ってたこと…怒らないの?」

蓮の言葉に、キョーコは一瞬淋しそうに顔を伏せるが、困ったように微笑んでみせた。

「だって、何か理由があったんだよね?先生と合った時だって他人のフリをしてたんだもの。先生もあんなに久遠さんのことを溺愛してたのに、別人のように接してた。訳があって言えなかったんでしょ?じゃなきゃ、コーンが私に何も言わない訳ないもの。」

キョーコの言葉に蓮は堪らずにキョーコを抱き締める腕に力を込めた。

「キョーコちゃん!!」

キョーコの言葉に蓮も知らずに涙を流していた。

「コーン!コーン!!会いたかったよぉ!」

「俺も、会いたかったよ!キョーコちゃん、ずっと君に会いたかった!!」

二人はお互いの存在を確かめるように涙を流しながら強く抱きしめ合った。


(続く)


*****


雪兎さん!だいぶお待たせいたしました!!
ちょっと長くなりそうだったので、とりあえず出来たとこまでUPです!!
続きはもうしばらくお待ち下さいませ♪