恋の季節は 19
《昼間はポカポカとした陽気に。夜は肌寒くなるでしょう。》


「れ、蓮がっ!!蓮が自分から進んでご飯食べてる!!」
ある日のよく晴れた午後、いつも通り二人仲良く屋上で昼食をとっていた時のこと、たまたまふらっと現れた社が、驚愕で目を見開いた。
「あ…社…。」
「社君。」
「え?!最上さん??蓮っ!!お前、最近昼休みどこに行ってんのかと思ってたらこんなとこに最上さんといたのかよ!」
社が驚いた顔の後にニヤニヤと笑うので、蓮はバツが悪そうにプイとそっぽを向く。
それに益々目を見開いた社に、キョーコが声をかけた。
「社君はそれがお昼?」
「あ、う、ん。そうだよ。」
同じクラスでも、ほとんど話したことがない少女に話し掛けられ、社はぎこちなく答えた。
社の手にはパンが沢山入った袋が下げられている。
カレーパンに、ミルクパン、あんぱんまで入っている。
にこにこと一緒に食べますか?とキョーコに誘われた社は、遠慮気味に近付きながら腰を落ち着けた。

キョーコと一緒にいる蓮を見て、社は驚きを隠せない。
中学から付き合いのある蓮だが、どこか一線をひいていて誰にも心を許さないという面もあった。
それを社は寂しく感じても、それが蓮なのだと思ってきたのだ。
それなのに、キョーコに対しては線引きしている様子が見受けられない。
そしていつもよりも表情豊かで蕩けるような笑顔はこれまでの付き合いで初めて目にしたのだ。

そんな蓮に呆気に取られつつも、社はキョーコの様子にも驚いていた。

教室ではほとんど変わらない表情をコロコロと動かして、可愛らしい笑顔を蓮に向けているのだ。
思わず跳ねる心臓を抑えながらチラリと二人の様子を伺う。
蓮の食べてる弁当がキョーコの用意したものだと言うことには一番最初に気付いた。
いつもは口にしようとしない食べ物が、自然に蓮の口に運ばれる。

そんな二人の常に見ない様子に喜びも露わに、ついつい話に花を咲かせる。
お昼をこんなに楽しく過ごせたのは社にとっては久しぶりだった。

それからというもの、社も昼休みには屋上に顔を出すようになっていた。
二人っきりではなくなったことに最初はふて腐れ気味だった蓮だが、友達が新しく出来て嬉しいと笑うキョーコを見て、蓮もほだされたのか、当然のように受け入れるようになった。


ある日の放課後、人気のなくなった廊下で、社と蓮が担任の先生に頼まれていた資料を持って職員室に向っていると、おもむろに社が口を開いた。
「お前さ、キョーコちゃんのこと好きだろう?」
ズバリ言われたセリフに、ギクリとするも、蓮は周りを見回す。
もし女生徒に聞かれたらキョーコが危険な目に遭うかもしれないと思っている蓮は、内心の動揺を表に出さない様にしながら、社の冗談として流すことにした。
ニッコリと微笑んで答える。
「まさかそんなはずないでしょう。今時珍しいくらい礼儀正しい子だから、ちょっとからかってるだけだよ。社、どこでどんな奴が聞いてるのかわからないんだから、誤解を受けるようなこと言うなよ。」

「何だよ。絶対間違いないって思ってたのに…。お前もしかして自覚なし?」

「何のことですか?俺は別にーー。」

普通の女生徒が聞いていたのであれば、問題なかっただろう蓮達の会話を聞いていたのは、運の悪いことにその廊下の先にある角にいたキョーコだった。

蓮の言葉にキョーコはショックを受けて呆然と立ちすくむ。

ーーーそうだ。蓮くんは付き合ってくれてるだけなんだ…。私が…馬鹿だから…からかってるだけだったんだ…。

ジワリとキョーコの目に涙が溜まる。
蓮と社の足音が近付く。
ーーー逃げなきゃ…。聞いちゃいけなかったんだから…。
キョーコは涙で滲んだ視界に蓮の驚いた顔を捉えた。
「あ……」
キョーコは真っ青な顔で涙を流して、その場から走り去るのだった。

「キョーコちゃんっ!!!!」

蓮の声は廊下にただ反響するだけだった。



(続く)


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ようやくここまで来ました!!
長かった!!ここまでがっ!!(笑)
書きたくて堪らなかったのはここからですね~☆
ここまでで大分予定が狂ってるんで、こっからどうなるかは全くわかりませんが…
蓮の「からかってるだけ」発言にショックを受けたキョーコがどんな行動に出るかが書きたかったのですっ!(笑)