ちょっと短めですが、久々に書けましたー♪


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恋の季節は 17
《ポカポカとした春の陽気を感じられるでしょう。》


暫くしてようやくキョーコが落ち着いたのか、泣き止んでいた。それでも蓮の顔が見れずに、少しだけ距離を置き、岩場に腰掛ける。

その距離に寂しさを覚える蓮だが、自分のしでかしてしまったことを思うと仕方がないのだろう。

「お、お弁当食べよ!!」

気まずさを打ち消すように、明るい声を出すキョーコに申し訳ない顔をしながら頷いた。

「うん。ありがとう。」

せっせとお弁当を二人の間に広げるキョーコ。
取り皿に丁寧に取り分けて、蓮に手渡す。

「はい。どーぞ。」
頬を染めて嬉しそうに言うキョーコの笑顔に蓮は釘付けになる。

「あ、ありがとう…。」
ドクドクと落ち着きのない心臓が何かを伝えるかの如く響いても、蓮はまだこの育ち始めた思いに気付きはしなかった。

キョーコのことは可愛いと思う。可愛くて、大切で、ずっと守っていたい。側にいたいと思う。
しかし、その想いこそが恋なのだということに蓮は気付けていないのだ。

「美味しい!すごく美味しいね。キョーコちゃん!」

「でしょ?!大将の料理は世界一なんだから。」

料理を褒めると嬉しそうにキョーコが答える。そんなキョーコを見て蓮は優しく微笑むと、キョーコに言った。

「世界一は…キョーコちゃんの手料理だよ。」



夕方を過ぎて旅館に帰ったキョーコはボーッとしながら帰って早々自室に入り込み、そのまま布団にボフンと横になった。

ーーー蓮くんって!蓮くんって!!本当に日本人なの?!?!

言われた言葉が頭の中で繰り返し再生される。

枕に顔を埋め、真っ赤になってジタバタと悶える。

ーーーあんなこと!!恥ずかしげもなく言うなんて!!!!

しかし、嬉しくて堪らずに、顔は真っ赤なままにへらと顔がにやけてしまうのを止められない。

ーーー世界一だって!!私の料理、世界一だってっ!!!!

今までそんな風に人から認められたことがなかったキョーコは、その褒めてくれた相手が蓮であったことも手伝って、涙が出そうなくらい嬉しくって堪らなかった。

そして、あのキスも…。

忘れることなんて出来ない。
きっと知れば知るほど蓮のことを好きになる。
キョーコはそんな予感がしていた。

「あ、明日も、蓮くんが美味しいって言ってくれるようなお弁当を作らなきゃ!!あーどんなお弁当にしたら喜んでくれるかなぁ?!」

キョーコはドキドキとなる心臓に胸が締め付けられながらも、明日のお昼の蓮との時間に心を弾ませるのだった。


「おい!キョーコ。宿題終わったか?」
「え?宿題??」
「はっ?まさか忘れてたとか言うわけじゃねぇよな?」
旅館から少し離れにある自宅兼従業員住み込み部屋のリビングで朝食を終えると尚が遅れて起きて来た。
だらしのない格好でも気にせずにキョーコの前に立つ。

キョーコはもう支度が終わり直ぐに出れる状態だったが、尚に頼まれてた宿題をやってなかったことに気づいた。

「ショーちゃんごめん。宿題やってない…。でもあぁいうのって、自分でやらないと意味ないと思うよ?」
「はあ?!お前何言ってるわけ?!」
「ショーちゃんこないだ不意打ちの小テスト災難だったって聞いたわ。宿題やってないからよ。」
「それはな、隣のやつが馬鹿だったんだよ!おれじゃねぇ!!」
松太郎の言葉にキョーコが目を見開く。
「ショーちゃんカンニングしたの?!」
「仕方ねぇだろ?わかんなかったんだからよ。」
キョーコは呆れて溜息をついた。
そんな風にキョーコに溜息を付かれて松太郎はキョーコに馬鹿にされたと思った。
「は?なんだよ。その溜息はよ!」
「ショーちゃん、ちゃんと自力で宿題やりなよ。私…もう今後一切頼まれてもショーちゃん宿題なんてやらないから…。」
そう言い残すと、パタンと扉を閉めて自分の部屋に向かった。
自分の荷物と、作ったお弁当を持って松太郎の宿題といって渡されていた教科書とノートをリビングのテーブルに置くと、キョーコはさっさと旅館を出た。
キョーコの手の中にあるお弁当は張り切って早起きし過ぎて作ったものだ。
朝の4時にパチリと目が覚めてしまったキョーコは、寝るのを諦めて、蓮の為にお弁当を詰めたのだった。
今日のお弁当は会心の出来だ。

ーーーふふ。お昼が楽しみ。

そんな風に思いながらキョーコは、学校へとスキップしそうな足取りで向かうのだった。


(続く)