「K太郎、鼻から2回息を吸って、口から2回息を吐け、いいな。」
「ふっふっはっはっ、ふっふっはっはっ、」
父は殊更大きく2回息を吸い、2回息を吐き、私の前を走りながら呼吸法を教えてくれた。家の前を出発して暫くは父が腕の振り方や顎を引くことなど呼吸法と同時にフォームをも指導してくれた。
家までの最後の約200mは急勾配の上り坂である。説明しながら前を走っていた父が急に失速してきた。
私は「良いのかな?」と思いながらもラストスパートをかけ一気に最後の坂を駆け上がった。
家の前で二人のゴールを待っていた母が、「お父さんはまだなの?」と心配そうに上り坂の方を見ていた。
その日の夕食時に父は、「最後の200mのK太郎のラストスパートはびっくりした。置いて行かれてしまったよ…。」
とちょっぴり悔しそうに、ちょっぴり頼もしげに話してくれた。その甲斐あって5年生、6年生とマラソン2連覇を達成した。
(最終回:厳父慈母⑦につづく)