恋の季節は 28

このお話は、元々恋の季節は 25として掲載していたものに手を加えた形になってます!

今回のお話はちょっとキョーコちゃんがかわいそうかも?!
キョーコちゃんが苦しいのは耐えられないって人にはこの『恋の季節は』って厳しいかも。
本当にすみません~!
でもこんな環境にいるからこそ、蓮の優しさが光になるのです。


キョーコちゃんが可哀想でも大丈夫!耐えてみせるっ!!って方はどうぞご覧ください☆


*****


恋の季節は 28
ーーー台風第一号接近中


キョーコが荷物をまとめて集合場所へと歩き出した時、後ろから声がかけられた。

「最上サン…?」

その冷たい声の響きにキョーコの身体が一瞬ビクリと反応する。
嫌な予感を感じながらも振り返ると、そこには綺麗な繕った笑顔を浮かべた5、6人の女生徒がズラリと並んでキョーコを取り囲んでいた。




「いやっ!!やめてっ!!」

キョーコは強い力で引きずられるようにしてまだ冷たい川の中へ突き落とされた。

「きゃあ!!」

水の中に正面から突っ込んだキョーコは全身びしょ濡れだ。
慌てて体制を立て直しているキョーコをクスクスと笑いながら女生徒が見つめる。

「あーあ。びしょ濡れっ!下着までスケスケよぉ。クスクス。」

「調子に乗ってるから落ちちゃうのよ。」

「そうそう、ちょーーっと蓮に優しくされたからって、調子に乗り過ぎよね?」

「指切りなんて子供っぽいことしちゃってさ、バカじゃないの?!」

「あんたみたいなバカ女誰も本気で相手にしないっての!!」

次々に浴びせられる暴言もいつものことなのに、蓮についてされる指摘が『あんたに蓮は、相応しくない』と言われているのがわかって、キョーコは『そんなこと…自分自身が一番よくわかってるわよ…』と泣きそうな気持ちになっていた。

「それに…なぁに?これ!」

そう言って一人の女生徒がヒョイと持ち上げて覗き込んだのは、キョーコから取り上げたスケッチブックだった。

「あ!返し…」

キョーコが取り戻そうとした時に、ぷーーーっと絵を見た女生徒が一斉に噴き出してお腹を抱えて面白そうにクスクス笑い始めた。

「ははっ。笑っちゃう。こんな下手くそな絵を蓮が本気で欲しがるとでも思ってんの?」

「もらった蓮も良い迷惑よ。」

「「「ねー?」」」

「これはさ、私たちが蓮の手元に行く前にちゃんと綺麗にしてあげるわ。」

「いやっ!!やめて!!やめてよ!!」

そう言うキョーコの言葉を嘲笑うかのようにスケッチブックごと、川の中へと放り投げた。

「あーあ。落としちゃった。ごめんなさいね?」

「でもこれで綺麗になったんじゃない?」

「ざまぁないわね。」

クスクスと笑って満足したのか、女達は力のなくなったキョーコをその場に残して、楽しそうに集合場所へと戻って行った。



「あれ?最上さん??最上キョーコさんはどこですか?」

出席簿を確認しながら緒方が生徒を見回して声をかけるが、皆顔を見合わせるばかりだ。

「しりませーん!!」

「先に戻っちゃったんじゃないですかぁ?」

「先生もう早く帰ろうよー。次の授業遅刻しちゃうじゃーん!」

次々と生徒から声が上がる中、蓮は、胸騒ぎを覚えて周りを見回した。

「困りましたねぇ。全員揃わないと…」

「っていうか、集合時間に遅れてくるような子をわざわざ待つ必要ないと思いまーす。」

キョーコを川に突き落とした生徒が手を上げて発言すると、その周りの女子からクスクスと笑い声が上がった。

それに眉を潜めた蓮は、手を上げた。

「緒方先生!俺、最上さんがいた場所わかるので探してきま…あ…最上さ…なっ?!」

蓮が言いかけたところで、キョーコがこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。
しかし、先程まで楽しそうに笑っていたキョーコが全身びしょ濡れになってトボトボと歩いてくるのを見て、蓮は、困惑して固まってしまった。

「最上さん!!どうされたんですか?!大丈夫ですか?」

緒方がキョーコに気付いて慌てて駆け寄ると、キョーコは俯いたまま深々と頭を下げた。

「遅れてしまって、すみません…。」

そう言って頭を下げ続けるキョーコに緒方が慌てて顔を上げさせる。

「そんなことはいいですからっ!!何があったんですか?!」

「………川に…落ちました。」

ポツリと零した言葉には色が全くなかった。
悲しみも怒りも何もないかのような目。
蓮は、グッと拳を握り締めるとスタスタとキョーコに近付いた。

ザワザワと煩くなる生徒達を気にせず、蓮はキョーコに話しかける。

「最上さん…。どうした?どうして落ちたんだ。」

蓮に答えもせず顔を逸らして感情が抜け落ちたような表情を見せるキョーコ。

外野がガヤガヤ騒ぐ中、蓮はキョーコの頬をパシンと音が鳴るほどの力で叩いた。

社を含め数人は、女の子に手を上げた蓮に驚いて息を呑んだが、それ以外の女子はキョーコをいい気味だわと言う目で見ていた。

叩かれたキョーコが蓮の顔を瞳に映す。
漸く合ったキョーコの目には驚きと困惑の色が浮かんでいた。

「いたい…」

蓮に叩かれた頬をそっと片手で抑えたキョーコがポツリと呟いた。

「痛い…。」

言葉にするとじわっとキョーコの目に涙が浮かんだ。

ーーーココロが、痛い…

それを見届けて蓮は、何も言わずにそっとキョーコの頭からブレザーを被せると、緒方に向き直った。

「先生。俺…最上さんと後から行きますから、先に皆を連れて帰ってて下さい。」

「え…でも…」

蓮の言葉に渋る緒方に、蓮はしっかりと緒方の目を見て再度お願いした。

「お願いします。」

蓮の意思の強い目に、緒方は何かを感じとるとしっかりと頷いた。

「…わかりました。最上さんのことは敦賀君にお任せします。よしっ!じゃあ皆戻りましょう!!次の授業に遅れてしまいますよー!!」

緒方がそう促すと、主に女生徒から非難の声が上がったが、そこは緒方がいつにない威圧的な空気を纏ったことで竦み上がり、蓮に寄り添われたキョーコを未練がましく睨みつけながも、帰路に着くのだった。


皆がいなくなったのを見届けて、蓮は蓮のブレザーで顔を隠すように握りしめて涙をポロポロと流すキョーコに近付くと、そっとその頭を胸に抱いた。

ますます酷くなるキョーコの嗚咽に蓮はギリッと奥歯を噛み締めた。
何も言わずに黙っていると、キョーコが勝手に話し始めた。

「くっ…う…。や、やくっそくっ…した…のっにっ…」

「うん…?」

「絵…こうっ…かんっ…しよ、って…」

「うん…。」

「でも…かわに…落ちてぬれ…濡れ…ちゃって…」

「うん。」

「や、やっく…そく…した…のに…れんくんっと…」

「うん。」

「ぐちゃぐちゃ…なっちゃ…って…」

「大丈夫だよ。キョーコちゃん、大丈夫だから。気にしないで…」

「だって…や、くそく…」

「うん…。大丈夫だよ。」

蓮は安心させるように言ったのだが、キョーコは蓮の言葉を聞くと震え始めた。

「………。やっ!!蓮くんなんて…大っ嫌いっ!!」

「なっ?!キョーコちゃん?!」

「ほんっと…は、蓮くんも、わったしのっ…下手くそな絵なんて…欲しくなかったんだ…」

「え?何言ってるの?」

「だから…絵がダメになってホッとしてるんでしょ?約束した手前…やっぱりいらないとか言えないもんね!!」

「なっ?!キョーコちゃん!!違うよ!!そんなこと思ってないっ!!」

「だって!!蓮くん言ったもんっ!!大丈夫、気にしないでって!!全然残念がってないじゃないっ!!」

「……キョーコちゃん、誰に、なんて、言われたの?」

「……。わったしの、絵…下手くそだって…。こんな絵…もらっても蓮君にはいい迷惑だって…」

言いながらポロポロポロポロと涙を流すキョーコの頭を蓮はグッと抱き締めた。

「迷惑なんて…思うわけないだろう?!俺から…お願いしたのに…っ!!」

そう言うのと同時に蓮は、自分が原因でキョーコが川に落ちたのだとわかった。
不甲斐なさにギリギリと歯を食いしばるしかない。

「誰…?」

聞かずにはいれないとばかりに蓮は恐ろしく低い声で問いかけた。

「落としたの…誰?」

蓮の声色に、キョーコは涙をピタリと止めると真っ青になって蓮を見上げた。

「蓮くん?」

「そいつ…ぶっ飛ばしてやるよ。誰?」

「だ、ダメだよっ!!そんなことっ!!私は平気だからっ!だから…」

「西田?」

「ち、違うっ!!違うからっ!」

「冴木?」

「…っ!!え…あ…ち、がう…よ?」

「そう…冴木なんだ…。」


蓮は、そういうと、それ以降何も言わずキョーコの手を引いて足早に歩きはじめた。

「つ、敦賀君?!」

キョーコは足をもたつかせながら必死で付いて歩く。
今の時間なら皆は一度選択授業の教室に戻るはずだった。
つまり教室に戻っても誰もいない。

蓮は、キョーコを着替えさせる為に急いで教室に向かった。

「はい。これタオル。使っていいから。」

蓮が手渡したのは、自分が体育の授業の時に使おうと思って持って来ていたタオルだった。

「ジャージあるだろう?着替えて。」

キョーコを教室に押込んだ蓮は、バタンと扉を閉めたあとはそのドアを背にズルズルとその場にしゃがみ込んだ。

自分の不甲斐なさに腹が立つ。
そしてそれと同時に自分のことが信じられなかった。
全身びしょ濡れで現れたキョーコを見て一瞬にして身体が熱くなってしまったのだ。
こんな姿を長く人目に触れさせるなんて許せなくて、近付いたらキョーコの目には何もうつっていなかった。
だけど、蓮にはキョーコの心の痛みが痛いほど伝わってきたのだ。
辛い時でも懸命に笑顔を作ろうとするキョーコが感情を出せなくなっていることがわかって、蓮は、どうにかしてキョーコの閉じてしまった心を開かせたくて気付いたら思わずキョーコの頬を叩いていた。
そして目が合って涙が溢れてきたキョーコを見てホッとした。
思わず抱きしめたくなったがそこは上着をかぶせることで耐えて、皆を先に帰した。

キョーコの話しで犯人がわかった蓮は煮えたぎる怒りを抑えて、このままではキョーコが風邪を引くからと、教室へ向かった。本当は家に連れて帰ろうかとも思ったが、そんなことをしたら自分がどうなってしまうかわからなかった。

着替え終わった頃を見計らって蓮は、ノックをした。

ーーーコンコン。

「キョーコちゃん、着替えた?」

「…うん。」

蓮は、キョーコの返事を受けると立ち上がり教室に入った。

ショッキングピンクのジャージを着たキョーコに近付き、蓮は小さくくしゃみをしたキョーコに顔を顰めた。

「まだ冷たいだろうに水を被って…寒かっただろう?」

蓮はポンポンとキョーコのまだ濡れてる頭を叩く。

モジモジと恥ずかしそうにしてるキョーコに気付いて、蓮は首を傾げた。

「?どうかした?」

「え…あ、いや、あの…」

恥ずかしそうにオロオロするキョーコに優しい笑顔で続きを促す。

「ん?」

「し、下着も濡れちゃったから脱いだんだけど…その…スースーして、き、気持ち悪くて…。」

モジモジしながらいうキョーコの言葉に蓮は笑顔のままビキリと、固まってしまった。

「………下着…つけてないの?」

「…うん……。」

「………。」

とんでもないことをカミングアウトされた蓮の頭の中は一瞬にしてショートしたため、無表情になってしまったが、直ぐに体制を立て直すと、キョーコの腕を引いた。

「帰るよ。キョーコちゃん…。」

「へ?!れ、蓮くん?!」

教室には他の男どももいるのに、こんな姿を見せるなんてたまったもんじゃない。
蓮が無表情のまま問答無用でグイグイと腕を引こうとするので、キョーコは必死で抵抗した。

「ま、待って!!授業がっ!」

「そんなのいいからっ!帰るよ!!」

「じゃあ、あの、鞄っ!!鞄持って帰らないと…っ!」

そういうキョーコに、蓮は少しだけ頭が冷えた。

「…そうだね。じゃあ早く準備しよう。皆が帰ってくる前に。」

「わ、わかった!!」

キョーコが慌てて準備を済ませるのを見ながら自分も己の鞄を肩に掛けた。

準備が終わったキョーコの肩を抱くようにして、蓮はキョーコを連れて教室を出たのだった。

外の風にあたり、ふるりと身体を震わせたキョーコを見て、蓮は再び自分のジャケットをキョーコの肩に掛けた。

「行くよ。」

「うん。」

恥じらいながらコクリと頷くキョーコを見て、何となく松太郎のいる家に帰したくなかった蓮は、キョーコを自分のマンションへと連れて帰るのだった。


(続く)


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