ちいさいとき、うちの前に流れていた大きな川は

台風が来るたびに堤防すれすれまで水が増えていた。


大声をあげても自分の声が聞こえないくらいの轟音。


落ちたら確実に死ぬと気づかされるくらいの濁流。


上流の草とか木とか自動車とかいろんな物がどろどろの茶色の川に流されていった。


わくわくしてたまらなかった。


晴れた次の朝は決まって河川敷の砂は全部無くなっていたし

とにかく空がものすごく青くて、真上を見上げると宇宙が透けてる程、青黒かった。


台風が来るたびにこの世の悪が一掃されるようで、はしゃいで川を見に行っていた。




子供の想像できる悪などそんなものだった。