【ROSE IN THE SKY】EMIRIさんの御宅で開催されております、
『おかえり(ただいま)企画』に風月も参加させて頂きました~!!
こちらがそのお話です!!

話が書き終わってからもタイトルが中々決まらず、UPが出来ず…!
漸くタイトルが決まりましたので、こちらにて、アップさせて頂きます。

今回のお話はEMIRIさんの素敵なイラストを挿絵に頂いております!!
EMIRIさん、企画への参加を快く歓迎してくださりありがとうございます!!

こんなお話で良ければ、お楽しみくださいませー!!



*****


役者魂と恋心の狭間



1枚の扉の前で深呼吸を繰り返す。
この扉の鍵を開けるのは実に10日ぶりとなる。

キョーコは騒ぎ出しそうになる心臓を必死に宥めた。
今日、この場所に来ることが決まったのはほんの数時間前だ。

撮影の休憩時間に急に鳴り始めた携帯電話。慌てて出ると相手は社長であるローリィで、キョーコは背筋を正した。

すぐにセツカに戻って欲しいとの連絡だったが、生憎撮影中だった為、撮影が終わってからという運びになった。
予定より少し押してしまった収録終了後迎えに来たワゴンの中で、ミューズに魔法を掛けてもらい、即席のセツカへと変貌を遂げる。
本当に切羽詰まった着替えらしく、下着やインナーなどもセツカのものが用意されておらず、衣装もいつもの念入りさはなく、ホルターネックのキャミソールに短パンという辛うじてセツが着ていてもおかしくはないだろうというギリギリのラインの簡単なモノしかなかったという。
しかも肩と背中が丸見えのホルターネックからブラをつけているとはみ出してしまう為、外すしか方法はなく胸元は何とも心許ない。

どうしてこうして切羽詰まった状態で呼ばれたのかと言うと、原因はセツカの兄カインを演じる蓮にあった。
監督から社長へ連絡があったらしいのだが、どうもここ最近の蓮の様子がおかしいらしい。
見た目はやつれて元気がなく、時折物凄く冷たい目で思考の中に入り込んでいるという。今にも消えてしまうのではないか、もしくは爆発するのではないかと現場での扱いにも手を余らせている状況ということで、社長に助けを求めて来たのだ。

恐らくカインのあの性格では食事もろくにとらず、タバコや酒ばかり煽っているのだろうことは想像に容易い。
つい先日の、シーツを頭から被り部屋の前でセツを待ち構えていた姿を思い出し、キョーコは今すぐにでも飛んでいかねばカイン共々蓮までも消えてしまうのではないかと言う考えにまで至り、撮影中も気が気じゃなかった。

ミューズに言われるがままに慌てて着替え、扉の前まで来たものの、やはり緊張していた。

キョーコが、先輩俳優の蓮演じるカインの妹セツカを演じなくなって早10日となる。
要するに、蓮への想いを社長により自覚させられて10日しか経っていないのだ。

キョーコは蓮が心配だという気持ちも勿論あるが、また再びセツカになるのが怖くもあった。
認めるはずのなかった恋心を自覚した今、先輩後輩では決して許されることはない距離にまで近付けてしまうセツカに抵抗感を覚えてしまうのだ。

秘めなければならない想いだからこそ、引け目を感じてしまう。ズルをしているような、抜け駆けをしているようなそんな罪悪感に襲われてしまうのだ。

蓮に会いたくないのか?と聞かれると、答えは否だ。
会いたかったに決まっている。食事はちゃんと食べてるかとか、ちゃんと眠ってるかとか、無理してないかとか、ここ数日ずっとずっと考えていたのだ。

キョーコは深呼吸を繰り返しながら自分自身へと言い聞かせた。

ーーー私は、セツカ。私は、セツカ。兄さんのことがなによりも大切なセツカ。

キョーコが次に、すっと目を見開いた時には、その瞳にセツカが宿っていた。

左右を見回し、最後にゆっくりと扉を見つめる。

ーーーセツカはどうして帰ってきた?きっと兄のことをどこかで聞きつけて心配になって帰って来たのよ。だとしたら、ゆっくりと扉を開けるはずはないわ。ここまで無我夢中で走って走って走り抜けて来たに違いない。だとしたら私の取る行動は…ーーー

ハァッハァッハァッハァッと、今ここまで全力で走って来たかのように息を乱すと、セツカは鍵を開けるのさえもどかしいとばかりにガチャガチャとカードキーを差し入れて、扉を開けて中へと飛び込む。

『兄さんっ!!!!』

しかし、部屋の中は真っ暗で、いるはずの兄の姿が見当たらない。

セツカは額の汗を拭いながら部屋に入り込み再度声を掛けた。

『ハッ、ハッ、ハァッ…兄さん…?』

シンとした夜特有の冷たい空気。
ベッドの上に脱ぎ散らかされた服に、テーブルの上の灰皿には帯びただしい数のタバコの吸殻。ウィスキーの空き瓶がいくつも転がっていた。

セツカは、それを見て一つ息を吐き出すと、キッと一点をみつめた。
僅かに漏れ聞こえる水音から推測するに恐らくシャワーを浴びているのだろう。

その扉に近付き、なんの躊躇いもなく扉を開いた。

『兄さ…っ』

少し怒ったように呼びかけるが、セツカの目に飛び込んで来たのは、シャワーを頭から浴びている蓮の後ろ姿で、鏡に映る表情はすべての感情を捨てたような、そんな目をしている表情だった。

『ちょっ…なにしてるの!!兄さんっ…って!冷たっ!!』

慌てて近付こうとしたセツカだが、お湯だと思っていたものが予想以上に冷たくて驚いた。
そんなセツカの声にハッとして顔を上げたカインが、漸くセツカの存在に気付いた。
暫く呆然と鏡の中に映るセツカを見ていたカインは、口を僅かに開いて妹の名を呼んだ。

『セツ…』

キョーコの心か、セツカの心がどちらかわからなかったが、急に締め付けられる様な気がした。

カインの心が、蓮の心が先ほど触れた水の様に冷えているような…そんな気がしたのだ。

セツカが来ることは知らされてなかったのだろう。しばし驚いて動けなかったカインが緩慢な動作でシャワーを止めると振り返った。
その縋るような仔犬の表情にカイン丸を沢山見つけてしまったセツカは思わずカインに抱き付いていた。


風月のスキビだより


カインの身体が濡れているので抱きつけば水滴を吸収して濡れてしまうだろうことも容易に考えついたが、とにかく今、蓮をカインを捕まえとかねば!と、そう思ったのだ。
カインは驚いたように一瞬体を強張らせた後、そっと壊れ物でも扱うかの様にセツカの身体に手を回した。
恐る恐る触れるその様は、現実か夢かまだ判断しきれていないようだった。

ポタリとカインの髪から水滴が落ち、セツカの服を濡らす。

『兄さん!こんなに冷えて…』

『セツ…なのか…?』

『ええ。そうよ?私以外に誰がいるのよ。』

『何で…?帰ったんじゃ…』

『ボスに呼ばれたの。兄さんのピンチだって…』

強い力でギュッと抱き締められ、胸が甘く締め付けられ苦しくなった。

『セツが…急にいなくなるからだ…』

捨てられた仔犬がまだカインの背後に見えて、セツカも力をいれてギュッと抱きしめ返す。

『~~!!もうっ!兄さんは私がいないと本当にダメダメなんだから!』

『セツ…』

『ご飯も食べないで、どうせタバコやお酒ばっかり飲んでたんでしょ?!』

『………』

『やっぱり。その沈黙が何よりの証拠ね。』

怒った顔をしてカインの顔を覗き込めば、まださみしそうに耳と尻尾を垂らしている。

そんなカインの頬にそっと手を伸ばしてその冷たくなった顔を包み込む。

『兄さんのことが大切だから、心配してるのよ?』

『…あぁ。』

カインはわかってるとばかりに頷いたが、セツカの気は収まらなかった。

『兄さんのことが…好き…だから…』

セツカの発した言葉に、キョーコがハッと息を飲んだ。
セツカがしまったとばかりに、目を見開けば、カインも虚をつかれたような顔をしてセツカの顔を凝視していた。

二人の視線が絡み合う。

ぽちゃん、ぽちゃんと閉めきれていないシャワーの蛇口から水滴が落ちる音だけが響いていた。
セツカは頬に熱が一気に集まるのを感じながらも、その場をごまかすように慌ててその身体を離して告げた。

『身体…冷たい。このままじゃ風邪引くからすぐにお湯貯めて浸かって温まって。私は、その間にご飯を作っておくから…』

そう言って背を向けてバスルームから出ようとしたところで、腰を力強い腕に攫われ、後ろから抱きしめられた。

『っ!!』

不意打ちの抱擁にキョーコの心臓が大きく跳ねる。

『にぃ…さ…』

『何故逃げる?お前が俺のことを兄として好きなことくらいわかってる。』

『……。』

キョーコはギュッと唇を噛んだ。どうしてもセツカになれない。どうしても、心がキョーコに引き戻されてしまう。
好きだというのは、セツカではなくキョーコ自身の気持ちだったのだ。セツカという立場を利用して口にしたに過ぎないキョーコ自身がそれに気付いていた。だからこそ、逃げようとしていたのに捕まってしまったのだ。

そんな風に自分の感情すらもコントロール出来ないほど好きな人から後ろから抱き締められて平気なはずがない。大きく空いた背中は彼の大きな胸板に密着し、太く力強い腕はたった一枚の布を隔てたそこにあるのだ。

『もう少しここにいてくれ、存在を確かめさせてくれ。』

力強い脈が自分の脈なのではないかと錯覚するほどくっついた身体。
苦しいくらいに抱き締められ、キョーコは息が詰まった。
身体が一気に熱を上げるのが分かる。

『セツ…セツカ…』

縋るように呼ばれる名前はセツカのもの。自分の名前ではなくて、キョーコの頭が漸く冷えた。

ーーーそうだ…。今、私はセツカなんだわ。何考えてるんだろう?敦賀さんがこんな風に私に抱きつくはずはないのに…。

キョーコはそう考えて目を閉じると、セツカを憑けて目を見開いた。
お腹に回された腕に手を添えて、ギュッと握りしめる。

『私はここにいるわよ?』

『…セツ…』

『なぁに?兄さん。』

『セツ…逢いたかった。』

『私も…私もよ。兄さん。』

『ずっと、お前のことばかり考えてた。』

『私も、兄さんのことばっかり考えてたわ。』

そう答えれば、セツカの頭に何かが当たる感じがした。離れる気配から、頭にキスされたことがわかった。

『…おかえり、セツ…。』

『ただいま…兄さん。』

おかえりという言葉がじんわりと心に染み込んだ。

あぁ、帰ってきんだわ…とそんな気になる。
二人の間にどちらともなく安堵の息が漏れた。やっと落ち着く居場所を見つけたようなそんな感じだ。

そして次に彼の唇が肩に落ちてきた。

ーーーそう、肩に…落ちて…って、えええええぇ?!

確かめるようにゆっくりと、チュッゥチュウと唇が肩や背中を辿る。

『ににに、兄さん?!』

慌てて振り返ろうとしたせいで、カインの大きな手がズレてキョーコの胸に触れてしまうこととなった。

きゃ~~~!!!!とキョーコが心の中で赤面するも、セツカとして叫ぶわけにはいかない。
手のひらが胸に触れた瞬間カインの眉は僅かに歪んだ。
確かめるように手を動かすカインは無表情だが、キョーコは驚きで心の中で大絶叫を上げていた。それなのにセツカはなんとも淡白な反応を返していた。

『…何?』

ナチュラルに胸を触る兄に理由を尋ねるセツカ。
それに兄であるカインも淡々と返した。

『胸…さっきも思ったが、何にもつけてないのか?』

『そうよ?だってつけたらこの服からはみ出して見えちゃうじゃない。』

『こんな…無防備な格好で街中を…?』

兄が胸を触りながら眉を顰める。

『ちゃんとミューズがロケバスで下まで送ってくれたわよっ!』

声と言葉だけは何とかセツカを保てても、心と体はキョーコが強く出てしまったようで、恥ずかしさが上手く隠せず、つい語尾を荒らげてしまった。耳や首まで真っ赤であることが自分でもわかり、より恥ずかしさが増す。

何の価値もないかのように胸を想いを寄せる相手から揉みこまれて、キョーコはショックで泣きそうになった。今すぐこの場から逃げ出したい。そう思っていたところに、想い人の口…もとい、カインの口から恐ろしい一言が発せられた。

『脱げ…』

『え?!』

『脱げ、お前の服も濡れてる。このままここから出たら身体が冷える。』

『なっ!!そ、それはにいさんのせ…っくしゅ!』

くしゃみをしたことで、カインが益々眉を顰めた。

『だから、脱げと言ってる。風邪引く前に温まれ。俺は…後でいい…。』

そう言って、シャワーをバスタブにむけお湯に切り替えたカインは、バスタオルを手に離れようと背をむけた。セツカは慌ててカインの腕を抱え込み声を荒らげた。

『な?!だ、ダメよ!!あんなに冷たい水をずっと頭から被ってたくせに!!兄さん先に浸かってよ!!』

『セツが先だ。』

『ダメよ!!兄さんから!!』

『セツ…お前に風邪を引かせたくない。』

『そんなの、私だって同じよ!』

『とにかく、セツが先だ。』

『兄さんから!!』

『セツだ!!』

『兄さん!!』

『セツ!』

頑として譲らないわからずやの兄を前に、セツカは自分でも固まってしまう言葉を口にしてしまった。

『ダメったらダメよ!!だったら一緒に…っ!!』

『……いっ、しょ…に……?』

『…………っ。』

『…………。』

今まで言い争っていた二人の間に沈黙が落ちた。
キョーコの背中を冷や汗が伝う。

一に兄さん、二に兄さん、三四も兄さん、五も兄さんである兄さん大好きっ子のセツカとしての発言なら決して有り得ない提案でもない。
兄と一緒にお風呂に入るのだってセツカにとって特別なことではないはずだ。

つまりこう自ら発言してしまった以上、キョーコに逃げ場などなかった。
役者として高みを目指すキョーコは、セツカという役を全うする為には覚悟を決めなければならないと腹を括るしかなかった。
それになによりこの場がもうすでに役者としてのスキルを試される場と化しているのだ。
恐らく蓮は、どこまで演技に食らいついてくるか見ているに違いない。

先ほどだって、許可をなどしてないのに胸を揉まれた。女の体など見飽きるほど見ているであろう蓮を前に何を恥ずかしがる必要があるのだろう。
きっとこれから先、役者を続けていれば、何処かの誰かとラブシーンを演じることもあるだろう。
それならば、先輩俳優の胸を借りる気持ちで、今練習をしておくのもいいのではないだろうか?
初めて素肌を晒す相手が、好きな人相手ならきっと本望だろう。これから先、蓮を前にこんなことをする機会なんて二度とないはずだからーー。

重い重い沈黙の後に、キョーコはセツカとしてカインの目を見つめると意を決して言葉を発した。




『一緒に入りましょう、兄さん。』




驚いたように目を見開くカインの表情を正面から見つめながら、キョーコは己の着ている服に手を掛けた。


ゴクリとなった蓮の喉には気付かぬまま…。

キョーコの服をつかんだ手がゆっくりと持ち上がったーー。






その後の二人がどうなったのか、それはまた別のお話。


END


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☆拍手頂けたら嬉しいです!

*****

はい。強制終了~!!!!
このあと、二人はどうなっちゃったんでしょうねー?
続きは皆さんの楽しいご想像にお任せしちゃいます♪

EMIRIさん、キャミソールかホルターネックで悩んだ挙句ホルターネックにしちゃいました。もし違ったら教えてください~!
楽しい企画に参加させてくださってありがとうございました!


こちらのおかえり(ただいま)企画には他にも沢山のマスター様が参加されてます!!
素敵作品の宝庫ですので、まだ行ったことがないという皆様は是非EMIRIさんの御宅へどうぞ。
※くれぐれも、それぞれのマスターの皆様のルールとマナーを守ってお楽しみください☆

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