蓮キョ☆メロキュン推進!『ラブコラボ研究所』
本誌続き妄想ぶっちゃけリターンズに出そうと思って書き始めてから早12日。
ようやく書き終わりました!!(笑)
しかも、風月コミック派なので、今回のお話も例によって皆さんのネタバレ話から連想して書いてるので、間違った解釈があるかもしれませんがその辺は目を瞑って頂けると有難いです☆
最後はなかなか纏まらず、無理矢理終わらせた感が否めませんが、それでも良いという方はお楽しみください☆
ネタバレダメ~っという方は引き返してくださいね。
194の続き妄想です。
*****
《貴方を返して》
今俺を動かしているのは、俺の中の闇を背負うアイツだと言うことはわかっていた。
だから、何もかも、アイツのせいにして壊してしまいたいというそんな強い欲求に呑まれていた。
彼女の心が手に入らないのなら、壊してしまえばいい。
今までの関係も、彼女の身体を抱けば全てが終わる。
心も関係も全てを壊して、彼女を俺と同じ闇色に変えてしまおう。そう、思っていた…。
なのにーーー
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
身体が急にバランス感覚を失ったかのように揺らぎ、今正に、獲物にしようとしていた彼女が自分に跨って勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
彼女の行動に驚き、我に返り自分が何をしようとしていたかを思い出した。
セツカとして、ペロリと舌を覗かせる少女に、心が凍りついた。
自分自身が酷く醜くて、不甲斐なくて、それなのに、こんな状況でもセツカであり続ける彼女に、演技者として負けだと烙印を押されたように錯覚してしまう。いや、きっと錯覚ではないのだろう。
自ら恥を晒してしまったのだ。我を忘れて兄になりきれない自分は役者失格だと、指摘されているようにも感じて怒りや悲しみが渦を巻く。
それは自分自身へなのか、彼女に対してなのかはわからなかったが、内側から侵食するように湧き上がる負の感情。
彼女を壊してしまえばいいとさえ思っていたのに、このまま消えてなくなりたいと言う思いに駈られ彼女から目を逸らした。
ーーーイッソ…枯レテ…消エテシマオウカ…。
あの頃と同じだ…。
きっと、生きている限り、俺に光など戻ってこない。
俺は…どんなに足掻いてもアイツであることに変わりはないんだから…。
俺ハ…俺ハ…誰カラモ望マレテハナラナイ存在ナノダカラ…。
ーーーコノ人ハ、誰…?私ノ知ッテル、敦賀サンハ…ドコ…?
キョーコは目の前の男に言われていることが頭に入って来ない程の衝撃を受けていた。
彼が彼である為にあるまじき言動。
呆然と頭に浮かぶのは受け入れたくない警告音。
心が、身体が全身で危険を訴える。
目の前に迫る男の仄暗い目の色にゾクリと全身に鳥肌が立つ。
ーーー何デ?何処二行ッテシマッタノ?アノ人ハ…
優しい微笑みを自分に向ける蓮の表情がキョーコの頭に蘇る。
自分が何をされそうになっているのか仄暗い男の目をみて気付いてしまった。
心に突き刺さる彼の思いが、身体の動きを支配しているように感じた。
ーーー動かなきゃ…。
このまま流されてしまったら、二度とあの笑顔とは会えなくなってしまうような、そんな気がした。
逃げてもダメだと言うこともわかっていた。
ーーー逃げたらきっとこの人は壊れてしまう。
《ただ君が思った事をセツの言葉と行動で示してやってくれればそれでいい。それでアイツが勝手に壁を乗り越える》
社長にあの時言われた言葉が蘇る。
キョーコはお守りとして、蓮のそばに付けられたということを思い出した。
だとしたら、蓮を戻せる可能性があるのはーー。
ーーー返してよ!!いつもの敦賀さんを…返して…っ!!
そう思った時、自分でも驚く程の力が生まれた。
グイッと、彼の体と立場を逆転させる。
目を見開き驚いた表情を見せる彼の上に乗っかった。
普段の最上キョーコにここで戻る訳にはいかない。
そんなことをすれば、彼を二度と元に戻せなくなる。…そんな確信があった。
セツカとして接する為に、妖しく微笑んで挑発するように舌で唇を舐め上げて見下ろした。
『兄さん?クス…やだ。ヤキモチ…妬いちゃった?』
クスクスと笑うと、彼の表情が一瞬歪む。その後、ふっと視線を逸らされた。
逸らされた彼の表情は何も写してないような、何もかも、諦めたようなそんな顔をしていた。
見えない彼の心が血を流して泣いているのではないかと思わずにはいられない。
そんな彼を見たいわけじゃない。
ーーーねぇ。戻って来て…。アタシを愛してくれる兄さんに…戻って…。
セツカはそっと、逸らされた彼の頬に手を伸ばす。
驚く程冷んやりとした頬を熱を与えるように手で優しく包み込む。
彼の左頬に右手を添えて、クイっと顔を強制的に上向けた。
ーーーえ?!セッちゃん何を?!
戸惑うキョーコを他所に、セツカは兄の両頬を包み込むと、そっとその兄の唇に己の唇を重ねた。
蓮の目が丸々と見開いたのをみて、セツカは満足そうに微笑んで唇を離す。
それはキスと呼ぶには大層お粗末なものだったが、唇同士が触れ合ったことには変わりはない。
ビキリと固まるキョーコを無視して、セツカは愛しい兄へ向けて微笑みかける。
キスをされた男も驚き過ぎて声も出ないようだった。
『兄さん?また私を置いて行こうとするんだから…。仕方ない兄さんね?勝手に1人で闇の世界に行っちゃおうとするんだから。』
鼻と鼻がくっつきそうな距離で兄さんの顔を覗き込みながらセツカは男の頬を愛おしそうに撫ぜながら話しかける。
『何の為に私がいるのよ。兄さん1人で行くなんて許さないんだから。行くなら私も連れて行って。』
そう言って、ギュッと首に抱き着くと、少しだけ男の身体がこわばったことに気付いた。
『セツ…カ…。』
漸く答えてくれた兄の言葉は戸惑いを隠せていない。まだ兄に戻りきれていないのだろうが、呼ばれたことに、セツカは嬉しそうに顔をあげた。
『そうよ兄さん。兄さんのことがこの世で一番大好きなセツカよ。』
『セツカ…。セツカ…。』
そう何度もうわ言のように呟く彼に、切なさで胸が締め付けられる。
『そうよ。私は貴方のセツカ…。何の為に私がいると思ってるの?兄さんの力になれることなら、アタシはなんでもするわ。だから何でも言って?』
『キス…』
『え?』
『もう一度キス…してくれ。』
かすれた声が妙に色っぽい。
内心でキョーコは驚いたが、セツカはにんまりと微笑んだ。
『いいわ。』
もう一度、そっと一瞬だけ口付ける。
『足りない…。』
駄々を捏ねる兄に仕方がない兄さんねと苦笑を零しながらも、啄むようなキスを繰り返すと、途中から頭を押さえつけられ、今までされるがままだった兄から、突然強く口付けられた。
驚いて目を見開くと、また身体の位置を入れ替えられる。
セツカはそんな兄の姿に歓喜するように、兄の首に抱きついた。
口の中に舌が差し込まれ深く口付けられた時には、中のキョーコはパニックになったが、セツカなら応えるはずだと思い直し、自分からも深いキスを仕掛ける。カインが噛み付くようなキスをすれば、同じように噛み付くようなキスをセツカも返した。
セツカの息が乱れてきた頃、そっと唇が離された。
頬を包む大きな男の手にドキドキとキョーコの動悸が激しくなったが、それはおくびにも出さず、男の顔を見つめる。
その男の目には先程のような仄暗さはなく、愛おしさが溢れ出していた。
視線が絡まりながら、トキントキンと二つ分の心臓の音が重なる。
そして漸くカインが口を開いた。
『ありがとう…。セツ…。』
『いいのよ。兄さん。兄さんを光のある場所に戻すのは私の役目だもの。』
最高のお守りでしょ?と笑うその姿に、蓮の中でどうしようもない愛おしさが溢れ出す。
でも、これ以上は兄妹としては許されないから…。
『お前は俺の側にだけいればいい。』
『ええ。勿論そのつもりよ?兄さん以外の男なんて興味ないもの。』
『…絶対か?』
『えぇ。当然でしょ?“アタシは兄さんのものよ”』
ーーーそして、私の心ももう貴方のものです。
言葉に出来ない想いを込めて最後にちゅっと頬に軽く口付けた。
『なら…いい。今言ったこと忘れるなよ。』
『忘れるわけないでしょ?例え兄さんに愛する女性が出来たとしても離れてなんてあげないんだから。』
『ふん。心配は無用だ。お前以外に愛しいと思える女はいない。』
くしゃっとセツカの髪を優しく崩す目の前の兄の笑顔に蓮の片鱗が見え、心臓が大きく跳ねた。
『お前は、手間がかかるからな。』
『何よそれっ!!逆よ!!手間がかかるのは兄さんの方でしょ?アタシがいないと何にも出来ないんだから。』
『あぁ、俺にはお前が必要だ。誰にもお前だけは譲れない。』
『当然でしょ?アタシも兄さんから離れるなんて冗談じゃないわ。』
そういいながらギュッと強く抱き着くと、サラリと髪を撫でられた。
『ありがとう…セツ…。「………そして、ありがとう…。キョーコちゃん…。」』
最後に日本語で付け加えられた言葉に、キョーコが目を見開くのと、額に強く押し付けられた唇の感触を感じたのはほぼ同時だった。
「え…?」
一瞬にして素に戻ってしまったキョーコがまん丸と目を見開いて蓮を見つめながら、今起きたことを頭の中で一生懸命脳をフル稼働にして処理していると、愛おしげな視線を載せた蓮は、そっとそんなキョーコの唇に己のそれを重ねた。
音を立てゆっくりと離れて行く唇をただ呆然と見つめるキョーコに蓮は真剣な目を向けた。
「俺にとっても…君が必要だ。他の誰にも譲れない。愛しいと思うのはこの世で君だけ…。」
キスの後にそう言われ、キョーコの身体中がぞわっとした気持ちと共に全身の熱が上がる。
頭で理解するよりも、心の鍵が吹っ飛んでしまう方が先だった。
「え…ええぇえ?!えええええええええぇぇぇぇぇぇぇ~~?!」
真夜中のホテルに1人の少女から発せられたとは思えない大絶叫が響き渡る。
「ちょっ!も、最上さんっ!!」
慌てた蓮がキョーコの唇を手で塞ぐ。
ふがふがと口元を覆われながらまだ混乱の境地にいるキョーコに、蓮は困ったような笑みを向けた。
「俺の想いは…迷惑?」
しゅーんと項垂れた尻尾と耳を背後に見せる蓮の姿に、キョーコはブンブンと首を振って答える。
「じゃあ…好き?」
ビキリと固まったキョーコだったが、未だに不安にユラユラ揺れている蓮の心を正確に読みとって、ドキドキと心臓を高鳴らせながら、上目遣いで恥ずかし気に頷いた。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした蓮だったが、一気にばぁぁぁ~と春がきたような顔に変わったので、目の前で起きた変化にキョーコはまたもや驚かされた。
「本当に?!」
目を輝かせなが、確認してくるその勢いに必死でついて行こうとしたのか、首が勝手にコクコクと縦に揺れた。
それを見て、蓮はそっとキョーコの抑えていた口から手を離すと、キョーコの顔を覗き込みながら確認してきた。
「…でも、俺だけはないって、不破に言っただろ?」
不安な色を瞳に乗せて問えば、キョーコはまん丸に目を見開く。
「な…んで…それを?!聞いてたんですか?!」
ーーーあり得るかもしれない…この人地獄耳だか…
「今、あり得るかも…地獄耳だからって思っただろう?」
「ふへぇ?!」
ーーー何でわかったの?!やっぱりエス…
「言っとくけど、エスパーじゃないから。君がわかりやすすぎるんだよ。」
キョーコの反応を愛おしむ余裕さえ出てきた蓮は、ぷっ。と吹き出すと、くくくくくっと笑ってネタバラシをした。
「不破が態々教えにきてくれたんだ。君が俺だけはないって言い切ったって…流石に堪えたな…」
「なっ?!」
最後に蓮が憂いの表情を乗せて視線を逸らして言えば、キョーコは真っ青になって弁解した。
「あ、アイツ勝手に…っ!!ちがっ!ちがうんですっ!!敦賀さんは…敦賀さんは…あのっ。なんて言ったらいいのかわからないんですけど…」
「うん。」
キョーコはギュッと蓮の服の端っこを握りしめた。
「つ、敦賀さんに恋しちゃったら迷惑になるって…軽蔑されて後輩としても見てもらえなくなったら、アイツの時以上に私の心が壊れてしまうと思ったから…。だって、敦賀さんにとって私は対象外で、同じキョーコちゃんって名前でも、敦賀さんのキョーコちゃんさんとは全然違うと思ってたから…。」
「え?」
蓮は、矢継ぎ早に告げられるキョーコのツッコミどころ満載な発言を聞いて固まってしまった。
キョーコはしまった!という表情で口を塞いでいる。
「えっと…まず順を追って聞いてみてもいいかな?」
蓮の言葉に、キョーコはぎぎぎっと涙目の顔を蓮に向ける。
「アイツの時以上に壊れてしまうっていうのは…つまり…」
「うっ…。」
「彼の時以上に俺のこと…その…えっと、なんて言ったらいいのか…俺の存在の方が何年も一緒にいた彼よりも大きくなったって…こと…かな?」
かぁぁっと真っ赤になったキョーコがオロオロと視線を彷徨わせるのを見て、蓮は目を瞬かせる。
「そうなのか?!」
「~~~っそ、そういうことですぅっ!!」
「嘘…だろ?本当に?」
呆然とした表情で喜びを噛み締める姿は、キョーコには真逆の解釈をさせてしまう。
「迷惑なのはわかってます!!でも…。」
「え?!いや、迷惑なんてとんでもない!!違うよ!最上さん!!嬉しい…嬉しいんだよ!!君にそんな風に想ってもらえる日がくるなんて…!!」
キョーコの解釈に慌てた蓮が必死で訴える。
「嬉しい…嬉しいんだ…」
そして口にする度に湧き上がる喜び…。蓮は泣きそうになりながらもキョーコの身体をギュッと抱き締めた。
「敦賀…さん…」
キョーコはそんな蓮の身体をおずおずと抱き締め返す。
二人の間に心地のいい沈黙が訪れたが、それは次に発せられた蓮の言葉でまた空気が震えた。
「それで…なんで君の中で、俺にとって君が対象外なんてことになってたの?」
「そ、それはっ!!だって敦賀さん言ったじゃないですかっ!!私の様なお子様には手を出さないって…。」
「…いつ?」
「だ、代マネの時…」
「え?そんなこと俺言った?」
「お風呂お借りする時に、そんなジェスチャーされたじゃないですかっ!!」
「それはジェスチャーであって、君の勝手な解釈だろう?一言もそんなこと言った覚えは…」
「そ、それにっ!!ダークムーンの打ち上げの席でも言いました!!」
「…なんて?」
「『何もしないよ。君には…』って、いいましたよね?!」
「…言ったけど…あれはーー」
「あれは、頬チューでうろたえる様なお子様な私には何もしないでも、そんなことでは狼狽えない大人の女性ならしてもいいけど…ってことですよね?!」
「ええぇ?!ち、違うっ!!誤解だよっ!!あの時は泣かれたら困るからって言っただろう?!」
「それに…キョーコちゃんさん…」
「…は?」
蓮の目が点になったところで、キョーコががばりと起き上がり、突然土下座を始めた。
「も、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!!」
その謝罪から始まりキョーコの口から溢れ出てくる暴露には、坊の正体、代マネの時の無意識に呼んだ『キョーコちゃん』という名前というような内容が次々と出て来て、蓮はがっくりと項垂れたり、赤面したりと表情を変えるのに大忙しだった。
誤解を解く事になんとか成功した時には、もう既に朝日が登り始めていた。
「っと、もうこんな時間か…。君は眠ってた方がいい…。」
「な?!敦賀さんは仕事に行かれるのに、そんな事できませんっ!!私も行きますっ!!」
『セツ…お前は寝てろ』
『い・や・よ!!兄さんを1人になんて出来ないわ。私も起きる!』
その日の撮影所。いつにも増してラブラブっぷりを発揮する兄妹。
そして休憩中には、カイン・ヒールの楽屋の中で、カインのコートに仲良く包まって爆睡する二人の珍しい姿が見られたとか。
しかし、スタッフから見えたのはセツカの後頭部の一部と、カインの寝顔だけ。
守るように抱き締め合って眠る二人の姿は、普段全身から醸し出している禍々しさはなく、何となく野次馬の心を和ませる小春日和のような力が働いてるように思わせたとか…。
END
☆気に入ったら拍手お願いします☆
*****
あまりにも長くなりそうだったので無理矢理終わらせたらこんなことに…(笑)
難産でした((;゚Д゚))))
本誌続き妄想ぶっちゃけリターンズに出そうと思って書き始めてから早12日。
ようやく書き終わりました!!(笑)
しかも、風月コミック派なので、今回のお話も例によって皆さんのネタバレ話から連想して書いてるので、間違った解釈があるかもしれませんがその辺は目を瞑って頂けると有難いです☆
最後はなかなか纏まらず、無理矢理終わらせた感が否めませんが、それでも良いという方はお楽しみください☆
ネタバレダメ~っという方は引き返してくださいね。
194の続き妄想です。
*****
《貴方を返して》
今俺を動かしているのは、俺の中の闇を背負うアイツだと言うことはわかっていた。
だから、何もかも、アイツのせいにして壊してしまいたいというそんな強い欲求に呑まれていた。
彼女の心が手に入らないのなら、壊してしまえばいい。
今までの関係も、彼女の身体を抱けば全てが終わる。
心も関係も全てを壊して、彼女を俺と同じ闇色に変えてしまおう。そう、思っていた…。
なのにーーー
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
身体が急にバランス感覚を失ったかのように揺らぎ、今正に、獲物にしようとしていた彼女が自分に跨って勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
彼女の行動に驚き、我に返り自分が何をしようとしていたかを思い出した。
セツカとして、ペロリと舌を覗かせる少女に、心が凍りついた。
自分自身が酷く醜くて、不甲斐なくて、それなのに、こんな状況でもセツカであり続ける彼女に、演技者として負けだと烙印を押されたように錯覚してしまう。いや、きっと錯覚ではないのだろう。
自ら恥を晒してしまったのだ。我を忘れて兄になりきれない自分は役者失格だと、指摘されているようにも感じて怒りや悲しみが渦を巻く。
それは自分自身へなのか、彼女に対してなのかはわからなかったが、内側から侵食するように湧き上がる負の感情。
彼女を壊してしまえばいいとさえ思っていたのに、このまま消えてなくなりたいと言う思いに駈られ彼女から目を逸らした。
ーーーイッソ…枯レテ…消エテシマオウカ…。
あの頃と同じだ…。
きっと、生きている限り、俺に光など戻ってこない。
俺は…どんなに足掻いてもアイツであることに変わりはないんだから…。
俺ハ…俺ハ…誰カラモ望マレテハナラナイ存在ナノダカラ…。
ーーーコノ人ハ、誰…?私ノ知ッテル、敦賀サンハ…ドコ…?
キョーコは目の前の男に言われていることが頭に入って来ない程の衝撃を受けていた。
彼が彼である為にあるまじき言動。
呆然と頭に浮かぶのは受け入れたくない警告音。
心が、身体が全身で危険を訴える。
目の前に迫る男の仄暗い目の色にゾクリと全身に鳥肌が立つ。
ーーー何デ?何処二行ッテシマッタノ?アノ人ハ…
優しい微笑みを自分に向ける蓮の表情がキョーコの頭に蘇る。
自分が何をされそうになっているのか仄暗い男の目をみて気付いてしまった。
心に突き刺さる彼の思いが、身体の動きを支配しているように感じた。
ーーー動かなきゃ…。
このまま流されてしまったら、二度とあの笑顔とは会えなくなってしまうような、そんな気がした。
逃げてもダメだと言うこともわかっていた。
ーーー逃げたらきっとこの人は壊れてしまう。
《ただ君が思った事をセツの言葉と行動で示してやってくれればそれでいい。それでアイツが勝手に壁を乗り越える》
社長にあの時言われた言葉が蘇る。
キョーコはお守りとして、蓮のそばに付けられたということを思い出した。
だとしたら、蓮を戻せる可能性があるのはーー。
ーーー返してよ!!いつもの敦賀さんを…返して…っ!!
そう思った時、自分でも驚く程の力が生まれた。
グイッと、彼の体と立場を逆転させる。
目を見開き驚いた表情を見せる彼の上に乗っかった。
普段の最上キョーコにここで戻る訳にはいかない。
そんなことをすれば、彼を二度と元に戻せなくなる。…そんな確信があった。
セツカとして接する為に、妖しく微笑んで挑発するように舌で唇を舐め上げて見下ろした。
『兄さん?クス…やだ。ヤキモチ…妬いちゃった?』
クスクスと笑うと、彼の表情が一瞬歪む。その後、ふっと視線を逸らされた。
逸らされた彼の表情は何も写してないような、何もかも、諦めたようなそんな顔をしていた。
見えない彼の心が血を流して泣いているのではないかと思わずにはいられない。
そんな彼を見たいわけじゃない。
ーーーねぇ。戻って来て…。アタシを愛してくれる兄さんに…戻って…。
セツカはそっと、逸らされた彼の頬に手を伸ばす。
驚く程冷んやりとした頬を熱を与えるように手で優しく包み込む。
彼の左頬に右手を添えて、クイっと顔を強制的に上向けた。
ーーーえ?!セッちゃん何を?!
戸惑うキョーコを他所に、セツカは兄の両頬を包み込むと、そっとその兄の唇に己の唇を重ねた。
蓮の目が丸々と見開いたのをみて、セツカは満足そうに微笑んで唇を離す。
それはキスと呼ぶには大層お粗末なものだったが、唇同士が触れ合ったことには変わりはない。
ビキリと固まるキョーコを無視して、セツカは愛しい兄へ向けて微笑みかける。
キスをされた男も驚き過ぎて声も出ないようだった。
『兄さん?また私を置いて行こうとするんだから…。仕方ない兄さんね?勝手に1人で闇の世界に行っちゃおうとするんだから。』
鼻と鼻がくっつきそうな距離で兄さんの顔を覗き込みながらセツカは男の頬を愛おしそうに撫ぜながら話しかける。
『何の為に私がいるのよ。兄さん1人で行くなんて許さないんだから。行くなら私も連れて行って。』
そう言って、ギュッと首に抱き着くと、少しだけ男の身体がこわばったことに気付いた。
『セツ…カ…。』
漸く答えてくれた兄の言葉は戸惑いを隠せていない。まだ兄に戻りきれていないのだろうが、呼ばれたことに、セツカは嬉しそうに顔をあげた。
『そうよ兄さん。兄さんのことがこの世で一番大好きなセツカよ。』
『セツカ…。セツカ…。』
そう何度もうわ言のように呟く彼に、切なさで胸が締め付けられる。
『そうよ。私は貴方のセツカ…。何の為に私がいると思ってるの?兄さんの力になれることなら、アタシはなんでもするわ。だから何でも言って?』
『キス…』
『え?』
『もう一度キス…してくれ。』
かすれた声が妙に色っぽい。
内心でキョーコは驚いたが、セツカはにんまりと微笑んだ。
『いいわ。』
もう一度、そっと一瞬だけ口付ける。
『足りない…。』
駄々を捏ねる兄に仕方がない兄さんねと苦笑を零しながらも、啄むようなキスを繰り返すと、途中から頭を押さえつけられ、今までされるがままだった兄から、突然強く口付けられた。
驚いて目を見開くと、また身体の位置を入れ替えられる。
セツカはそんな兄の姿に歓喜するように、兄の首に抱きついた。
口の中に舌が差し込まれ深く口付けられた時には、中のキョーコはパニックになったが、セツカなら応えるはずだと思い直し、自分からも深いキスを仕掛ける。カインが噛み付くようなキスをすれば、同じように噛み付くようなキスをセツカも返した。
セツカの息が乱れてきた頃、そっと唇が離された。
頬を包む大きな男の手にドキドキとキョーコの動悸が激しくなったが、それはおくびにも出さず、男の顔を見つめる。
その男の目には先程のような仄暗さはなく、愛おしさが溢れ出していた。
視線が絡まりながら、トキントキンと二つ分の心臓の音が重なる。
そして漸くカインが口を開いた。
『ありがとう…。セツ…。』
『いいのよ。兄さん。兄さんを光のある場所に戻すのは私の役目だもの。』
最高のお守りでしょ?と笑うその姿に、蓮の中でどうしようもない愛おしさが溢れ出す。
でも、これ以上は兄妹としては許されないから…。
『お前は俺の側にだけいればいい。』
『ええ。勿論そのつもりよ?兄さん以外の男なんて興味ないもの。』
『…絶対か?』
『えぇ。当然でしょ?“アタシは兄さんのものよ”』
ーーーそして、私の心ももう貴方のものです。
言葉に出来ない想いを込めて最後にちゅっと頬に軽く口付けた。
『なら…いい。今言ったこと忘れるなよ。』
『忘れるわけないでしょ?例え兄さんに愛する女性が出来たとしても離れてなんてあげないんだから。』
『ふん。心配は無用だ。お前以外に愛しいと思える女はいない。』
くしゃっとセツカの髪を優しく崩す目の前の兄の笑顔に蓮の片鱗が見え、心臓が大きく跳ねた。
『お前は、手間がかかるからな。』
『何よそれっ!!逆よ!!手間がかかるのは兄さんの方でしょ?アタシがいないと何にも出来ないんだから。』
『あぁ、俺にはお前が必要だ。誰にもお前だけは譲れない。』
『当然でしょ?アタシも兄さんから離れるなんて冗談じゃないわ。』
そういいながらギュッと強く抱き着くと、サラリと髪を撫でられた。
『ありがとう…セツ…。「………そして、ありがとう…。キョーコちゃん…。」』
最後に日本語で付け加えられた言葉に、キョーコが目を見開くのと、額に強く押し付けられた唇の感触を感じたのはほぼ同時だった。
「え…?」
一瞬にして素に戻ってしまったキョーコがまん丸と目を見開いて蓮を見つめながら、今起きたことを頭の中で一生懸命脳をフル稼働にして処理していると、愛おしげな視線を載せた蓮は、そっとそんなキョーコの唇に己のそれを重ねた。
音を立てゆっくりと離れて行く唇をただ呆然と見つめるキョーコに蓮は真剣な目を向けた。
「俺にとっても…君が必要だ。他の誰にも譲れない。愛しいと思うのはこの世で君だけ…。」
キスの後にそう言われ、キョーコの身体中がぞわっとした気持ちと共に全身の熱が上がる。
頭で理解するよりも、心の鍵が吹っ飛んでしまう方が先だった。
「え…ええぇえ?!えええええええええぇぇぇぇぇぇぇ~~?!」
真夜中のホテルに1人の少女から発せられたとは思えない大絶叫が響き渡る。
「ちょっ!も、最上さんっ!!」
慌てた蓮がキョーコの唇を手で塞ぐ。
ふがふがと口元を覆われながらまだ混乱の境地にいるキョーコに、蓮は困ったような笑みを向けた。
「俺の想いは…迷惑?」
しゅーんと項垂れた尻尾と耳を背後に見せる蓮の姿に、キョーコはブンブンと首を振って答える。
「じゃあ…好き?」
ビキリと固まったキョーコだったが、未だに不安にユラユラ揺れている蓮の心を正確に読みとって、ドキドキと心臓を高鳴らせながら、上目遣いで恥ずかし気に頷いた。
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした蓮だったが、一気にばぁぁぁ~と春がきたような顔に変わったので、目の前で起きた変化にキョーコはまたもや驚かされた。
「本当に?!」
目を輝かせなが、確認してくるその勢いに必死でついて行こうとしたのか、首が勝手にコクコクと縦に揺れた。
それを見て、蓮はそっとキョーコの抑えていた口から手を離すと、キョーコの顔を覗き込みながら確認してきた。
「…でも、俺だけはないって、不破に言っただろ?」
不安な色を瞳に乗せて問えば、キョーコはまん丸に目を見開く。
「な…んで…それを?!聞いてたんですか?!」
ーーーあり得るかもしれない…この人地獄耳だか…
「今、あり得るかも…地獄耳だからって思っただろう?」
「ふへぇ?!」
ーーー何でわかったの?!やっぱりエス…
「言っとくけど、エスパーじゃないから。君がわかりやすすぎるんだよ。」
キョーコの反応を愛おしむ余裕さえ出てきた蓮は、ぷっ。と吹き出すと、くくくくくっと笑ってネタバラシをした。
「不破が態々教えにきてくれたんだ。君が俺だけはないって言い切ったって…流石に堪えたな…」
「なっ?!」
最後に蓮が憂いの表情を乗せて視線を逸らして言えば、キョーコは真っ青になって弁解した。
「あ、アイツ勝手に…っ!!ちがっ!ちがうんですっ!!敦賀さんは…敦賀さんは…あのっ。なんて言ったらいいのかわからないんですけど…」
「うん。」
キョーコはギュッと蓮の服の端っこを握りしめた。
「つ、敦賀さんに恋しちゃったら迷惑になるって…軽蔑されて後輩としても見てもらえなくなったら、アイツの時以上に私の心が壊れてしまうと思ったから…。だって、敦賀さんにとって私は対象外で、同じキョーコちゃんって名前でも、敦賀さんのキョーコちゃんさんとは全然違うと思ってたから…。」
「え?」
蓮は、矢継ぎ早に告げられるキョーコのツッコミどころ満載な発言を聞いて固まってしまった。
キョーコはしまった!という表情で口を塞いでいる。
「えっと…まず順を追って聞いてみてもいいかな?」
蓮の言葉に、キョーコはぎぎぎっと涙目の顔を蓮に向ける。
「アイツの時以上に壊れてしまうっていうのは…つまり…」
「うっ…。」
「彼の時以上に俺のこと…その…えっと、なんて言ったらいいのか…俺の存在の方が何年も一緒にいた彼よりも大きくなったって…こと…かな?」
かぁぁっと真っ赤になったキョーコがオロオロと視線を彷徨わせるのを見て、蓮は目を瞬かせる。
「そうなのか?!」
「~~~っそ、そういうことですぅっ!!」
「嘘…だろ?本当に?」
呆然とした表情で喜びを噛み締める姿は、キョーコには真逆の解釈をさせてしまう。
「迷惑なのはわかってます!!でも…。」
「え?!いや、迷惑なんてとんでもない!!違うよ!最上さん!!嬉しい…嬉しいんだよ!!君にそんな風に想ってもらえる日がくるなんて…!!」
キョーコの解釈に慌てた蓮が必死で訴える。
「嬉しい…嬉しいんだ…」
そして口にする度に湧き上がる喜び…。蓮は泣きそうになりながらもキョーコの身体をギュッと抱き締めた。
「敦賀…さん…」
キョーコはそんな蓮の身体をおずおずと抱き締め返す。
二人の間に心地のいい沈黙が訪れたが、それは次に発せられた蓮の言葉でまた空気が震えた。
「それで…なんで君の中で、俺にとって君が対象外なんてことになってたの?」
「そ、それはっ!!だって敦賀さん言ったじゃないですかっ!!私の様なお子様には手を出さないって…。」
「…いつ?」
「だ、代マネの時…」
「え?そんなこと俺言った?」
「お風呂お借りする時に、そんなジェスチャーされたじゃないですかっ!!」
「それはジェスチャーであって、君の勝手な解釈だろう?一言もそんなこと言った覚えは…」
「そ、それにっ!!ダークムーンの打ち上げの席でも言いました!!」
「…なんて?」
「『何もしないよ。君には…』って、いいましたよね?!」
「…言ったけど…あれはーー」
「あれは、頬チューでうろたえる様なお子様な私には何もしないでも、そんなことでは狼狽えない大人の女性ならしてもいいけど…ってことですよね?!」
「ええぇ?!ち、違うっ!!誤解だよっ!!あの時は泣かれたら困るからって言っただろう?!」
「それに…キョーコちゃんさん…」
「…は?」
蓮の目が点になったところで、キョーコががばりと起き上がり、突然土下座を始めた。
「も、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!!」
その謝罪から始まりキョーコの口から溢れ出てくる暴露には、坊の正体、代マネの時の無意識に呼んだ『キョーコちゃん』という名前というような内容が次々と出て来て、蓮はがっくりと項垂れたり、赤面したりと表情を変えるのに大忙しだった。
誤解を解く事になんとか成功した時には、もう既に朝日が登り始めていた。
「っと、もうこんな時間か…。君は眠ってた方がいい…。」
「な?!敦賀さんは仕事に行かれるのに、そんな事できませんっ!!私も行きますっ!!」
『セツ…お前は寝てろ』
『い・や・よ!!兄さんを1人になんて出来ないわ。私も起きる!』
その日の撮影所。いつにも増してラブラブっぷりを発揮する兄妹。
そして休憩中には、カイン・ヒールの楽屋の中で、カインのコートに仲良く包まって爆睡する二人の珍しい姿が見られたとか。
しかし、スタッフから見えたのはセツカの後頭部の一部と、カインの寝顔だけ。
守るように抱き締め合って眠る二人の姿は、普段全身から醸し出している禍々しさはなく、何となく野次馬の心を和ませる小春日和のような力が働いてるように思わせたとか…。
END
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あまりにも長くなりそうだったので無理矢理終わらせたらこんなことに…(笑)
難産でした((;゚Д゚))))