誰にも渡せない


とあるスタジオで、二人の色男が一人の少女を挟んで睨み合っていた。
少女の腕を掴んだ男が、挑発するように190センチも優に超える大男に向って声を上げる。

「お前らは兄妹だろうがっ!兄妹でいつもベタベタしやがって!!そんなんじゃセツカちゃんが恋愛出来ないだろ?!」

「ちょっと、気安く触んないで頂戴。」

そんな男に向って、セツカと呼ばれた少女が冷ややかな目を向けた。

「なっ!俺はセツカちゃんのことを思って…。」

「迷惑なの。兄さんと私の関係をあんたみたいな他人にどうこう言われる筋合いないわ。」

「他人って…酷いな。確かに俺はまだセツカちゃんのことあんまり知らないけど、これから仲良くなりたいって思ってる。」

馬鹿なのか、セツカの冷たい態度にも気にせずいう男。
そんな男の掴んだ手をチラリと冷たく一瞥した大男の視線の温度が下がる。
今だ掴んだままの腕が、目の前の大男、カインの機嫌を下げていることに気付かない男とは対象的に、セツカを演じるキョーコは心の中で大絶叫を上げていた。
ーーーひぃ~!!大魔王っ!!何ってことしてくれるのよ!村雨~!!

思わず村雨に恨み魂をぶつけたくなるのをぐっと堪えて、呆れたような溜息を吐く。
「兄さん。見てないで助けてよ。」
兄であるカインに助けを求めると、見た目はそんなに変わらなかったが、カインの纏う空気が僅かばかり軽くなったことにキョーコは気付いた。
「セツを離せ…。」
漸く発したカインの声はゾッとするほど低い。まるで地獄の底から這い上がってくるようだとその場に居合わせた者は皆思った。
「な、何だよ!いいだろ。俺だってほんの少しセツカちゃんと仲良くなりたいだけなんだから…。いつも、兄さん兄さんばっかり…」
「セ ツ を…は な せ。」
バリッという音と共に、乱暴にセツの腕を掴んでいた手を引き剥がし、そのままの勢いでセツの身体を引き寄せると、カインの胸に飛び込むような形でセツカがカインの腕の中に収まった。
「ありがとう兄さん。助かったわ。」
腕の中でホッと息を着く少女にカインは苛立ちを抑えられなかった。



カインがセットの中で動きを確認していた時に、視界の端に、セツカを気にする村雨を捉えていた。
セツカはそんな村雨を無視してずっとセットの中を見つめていた。
しかし、撮影が終わってセツカの居たところに目を向けると、そこには村雨が壁際を向いて立って居たのだ。

ゆらりとセットから降りてそちらに向かうと、壁に追い詰められてるセツカがいた。

顔の横に手をついて、唇が触れそうなくらいの距離に顔を近付けても動じずに逃げようともしないセツカに、村雨は気を良くしている。
そんな姿を見てしまったカインからはドス黒い嫉妬混じりの怒りが湧き上がった。
その怒りの波動に気付いたのか、セツカがクスリと笑って言った。
「残念…。時間切れ。」
そのセツカの言葉に、村雨がチラリと後ろを向くと、カインが上からギロリと睨みつけていた。
ふぅ~と息を吐いて、セツカから身体を離すと、セツカがその隙を付いてカインの方に向かおうとしたのだが、そこで村雨がセツカの腕を掴んで引き止めたのだ。
「何?お遊びの時間は終わりよ。」
「お兄さん、俺、セツカちゃんともっと仲良くなりたいんだ。少しだけ貸してよ。」
そんなやりとりから先程のようになったのだ。

漸く戻ってきたセツに、ドス黒い嫉妬を混ぜた声でぼそりと問う。
「何もされてないだろうな?」
「当然でしょ?」
妖しく微笑むセツカを抱きしめる腕に力を籠めて、村雨を睨む。

「俺の女に手を出すな。」

その言葉に、スタジオが騒然となった。

「っな!お前らは兄妹だろ?!」

慌てた村雨が声を荒立てる。

「兄妹だが…?それがどうした?」
カインが興味なさ気に問うと、村雨は睨み返した。
「兄妹なら兄妹らしくしてればいいだろ。血が繋がった兄妹なんて、愛し合うことも出来ないだろうがっ!!」
「確かに俺とセツは兄妹だが?血が繋がってると、誰が言った?」
「に、兄さんっ?!」
慌てたセツが声をかけると、目線一つでカインはセツを黙らせた。
「…っ!!」
「お前は…俺よりもこんな男がいいのか?」
カインに顎を捉えられ、村雨の顔を強制的に見せられる。
「何の冗談?私には兄さん以上の男なんていないわ。」
その言葉に、カインが勝ち誇ったようにニヤリと笑う。
村雨は怒りと嫉妬から頬に血が集まる。
「そうだ…お前は…俺だけを見てればいい…。余所見なんてするなよ。」
今度は強制的に顔を自分の方へと向けさせると、先程村雨がしていたのを真似て、お互いの吐息がかかるギリギリのとこまで唇を寄せて甘く囁いた。
『セツは俺のものだ。心も…身体も…な…。』
途端にセツカの頬がパアッと朱に染まる。
それを見て村雨の顔が悔しそうに歪んだのを目の端に捉えると、カインは満足気に微笑みながら、セツカから離れた。



パタンと閉まったホテルのドアの音を聞きながらセツカがカインに問いかけた。
『あ、あんなこと言って…良かったの?』
言いながら頬が赤くなっているのは、キョーコの心があるからだろう。
それに気付かぬ素振りで、カインはニヤリと笑って態と言った。
『あんなこと…?何のことだ?』
『だ、だからっ!ち、血が、繋がってないとかっ!』
『それが?事実だろう?俺たちは実際に血なんて繋がってない。』
『そ、それはそうだけど、俺の女だとか…。心も身体も俺のものだとか…。』
最後はごにょごにょと小さくなりながら言うキョーコの声を、蓮の耳は捉えた。
『事実だろう?お前は…俺だけのお守りなんだからな…。』
先程のようにセツの腰を攫い、顎を捉えると、顎に添えた手の親指でキョーコの唇をなぞる。
そしてその指を唇の中に滑り込ませた。
「あっ…」
思わずキョーコが驚いて甘い声を漏らすと、誘うように唇が半開きになった。
それを見てカインとも蓮とも呼べない自分が顔を出し、無表情でそれを見つめて、歯茎を指でなぞる。
パァと蒸気した頬に潤んだ瞳が不安気に揺れている。プルプルの唇から誘うような色香が滲み出る。
「あ…っ…ふぅん…つ…るが…さっ…」
「キョーコ…」
名前を呼ばれたことで、蓮の中で何かの糸が切れる音がした。

スタジオでこそ、嫉妬に塗れたキスをしたくなくてギリギリで寸留めをしていたのだが、この部屋では二人きり。
誰も邪魔する者はいない。

蓮は自分の想いを全て籠めてキョーコに口付けた。甘い唇を味わうように、最初はゆっくりと啄んで、貧欲な想いはキョーコの全てを知ろうとするかの如く深く深く唇を重ねる。
腰に回した腕と、顎を支えていた手を髪の中に差し込んで逃げられないように固定をする。
キョーコの手は蓮の服を掴み、拒む様に押し返そうとしたり、もっとと強請るように引っ張ったりを繰り返していた。
必死で息をしようとするキョーコも可愛くて堪らずに、その呼吸さえも遮るが如く唇を覆う。
空気を吸い込む為に大きく開かれた口内に入り込み、舌を絡め取る。
段々と思考を奪われ、無我夢中でキスに答えるキョーコに、蓮も無我夢中でしゃぶりつく。

やがてくだりと力が抜けたキョーコの身体をギュウッと抱きしめて、その唇を離した。
激しいキスに気を失ってしまったキョーコの頬をゆるりと撫ぜる。
「お前は…俺だけをみてればいい…。お前は誰にも渡さない。渡せないんだ。俺の…俺だけのキョーコ…。」

そう呟いて、キョーコのぷっくりと膨れ上がった唇にもう何度か口付けながら、蓮はキョーコの身体を抱えて、ベッドへと運んだのだった。


END(←強制終了!!笑)


*****


たまにはこんな終わり方もありかな?!って(笑)
もちろん、続きはございません。
やっぱり書きたくなるのはこの設定。蓮様が勝手に血が繋がってないとかいう設定にしちゃって、セツカを自分のものにする口実を作る!!(笑)
キョーコはそんな蓮の言動にびっくりしてただただ翻弄される。

実はこの話…19時くらいにはUP出来たはずなのに、間違って前消ししちゃったんですぅ~!!
だから、最初から書き直しっ!!(泣)
若干ストーリー変わっちゃいました!(笑)

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因みに、このお話は半年記念フリー作品にしちゃいます♪
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風月でした!!